斯くして比企谷八幡は仮想現実にて本物を見つける。   作:ぽっち。

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今回もネタ回

更新遅くてすみません・・・・。

なかなか社畜である私に執筆活動は難しいと感じているこの頃です。


第13話

 

マッ缶の最期のピースがキン○マだった事件――――通称《マッ缶事件》を乗り越えた俺はなんとも言えない状況に唖然としている。

 

「み、みにゃいで!」

 

「って言われてもなぁ・・・・。」

 

現在、2023年2月22日。

このデスゲームが始まり1年と3ヶ月が経過したこの日にSAOでは類を見ない、とてつもなく変な(・・)イベントが開催されている。

 

俺の視線の先には布団に包まり、羞恥で顔を赤く染め上げている攻略組最大ギルド《血盟騎士団(KoB)》の副団長、《閃光》のアスナが居る。

 

その鬼気迫る攻略の姿勢から《攻略の鬼》と呼ばれるアスナは、実にその様子を一片も感じさせない様子で毛布にくるまっている。

そして、そこからはみ出た尻尾と・・・・猫耳をが見える。

 

「みにゃいでえぇえええ!!」

 

なぜこんなことになってしまったのかというと少し時を遡らなければならない・・・・――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日、俺の部屋にいつものようにアスナが寛いでいた時の出来事だ。

なぜつい最近まで避けていたアスナ・・・・特に葉山の件でかなり迷惑をかけた彼女が俺の部屋に入り浸っているのかは分からないが、レベリングや攻略の終わりにここに来ることが日課になっているような気がする。

 

今日はあの悲劇の《マッ缶事件》とは違い、コロルとシリカも共に俺の部屋にいる。

なんで?そろそろ自分の部屋に帰りなさいよ。近いでしょうが。

 

コロルはウィンドウを操作しており、どうやら今日の狩りで手に入れたドロップ品の整理や装備品の耐久値をチェックしているようだ。

シリカは今日の狩りの疲れからか、俺の天敵でもあるピナを抱えアスナの肩を枕にして軽く寝息を立てながらうたた寝をしている。

アスナは《Weekly Argo》を読みながら俺に入れさせた紅茶を飲んでいる。

 

お前も《料理スキル》持ってるんだから自分で入れてくれよ・・・・。

 

そんな事はさておき、この空間の空気はとてもあの部室に似ている。

そのせいか、俺はどうも強く彼女らに言えない節がある。

懐かしい記憶に浸っていると、コロルがウィンドウを閉じて俺に話しかけてくる。

 

「せんぱい〜疲れたんで、また《ストロングベリーベリーストロベリー》奢ってくださいよぉ」

 

「嫌だ。アレ地味に高いし、名前がクドイから嫌いなんだよ。それにあざとい。」

 

その残念なネーミングのそのケーキは25層のとある路地裏にあるNPC喫茶店で食べることができるデザートなのだが、価格はぼったくりを疑ってしまうほど高い。

また、というのは以前の葉山の件で迷惑をかけたという名目で奢らされたからだ。・・・・シリカとアスナ、《月夜の黒猫団》の面々にも奢ったので軽く5桁ほどのコルが吹き飛んだ。俺のチマチマ貯めた貯蓄に多大なるダメージを与えた。

いや、まぁ俺はぼっちだからお金を使うこと、というか使う場面がないから貯まる一方ですけどね?そんなにダメージは無いですけどね?慣れてないからか、自分以外に使う金ってなんだか精神的に来るだよな・・・・。

 

そもそも強いベリーストロベリーってなんだよ?

そんなにイチゴの主張が激しいのか?

 

「あざといは関係ないじゃないですかぁ・・・・まぁ、いいですけど。」

 

ならそんな話題を振ってくんな。

 

いつもの会話を一通り済ませると、最近当たり前になっていた静かで心地よい空間が戻ってくる。

そんな心地よさは俺の疲れた精神を適度に癒してくれるような気がする。

 

「・・・・ん?なにこれ?」

 

するとアスナが『Weekly Argo』を読む手を止めて、呟く。

 

「どうした?」

 

「いや、へんな通知が来てて・・・・コロルは?」

 

「私もだ・・・・なんだろうね、これ?」

 

俺の方には彼女らがいう通知は来ていない。

不審に思ったが、この世界にコンピュータウィルスなどの感染なんてものはあり得ない。

何かしらのイベントではないのだろうか?

