町へ移動するため馬に乗る。
乗る。乗・・・れない。
馬ってこんなに高いのか。いやそもそも足をかける所が高いのが悪い。
「ほれ、坊主、乗れ」
男が手を差し出す。
屈辱だ。だが、馬に乗れないのは困る。今は出来るだけ早く町へ着きたいところだ。
仕方なく男の手を借り馬に乗る。男の前に乗せられる。完全に子供ポジションだ。
「こうして見ると本当に19歳には見えんな。あぁいや、カードも見せてもらったし坊主の言ってることは本当なんだろうが」
「まずはその坊主呼びをやめろ。子供扱いは嫌いだ」
「なぁに、俺くらいの歳からしたら19もまだまだ子供だよ。坊主の身長が小さかろうと大きかろうとな」
人の気にしてるところをずけずけと・・・。
「名前で良いだろう。カードを見たから知っているだろうがレオだ」
「そうだな。俺はアレクシスだ。アレクとでも呼んでくれ」
「分かった、アレクだな」
そんな話をしていると門のようなものが見えてくる。
あれが町だな。ある程度の文明は望めそうだな。
「レオ、お前さんは旅をしているのか?」
「そうなるな」
「どこから来たんだ?」
やっぱり聞かれた。
この場合俺はどこから来たことになるのだろう。俺がやっていたゲームなら始まりの町があったが、この世界にあるかは分からない。ゲームの方にはモランの町なんて無かったしな。
「遠いところだ。アレクも知らないくらいな」
少し暗めの声で言う。何か事情があると思えば深く聞かないのが人間の性だろう。
「なんて町だ?もしかしたら知っているかもしれんぞ。俺も長い間旅をしていたことがあってな」
どうやら俺の感覚はアレクには通用しなかったらしい。もしかしたら人間じゃなくて頭のいいゴリラなのかもしれない。体もでかいし。
「あまりその町が好きじゃないんだ。旅に出たのも、早くそこを出たかったからだしな」
「ふぅむ・・・、すまないことをしたな」
アレクが黙り込む。流石にこれは効いたらしい。
しばらく沈黙が続き、馬の走る音だけが鼓膜を震わせる。
突如、アレクが馬を止めた。
「どうした?」
「いやな、レオ、町に入る前にお前さんに聞いておかなきゃならんことがある」
どうしたというんだろうか。年齢の事は既に確認済みのはずだが。
「お前さんの職業は死神と書いてあった。・・・人の職にケチを付ける気は無いが、死神と言われちゃ身構えて当然だろう」
あぁ、そう言えばそうだった。確かに職業に死神なんて書かれていたら危険人物だ。むしろよく馬に乗せてくれたものだ。
ごっこ遊びだ、と言いかけたがそれが許されるのは中学生までだ。危ない危ない。ここは死神とはいえ人を殺すのが仕事ではないというのが正解だろう。
「死神は人を殺す職じゃない。死期を迎えた人間を迎えに行くだけだ。それに、仕事とプライベートは別だろ?職業が死神だからって、プライベートじゃ単なる人間に過ぎない」
「ふむ・・・、なるほどな」
「試しにアレクの寿命でも見てやろうか」
本当に寿命を見れるかは怪しいところだ。生命力がHPを示すなら寿命は関係ないし。だがまぁ、こう言えば少しは信じてもらえるだろう。
「やめてくれ。俺も歳だからな、冗談で流せない年が出てきたら笑えなくなっちまう」
「賢明だな。寿命なんて知っても良いことはない」
よし、なんとかなったな。
「質問はそれで終わりか?」
「あぁ、問題ない。レオ、お前さんを歓迎しよう」
そういうとアレクは再び馬に乗り、俺に手を差し出す。
俺を乗せると、馬は町へ向かって再び走り出した。