斯くして比企谷八幡は仮想現実にて本物を見つける。   作:ぽっち。

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第11話

 

 

 

 

「キリトさん!!こっちです!!」

 

「あぁ!!」

 

俺たち《月夜の黒猫団》はアルゴからの救援要請を受け、アインクラッド 第19層のフィールドを全力疾走していた。

 

スピード型のシリカがピナの索敵を使いながら極力不必要な戦闘を避け、後ろからトレインしてくるモンスターは他のギルメンに任せて、最大速度で《死霊の丘》に向かっていた。

 

道中に聞いたシリカの情報によれば、ハチ、コロル、アルゴの3人は笑う棺桶(ラフィン・コフィン)と繋がりがあるとされるオレンジギルドの調査をしていたという。

 

しかし、その情報は実はラフコフが仕掛けた罠だったのだ。

 

現在、理由はわからないが戦意喪失したコロルと戦闘向きではないアルゴを守るため、ハチが単独でオレンジプレイヤーとラフコフの幹部を1人を対処しているらしい。

 

あの多数対一が得意なハチでも、ラフコフ相手となると話が変わってくる。

アイツらは人を殺すことに戸惑わない。

ハチは・・・・人を斬ることができるかも知れないが、戸惑わない、隙を作らないとなれば話は別だ。

何が起こるかわからないのがこのSAO。

 

言葉にならない不安が俺に襲いかかってくる。

どうか無事でいてくれ・・・・!!

 

ハチの無事を祈りながら俺たちは《死霊の丘》を駆け巡る。

 

「・・・・この辺りです。」

 

シリカが立ち止まり、アルゴとの交信が途絶えた場所へと辿り着く。

辺りを見渡すが何ら変哲も無い普通のフィールドダンジョン。

 

「・・・・何も、無いな。」

 

「で、でもこの辺りで追跡が出来なくなりました。」

 

別にシリカを疑っているわけでは無い。

しかし、いくら見渡してもアルゴやハチの姿は見えない。

それならば考えられる可能性を探るんだ・・・・。

 

「《索敵スキル》を使おう。」

 

まだ時間はそれほど経ってない。

俺はスキルウィンドウを開き、《索敵スキル》を選択する。

出てきたウィンドウにフレンドであるアルゴの名前を入力する。

そして、《索敵スキル》の派生機能(モディファイ)である《追跡》を発動する。

 

これを使用すると道路上に薄いグリーンの足跡が表示されるようになる。

 

「・・・・たしかにアルゴはこの辺りにいたな。」

 

地面に映る緑色の足跡を見る限り、そんなに時間は経っていない。

この《追跡》の機能は時間経過とともに足跡が薄くなって表示される。

アルゴの足跡はまだくっきりと見えているという事は付近にいる可能性が高い。

 

付近にはアルゴの姿はないが、そう遠くには行っていない。

アルゴが追っていたのは犯罪者ギルド。

オレンジギルドの拠点を探るための依頼だったとシリカは言っていた。

そこから考えつく、結論は・・・・

 

「・・・・隠し部屋か?」

 

攻略した層とは言え、あまり人気のない19層。

人が近づかなければ発見されてもおかしくない場所に隠し部屋があってもおかしくない。

俺は再度、アルゴの残した足跡を観察する。

 

途中で踵を返しているような、そんな足跡だが違和感が感じられる場所で消えている。

俺はアルゴが途中から向かっていた方向を見る。

 

・・・・何らおかしなところがないSAOではよく見られる巨木のオブジェクト。

 

「これか?」

 

俺がそっと幹に触れてみると突如として幹に亀裂が入り、道ができる。

 

「――――当たり、みたいだな。」

 

シリカに視線で合図を送り、突入の意思を確認する。

意を決した表情でゆっくりと頷いたシリカを見たところで俺は背中に掛けている片手剣の柄を握り締めながらゆっくりと足を踏み入れる。

 