 

「なんて書いてるんだ?」

 

「えーっと・・・・『おめでとうにゃ、君は本日のイベントに当選したにゃ。特に今日は日向ぼっこ日和にゃ。・・・・頑張ってにゃ』・・・・え?なにこれ?」

 

本当になんだよ。

それと、にゃってところをアスナが言うと可愛いので惚れてしまいそうになるのでやめてくれませんか?

 

「なんでしょうかこれ?」

 

「イベントだろ?・・・・クリスマスイベントがあったくらいだから、別に他のイベントがあったっておかしくないわけだし。」

 

「たしかに・・・・――――にゃっ!?」

 

すると突然、アスナとコロルが青白い光によって包まれる。

 

「――――っ!?アスナ!コロル!」

 

俺は突然の出来事に座っていた椅子を倒しながら立ち上がる。

エフェクトが違うが、強制転移の可能性を捨てきれず咄嗟に近くにいたアスナに手を差し出す。

 

アスナの腕を掴み、最悪の状況を想定しながら光が収まるのを待った。

そして、数十秒後。

 

「ふぁ・・・・びっくりしたにゃ(・・)。」

 

「・・・・にゃ?」

 

青白い光が収まり、アスナの姿が見えてくる。

そこにはピョコっと猫耳を生やし、臀部にはフリフリと揺れる可愛らしい尻尾・・・・。

 

「アス、ニャン(・・・)?」

 

頭の中で留めておくつもりの言葉が動揺と理解不能な現状により出てくる。

・・・・なんだか言ってて恥ずかしくなったよクソ。

 

俺がそんな思考を巡らせていてもアスナの理解が追いついていないようだった。

 

「にゃにこれ?にゃ!?にゃんでへんな喋り方ににゃってるの!?」

 

ますます理解が追いつかない。

いや、当事者ではない俺ですら理解できてないのだから当事者であるアスナが追いつくわけがない。

 

「え?にゃにこれ?猫耳?」

 

ふとその声の主であるコロルの方を見てみるとコロルも可愛らしい猫耳にフリフリと揺れている尻尾をつけている。

仕草と相成ってか、あざとさが10割増しになっている。

 

すると、俺の方を見たコロルがピタリと動きを止める。

 

「・・・・てか、せんぱい。それはどうかと思うんですけど?」

 

ジト目で俺を見つめるコロル。

そして俺もここで恐ろしいことに気づいてしまう。

 

咄嗟にアスナの腕を掴み、俺は無意識のうちに抱き寄せていたのだ。

そのことに気がついた俺はアスナに強烈な拳を喰らわせられると覚悟しながらギギッと動かない首を無理やり動かしてアスナを見る。

 

そこには顔を真っ赤に染め、猫耳を抑えながら瞳をウルっとさせているアスナ。

 

「ハチくん・・・・恥ずかしいにゃ・・・・見にゃいでぇ・・・・。」

 

羞恥と動揺ですぐに離れてしまったが俺の心はどこかで惜しいことをしたと思っている。

変態ではない。断じて変態ではない。大切な事なので二回言いました。

しかし、この状況で俺はこの感情を否定することはできない。なぜなら――――

 

 

 

 

 

 

――――・・・・尊みが深いからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして話は冒頭へと戻る。

心の中でよく分からない迷言を放ったところで意外と平常心なのが・・・・いや、意外ではなく、やはりと言ったところか。少しこの異常事態を楽しんでいたのはコロルだった。

 

「本当に再現度高いですねぇ〜。我ながらすごく可愛いと思いますよこれ。」

 

そう言ってコロルは尻尾と猫耳をぴょこぴょこさせる。コロルはゲーム開始時に茅場晶彦(クソ運営)から配布された手鏡を持って自分の姿を映して自画自賛している。

たしかに・・・・可愛いと思うがお前がそれをつけるとあざとさが増すだけだ。10割増しですよ。

てかまだそんなもの持ってたのかよ。トラウマ級のアイテムだろ。

俺は現実に帰ったら手鏡を持てないくらいトラウマになってるに違いない。いや、普段から手鏡なんて持たないけど。

 

「ま、女子には必須アイテムですからね。」

 

ナチュラルに心を読むんじゃない。

 

「でも、どうして猫なのかな?」

 

