斯くして比企谷八幡は仮想現実にて本物を見つける。   作:ぽっち。

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ネタ回です。

最後の方に若干の下ネタあり。注意してくだされ。


第12話

 

 

 

「足りない・・・・足りない!!」

 

年が明けこのデスゲームが始まり、1年と2ヶ月が経っていたある日の出来事。

このゲームに参加していなければ今頃俺は受験勉強も終盤に差し掛かり、翻弄していた頃だろう。

 

葉山との戦い、そこから生まれた罪の重さを乗り越えて、なんとか日常を取り戻した俺はついに不満を爆発させ、禁断症状に悶えていた。

 

「・・・・何してるの?ハチくん。」

 

第25層の主街区にあるとある宿屋。

値段は高めだが独り暮らしにはもったいない1LDKというなかなか広いこの宿屋を自室として利用してからだいぶ経っているが、この部屋には大体の確率で人がいる。

主に居るのがコロルとシリカなのだが、今日は出かけているようでその姿は見えない。

その代わりと言わんばかりになぜかアスナが俺の部屋で紅茶を飲み、『Weekly Argo』を片手に寛いでいる。

 

俺はテーブルをバンッと力強く叩き、言う。

 

「マッ缶が飲みたい・・・・っ!!」

 

俺の行動に少し驚いていたアスナだが、俺の発言により深いため息をつく。

 

「はぁ・・・・また変なことに首を突っ込んで悩んでるのかなって思えば・・・・そんな事で悩んでたの?」

 

「そんな事って・・・・俺にとっては最重要案件だ。・・・・千葉県民はマッ缶がなければ死んでしまうんだ・・・・。」

 

「絶対、千葉県民は関係ないと思うよ。」

 

なんでだよ。

千葉県民はどこかでマッ缶を求めているのだ。

きっとそうに違いない。たぶん。

 

「《料理スキル》で作れないのかな?会って間もない頃にハチくん自身がそう言ってたよ?」

 

「あぁ。だから、今は空いたスキルスロットには《料理スキル》を入れてる。熟練度もそれなりに上がったからこその禁断症状だ。」

 

「ハチくんって攻略組だったよね・・・・?」

 

実はかなり前から俺は《料理スキル》を取得している。

無駄なスキル?待て待て、早計な判断はやめ給え。俺は必要なスキルだと思っている。

こんな殺伐とした世界だからこそ、ちょっとした娯楽が精神を和らげてくれるのだ。

そしてそれらが攻略の効率を上げるというものだ。

 

しかし、このスキルの熟練度を上げるのはかなり面倒なのだ。

スキル上げのために馬鹿みたいな量を作らなければならない上に欲しい調味料は自分で揃えないといけない。

単にネタ要素が含まれたスキルではないのだ。

 

ちなみに余談だが調味料確保のため出向いたフィールドでシリカと出会ったわけだ。

あの時、正直に『調味料探してました』なんて言うのが恥ずかしくて野暮用と言ったまでなのだ。

 

「でも、SAOで現実の調味料って再現できるのかな?」

 

「《料理スキル》の派生機能(モディファイ)に《調合》ってのがある。」

 

現在確認できてるSAOの調味料は約100種類。

それらが俺たちの脳に与える味覚エンジンのパラメータの解析を行い、ありとあらゆる組み合わせをすればどんな味でも再現できる・・・・と俺は考えている。

とはいえ、俺は理数系ではないので詳しい配合は《月夜の黒猫団》の面々、コロルやシリカを実験台に計算ではなく、実践して試しているのだが。

いや、もちろん俺も食べてるよ?