雰囲気も相成って、どこか重く、冷たい空気が俺たちの肌を刺激する。

決闘(デュエル)は何度も経験しているが、殺人集団のオレンジギルドとの対戦は今までしたことはない。

 

――――人を殺してしまうかも知れない。

 

そんな、考えが脳裏をよぎるたびに俺の心臓は激しく鼓動する。

薄暗い隠し部屋にゆっくりと足を踏み入れる。

 

「・・・・遅かったナ。」

 

突然声をかけられ、衝動的に剣を鞘から抜き取り構えるが、そこに居たのは暗い表情を浮かべるアルゴの姿だった。

 

「・・・・ふぅ、なんだ・・・・アルゴか。無事だったのか?」

 

俺は安堵の息を吐き、剣を鞘へと戻す。

辺りを見渡すが居るはずのオレンジプレイヤーは姿が見えないため、すでに回廊結晶で《黒鉄宮》に送ったのだろう。

とは言え、ハチとコロルの安否が心配だ。

 

「・・・・無事、では無いかナ。」

 

アルゴはそう言って部屋の更に奥の方に視線を向ける。

その視線を辿るとそこにはなんとも表現し難い、悲痛の表情を浮かべるハチが俯いて座っていた。

コロルの姿も確認できたが・・・・激しく嗚咽し、何度も涙を地面に零している。

 

「何が、あったんだ?」

 

「・・・・ラフコフの幹部がハチとコロルのリアルの知り合いだったんだヨ。」

 

俺はその一言に息を飲んだ。

リアルの知り合いが・・・・殺人ギルドに所属、更に幹部だったのだ。

彼らの精神的な苦痛は想像を絶する。

 

「・・・・やむ終えズ、そのプレイヤーと戦闘になっタ。ハチは・・・・自らの手で、そのプレイヤーを・・・・。」

 

アルゴは言葉を詰まらせ、俯く。

その口振りから、大体の顛末は察することができた。

つまり、ハチはその手で・・・・殺したのだ。

 

「・・・・コロル、ハチ、さん。」

 

シリカは壮絶な経験をしたパーティメンバーである2人になんと声をかければいいか分からない様子だった。

・・・・俺も、なんと言えば良いのだろう。

 

すると、座り込んでいたハチが立ち上がり此方へと重い足取りで向かってくる。

 

「・・・・気にすんな。お前のせいじゃ無い。俺が、悪いからな。」

 

「――――は、ち・・・・。」

 

ハチはアルゴの左肩へそっと手を置き、それだけ言い残して出口の方へと足を運んでいく。

アルゴは目尻に涙を浮かべ、力尽きたように座り込んでしまった。

 

あの発言は、アルゴを想ってのことだろう。

アルゴの依頼により、ハチはその手で知り合いを殺さなければならないという状況にまで至った。

アルゴはその依頼をしてしまった責任を感じてしまうと思ったのだろう。

アルゴに責任を感じさせないため、ハチは全ての罪を自分が背負うと言ったのだ。

そんな、1人で到底背負いきれない重い罪を・・・・ハチは1人で背負おうとしている。

 

「俺は・・・・先に帰る。キリト・・・・コロルとアルゴのことは・・・・任せたぞ。」

 

ハチはそう言い残して、ふらふらとした足取りで隠し部屋から出て行った。

 

その背中は・・・・とても、孤独に見えた。

第1層攻略時と、同じような雰囲気を俺は感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗闇の中、俺は漂っていた。

身体の自由はない。

必死に動かそうとするが鉛のような空気が身体を包み込み、身体に重くのしかかる。

いっそのことその重みで潰れてしまえば、楽になるのに・・・・。

すると、何処からともなく声が聞こえてくる。

 

 

――――憎い。

 

 

わかってるよ。

俺が憎いことくらい、俺のことを殺したい事くらい分かってる。

 

 

――――どうして、殺した?

 

 

仕方なかった。

あそこで刃を向けなければ誰かが死んでいた。

守りたい人が居たんだ。

 

 

――――殺して生き残って嬉しいか?

