町の門に着き、門番の兵士に軽く会釈をして外を少し歩く。なんとなくだがクロを出すところを見られるのは控えたい。
ここら辺でいいか。
門から少し歩いたところで影からクロを呼び出すと、その巨躯を縮め頭を俺の前に持ってきた。さっき呼び出した時のことを褒めてほしいのだろう。頭を軽く撫でると気持ちよさそうな声が聞こえてくる。
「東の岩山まで頼むぞ、クロ」
「カーッ!」
力強い返事を聞いてからクロに乗る。飛び上がると朝の空気が肌を撫で、少し肌寒く感じた。
しまった、移動中暇だということをすっかり忘れていた。現実ではスマホという素晴らしいもののおかげで移動で暇することは無かったが、今この場ではそうもいかない。
うん、寝よう、そうしよう。朝早かったし許されるだろう。不安なのはクロから落ちないかだが、なんとかなると思おう。
俺はクロの上で横になり、流れる風の音を聞きながらそっと意識を手放した。
✣✣✣
瞼の奥から差し込む光で目を覚ます。この世界における『日』が太陽と同じ程度で進むのならば、昇り具合的に2時間程経過したか。時計もないので正確にはわからない。
進行方向を確認すると、目的地らしき岩山が小さく見えている。間もなく到着するだろう。
「長い間飛ばせてすまないな、クロ。後で餌を……」
ん?クロは果たして食事をするのか?
言葉を止めるとクロが甘えたような声で鳴いた。単に餌が欲しいというわけではなさそうだが、これは……
「俺と一緒に食べたいのか?」
「カァー!」
正解らしい。今度飯を食う時はクロも出してあげた方が良さそうだな。
そうこうしているうちに岩山へとたどり着く。比較的広い足場のある所を探し、そこに着地してもらった。位置的に言えば中腹だ。
到着したはいいが何から手をつけようか。植物や果実の採集は探す作業が時間を取られそうだし、ロックバードとモンスターウルフの討伐は相手の戦力が分からない以上なめてかかることはできない。つまり、この場における最善策は一つだろう。
「クロ、もう一仕事いけるか?」
その質問に対しクロは強い頷きで返す。
俺は一度クロを戻し、今度は三体召喚するイメージを影に送る。
鷹くらいのサイズのクロ達が影から召喚された。これで目が増えたわけだ。
「手分けして探すぞ。見つけたら知らせてくれ」
返事をする三つの鳴き声が重なり、三羽の烏が散り散りに飛んでいった。
そういえば、この場合全員クロとして扱ってるが分けた方がいいんだろうか。いや、そこら辺はのちのち考えよう。今はクエストクリアに集中しよう。
俺は岩山の頂上を目指し登っていく。幅は広くはないが道のようなものに沿って歩くだけでだんだんと高度は上がる。だが道中に敵はいない。
ランダムエンカウントのゲームではよくある光景だが、今この場においては見えてもいないのに突然飛び出してきたりはしない。
ふと、微かな物音が耳を通り抜ける。出処は不明。俺は冷静に死神の目を使い、辺りを見回す。
あぁ、やられた。
見えたのは、付近の遮蔽物の至る所にいる赤い生体反応。死神の目を使わなければ確認するのは難しいくらい上手く隠れている。獲物を囲み、機を窺う。そのやり口に引っかかればいくら戦闘経験があっても五体満足とはいかないだろう。
影から大鎌を取り出し、戦闘態勢に入る。こちらの敵意に気づいたのか、複数の赤い反応が形をあらわにする。そのシルエットはまさに狼。これが討伐目標のひとつ、モンスターウルフだと結びつけるのに一秒もかからなかった。
前方5匹、後方3匹。
計8匹のモンスターウルフが同時に襲いかかる。数の少ない後方を突破するのが得策か。
振り向きざまに鎌を振り抜く。その刃先は刺さりはしなかったが襲ってきたウルフの1匹が横に吹き飛び岩壁に衝突した。拓いた隙を抜け、同時攻撃を避ける。
それにしても数が多いな……。鎌は小回りが利かない。つまり一撃でどれほどダメージを与えられるかが重要になってくる。
死神の目で表示される生命力というのはその赤色の濃さで表示されるらしい。さっき飛ばしたウルフが他の7匹よりかなり薄くなっている。あれを倒しきってしまいたいが距離がある。追うのは得策ではない。
たったひと振りであそこまで減るならなんとか一撃で倒しきれないものか。考えている暇は与えてくれないらしい。残った7匹が再び同時に仕掛けてくる。
今度は鎌の刃を上から叩きつけるように振るう。飛びついてきてたウルフはそのまま地面へと叩きつけられた。そしてそのまま二撃目を入れる。
温かい感覚。倒しきった。
そうだ、この魔力。確か鎌の攻撃力を上げるのに使えるはず。
鎌に魔力を注ぎ込むようにイメージする。肩がいきなり、グッと重くなる感覚に襲われる。直接的な重さというより重いリュックを背負って長時間歩いた時のそれに似ている疲労感。
「魔力の感覚が分からないが成功と信じるしかないな……!」
俺はそのまま、様子を見るように俺を囲むウルフに鎌を振るう。大鎌とは思えない速さでそれはウルフ達を通過し、3匹のウルフが短い断末魔と共に吹き飛ばされそのまま停止した。
「よし、これならいけるか」
あと4匹。群れでの狩りは数が減ると一気に崩れるのが定石だ。隙だらけのウルフ達を高速移動で翻弄しながら鎌の一撃を当てていく簡単なお仕事はカップラーメンが出来上がる間もなく終了した。
「消費魔力と獲得魔力を可視化出来ればいいんだが、流石に欲張りすぎか?」
魔力に関しては分からないことばかりだ。何となくでしか使えなければ実践向けとは言えないだろう。そこら辺の研究もしたいな。
ぼやきながらウルフの死体を影にしまう。
その後は死神の目を常時発動して登っていったが、ウルフらしい反応は無かった。
何も無い状況が続き、時間が経つ。
「……もう頂上か」
頂上は広場のようになっていた。
奥に何か見える。倒れた木?
何本もの木が何かの形を形成するように並んでいる。それぞれの木のサイズはそれほど大きくないが、木は木だ。俺からしたら十分に大きい。
嫌な予感が頭をよぎる。
鳥のモンスターが生息、岩山の頂上に木が何本も倒れている、それが何かの形を形成している。
巣だ、これ。しかもかなりデカい鳥の。まさかそれがロックバードか?いやいや、最低ランクより少し上でそんなことがあってたまるか。
「……マジか」
俺の希望的観測は粉々に砕かれたようだ。
俺の見上げる先、居たのは巨大な、見たことの無い鳥。
既に俺を認識しているようで、耳がちぎれんばかりの大きな声で鳴きながら、一直線に突っ込んできた。
「やるしかないか!」
再び大鎌を手元に顕現させる。
不思議と、俺の口角は左右不釣り合いに上がっていた。