一連の騒動でついに目を覚ましたシリカは不思議そうにそう俺に問いかける。

俺が知ってるかのように聞かれましても俺は何にも知らないぞ。

 

ちなみにシリカは猫耳姿ではない。

どつやらシリカのところにはメッセージは届いていなかったようだ。

 

「アルゴに聞いたらわかるんじゃないか?・・・・こういったイベントの情報収集はアイツの十八番だろ。」

 

「早く、連絡をとって・・・・にゃ。」

 

布団を頭から被り、未だに顔を赤く染めながらアスナはそう言う。

少し現状を理解するために今の現状を可能な限り観察してみる。

 

「どうやら語尾とかが勝手に『にゃ』になるみたいだな。・・・・コロルはなんで出てないんだ?」

 

「最初は動揺しちゃいまして出ちゃったですけど・・・・女子力じゃないですかね?」

 

確かに出てたと思うが・・・・女子力関係ないだろ。

 

そこで俺は、ふとアスナに復唱してもらいたい言葉を言う。

 

「アスナ、『斜め77度の並びで泣く泣くいななくナナハン7台難なく並べて長眺め』って言ってみてくれ。」

 

「え?『にゃにゃめにゃにゃじゅうにゃにゃどのにゃらびでにゃくにゃくいにゃにゃくにゃにゃはんにゃにゃだいにゃんにゃくにゃらべてにゃがにゃがめ』・・・・って!にゃにを言わせたいの!?」

 

いや、満足したのでそれでいい。うん。意味なんて要らない。

 

閑話休題

 

コロルの底知れぬ女子力と完璧委員長に並ぶアスナの滑舌さを感じ取ったところで俺の視界にメッセージの通知が来た時に出るアイコンが表示される。

どうやら、先程から連絡を試みていたアルゴからの返信だろう。

 

メッセージを開き、内容を確認する。

 

「・・・・どうやら、アルゴもてんやわんやしてるみたいだな。色んな人からメッセージが飛んできて大変らしい。とりあえず、俺たちの意見も聞きたいだと。」

 

「なるほど・・・・じゃあ、こっちから行ってあげたほうが良いですね。」

 

「にゃ!?」

 

シリカの発言に驚くアスニャン・・・・ではなく、アスナ。

どうやら、あの姿で外に出るのが嫌なのだろう。

羞恥に顔を真っ赤に染め上げ、必死になって隠しているアスナを想像すれば・・・・意外とそそられるものはある。

変態的思考になってきている。マズイ。

ここで変態のレッテルを貼られるのは些か不本意な上、アスナからの信頼は地に堕ちてしまうだろう。

 

とはいえ、当事者であるアスナをここに置いていくのも少し戸惑われる。

 

「あー・・・・アスナ、俺があの時あげたポンチョはまだ持ってるか?」

 

初めてアスナに出会った時に渡したクソ安物だ。

もう随分と昔になる上、最近のアスナはポンチョをつけていない。持っていない可能性が高いだろう。

 

「にゃ?持ってるけど・・・・それをつけてても恥ずかしい、にゃ・・・・。」

 

持ってるのかよ。なんでだよ?

ストレージの容量の無駄でしょう。

 

だが、アスナの言うことには一理ある。確かに頭の猫耳は隠せても尻尾の方は隠せないだろう。

しかしながら、システムが強要する語尾を頑張って拒否しようとするアスナはなんだか可愛いところがある。

・・・・クソ、無駄な思考が入って論理的な考えができない。

 

「でもでも、私も一緒なんだから恥ずかしがることないよ、アスニャン。赤信号みんなで渡れば怖くないって言うじゃん。」

 

「コロル・・・・アスニャンって言わにゃいでぇ・・・・。」

 

コロルは暴論を吐くがアスニャンには届かなかったようだ。

俺は分からないが確かにみんなで同じようにすれば恥ずかしさは多少なりとも和らぐとは、思う。

いや、俺はぼっちだからそんなこと分からないけど。みんなの言う《みんな》に俺は入ったことないから。

 

「あ、せんぱい!」

 

するとコロルが何かを思い出したかのように俺に話しかけてくる。

 

「なんだよ。」

 

「今日一日私のことはコロニャンと、呼んでください♪」

 

そう言ってコロルは《てへっ♡》とはにかむ。

あぁ、クソあざとい。

あざといのに、わざとだということは分かっているのに可愛いと思ってしまうし、ドキッとしてしまうそんな自分に腹立つ。

 