 

 

殺したくて・・・・殺したんじゃない。

自分を、コロルを、アルゴを守るために仕方なかったんだ。

 

 

――――他にも、方法があったんじゃないか?

 

 

・・・・うるさい。

うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――どうして、そんなやり方しかできないんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――っは、はぁ、はぁ・・・・。」

 

激しい息遣いと動悸が俺の意識を元に戻す。

突然開いた目にはチカチカと外から来る光が俺の心を妙に締め付けてくる感覚があった。

 

場所は俺がホームとして使っている宿屋の一室。

辺りを見渡すがあの時聞こえた声の主は、いない。

 

「・・・・また夢、か。」

 

俺はあの事件以来、毎日のようにあの夢を見ている。

俺の深層心理が俺のことを責め立て、追い詰めてきている。

夢の際に聞こえてくる声は・・・・葉山の声にも聞こえるし、俺の声にも聞こえる。

俺自身が俺自身を許していないのかもしれない。

 

「――――クソ。」

 

膝を抱え込み、ガリッと歯軋りを立てる。

夢を忘れるようと必死になって思考を組み立てるが別の自分がそれを許そうとしない。

・・・・分かっているんだ。俺がしたことは、どれだけの時間が経っても許されてはならないのだ。

俺が・・・・犯した罪は、重いものなのだから。

 

俺は行き場のない憤りを抱えたまま、装備を整える。

部屋で蹲っていても現状は変わらない。

やらなければならないことがあるのだ。

 

準備を終えた後、俺は重い足取りで宿屋を後にする。

 

季節は雪が降り積もる冬。

冷たい空気が肌を刺激し、身体を冷やしてくる。

吐き出される白い息が気温の低さを如実に語っている。

その寒さは・・・・俺の心を酷く冷ましていく、そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2023年12月24日。

俺が訪れた場所は事前に約束をし、待ち合わせをしている第49層主街区《ミュージェン》だ。

 

街は石造りの建物が並んでおり、雪景色と相成って幻想的な雰囲気を醸し出している。

その街の中央には巨大な樅の木が植えられており、様々な色のイルミネーションが輝き、SAOの中でも有数のデートスポットとしてその名を馳せている。

 

街の雰囲気はクリスマス一色となっており、プレイヤー同士のカップルが並び歩いて笑顔を輝かせている。

 

普段の俺ならその光景に悪態や悪口の一つも出てくるものだが、今の俺にはそんな言葉は出てこなかった。

 

俺は広場の隅に置いてあるベンチに腰をかけて、約束した人物が現れるのを待つ。

 

「・・・・久しぶりだナ。」

 

「あぁ、2ヶ月振りってところか。」

 

俺の座っているベンチの後ろにいつものように体重をかけた情報屋のアルゴが姿を現わす。

相変わらず、椅子には座ろうとしない。

 

「随分と無茶なレベル上げをしているらしいじゃないカ。」

 

「・・・・誰から聞いたんだよ。」

 

俺はこの2ヶ月、コロルとシリカとは別行動を取っている。

確かに俺はこのイベントが判明してからの数週間、ソロで前線の迷宮区に潜り、自殺行為に等しい無茶な徹夜でレベル上げをしていたのだ。

しかし、自然と眠くはない。

今寝てしまったらいつ、あの夢を見るか分からないからだ。

 

「コロちゃんとシーちゃんが心配してたゾ。・・・・まったくホームに帰ってこないってナ。」

 

「・・・・今度顔を見せる。いいから、めぼしい情報があったかどうか教えてくれ。」

 

俺がそう言うと、少し空を仰ぎながらアルゴは呟く。

 

「金を取れるようなものはないナ。」

 

「・・・・そうか。」

 

「βテストには無かった初めてのイベントダ。情報の取りようがねーヨ。」

 

数秒の沈黙の後、アルゴは現在確認できた情報を俺に伝える。

 