でもたまに泣きたくなるほど不味いものができたりする。そういったものは基本的にキリトに処理を担当してもらっている。

俺が作ったものとは言わず、サチが作ったといえば頑張って食べてくれる。

ふっ、男とは単純なものだ。

 

「つまり、この世界にその元の味はないけど作れるってこと?」

 

「あぁ、そういうことた。・・・・だけど、一つだけ問題がある。」

 

「へぇ・・・・どんな?」

 

「俺が欲しい最後の調味料採取がクソめんどくさいクエストなんだよ。」

 

俺が欲しい最後のパラメータを持った調味料は第22層主街区《コラルの村》で行われる1週間に1回行われる限定クエスト。

 

これが俺にとっての最難関。

 

「ハチくんが言うほど、めんどくさいクエってどんなのなの?」

 

少しワクワクした表情でアスナは俺の言葉を待っている。

めんどくさいクエストと聞いてそんな表情ができると言うとは彼女もだいぶここに染まってきているようだ。

 

「・・・・《コラルの村》でその週の料理自慢を決めるって趣旨のクエストだ。だけど、参加条件が2つある。・・・・1つ、《料理スキル》の熟練度が500を越えていること。2つ・・・・」

 

俺は形容しがたい妙な表情を浮かべながら口をゆっくりと開けた。

 

「・・・・ふ、2人1組での参加。」

 

俺がそう言うと、アスナはぽかんとした表情をした後にぶっと吹き出して笑う。

 

「あははは!確かにそれはハチくんには難しいクエストだね。」

 

「うっせ・・・・。」

 

とにかく、現状では参加することは難しい。

そもそも熟練度を上げるのが面倒な《料理スキル》。

それを500まで上げている人となるとこのSAOではかなり珍しい部類に入る。

 

ソロでぼっちの俺からすれば迷宮区を三徹で走り回るより難易度が高い。

 

「なるほどね・・・・じゃあハチくん。私を連れて行きなさい。私も最近《料理スキル》の熟練度500越えたところだから。」

 

「いやだ。」

 

「即答!?なんで!?」

 

「いや・・・・アスナと行くと目立つし。」

 

アスナの《料理スキル》の熟練度がどれくらいのものかは分からないが・・・・正直言うと彼女はものすごく目立つ。

 

SAO内にて攻略司令官としての役職、その誰もが一眼見れば見惚れてしまうような美貌。

そんな魅力ある女性の隣に立つ俺。

完全に浮いてしまうし、アスナファンの面々から絶大なヘイトを集めることができてしまう。

 

ただでさえアルゴのせいで変な噂が流れていると言うのにこれ以上厄介ごとを増やすということは俺の生死に関わってくるということだ。

 

つまり俺の精神安定上、アスナとともに行動するのはいささか不本意と言うわけだ。

 

「・・・・ふぅーん。」

 

あのアスナさん?なんか視線で俺のHPが削れそうなんですけど?

するとアスナは腰につけてある細剣の柄を握り、目にも留まらぬ速さで鋭い一撃を放つ。

下層のモンスターなら一撃で死んでしまうだろう一閃が俺の顔の前で寸止めされる。

寸止めされた細剣からの風圧と相成って寒気のようなものが俺の背筋にツーっと走る。

 

「・・・・っひ」

 

「ハチくん・・・・ダメかな?」

 

狂気、とも感じ取れる無垢な笑顔を俺に見せつけアスナは脅迫(おねがい)をしてくる。

 

「いえ、来てくださいお願いします」

 

「よろしい。」

 

アスナは満足気な表情で細剣を鞘に納める。

昔は天然あざと系女子だったアスナもSAOの荒波に揉まれ、随分と逞しくなったものだ。

コロルやシリカは上目遣いで攻めてくることが多いが・・・・最近のアスナは物理での交渉を俺に持ちかけてくる。

たとえ圏内とは言え、アスナのプレイヤースキルから放たれる一撃はなんとも言えない恐怖を感じ取れてしまう。

それを計算してやっているのであれば・・・・アスナ、恐ろしい子・・・・!