「・・・・嫌だ。」

 

「え〜・・・・ぶーぶー。」

 

頬を膨らませ、抗議をしてくるコロル。

はいはい、可愛いですよ可愛いですよ。惚れて告白して振られるんですね、はい。

 

「この後輩の言うことは無視しといて・・・・とにかく、お前も行かなきゃ時間がかかるだけだぞ?」

 

「え〜!?無視ですか!?――――っは!?実は本当は可愛いって思ってるけど恥ずかしくて言葉には出せないって事ですか?嬉しいですけどちゃんと言葉にしてくれないと私は納得できないのでごめんなさい!」

 

え?この流れで俺は振られちゃうの?なんで?

 

そんなコロルの理不尽さを再確認したところでアスニャンに再度問う。

 

「で、どうする?俺的にはさっさと行動した方がいいと思うけど。」

 

「わかった、にゃ・・・・。うぅ〜」

 

・・・・尊みが深い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恥ずかしがるアスニャンを無性に撫でたい気持ちをぐっと抑え込み、漸く俺たちはアルゴに会うため外に出かけることができた。

どうやらアルゴがいる場所は最近、一部の攻略組(主に俺たちと《月夜の黒猫団》の面々)で溜まり場になりつつあるエギルの店という。

エギルの店は1階が店舗、2階が住居兼物置となっているのだが、アルゴはよく隠れ家として使っているらしい。

 

彼女も彼女でアコギの商売をしているようでたまに逆恨みしたプレイヤーが住所を特定してくるのだと。

お得意の《隠蔽スキル》の闇討ちで毎回返り討ちにはしているようだが、キリがないらしい。

 

さて話を戻して、今俺たちは第50層主街区《アルゲート》を訪れている。

この街の特徴といえば何と言ってもその迷路のようなかなり複雑な街並みだろう。

中華系の下町に似ているこの街のはその複雑さ故か、プレイヤーが迷って帰ってこなかったなどと言った噂が絶えない。

あのゲームオタクであるキリトですらその全容を把握してないという。

更に怪しげな店も多く、だいたい変なアイテムの出所はここだと言われている。

ちなみにこの街で俺は念願のラーメン屋を見つけたと思っていたが、残念ながらそれはラーメン擬きの変な麺類を置いていただけだった。

《料理スキル》の項目の中には麺類はない為、ラーメンを再現することは諦めなければならない。

 

少し話が脱線してしまった。

街行く人々の中にはチラホラと猫耳をつけたプレイヤーがいる。

アスナのように困っているわけではなく、コロルのように意外と楽しんでいるようだ。

 

「ねぇねぇ、アスニャン。やっぱり私たちって完成度高いからアイドル活動とかしてみる?・・・・《ニャンコシスターズ》とかでやれば売れそうじゃない?」

 

「アスニャン言うにゃー・・・・恥ずかしくてそんにゃのできにゃいよ。」

 

相変わらず、コロルは謎の女子力によりシステムを拒絶している。

アスニャンは少し慣れてきたのか、最初ほど恥ずかしがる様子は見られない。

とはいえ、ポンチョでしっかりと顔と頭を隠しているが。

 

それにしても《ニャンコシスターズ》とは昭和感溢れるネーミングセンスだな。

 

「ほら、アスナさんもコロルも無駄話してないで早く行くよ。・・・・えーっとこの辺でしたよね?」

 

シリカがそう言って場を納めてエギルの店の方へと歩いていく。

 

「この街はややこしいから迷子になるなよ。」

 

「ピナには実はナビゲーション機能があるんで、大丈夫ですよ。」

 

「え?マジで?」

 

「嘘です。」

 

なんだよ。ちょっと信じちゃったじゃないか。

俺には絶対回復してくれない畜生でも役に立つと思っていたが、畜生はどこまでいっても畜生というわけか。

 

てかこのタイミングでなぜそんな嘘をついたのだ?

 

「お、ここだな。」

 

ついにエギルの店に辿り着いた俺は扉を開く。

カランコロン、と鐘の音が鳴り店に入ると少し手狭な店内のカウンターにエギルの姿を確認する。

 

「いらっしゃい・・・・にゃ(・・)。」

 

「は?」

 

エギルの台詞を聞き、少し寒気がしたところでエギルのツルッパゲな頭部を確認する。

 

「・・・・エギル、お前。」

 

「ハチ、何も言うにゃ。言うんじゃにゃい。」

 

そこには似合わないとしか言いようがない猫耳。

カウンター越しでも少し確認できたエギルの臀部から生えた尻尾。

 

うわぁ・・・・誰得だよ?