「クリスマスイブの夜・・・・つまり、今日の深夜にイベントボス《背教者ニコラス》が出現すル。ある樅の木の下にナ。有力ギルドの連中が血眼になって探してるゾ。」

 

《鼠》の情報力を持ってしてもやはりこの程度か。

とはいえ、アルゴの能力が低いというわけではない。今までなかったイベントなのだから、集めようがないだろう。

 

俺は重い腰を持ち上げ、立ち上がる。

 

「・・・・ハチ、目星はついてるんだロ?」

 

「さぁな。」

 

俺はアルゴの方を振り向くことはせず、ゆっくりと転移門の方へと向かう。

 

「マジでソロで挑む気カ?いくら《無双剣》があってもボスを1人で――――って、ハチ!!」

 

俺はアルゴの制止に一言も返さず、その場を後にする。

 

分かっている。

無茶な攻略ということは俺が一番分かっている。

それでも、俺はもう一度あの言葉を聞いて、理由を聞かなければならないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世界で死者の復活はあり得ない。

だが、《背教者ニコラス》はプレイヤーの《蘇生アイテム》をドロップするという噂がある。

 

もし、その噂が本当なら俺はもう一度アイツに会ってあの言葉の真意を問わなければならない。

 

俺はその僅かな希望だけを頼りに第35層《迷いの森》と呼ばれるフィールドダンジョンを駆けていた。

 

実はこの層を攻略中に俺はこの《迷いの森》を練り歩き、数百に分かれるエリア全てを踏破している。

その際にとあるエリアにあった巨大な樅の木はとても印象的だった。モンスターもおらず、当時は安全地帯(セーフティエリア)だと思い別に気にも留めなかったが今考えると、不自然な場所だったと思う。

 

その記憶を頼りに地図を見ながら樅の木があるエリアへと足を運ぶ。

 

イベントボスの強さは未知数。

その時の攻略層のボスに見合った強さかもしれない。

そうなればユニークスキルを持っていても、ソロの俺は・・・・恐らく死ぬ。

 

誰の目にも留まらない場所で如何なる意味も残さず死ぬだろう。

 

まさにぼっちの俺には相応しい死に場所だ。

 

雪が降り積もった《迷いの森》は雪の重みで自然と足がとられて思うような動きができない。

足取りの重さと相成って、いつ俺の動きを止めるかも分からない。

それでも、俺は進んだ。

立ち止まるとそこで動けなくなる。

きっとまた、あの重さが俺を襲ってくる。

 

そんな恐怖のようなものと戦いながら俺は足に力を入れ、走り出した。

予測された0時まで残り数分。

大きなギルドが動いているとアルゴは言っていた。それなら、あの樅の木に辿り着かれるのも時間の問題だろう。

 

樅の木があるエリアまであと少し、と思ったその瞬間。

エリア移動による光エフェクトが俺の左側に見えたので急ブレーキをかけて片手剣を鞘から抜き出す。

剣を構え、いつでも攻撃できるように態勢を整える。

 

「・・・・ハチ。」

 

光エフェクトが霧散し、姿が見えたのはキリトだった。

後ろには《月夜の黒猫団》の面々も見える。

 

ちなみにサチの姿は見えない。

戦闘に向かない彼女はキリトと入れ替わりで職人クラスに転向したと聞いている。

 

「つけてた、のか?」

 

左端には《索敵スキル》が発動した時に見えるアイコンがあった。

どうやら俺はそれすらも気づかないほど追い込まれていたのだろう。

すると、ケイタが前に出てきて言う。

 

「ハチさん、アルゴさんからの依頼でここに来ました。・・・・つけていたことに関しては謝罪します。」

 

「・・・・余計なことを。」

 

あのお節介情報屋は何故、俺のためにそんな依頼を出したのだろうか。

何故、俺なんかのことを構うのだろうか。

ただの死に急ぎ野郎に、犯罪者の俺に、何の慈悲を持っているのか。

どれだけ考えても俺には分からない。

 