 

「はぁ・・・・」

 

なんとも言えない不安が俺を襲い、深く息を吐く俺であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は進み、俺とアスナは紆余曲折ありながらも結局、料理クエに参加することになった。

 

アルゴから購入した情報からクエストに参加するためのフラグを立てるため、22層の主街区《コラルの村》へ足を運んだ。

 

22層は何と言っても他の層には見られない長閑さが特徴だ。

まさに老後の生活はこんなのんびりとした空間でゆったり過ごしたい。

そんな思考を捗らせながら俺たちは目的である村長の家へとたどり着いた。

 

「困ったのぉ〜」

 

村長の家に入ると白く長い髭に禿げ散らかした頭を持つ老人がそんなことを言っている。

この爺さんは毎週日曜日の決まった時間に毎回、こう言っているらしい。

クエストへの参加のために村長へ話しかける。

 

「じじぃどした?」

 

「口が悪いよハチくん。」

 

良いんだよ。

AIが反応する言葉をなんでも良いから言えば良いだけ。

そもそもコミュニケーション能力が皆無な俺はNPCに話しかけるときすら吃って噛むレベルだ。

多少なりとも言いやすい言葉を選ばなければただ恥をかいてしまうだけ。

 

「おぉ、旅の人かい?実はのぉ、毎週行われる料理大会の参加者が1組足りんのじゃ。」

 

と言っているが実のところ毎週足りていない。

まぁ、週一クエストなので仕方ないと言えるが・・・・そろそろ対策ぐらいしなさいと言いたくなる。

 

そんな無能の村長は俺の考えなど無視するかの如く、勝手に話を進めていく。

 

「料理ができて、息のあった2人組なんておらんかのぉ〜」

 

なんだか腹が立ってきたが所詮NPC。

気にしたら負け。

 

「あ、クエスト出たよ。」

 

そうこうしているうちにジジィの頭の上に『!』とマークが現れ、俺たちの視界にクエストウィンドウが表示される。

成功報酬はそれなりの金額と名前の表記がされていない調味料。

 

「報酬・・・・結構良いんだね。」

 

「あぁ。この層に来た時なんか当時のクエストで一番良かったんだが、なんせ《料理スキル》を取得してる奴がいなかったから、クソクエストなんて言われてたくらいだ。」

 

このクエストを最短で受理しようとすれば第1層から《料理スキル》を取得しておかなければならない。

このデスゲームでそんなことをしている呑気な奴は居なかったので『参加することができないクソクエスト』と良く言われていたそうだ。

まぁ参加できても・・・・もう一つクソと言われる理由があるのだが。

 

「んじゃ、参加するか。」

 

「はーい。」

 

俺はアスナとパーティを組み、参加条件を満たしてクエスト参加と表示されたウィンドウをタッチする。

 

「おぉ!出てくれるのか、旅の人!ありがたや〜。」

 

本当に腹の立つ言い方をするジジィだ。

 

「そう言えば、成功基準ってあるの?」

 

「ある。だけど、それがこのクエストがクソと呼ばれるもう一つの所以でもある。」

 

「へぇー・・・・どんな基準なの?」

 

「使う食材のレア度で順位が確定するんだよ。」

 

「え?本当に?」

 

そう、このクエストの最大のクソ仕様。

《料理スキル》の熟練度なんてものは実のところ関係がない。

クエストで使用する食材アイテムは持ち込みの上に勝つために必要な基準値は食材のレア度で決まる。

勝利を確定させるために大量の資金を投入してレア食材をゲットしなければならない・・・・だが、その料金はクエスト報酬より高いため損することは確実。

さらに偶然手に入れた優勝確定食材でも売った方がクエスト報酬より儲かる。

つまり、自分の実力など関係なく・・・・財力がモノを言うクソ仕様なのだ。

 

「お主らの料理、楽しみにしとるぞ!」

 

「うわぁ・・・・」

 

じじぃがなんだか嬉しそうな口調でそういうが、基準値を知ってしまうと遣る瀬無い気持ちを表したなんとも微妙な表情をアスナは浮かべる。

 

「まぁ、食材は手に入れてるから安心してくれ。」

 

