斯くして比企谷八幡は仮想現実にて本物を見つける。   作:ぽっち。

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続くかは分からないんですがアインクラッド編が終わるまで頑張ってみたいと思います。



第1話

嫌な予感は朝からあった。

朝目が覚めて、友人と遊びに行く約束をしていた小町は1人で朝食を食べていた時からだ。

 

「おはよー。早いね、お兄ちゃん。」

 

パンをもぐもぐと食べながら、大きな欠伸をしながらリビングに入ってきたお兄ちゃんを見てそう言った。

 

「ん、おはよ。・・・・ま、あの日だからな。楽しみで眠れなかったんだよ。」

 

「あのゲームの?今日が正式サービス開始日だっけ?」

 

連日のニュースになり、世間を騒がしているそのゲームの名は『ソードアートオンライン』。

世界初のVRMMORPGとして数日前に発売されたゲームだ。

 

引きこもり体質のお兄ちゃんなのだが、実はあまりゲームをしない。

しかし、興味本位で応募したβ版のSAOに当選してしまったのだ。

その時、お兄ちゃんは『アレだな。もう人生の殆どの運を使い果たした感じだな。ごめんな小町、お兄ちゃんそろそろ死んじゃうよ。』と珍しく興奮した様子だった。

 

β版を初めてプレイしていた時は腐った目を輝かせながらゲーム内での出来事を教えてくれた。

とはいえ、話を聞く限りゲーム内でもボッチを貫いているようだが。

・・・・ゲームですら友達が作れないとは、なんとも言えない。

 

そんな小町も興味がないわけではなく、少しだけやらせて貰ったが、お兄ちゃんが騒ぐほどだと言えるものだった。

仮想とは思えないほどのクオリティに敵モブとの戦闘は臨場感あふれるものだった。

 

とはいえ、小町は受験生なためお兄ちゃんほどプレイできなかったのが残念だ。

 

「今日はどっか行くのか?」

 

「うん。友達と勉強会という名の女子会でもしてくるよ。」

 

友人と勉強会と言えば聞こえはいいが、実際は息抜きついでの半分遊びのようなものだ。

無益なお話に花を咲かせる女子会的なもの。

 

「そうか。・・・・気をつけろよ?」

 

「うん。・・・・お兄ちゃんも楽しんでね?」

 

「あぁ。」

 

この時、小町は心底後悔することになる。

この瞬間、お兄ちゃんを何らかの理由をつけて止めていればあんな思いをすることはなかった。

まさか、あのゲームが・・・・本当の意味のデスゲームになるとは思ってもいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明日が来ることをこんなに待ちわびたことはあるだろうか?

遠足の日はどうだったろう。

ありえない。プロのボッチの俺からすれば遠足なんて糞食らえだ。

何が「みんなでお弁当食べましょう」だ。

そのみんなの中には俺は入っていないんだから、結局あぶれてみんながワイワイ飯食ってる時に一人で食べてましたよ。

それを見かねた担任の先生が苦笑いで「一緒に食べる?」とか聞いてきやがる。

一種の公開処刑だよ。

 

さて、話を戻して現在俺はベットの上にてソワソワとしている。

理由は今日、待ちに待ったSAOの正式サービス開始日だからだ。

側から見れば挙動不審の不審者かもしれないが家の中、しかも自室だ。

人の目はないため気にすることはない。

 

それにしてもβ版のSAOに当選するなんて本当に今世の運どころか来世分まで使い切ったんじゃないだろうか。

最初は材木座に唆されて興味本位で応募しただけだったが、見事に俺だけ当選してしまった。

材木座は血の涙を流すほど羨ましがれ、一度でいいからプレイさせてくれと懇願されたが丁重に断らせて貰った。

だって小町だって使ってたし、なによりアイツが被った後のナーヴギアを被るのは嫌悪感が否めなかった。仕方がない。

 

βテスターはその後に製品版がアーガスから送られてきたので材木座の様に長蛇の列に並んで買うなんてことをすることはなかったから良かった。

いや、結局材木座は買えなかったんだけどな。

学校を3日もサボって並んだのに目前で売り切れたんだとよ。

俺が感想だけを教えてやるから勘弁な。

そんな無駄な思考を働かしているうちに時間が迫ってくる。

 