 

「嫌悪感が・・・・凄いですね。」

 

コロルよ、ストレートに言いすぎだ。

 

「俺でも似合わにゃいって分かってるけど、仕方にゃいんだよ・・・・。」

 

やめてくれ。

おっさんがにゃーにゃー言ってもキモいだけなんだよ・・・・。

 

「アルゴなら上で待ってるにゃ。・・・・早く原因を突き止めてくれにゃ・・・・。」

 

俺たちの精神的ダメージも強いが、本人が感じているダメージも大きそうだ。

俺はここで決意する。

さっさとこんなイベント終わらせよう。主に俺の精神安定上。

 

「これじゃあ、商売上がったりにゃんだよ・・・・。来てくれたお客さんは俺の姿見るなり、走って逃げていくんだにゃ・・・・。」

 

正直言って俺も逃げたい。

 

そんな精神的にも売り上げ的にもダメージを負っているエギルもと言い、エギニャンに言われたように俺たちは店の2階へと歩を進める。

2階の物置兼溜まり場にたどり着き、扉を開ける。

 

「お、やっときたカ。」

 

そこにはウインドウを頻りに操作するアルゴの姿があった。

そして・・・・案の定、猫耳姿だ。

 

「・・・・《鼠》なのに猫なのかよ?」

 

「ニャハハハ、《猫》のアルゴに改名した方が良さそうだよナ。」

 

アルゴはそう言いながら笑う。

しかし・・・・普段からその笑い方はしていたが、今の姿を見るととても自然に見えてしまう。

 

「とにかく、座ってくレ。情報共有がしたイ。」

 

「あぁ。」

 

そう促され、言われるがまま俺たちは近くにあった椅子に座る。

 

「さてと・・・・そっちの被害者はアスニャンとコロニャンってところカ?」

 

「あぁ。てか、さっきから気になってたんだが・・・・お前も語尾は『にゃ』じゃないんだな。」

 

「キャラを崩さないためサ。あと女子力かナ?」

 

ここでも登場したのは女子力。

女子力とは一体なんなんだ?この世界のシステムすら無視する女子力はユニークスキルか何かなのか?

とは言ったものの、キャラを崩さないというのは強ち間違いではなさそうだ。

事実、コロルはキャラを崩したくないが故にシステムに逆らっているのだろう。

 

「オレっちが確認できてる中だと、この《猫化》は男女問わず、ランダムで発生しているみたいダナ。恐らく、生き残っているプレイヤーを無作為抽出で選定しているようダ。」

 

男女問わずって・・・・つまり、エギルの他にもおっさんが《猫化》してるってことか?

・・・・うわぁ

 

「その根拠は?」

 

「どうもこうも、《猫化》しているプレイヤーに共通点がなイ。エギルのようなオッサンから始まりの街で待ってる子供たち・・・・あと、キバオウや《血盟騎士団(KoB)》のゴドフリー《猫化》してるとカ。」

 

「ゴドフリーも・・・・?」

 

アスニャンが苦笑いを浮かべる。

ゴドフリーのことはうろ覚えだが、確か《血盟騎士団(KoB)》のフォワード隊の指揮を任されているおっさんだったと思う。・・・・うわぁ。

 

最後の情報は途轍も無く必要のないものだ。

変に想像しちゃっただろうが。

なんでモヤットボールとおっさんに猫耳生えてんだよ。

最悪だ。

 

癒しを求めてアスニャンを愛でたい所だが、変態扱いは嫌なのでグッと堪える。

 

「とにかく、オレっちが分かり得る情報はこのくらいだナ。なぜこんなイベントが起きたのすらわからねーヨ。」

 

「この前はクリスマスイベント・・・・日付が関係してるんじゃないか?」

 

「・・・・そうだと分かりやすいんだガ、生憎オレっちの知識にはそんなのは無いな。」

 

うーん、と首を捻らせ唸るアルゴ。

とはいえ、何の意味もなくこんなイベントを開催するとは思えない。

 

「あっ」

 

皆で頭を悩ましているとシリカが思い出したかのように声を出す。

 

「確か、今日って2月22日ですよね?」

 

「そうだナ。」

 

「アレですよ、《猫の日》ですよ。」

 

「は?」

 

「日本の《猫の日実行員会》が制定した猫の日が確か今日だったと思います。私、リアルで猫飼ってたんでちょっとだけ印象に残ってたんですよ。」

 

・・・・はぁ?