「はぁ・・・・楽しそうなクエストだと思ったけど、これはなぁー・・・・。」

 

残念そうにそう言ったアスナだったが・・・・まぁ、そこは気にしてはダメだ。

この世界を作ったのはデスゲームを強要してくる茅場晶彦(ヘンタイ)だってことは忘れてはならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、村長に言われるがまま俺たちは村の中央にある広場へと赴いた。

 

このクエストのフラグを立てると突然できる特設ステージの周りにはこの辺りを拠点とするプレイヤーの姿もちらほらと見える。

 

この22層はプレイヤーからはあまり人気がある層とは言えないが、戦闘向きではないプレイヤー・・・・特に40代から50代後半の大人たちのプレイヤーから人気がある。

 

その年代層の人たちが何故SAOに居るのか、というのはかなり気になるところだが、リアルの情報を聞くことはマナー違反になるため聞いたことはない。

 

とはいえ、一部の情報屋からは『SAO関係者ではないのか?』と推測をされているみたいだが、彼らを責めるものは想像以上に少ない。

 

理由とすれば、やはり主犯である茅場晶彦の単独犯行というのが大きいだろう。

まぁ、こんな命がかかってしまうデスゲームの存在を知っていて参加するような物好きは居ないのは確かだ。

 

「ねぇハチくん。」

 

するとアスナが俺へと話しかけてくる。

 

「なんだよ。」

 

「なんでこんなに距離を開けてるのかな?」

 

アスナの言う通り、俺はアスナの数歩後ろを付いて歩いている。

 

「・・・・お前といたら目立つからだよ。」

 

「ふぅーん、でも、女の子を1人で歩かせるのって私的にはポイント低いかな?」

 

「・・・・小町みたいなこと言うんじゃ無い。寂しくなっちゃうだろ。」

 

そう俺がいうと歩幅を縮めて結局俺と並んで歩くアスナ。

 

「小町ってなに?お米?」

 

「違げぇよ。俺の愛しの妹だ。」

 

最近、アスナと会話をしているとよくリアルの情報をつい喋ってしまう。

まぁ、アスナにはリアルの名前も住んでいる場所もバレているわけだから、そんなに拒否感を覚えないと言うことだろう。

 

「え?ハチくんって妹いたんだ。・・・・シスコン?」

 

「まぁな。てか、千葉の兄妹はみんなシスコンだ。」

 

「うわぁ・・・・否定しないところが絶妙にキモいよ?」

 

そんなドン引きの視線と言葉を俺にぶつけないでくれ。

八幡の心はジェンガ並みに脆いのだ。

 

「・・・・でも、少しわかるかも。私もお兄ちゃん子だったから。・・・・あ、もしかして私が妹に似てたから助けてくれたとか?」

 

「小町は唯一無二の存在だ。誰かと比べることなんてできない。そもそも小町以上の可愛い存在は俺は知らない。」

 

いや、戸塚は小町と張るくらい可愛いけどな。

小町と戸塚は俺の心を照らしてくれる二大天使だ。

 

「それに、お前はどちらかと言うと俺の所属してた部活の部長に似てる。」

 

「えっと、ボランティア部、みたいなところって言ってたよね?その部長さんに私が似てるの?」

 

実際はボランティア部ではないが、説明するのは少し面倒くさい内容の部活だ。

たしかに一言で言えばボランティア部なのだろうが、どちらかと言えばお悩み相談室みたいなものか。

 

「まぁ、性格はそんなに似てるとは思わないが・・・・色々と似てるんだよ。」

 

一番似ていると言えば、その容姿だろう。

あの誰も寄せ付けない才色兼備で容姿端麗な姿は攻略会議中のアスナとよく似ている。

そう、言うなれば『毒舌を抜いたマイルドな雪ノ下』がアスナだ。

 

とは言え、あの罵倒を再現できる人間などこの世に2人といて欲しくない。

こうして思い出していると雪ノ下の罵倒すら懐かしいと思えてくる。

いや、八幡はMじゃ無いよ?ノーマルだよ?

