斯くして比企谷八幡は仮想現実にて本物を見つける。   作:ぽっち。

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投稿遅くなってすみません。
社畜なもんで・・・・。


ネタ回はこれで終わりです。


第14話

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、第22層。

長閑な雰囲気が特徴的なこの層で俺たち《ハチと愉快な仲間たち》(アルゴ命名)はその光景とは反した険しい表情で駆け抜けていた。

 

突如始まった《猫化イベント》を終了させるべく、俺たちはこの層へと赴いたわけだ。

事前のヒントや考え得る限りの情報を繋ぎ合わせ、この層のフィールドダンジョン《陽だまりの森》へと向かっている。

 

このイベント、雪ノ下が居れば喜びそうだな・・・・。

アイツ、猫には目がなかったし。

 

そんな俺の懐かしさを感じる思考とは他所に先頭を走るアスニャン・・・・もといい、アスナは現れたモンスターを鋭い一撃で確実に葬っている。

慣れたのか、人が居ないからか、どちらかはわからないが先ほどまで被っていたポンチョは脱ぎ捨てたみたいだ。

 

この層のモンスターとなれば俺たち攻略組の手にかかればソードスキルを用いない攻撃でも、クリティカルを出せば一撃で倒せることはできる。

アスナの放つ一撃はこのアインクラッド で随一と言っても過言ではない精度だ。

その精度で確実にクリティカルを貫いている。

 

それにしても、この《猫化》にはステータス値をプラスにする効果があるようだ。

先程から猫耳をぴょこぴょこさせているアスニャンとコロニャンの俊敏性が同じ攻略組である俺たちより遥かに高い。

これが《猫化》の恩恵ですか。

 

この状態のまま攻略するというのも一つの手では無いのだろうか?

いや、俺の精神安定上それはマズイ。

 

と、そんな無駄な思考を巡らせているとついに俺たちは《陽だまりの森》へとたどり着いた。

 

22層の迷宮区手前にあるこのフィールドダンジョンの特徴といえば、猫系統のモンスターが数多くPOPするところだろう。

主な出現モンスターは《キャット・ソルジャー》。

見た目は長靴を履いた猫、と言った方が想像しやすいと思う。

二足歩行で長靴ではなく、素足だが素早さと細剣ソードスキルの鋭い連続攻撃が特徴的だが・・・・正直言って弱い。

素早い攻撃もかなり単調なもので、一定のアルゴリズムによって決められた行動しかしない。初見でもそれなりの戦闘経験を積んでいれば余裕で躱すことができる。

攻撃力も低く、例え当たっても致命的なダメージにはならないなど・・・・多くの理由で総合的に弱いと判断されている。

まぁ、この22層は攻略がしやすかった所謂、《ボーナス層》とも呼ばれているのでモンスターの弱さは強ち間違いでは無いだろう。

 

余談だが、この《キャット・ソルジャー》はお世辞でも俺は可愛いとは言いづらい。ブサ猫と言ってもいい顔つきで、不貞腐れてるような表情で攻撃してくる。

ただし、一部のプレイヤーからは何故か人気がある。

 

「ハチくん、その安全地帯(セーフティゾーン)の場所っておぼえてるにゃ?」

 

「それが曖昧なんだよ。この層の攻略速度早かっただろ?」

 

「私も微妙ですねー。シリカは覚えてない?」

 

俺とアスナの会話に反応したコロルは相変わらず《猫化》の状態を生かしたあざとさを感じさせつつ、話をシリカへと繋げる。

 

「んー・・・・ピナの餌を取りに何回かは来たけど・・・・いつも早めに切り上げてたから、微妙だなぁ。」

 

え?ピナって餌食うの?