「ハチさん、俺たちは貴方のおかげで生き残ったんだ。ここで死なす訳には行かない。行くんなら、俺たちと一緒に行こうぜ。」

 

ダッカーはそう言って手を差し伸べてくる。

無意識に俺は自分の手を見た。

・・・・その手は、血に染まっているような、そんな錯覚が俺を襲う。

 

「・・・・ぼっちはいつでもぼっちだ。俺のこの汚れた手で・・・・お前たちの手を握ることは、できない。」

 

俺は目的の方向に身体の向きを戻す。

彼らの手を握るのには・・・・俺の手は血に染まりすぎている。

 

「ハチ・・・・!!」

 

キリトの悲痛な叫びが俺を呼び止めた。

 

「お前が抱え込んでるものは、分かってる・・・・。でも、それでも俺はお前と共に攻略したい!!お前はここで死んでいいような奴じゃないんだ!!」

 

そんなキリトの悲痛の叫びすら、俺の心には届かなかった。

 

「俺は・・・・そんな出来たやつじゃない。」

 

「ハチ!!」

 

キリトが俺の方へ来そうになった刹那、別の方向からキリトたちが現れた時のようにエリア移動の光エフェクトが多数現れる。

俺と《月夜の黒猫団》のメンバーは各々の武器を手に取り構えた。

現れたのは統一性のある装備に身を包んだ、攻略組三大ギルドの一つ、《聖龍連合》だ。

 

「キリト、《聖龍連合》の連中だ。レアアイテムのためならやばいこともするって奴らだよ。」

 

ササマルが槍を構えながら噂の一つを教えてくれる。

《聖龍連合》の奴らは不気味な笑みを浮かべながらこちらを見ている。

どうやらつけられていたのは俺だけでは無かったようだ。

キリトの《索敵スキル》に悟られないようにこれるほどの実力者たち。

互いにオレンジではないためここで穏便に解決するとしたら、俺とアルゴがガイドブックで広めた《決闘(デュエル)式決着法》を仕掛けてくるだろう。

そうなれば数が圧倒的に不利な俺たちが負けることは目に見えている。

もし、勝てたとしてもそれなりの時間経過により《背教者ニコラス》が出現するクリスマスイベントが終了する可能性もある。

 

「・・・・ハチ、行くんだ。」

 

「キリト!?何を言ってるんだ!!今ここでハチさんだけが行ったって・・・・!!」

 

「テツオ、良いんだ。・・・・――――ハチ、死ぬなよ。」

 

「・・・・約束は、できない。」

 

俺はそう行ってキリトたちに背を向ける。

樅の木があるエリアまで振り向くことはせず、俺は走った。

 

エリア移動を終え、俺は雪が降り積もる巨大な樅の木の下までやってくる。

 

 

ゴーンゴーンゴーン

 

 

鐘のような音が辺りに響き渡り、俺は上を見上げる。

流れ星のような光が2本、樅の木の上を通り過ぎたところで遥か上空から巨大な何かが降ってくる。

 

激しい地響きと雪を撒き散らしながら着地し、現れたソイツは機械のような、人のような・・・・そんな不気味な顔色と表情をしたモンスター。

《背教者ニコラス》だ。

 

「ギギガギゴギギ・・・・」

 

機械音のような不協和音が耳を劈く。

 

「うるせぇ・・・・」

 

その気分を害する音は俺の神経を逆撫でするように鳴り響く。

冷静を装っていた俺の心理状態に苛つきを積もらせる。

 

「うるせぇぇええええええ!!!」

 

俺は勢いよく剣を振り抜き、《背教者ニコラス》に刃を向け、突撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・・はぁ、はぁ。」

 

「ググ、ギギガギゴギギ・・・・」

 

戦いを始めて何十分経過しただろうか。

俺のHPゲージはレッドゾーンに入っており、あと一撃でも喰らえば死に至る状況だ。

だが、相手もそれは同じ。

表示されるHPは風前の灯火といったところか。

 