 

「そっか・・・・ハチくんはその人のこと、好きだったの?」

 

「ブホッ」

 

俺はその発言により思わず咳き込んでしまう。

SAOで咳き込むとは何事かと思うが、どうやらキリトによるとナーヴギアが動揺した脳波をキャッチして一定確率で噎せさせるらしい。

まぁ、そのくらい俺は動揺したということだろう。

 

「・・・・す、好きでは無い。だが、憧れてはいた。」

 

動揺する感情をなんとか抑えつけ、冷静に雪ノ下について考えてみる。

 

彼女は確かに可愛くて、どこか弱々しい雰囲気から保護欲を引き立てられるのは理解できる。

体力は30代後半並みのミソッカス振りだが・・・・まぁ、実際はそんな弱くは無い。

俺は彼女の強さに憧れを持っていたのだろう。

 

俺が物事に対して否定的で、諦めてしまって、逃げてしまうような人間ならば・・・・雪ノ下はその逆だ。

強い志と芯を持った性格で真っ向から相手に向かっていく。

正論を盾に戦うのが雪ノ下ならば俺は嘘と欺瞞を逃げ足としている醜い卑怯者だ。

 

俺が何事にも逃げてしまい、それすら屁理屈で肯定する臆病者なら、雪ノ下は真っ向から立ち向かい、臆せず前へと進める立派な人間だろう。

 

そんな強く、凛々しい彼女に俺は憧れを抱いているのかもしれない。

 

「・・・・ハチくんが憧れるってことはその人はとても魅力的な女性(ひと)なんだね。」

 

「そう、なのか?」

 

「うん。・・・・ハチくんは捻くれ者でSAOで一番嫌われてる攻略組の1人だけど・・・・人を見る目は確かにあるもん。」

 

なんかちょくちょく毒があるような言い方ですね。

 

「そんなハチくんが憧れるって・・・・少し羨ましいや。」

 

そう言ってアスナは少し空を見上げた。

 

アスナ、俺はお前のことも・・・・憧れてると思う。

あの時・・・・雪ノ下が『嫌い』と言った行動さえ、オマエは肯定してくれた。

独りじゃ・・・・ないと言ってくれた。

あの時はそうは思わなかったが、今になって思うと随分とあの言葉には救われたと思っている。

 

「その、まぁ、なんて言うか・・・・俺もオマエのことは認めてるし、信頼してると、思うぞ、たぶん。」

 

俺がこの世界に来て、初めて信頼を寄せた人間は確かにアスナだと思う。

彼女の無垢な笑顔には何度も救われ・・・・葉山の時すら助けて貰った。

俺の中にはアスナに対して返しきれないほどの恩があると勝手に思ってる。

 

「そっか・・・・ありがとね、ハチくん。」

 

アスナはそう言ってニコリとはにかむよう笑った。

不覚にも見惚れてしまったその笑顔に少しだけ鼓動が早くなり、体温が少しだけ上がったような感覚を感じる。

 

「あ、着いたよ。ここが料理クエの受付だね。」

 

俺が柄にもなくそんな感情を感じているといつのまにか《コラルの村》の中央広場に設置してある受付テントにやってきていた。

 

そこにはなんともやる気がなさそうなNPCが受付をしている。

まぁ毎週こんなクソクエの受付をやっているのであればあんな顔にもなるか。

そんな受付のNPCの頭の上にはクエスト開始の『!』のマークが表示されている。

準備は済ませているのでアスナに視線で合図を送り、フラグを立ててもらう。

 

「あの、受付したいんですけど。」

 

「え?あ、クソジジ――――村長が言ってた旅の人ですね。こちらへどうぞ。」

 

おい、オマエさっき自分の村の村長のことクソジジイって言いかけたよな?