「さて、と。」

 

現在時刻は12時55分。

正式サービス開始まで残り5分を切ったわけだ。

俺は自室に置いてあるナーヴギアを被り、ベットに横たわる。

ナーヴギアに表示されている時計には13時まで残り4分になっている。

俺はその時が来るまでじっと待つ。

 

なんていうか、こういう時の5分くらいって異様に長いよな。30分くらいの感覚になっちまう。

そう、例えるならカップ麺を待つ時の感覚に似ている。

 

「あと、30秒。」

 

残り時間をボソッと呟く。

またあの世界に戻れる、そう考えると気持ちが昂り、自然と鼓動が速くなる。

脳内でカウントをしていき、徐々に時間が迫ってくる。

そして、ナーヴギアが表示している時計が13時を示し、俺は起動のためのセリフを言う。

 

「――――リンクしゅたーと!」

 

うわ、噛んだ。一人だけどなんだかすごく恥ずかしい。

出鼻を挫かれたとはいえ、ナーヴギアは高性能なため俺のカミカミな起動コマンドも正常に読み取り、起動する。

そして、視界が一瞬白く染まるとカラフルな色彩のエフェクトが表示される。

ログインするためのIDやパスワードはβ版と変わらない為、慣れた手つきで入力していく。

そして、《Welcome to Sword Art Online!》という文章が表示され、視界が白く染まっていく。

 

光が収まり、ゆっくりと瞼を開く。

そこにはまるで中世ヨーロッパを連想させる様な街並みが広がっており、ファンタジー感丸出しの装備に身を包んだプレイヤーらしき人たちがすでに往来している。

鋼鉄の浮遊城、ラ○ュタもといい、アインクラッド第1層《始まりの街》。

このゲームのスタート地点だ。

 

「・・・・よし。」

 

手をグッパーさせ、動作確認。

そう、戻ってきたのだ。

この世界に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でさー、その時に加藤くんが話に入ってきて更にめんどくさくなってさー」

 

「あー、加藤くんってば空気読むの下手くそだからねー」

 

家の近所にあるサイゼでそんな取り留めのない話をしていた小町は友人と談笑を楽しんでいた最中だった。

時刻は既に16時を過ぎており、12時過ぎにここに着いたはずなのだが、すでに4時間近く勉強もせずに駄弁っているのだ。

 

「・・・・小町?大丈夫?」

 

「え?なに?・・・・なんか変だった?」

 

「いやー、普通みたいなんだけど、なんだか心はここにあらずっていうか、なんか別のこと考えてるみたいで。」

 

若干の小町の違和感に友人は勘付いてしまった様だ。

別に不安なことなんて一切ないのだが、いや、不安なことは受験勉強もせずにこうやって駄弁っていることなのだが、なんだか今日はどうも落ち着かない。

 

「んー、なんでだろうねー?・・・・なんだか、嫌な予感がするんだよね。」

 

「まぁ小町はさ、総武高受験するんだし、ちょっと気負いすぎなんじゃない?」

 

「そんなんだと良いんだけど・・・・。」

 

未だに小町の心の奥では違和感とは言い難い、恐怖の様な不安が蠢いている。

そして、同時に今朝から続くこの不安はお兄ちゃんを目にした瞬間から大きくなり、留まることを知らない。

 

「・・・・え?これマジ?」

 

ふと、1人の友人が携帯を見ながらそう呟いた。

 

「どうしたの?」

 

「ちょ、マジやばいって。ニュースアプリ開いてみ?」

 

そう言われて、小町はポケットにしまってあった携帯からニュースアプリを起動する。

すると、見出しででかでかとそこには書いてあった。

 

『期待の新作、《ソードアートオンライン》にて重大な事件発生』

 

「・・・・え?」

 

ドクンッ

 

心臓が止まるような強烈な刺激。

小町は震える指でその見出しをタッチした。

画面が変わり、画像と記事が映し出される。

 

震える呼吸で早まる鼓動を落ち着かせつつ、記事を読んでいく。

 

『期待の新作、世界初のVRMMORPG《ソードアートオンライン》(以下、SAO)にて大事件が発生。

参加したと思われる約1万人のプレイヤーが閉じ込められた。

開発者であり、容疑者の茅場晶彦は犯行声明を発表。

 