俺は最後の一撃まで残しておいた、ユニークスキル《無双剣》のスキルモーションを立ち上げる。

 

「があ"あ"あ"!!!」

 

喉が裂けるほどの咆哮と共に俺は渾身の一撃を《背教者ニコラス》に放つ。

防御を捨てた捨て身の攻撃。

 

そして、《背教者ニコラス》の最後の攻撃があと数ミリで俺に届きそうになったその時、《背教者ニコラス》の身体が光の欠片となって砕け散った。

 

「――――はぁ、はぁ、はぁ。」

 

詰まりかけていた息を何度も吐き出し、表示されたウィンドウを確認する。

 

そこには膨大な経験値とコル。

そして、俺が求めていたドロップアイテムがそこにあった。

俺はそれをオブジェクト化し、手に取る。

アイテムの説明を見るため、軽くアイテムをタッチする。

 

「《還魂の聖晶石》・・・・。」

 

アイテム名を小さく呟き、俺はゆっくりと説明文を読む。

 

『プレイヤーが死亡した場合、『10秒以内』であれば蘇生することができる。』

 

「10秒・・・・以内・・・・。」

 

つまり、すでに死んだアイツを蘇らせることは・・・・できない。

 

「あぁ・・・・そう、だよな。」

 

この罪の重さから逃れようなど・・・・あの時の言葉の真意を聞こうなど間違っているのだ。

 

俺は絶望感に打ちひしがれ、HPを回復することすら忘れて踵を返した。

 

樅の木があるエリアを抜けると、荒い息遣いで横たわっているキリトたち《月夜の黒猫団》の面々が居た。

 

「・・・・ハチさん。」

 

テツオが俺の姿を見て、小さくそう呟いた。

 

俺は絶望感に満ちた表情をしているだろう。

俺は使うことがないアイテムをキリトに投げ渡す。

 

「これが《蘇生アイテム》だ。・・・・お前の目の前で死にかけたやつに使ってやってくれ。」

 

キリトは《還魂の聖晶石》を受け取り、アイテムの説明を確認した。

内容を見たところでなんとも言えない悲痛の表情で俺を見つめる。

 

俺はその視線に答えれるような言葉は・・・・持っていない。

ゆっくりと重い足取りで帰路に着こうとした時、《月夜の黒猫団》リーダー、ケイタが俺の腕を掴んだ。

 

「・・・・なんだ、よ。」

 

「ハチさん、貴方を待っている人は居ます。・・・・だから、死なないでください。俺たちは、仲間なんですから。」

 

・・・・仲間なんて言葉はただの幻想だ。

人は独りで生き、独りで死ぬ。

誰かとこの痛みを共有しようなんて、思ってない。

この重みは、俺が背負わなければならない罪、罰なのだ。

誰かとこの痛みと重さを共有させるなんて、冗談じゃない。

 

「俺に・・・・仲間なんて、要らない。」

 

ケイタの手を振りほどき、俺は再度足を動かす。

あまりにも重たいその足取りに嫌気を感じながら俺は《迷いの森》を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、朦朧とした意識で漸くホームである25層にある宿屋へとたどり着いた。

視界の左端に移るHPゲージはいまだに赤色で、帰り道でモンスターに襲われていれば死んでいただろう。

 

死んでもよかった心情だったのにも関わらず、俺はモンスターとの戦闘を1回も行わず帰ってこれた。

まだ、生きていろと・・・・生きて背負い続けろと誰かが言っているような気がした。

 

ふらふらと宿屋の階段を登り、ようやく俺の部屋へと辿り着いた。

このままベッドにダイブしても結局のところ、寝れるわけがないのだが・・・・。

 

俺がドアノブに手をかけ、重たく感じる扉をゆっくりと開く。

そして、開いたと同時に――――

 

 

 

――――誰かの拳が俺の頬を撃ち抜いた。

 