どうやら、このNPCはこのクエストにかなり嫌気が指しているようだ。

アスナも苦笑いを浮かべ、指示された場所へ足を運んだ。

 

そして特設ステージ上に足を踏み入れた瞬間、マイクのような拡声器でクエスト開始の合図が聞こえる。

 

「さぁ始まりました!第56回料理タッグ選手権!今日は誰が一番美味しい料理を作ってくれるのでしょうか!」

 

とてつもなく抑揚のない片言な日本語で始まった料理タッグ選手権。

てか、本当に唐突すぎて苦笑いすら起きない。

 

普通は俺たちが立ち位置に着いたら始まるとかそういう感じだろ?

なんで俺たちが入ってきた瞬間始まるんだよ。なんたが俺たちが遅刻してきたみたいじゃないか。

 

「えー、本日も人が足りなかったため、特別ゲストに来て頂きました。」

 

本日も、って言っちゃうんだね。

あと突然テンション下げるな。最初のテンションはどこに行ったんだ?

 

「本日はアスナさんとハチさんのペアに来て頂きましたぁーはい拍手ー」

 

そして聞こえてくるのは疎らに聞こえてくる小さな拍手。

なんだか公開処刑を受けている気分になる。

 

「では、村長の舌を唸らせることができたら優勝です。頑張ってください。・・・・はぁ、帰りたい。」

 

おい、マイクが音拾ってんぞ。

俺だって帰りたいんだからオマエも我慢するんだ。

 

そんなやり取りに溜息をつきながらもクエストは進行していった。

参加者としているNPCもどこかやる気がないように見える。

俺たちも料理し始めるとするか。

 

「それで用意した食材って?」

 

「あぁ、本当は自分で食いたかったんだが・・・・背に腹はかえられない。これだ。」

 

俺はそう言いながらウィンドウを操作し、事前に用意した食材をオブジェクト化する。

遠目で見ていたプレイヤーから『おぉー』という小さな歓声が上がる。

 

「・・・・これ、《ジズの腿肉》じゃない!?現段階で手に入る最高ランクのS級食材!?」

 

元ネタは恐らくユダヤ教の空の獣と呼ばれる架空の鳥をイメージして作られたであろうモンスター。

この鳥?は旧約聖書の誤訳によって作り出されたと言われている。

 

そんなことはさておき、このSAO内にて《ジズ》というモンスターは存在しておらず、トレジャーボックスにて手に入れることができる食材となっている。

 

途轍もなくレアな上、食べると極上の世界へと導いてくれると言われ、プレイヤー間では高額で取引されている超S級食材だ。

 

しかし、この食材には一つ欠点がある。

 

「自分で食べようとは思わないの?」

 

「食べたいのは山々なんだが・・・・この食材、調理成功確率がたったの5%なんだよ。恐らく、《料理スキル》をMAXにして幸運のバフを付けて漸く成功するか五分五分ってところだ。」

 

「じゃあ・・・・尚更、勿体ないよ。特にこんなクソクエストでなんて・・・・。」

 

クソなんて口が悪いですよアスナさん。

とまぁアスナはそう言うが、俺がこの食材をここで出したのは理由がある。

 

「言ったろ?このクエストは食材によって勝ち負けが決まる、《料理スキル》の熟練度は関係ないって。例え成功確率が低くてもこのクエスト中だとどんな食材でも100%調理できるんだ。」

 

「えー・・・・」

 

「だからこそ、クソクエストって呼ばれてるんだよ。」

 

このクエスト中に行った料理は100%成功する。

だからこそ、俺はここで扱いの難しい《ジズの腿肉》を取り出したのだ。

 

自分で食べたい・・・・とは思ってはいるが、それよりも俺はマッ缶が飲みたい。

 

「ま、鶏肉なんだし唐揚げでいいか。」

 

「ソテーとかでも良いんじゃない?一番鳥の旨味を引き出せるよ。」

 

「まぁどうせ食うのは俺らじゃないからなんでも良いんだけどな。」

 