『このゲームでの死ねば現実世界でも死を迎える。このゲームを終わらせるためにはゲームクリア以外の方法はない。(以下省略)』。

 

現在、政府が主体となり、警察と共に事態の収拾に向けて動いている。』

 

小町はここで携帯を滑り落としてしまう。

 

「やっばー・・・・シャレにならないやつじゃん。」

 

「ん?小町?」

 

「ごめん、帰らなきゃ。」

 

「え!?どしたの!?」

 

「本当にごめん!お金ここ置いとくね、お釣りはいらない!!」

 

机の上に広げていた教材などを片っ端から鞄に詰め込み、財布からお金を机の上に叩きつける様に置いて小町は走ってサイゼを後にした。

 

頭の中では必死になって否定している。

お兄ちゃんがこんな事件に巻き込まれるわけがない。

きっとログインしようとしてベットの上で寝っ転がってたら寝落ちしちゃってまだログインしてないはず、なんてそんな淡い希望を持ちながら小町は帰路を全力で走った。

 

自宅に着き、真っ先にお兄ちゃんの部屋のドアを開けた。

そう、いつもならそこに『ノックぐらいしろ。』と悪態を付くお兄ちゃんがいるはず。

 

しかし、現実は非情であった。

 

 

 

 

 

そこにはナーヴギアを付けたまま、眠る様にベットに横たわるお兄ちゃんの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・ふぅ、こんなもんか。」

 

俺はログインした後、迷うことない足取りで武器屋に向かい、武器を購入。

すぐにフィールドに出てレベリングに勤しんでいた。

 

道中、バンダナをつけた変な奴に絡まれたが訓練されたぼっちはスルースキルも高いため、完全無視して諦めさせた。

いや、見知らぬ人に声かけられるとかやっぱりオンラインゲームって怖えよ。

 

なんやかんやあったが、俺は定石通りにぼっちで狩りをしていた。

ゲームを始めてすでに4時間ほど経っており、そろそろ小町のためにログアウトして夕飯でも作っておくかと思っていた。

今日手に入れたドロップ品を見ながら少しニヤニヤしつつ、ログアウトボタンを探す。

 

「・・・・あれ?」

 

β版テストと同じところにログアウトボタンがあると思っていたが残念ながらそこには空欄だけ。

少しおかしいと思いつつも仕様変更されたのだろうと思い、ヘルプを開き、ログアウトボタンの場所を確認する。

 

「・・・・どういうことだ?」

 

10回、20回と確認しようがヘルプに表示され、あるであろう場所にはログアウトボタンが存在しない。

 

「・・・・サービス開始直後にこんなミスしちまったら運営てんてこ舞いだろ。」

 

悪態を付きつつも不具合だと思いながら、俺は問題が解決されるまで待つことにした。

何度かGMコールしてみたがうんともすんとも言わない。

とても対応できる場合ではないのだろうか?

とにかく、今は気長に待とう。

訓練されたぼっちは労働者には優しいのだ。

 

そんな思考を回していると鐘の音がフィールド上に鳴り響く。

むっくりと起き上がり、鐘の音が《始まりの街》から流れてくることを確認する。

運営が何らかの策を講じたのだろうか、アナウンスでもあるだろうと思っていたら青白い光が俺を包んでいく。

ん?強制転移?

 

思考をまとめる前に視界が先ほどの草原から《始まりの街》の中央に位置する噴水広場に変わる。

辺りは喧騒に包まれており、同じように転移されてさまざまなプレイヤーが姿を現わす。

 

ってなんだよこの量は?