 

「ボブスッ!!」

 

変な声を上げ、羞恥に浸る暇も与えられず俺の身体は後方に吹き飛び宿屋の壁に激突する。

圏内であったため、HPが減ることはなく死に至らなかったが脳を直接揺らされたような衝撃に俺の視界はグラグラと歪み揺れていた。

 

状況が把握できず、いつも以上に腐った目をパチクリさせていると俺の部屋の扉が衝撃により全開しているのが見えた。

そして、俺の部屋の中から1人の女性の姿が見える。

 

白と赤色の統一性のある鎧に身を包み、美しく靡かせた栗色の髪の毛がとても神々しく見える。

その整った顔立ちは俺が知り得る中では雪ノ下と張るほどのトップクラスの美少女。

 

そう、俺がこのデスゲームで初めて信頼を寄せることができた女性プレイヤー。

攻略組最大ギルド《血盟騎士団(KoB)》副団長、《閃光》の異名を持つアスナだ。

 

「ふぅ、スッキリした。」

 

え?なに?

俺はどうして殴られたのでしょうか?

 

殴り飛ばされる刹那に見えた拳はアスナのものということはようやく理解できたが、殴られる理由に関しては・・・・多すぎてよく分からない。

 

あれか?アスナのタイプであろう男性の特徴を売った時の事なのか?

 

「ハチくん・・・・久しぶりだね。」

 

「いや、確かにそうなんだが・・・・なんで俺は殴られたんだ?」

 

「分からないの?本当に?」

 

すみません、分かりません。

 

「・・・・はぁ、とりあえず中に入って。」

 

軽いため息を吐いた後にアスナは真剣な表情へと変わり、部屋に招き入れる。

いやここは俺の部屋でして・・・・なぜアスナがいるのか?

考えても考えても混乱をし続ける俺の脳みそは論理的思考を全くと言っていい程、してくれない。

 

未だにクラクラする頭を生存本能で無理矢理正常な状態へと引き戻し、自室へ入る。

そこにはパーティメンバーである、コロルとシリカの姿があった。

 

鍵はかけた筈なのですが?

立て続けに起こる異常事態に思考能力がついていかない。

 

「・・・・さてと、まずは殴ってごめんね。でも、今のハチくんには殴らないといけないほど私は怒ってます。」

 

「・・・・あ、あぁ。」

 

謝るくらいなら最初からしないでほしいくらいだが、今それをここで言ったとてもまた殴られそうなのでグッと心の奥へとしまい込む。

 

「・・・・何があったかは、コロルとシリカちゃんに聞いたよ。ハチくんが独りで抱え込んでいることも、苦しんでいることも。」

 

・・・・あぁ、なんだ。そのことについてなのか。

 

「・・・・お前には関係ないだろ。俺が犯した罪は俺の責任だ。お前が怒ってる意味がわからない。」

 

「えぇ。そうかもしれないわ。でも・・・・ハチくんは周りが見えてない。」

 

周り、か。

俺はぼっちだ。独りで生きて独りで死ぬ、そんな人種だ。

そんな俺の周りに誰がいるのだろうか。

 

「それなら、別に構わないだろ。俺はぼっちなんだから、周りに人なんていない。」

 

「・・・・ちゃんと見なさい!!ハチくんの周りを。いつも俯けてる顔を少しだけ上に向けて見渡しなさい。」

 

強い口調でアスナは俺に叱るように言った。

俺は言われるがまま、最近ずっと下ろしていた視線を少しだけ上に向けた。

 

「――――っ」

 

そして俺は、言葉を失った。

 

視界に映ったコロルとシリカの表情はとても、酷いものだった。

 

「この表情が見えても、貴方は独りだって言うの?2人とも、ハチくんのことを想って、考えて、なんとかしようとして・・・・でも、出来なくて。貴方が見ようとしてなかったのは殺してしまったクラスメイトの事なの?それとも・・・・全部なの?」

 