「あー・・・・あの村長に食べさせるのは本当にもったいない気がしてならないよ・・・・。」

 

そう言うアスナだが、食材の持ち込みは俺なのでその後は文句も言わず、付け合わせの調理を始める。

 

手際はとても良いもので、効率の良い行動でテキパキと作業をこなしている。

 

俺はメインの《ジズの腿肉》の調理を始める。

手順が簡単でアスナの意見でもあったチキンソテー・・・・チキンと言って良いのかは分からないがとりあえずソテーするための手順を踏んでいく。

 

この《ジズの腿肉》をカットには《料理スキル》の熟練度が800ないと出来ないのだが、料理クエスト中は俺の足らずな熟練度でも簡単にカットできる。

 

マイ包丁をストンと落とすと、システムが勝手に腿肉をカットしてくれる。

 

俺はそれに調味料やらで下味をつけ、フライパンで焼いていく。

本来ならばもっと複雑な手順があるのだがこのSAOでは簡略化されているため実際の料理とは違い、やりやすい。

 

「うぉ・・・・スッゲェいい匂い。」

 

「本当に食欲をそそられる匂いだね・・・・。あぁ、やっぱり私たちで食べようよ。」

 

「それが無理なんだよ。このクエスト中に出した食材はどんなに頑張っても食べれないんだ。」

 

「クソクエスト・・・・」

 

だから口が悪いですよ。

 

そうこうしているうちにとあるNPCが料理を完成させたようでめんどくさそうな足取りで審査員(村長)に持っていく。

 

どうやら提供した料理は《トスマストのガスパチョ》。

トスマストとは現実世界でいうところのトマトだ。

俺の嫌いなトスマストは上から読んでも下から読んでもトスマスト。

 

そんなことはさておき、わざわざそんな手の込んだ料理を提供するとは少し驚きだ。

 

余談だが、ガスパチョとはスペイン、ポルトガル料理で冷製トマトスープのことだ。

スペインの方では夏場の定番、有名な料理らしい。

そんな料理を真冬とも取れるこの時期に出すのはどうかと思うが、この22層は比較的気温が安定しているためだろう。

 

え?トスマストはトマトなんだから意味が被ってるだろって?

そんなことは茅場晶彦(クソ運営)に言ってくれ。

 

村長はスプーンを手に取り、スープを掬って口に運ぶ。

 

「うーん、食材が普通!!」

 

「ウザ。」

 

このクソジジイはどうやら本当に材料のレア度で判断しているようでどんな手の込んだ料理を提供しても食材のレア度が低ければあの反応を示すらしい(アルゴ談)。

なんとも腹が立つ仕様だ。

 

「こっちはそろそろ出来るけど・・・・ハチくんはどう?」

 

「あと2分ってところだな。」

 

俺が持つフライパンにはフタを開けるまで残り2分と表示されている。

こういうところは現実にも欲しいシステムかもな。

 

「・・・・それにしてもハチくんってキッチンに立つの意外と似合うね。」

 

フライパンを持つ姿の俺を見てアスナはそう言った。

 

「まぁな。専業主夫希望だからな。」

 

「・・・・ちょっとありかも。」

 

「?なんか言ったか?」

 

「う、ううん!何でもないよ。」

 

小さく呟いたアスナの発言は聞き取れなかったが、そんなやり取りをしていると《ジズの腿肉ソテー》が完成する。

 

慣れた手つきで盛り付けをしていき、用意されていたお盆のようなものに乗せる。

 

アスナと共に初めて作った料理をこんなクソジジイに食べさせるのは本当に不本意だが、マッ缶のため、と心に言い聞かせて料理を村長待つテーブルへと置く。

 

「さっさと食いやがれ、クソジジイ。」

 

「口が悪いよ、ハチくん。」

 

とはいえ、レア食材を使わなければならないというこの苛立ちはどこかにぶつけなければ消化できないのでアスナもどこかで許容しているようだった。

 