理解はできる、できるのだが・・・・この世界を作った茅場がそんな柄にもない事をするのだろうか?

 

「・・・・いや、可能性はあるゾ。」

 

「マジで?」

 

「アァ。この世界を管理している《カーディナルシステム》は世界中の民話や神話、いろんな情報をネットからかき集めて、自動的にイベントを作成する機能があるって雑誌で読んだことがあル。」

 

確かにこのSAOをずっと茅場が管理しているとは思えない。

こんな大事件を起こした張本人はどうせ逃げ回っているに違いない為、大きなサーバーを管理するのは難しいだろう。

柄でも無いイベントが開催される理由にもなる。

 

「・・・・じゃあ、ほっといてもこのイベントは終わるのか?」

 

「・・・・そこまではわからなイ。一生このままという可能性もあるナ。」

 

「にゃ!?それは困るにゃ!!」

 

最初に反応したのはアスニャンだった。

アスニャンの言い分はとてもよくわかる。

このままでは攻略に集中できない。主に俺が。

 

「んー・・・・実害は語尾くらいですが、みんながにゃーにゃー言ってたら攻略どころじゃないですね。」

 

特にボス攻略中ににゃーにゃー言われると確かに気が散る。

特に《血盟騎士団(KoB)》攻略担当のアスニャンは指示をするため激しくにゃーにゃー言うだろう。

俺もそうだが特に《風林火山》のおっさん連中、特にギルマスのクラインがギャーギャー騒ぎそうだ。うん、攻略できないな。

士気は上がりそうだが。

・・・・いや、ゴドフリーが居るのか。プラマイゼロどころかマイナスだな。

 

「私的にはこのままでも楽しいですけどね。」

 

「コロルは黙ってにゃ。」

 

「えー・・・・」

 

アスニャンからお叱りを受け、少し不貞腐れるコロル。

 

「・・・・とにかく、このSAOはフェアネスを貫いてる。解除不可能とかは無いと思う。」

 

「それはオイラも同意見サ。」

 

どこかにきっとヒントはあるはずだ。

今回の騒動を一から整理してみればきっと答えは出てくるはずだ。

思考を巡らせていると、俺はとあることを思い出す。

 

「・・・・待てよ?確か、最初のメッセージで何か言ってなかったか?」

 

「え?そんなこと言ってました?」

 

・・・・コロルに聞いた俺が悪いな。

俺は視線でアスナの方へと問いかける。

 

「あ、確かに変なこと言ってたにゃ。確か『今日は特に日向ぼっこ日和にゃ』たったかにゃ?」

 

「・・・・それだよ。シリカ、このアインクラッド で猫系モンスターが多くPOPする層ってあったか?」

 

「えーっと・・・・確か、22層のフィールドダンジョンでよく出てきたと思います。」

 

「・・・・確かあのフィールドダンジョンの奥に不自然に開けた安全地帯(セーフティゾーン)があったはずだ。」

 

「なるほど・・・・確かにあそこは日当たりが良くて心地いい場所でした。」

 

「アルゴ。どう思う?」

 

「・・・・怪しい、ナ。日付に合わせた22層、猫系統のモンスターがPOPするフィールドダンジョン。そして、メッセージに込められた日向ぼっこできる場所・・・・確信を持ってもいいかもナ。」

 

すると、アスニャンが突如立ち上がる。

そしてボス攻略時に見られるような真剣な表情で俺に言う。

 

「早く行くにゃ!!一刻も!早く!!」

 

「お、おう。」

 

アスニャン、近いです。

今のあなたは物凄く可愛いのであまり近寄られると困ります。惚れたらどうするんですか?

 

「善は急げ!にゃ!!!」

 

そう言ったアスニャンは俺の手を引き、店の外へと歩いていく。

 

あの、手を握られると、恥ずかしいし、ドキドキするので離して頂けませんか?

そんな思考を巡らせるがアスニャンには届くことはなく・・・・俺たちはアスニャンを先頭に22層へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まさかのネタ回が続きます。

だってこのままだと2万字は超えそうだったから・・・・。

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