俺は、この現状において出せる言葉を知らなかった。

コロルとシリカは、泣いているのだ。

俺なんかのことを想い、泣いてくれているのだ。

 

「私は、だから怒ったの。ハチくんが勝手に独りで悩んで、独りで苦しんでる。全てを見えないように俯いて、前に進もうともしない。・・・・分かってるんだよ?私がこんなこと言える立場じゃないってことくらい・・・・でも、こうでもしなきゃハチくんは周りを見ないと思ったの。」

 

俺はアスナの言葉をただただ、聞いていた。

今思い出せば、アルゴの表情も《月夜の黒猫団》たちの表情もキリトの表情も・・・・俺は一切見ていない。

いや、見ていたような気がするが心の何処かで見ないふりをしていた。見えないふりをしていた。

 

自分で罪を独りで背負った気になっていたのだ。

・・・・背負いきれるわけがない。

俺の背中にはそんな広くないのだから。

 

「・・・・すまない。」

 

その事に気がついた俺は、自然と謝罪の言葉が出ていた。

 

すると、涙を拭ってコロルが俺の手を握る。

その小さな掌はとても暖かく、俺が忘れていた何か(・・)を思い出させようとしてくれる。

 

「・・・・独りで、背負わないでください。せんぱいはいつもそうやって自己犠牲で誰かを救おうとします。悪い癖ですよ。」

 

「・・・・俺にはこんなやり方しか、出来ないからな。」

 

「それでもです。独りじゃ背負いきれない事だってあります。その時は私たちを頼ってくださいよ。・・・・辛い時も嬉しい時も一緒に共有するのが・・・・仲間なんですから。」

 

 

その一言が人が冷たく冷め切ってしまった俺の心を徐々に温めてくれる。

ここに、俺が求める《本物》があるような気がした。

 

俺は自分の犯した過ちを、誰かと共有することはできないと思っていた。

だが、共有してようとしてなくてもどこかで誰かが傷つく。

・・・・どこかでそんなことは気づいていたかもしれない。

だが、俺は背負った気になって、独りで抱え込んだ気になって、その辛さが俺への罰なんだと・・・・償いなんだと思っていた。

 

そんなのただの自己満足で、独り善がりな勝手な考えだ。

自分の愚かさに気づくことすらできていなかった。

 

すると、コロルがゆっくりと口を開く。

 

「・・・・せんぱいは、どうしてあんな危ないことをしてまで《蘇生アイテム》欲したんですか?葉山先輩を・・・・生き返らせて、どうしたかったんですか?」

 

コロルの疑問に対して俺は・・・・葉山の最後の言葉を伝えた。

 

「アイツは・・・・俺が殺した直後、最後に『ありがとう』って言ったんだ。・・・・分からなかった。殺した相手にその言葉を投げかけた理由が、知りたかった。」

 

その真意が俺には、理解できなくて、分からなくて、知りたくなった。

なぜあの場面で葉山は感謝の言葉を言い放ったのか。

 

「・・・・そう、でしたか。でも、その言葉を聞いて安心しました。」

 

「どういう・・・・ことだ?」

 

コロルは自分の胸に手を当て、ポツリとポツリと語り出す。

 

「・・・・葉山先輩に、ちゃんと《本物》が残ってたんですよ。」

 

俺には、理解はできなかった。

嘘と嫉妬と欺瞞でできた葉山に残っていた《本物》。

それは一体、どんなものか・・・・計算しても、考えても答えが出ない。

 

当たり前といえばそうなのかもしれない。感情が計算でできたらとっくに電脳化されてる。

・・・・計算して、計算した上で計算しきれず残ったもの・・・・それが感情というものだろう。

それを理解することができたら俺は、きっと葉山がみせようとくれた《本物》を見ることができるのかもしれない。

 

 

 

 

 

こうして、俺と葉山の戦いは終わりを告げたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




書ききったぞぉ・・・・

シリアス展開が多かったから次回はネタ回かな?
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