まるで、今参加しているプレイヤー、1万人全てが居るような雑踏。

勘弁してくれよ、俺は人混みが嫌いなんだよ・・・・。

そんな嫌悪感を感じていると空、正確に言えば第1層の天井が割れ、巨大なローブ姿の男?が姿を現した。

 

「プレイヤー諸君。私の世界へようこそ。」

 

騒つくプレイヤーたちはみな、その一言でしんと静まり返る。

その静寂さは一種の不気味さを醸し出していた。

 

「私の名前は茅場晶彦。現在、この世界をコントロール出来る唯一の人間だ。」

 

茅場晶彦。

この世界、SAOの開発責任者にて量子力学の研究者。

この前コンビニで立ち読みした雑誌にそんなことが書いてあった。

俺もSAOプレイヤーとして、興味本位で軽く調べた程度なので詳しくは知らない。

しかし、そんな些細なことより俺はある一言がずっと頭に引っかかっていた。

 

『この世界をコントロール出来る唯一の人間』

 

茅場はそう言ったのだ。

 

様々な憶測が飛び交う中、茅場は俺たちの意に関せず話を進めていく。

 

「プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気づいていると思う。しかしこれはゲームの不具合ではない。繰り返す。これはゲームの不具合ではなく、ソードアートオンライン本来の仕様である。・・・・諸君はこのゲームから自発的にログアウトすることは出来ない。」

 

息が喉で詰まる。

悪寒が止まらなくなり、手のひらに汗がにじむ。

 

本来の・・・・仕様だと?

 

淡々と状況を説明する茅場。

ゲームアバターとは言え、動じる声色を見せない茅場に俺は狂気を感じ取っていた。

 

「また、外部からのナーヴギアの停止、または解除による強制ログアウトもありえない。もしそれが試みられた場合、ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが諸君らの脳を破壊し、生命活動を停止させる。」

 

理系ではない俺は何を言っているのかは殆ど理解できなかった。

だが唯一の希望である外部からの救助の可能性はない。そして、死ぬかもしれない、その二つだけは理解できた。

 

「諸君がこの世界から解放される方法はただ1つ。この始まりの街の存在するアインクラッド第1層から第100層までの迷宮を踏破し、その頂点に存在するボスを撃破してこのゲームをクリアすることだけだ」

 

そして、とうとう痺れを切らしたプレイヤーたちが次々と声を上げていく。

 

「第100層だと・・・・!?ふざけんな!βテストじゃあまともにあがれなかったんだろ!?」

 

「そ、そうだ!ふざけるのも大概にしろよぉ!?」

 

事実、俺たちベータテスターが上がれた階層は2ヶ月で第8層。

単純計算で2年以上の攻略時間が必要となってくる。

 

「しかし、充分留意して頂きたい。今後、このゲームにおいていかなる蘇生手段も機能しない。プレイヤーのHPが0になった瞬間、諸君らのアバターは永久に消滅し、同時に――――諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される」

 

は・・・・?

 

全てのプレイヤーがその発言に言葉を失った。

つまり、この世界の死は・・・・現実世界の死を意味するのだ。

 

視界が歪む。

100層攻略どころか、死んではいけない鬼畜仕様。

俺は視界の端に表示されたHPバーを見る。

自然と息が荒くなる。

この緑色のバーが俺の命の残量。

これが無くなれば・・・・――――

 

――――やめろ、考えるな。冷静になれ。

 

「それでは、最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれ給え。」

 

俺は言われるがまま、アイテムストレージを開く。

そこには先ほどの狩りでドロップしたモンスターのアイテムと絶大な違和感を放つ《手鏡》と表示されたアイテムを見つける。

 

俺は震える指でそれを押し、アイテム化させる。

それはなんら変哲も無い普通の手鏡。

そこには数分で作成を終わらせた一般的な、目立たない俺のアバターが見える。

 

目立つのが嫌いなのでカッコいいアバターでプレイとか出来るかよ、と思って作ったアバターなのだが、プレイヤーは自分好みのイケメンアバターや美少女アバターにしているため、逆に目立つという摩訶不思議なアバターだ。

 

すると、青白い光が俺を包み込む。

 

「うぉ!?」

 

驚いて身体を大きく揺らしてしまうが、周りのプレイヤーにも同じような現象が起きている。

発光が収まると手鏡映る姿を見て俺は震える。

 

「・・・・は?」

 

少しだけ整った顔のパーツ。

ぴょこっと跳ねる俺のアイデンティティのアホ毛。

そして、死んだ魚のような腐った目。

毎日見ているこの顔は・・・・これは現実世界の比企谷八幡そのものだ。

 

「・・・・いや、なんでここでも目が腐ってんだよ。」

 

謎の仕様に一人でツッコミを入れる俺。

 

「多分これ、現実世界の容姿に変えられたってことだろ。周りの連中もみんなリアルっぽい顔になってる。」

 

「そうか・・・・ナーヴギアは高密度の信号素子で顔を覆ってる。顔の形を把握できるんだ。」

 

近くの会話をしれっと盗み聞きをする俺。

なんだか難しい単語が並んでいたが・・・・それでも俺の腐った目を再現しているのはおかしい。絶対におかしい。

だって顔の形でしょ?