「うっひょー!美味そうじゃのぉ!」

 

あぁ、殴りたい。

 

「どれどれ・・・・」

 

NPCのくせにナイフとフォークを器用に使い、村長は料理を口へと運ぶ。

 

「美味あああああい!!」

 

口へと入れた瞬間、ノータイムでそう叫ぶクソジジイ。

その間隔の短さが俺たちの苛立ちを加速させるがぐっと堪える。

 

「お主らが優勝じゃ!今大会はこれにて終了!!」

 

早い。判断が早すぎる。

とはいえ、レア度がクリア条件となっているこのクエストに最上級の食材を持ってきたのだから仕方がないか。

 

「お主らに優勝商品と、賞金を授けよう!!」

 

クソジジイがそういうと俺とアスナの目の前にクエストクリアのウィンドウが現れる。

 

これで俺が欲しかった調味料が全て揃ったのだ。

あぁ、漸く俺はマッ缶を手に入れることができたのだ。

 

「・・・・ハチくん、これって。」

 

意味深な表情を浮かべるアスナを見て俺はクエスト報酬を確認する。

 

俺の欲しかった調味料は確かに表示されていたが・・・・マジですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・上手い、完全再現できた。」

 

少し時間は流れ、クソクエストもといい、《料理クエスト》をクリアした俺はその成功報酬である調味料を使い、試行錯誤した結果、漸くマッ缶に似た味を再現することができた。

 

「・・・・この暴力的で脳髄を破壊するような濃厚な甘味・・・・俺が求めていたマッ缶そっくりだ。」

 

「・・・・。」

 

自室にて漸くできたマッ缶擬きを飲み、感動に浸っているがアスナはどこか引いた表情を浮かべている。

 

「アスナも飲むか?」

 

「飲んでみたいけど・・・・材料が材料だから嫌だよ。」

 

「どうせ仮想の擬似味覚パターンだ。本物じゃないから気にすることなんてない。」

 

そう言って俺はズズッとマッ缶擬きを啜る。

1年ぶりに感じるこの暴力的な甘さに浸っているが、どうもアスナの視線が軽蔑のような、別の生物を見ているように見える。

 

「だって・・・・アレだよ?調味料がアレなんだよ?」

 

「そんなこと言われてもなぁ・・・・。」

 

俺たちが村長から貰った調味料は《ジャイアントエイプの食寳》。

寶とは大切な宝物という意味があるので、噛み砕いた言い方をすれば・・・・巨大な猿のキン○マだ。

 

「つまり、アレからでた調味料でしょ?・・・・嫌だよ。」

 

つまり、アレはアレということだ。

俺が欲しかったマッ缶作成で最後のピースは練乳に似た何かなので・・・・そういうことだ。

なんで巨大な猿のキン○マが練乳のような甘さがあるのかはわからない。

分かってはいけない。

 

「まぁ、世の中にはこんな感じの珍味もあるって言うから・・・・考えずにマッ缶だと思えばなんとかなる。」

 

「セクハラだよ。あの村長は絶対に《黒鉄宮》に送ってやるんだから・・・・!」

 

そう言われると弁護のしようがない。

しかし、NPCは割とセクハラしてくるやつが多いし、まぁ男が作ったゲームだからしょうがないとも言える。

 

何だかんだでマッ缶は出来たし、俺としては大団円なのだが・・・・アスナはそうはいかないだろう。

 

そんなことを考えながら俺は無心でマッ缶擬きを啜ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴゥェッ」

 

――――思い出すとたまに吐き気がするので、この世界でのマッ缶は諦めるとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




こんなクソみたいなネタ回に1万字・・・・。

まぁ書いてて楽しかったです(ゲス顔)

ちなみに今回のオチはトリコを読んでたらふと思いついただけ笑
それのせいか最後のアイテム名はパクリ・・・・じゃなくて、リスペクトさせて頂きました。

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