なんで俺の特徴的な腐った目が現実世界そっくりに再現されてるんですかね?

 

誰よりもいち早くSAOの理不尽さを独りで実感した俺は考えるのを放棄した。

今重要なのはそこでは無いからだ。

 

「諸君らは今、何故、と思っているだろう。何故茅場晶彦はこのようなことをするのか、と。」

 

それより先に俺の目はどうやって再現したか聞いてもいいですかね?

ここでもDHA豊富そうに見られなきゃいけないんでしょうか?

 

「しかし、既に私に目的は存在しない。私が焦がれていたのは、この状況、この世界、この瞬間を作り上げること。たった今、私の目的は達成せしめられた。」

 

満足げにそう語った茅場はゆっくりと広場を一望する。

 

「それでは長くなったが、これでソードアートオンライン正式サービスのチュートリアルを終了とする。プレイヤー諸君、健闘を祈る。」

 

そう言い終えると茅場は少し耳障りなノイズと共にゆっくりと姿を消していった。

 

一瞬の静寂のうち、阿鼻叫喚が広場に響き渡った。

泣き叫ぶ者、怒号を上げる者、理解が追いついておらず、ただ立ち止まる者。

 

俺は拳に込めれるだけの力を精一杯込め、震えていた。

脳裏に浮かんだのは家族のこと、小町のこと。学校のこと。そして――――奉仕部のこと。

 

「・・・・くそ。」

 

奉仕部では現在、やっと生徒会選挙のいざこざが終わり、なんとかいつものような日常が戻ってきたばかりだった。

修学旅行での一件により、若干ながらのギクシャクした空気は残っていたが・・・・修学旅行終了直後に比べればマシになっていた方だ。

 

「・・・・帰らなきゃダメなんだ。」

 

俺の心の奥底では、あのままで終わらせてはいけない、と叫んでいる。

 

雪ノ下と由比ヶ浜との関係をあのままで終わらせてはダメなのだ。

きっと、あそこには俺が望んでいた《本物》があるかもしれない。

 

だが、身体が動かなかった。

ほんの数分前に突きつけられた死の可能性。

臆病者で小心者な俺の足を止めるには十分すぎる現実。

 

俺は歯をガタガタと揺らせながら、恐怖から逃げ出すように足をゆっくりと後ろに動かそうとした瞬間、何かに足が当たり、動きが止まる。

 

「あ・・・・」

 

誰かに打つかった、そう思いゆっくりと振り返ると、そこには涙をポロポロと零しながら、座り込む1人の少女がいた。

 

栗色の髪の毛を持ち、雪ノ下と張るほどの整った顔立ち。

こんな状況でなければ見惚れてしまうと確信してしまうような美少女だった。

 

謝ろうと声を出そうとするが震えて上手く声が出せない。

しかし少女も現状を飲み込めきれておらず、俺が打つかった事など気づいてないようだ。

そして、彼女の唇が小さく揺れ、聞こえる。

この雑踏で、阿鼻叫喚の地獄があたり一帯に広がっているのに、それだけは不思議と聞き取れた。

 

「助けて・・・・お兄ちゃん・・・・」

 

分かっていた。

俺に向けて言った発言なんかでは無い。

こんな所で彼女に声をかけたって何の意味もない。

逆に俺が生き残る為に必要な時間を削ってしまうことなんてわかりきっていた。

 

蹲る少女に小町を重ねたのか、単に俺の偽善が勝手に動かしたのかは分からない。

だが、俺のお兄ちゃん属性というか、シスコン根性というか、何と言っていいかはわからないが、そんな奥底にある何かが俺の体を無意識のうちに動かしていた。

 

こうして、俺こと、比企谷八幡のデスゲームは幕を上げたのだった。

 

 

 

 

 

 




週一投稿頑張ります。

八幡っぽさが徐々に壊れていくかもですがご勘弁を。

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