そのことに驚きなんだが。

データの塊である畜生が飯を求めるとは・・・・けしからん。

俺だって養ってもらいたいが・・・・ピナは回復したり、ヘイトを集めたりと働いていたな。俺は働きたくない。やはり専業主夫は至高。

とはいえ、俺はピナからダメージを喰らった事しかないが。

 

「それにしても、本当にこんな中層にイベントボスが居るんですかね?」

 

そんな会話をしていると、コロルがふと思い出したかのように俺に話しかけてくる。

 

「中層プレイヤーが偶然、エンカウントしちゃったら危ないですよね?」

 

確かにその通りなのだが、俺は逆にそれはないと思っていた。

 

「大丈夫だろ。・・・・この層でレベリングする奴は中層プレイヤーにも居ないと思う。ここのモンスターは弱いからもらえる経験値も少ない。ここでレベリングするくらいなら、もう少し上層で狩りをした方が効率が良い。」

 

それにこのフィールドダンジョンに目ぼしいアイテムや装備が手に入ることはない。

それに大した経験値も貰えなければ、このフィールドダンジョンに足を踏み入れなければならないようなクエストも存在しない。

 

「まぁ、こんな所でイベントボスと鉢合わせるなんて奴は相当運がないだろうな。」

 

このフィールドダンジョンはこのイベントのために作られたのでは?と思うほどだ。

とはいえ、エンカウントしてしまうという可能性は少なからずある。

 

「中層プレイヤーがエンカウントしないようにさっさと私たちで狩っちゃいましょう!」

 

「そうだにゃ。ここには癒しを求めてくるプレイヤーも多いにゃ。」

 

突然やる気を見せるコロルだが、それを聞いたアスナもどうやらさらにやる気を出したようだ。

 

「とにかく、こんなクソイベントさっさと終わらせるにゃ!」

 

言葉が汚いですよ、アスニャン。

そんな気合を見せるアスナを横目に俺たちは朧げな記憶を頼りにダンジョンを進んでいく。

道中出てくるモンスターは邪魔されない為、確実に倒していく。

 

ちなみに今回の行軍にアルゴは付いてきていない。

攻略組と変わらないレベルとステータスを持ち、《猫化》の影響でただでさえ高い俊敏性が上がってはいるが、どうしても戦闘向きではないということで今回は待機ということになった。というか、本人がそう言い出した。

 

これまでの情報から考えると、イベントボスとの戦闘になる可能性が高い。

前回のイベントボスである《背教者ニコラス》もかなりの強さを持つボスだった。

無茶なレベリングでごり押しした俺が言える立場ではないが実力が不明な点が多いイベントボスとの交戦は攻略組の俺たちの方が、安全と言えるだろう。

 

今回のパーティは俺、アスナ、コロル、シリカの4人となっている。

前衛にこのパーティ1番のダメージディーラーであるアスナを先頭に、中衛にパリングと援護が得意な俺、後衛にはコンビネーションでの戦闘が得意なコロルとシリカという順番になっている。

 

ユニークスキル《無双剣》を使える俺が先頭に立っても良かったが、あのスキルはどうしても硬直時間(ディレイタイム)が長い。

いざという時に使用するとしたら先頭に立っていては使いづらいという判断からこの並びになった。

 

ちなみに俺のユニークスキルについてはあの現場にいたアルゴとコロルを除くと、パーティメンバーであるシリカとお願い(脅さ)れてつい口を滑らせてしまい、教えたアスナしか知らない。

 

アルゴに言いふらされることを俺は一番危惧したわけだが・・・・アルゴ曰く、『コルをシコタマ取れるネタだからナ。温存しといてやるヨ。』との事だ。

特に俺のことを考えて、と言うわけではないらしい。

流石というか・・・・商人根性がしっかりとしてると言える。

キリトはキリトで少し勘付いているようだが、それはお互い様だ。

俺の予想だとアイツも何か隠してるに違いない。プロぼっちの勘がそう言っている。

 

話が脱線してしまったのでここで一旦、情報の整理をしよう。

 

恐らく、この先に待ち構えているのはイベントボスで間違いはないだろう。

問題はそのボスの強さだ。

このSAOではフェアネスを貫いている為、現段階で倒せないようなボスが出てくるというのは不公平さがあるので考えられにくいが・・・・俺たちはたった4人のパーティ、1組だ。

フロアボス攻略のように複数のパーティで編成したレイドでなければ倒せない仕様ならばすぐ撤退することを念頭に戦闘を行わなければならない。

 

イベントボス戦での結晶無効化は今までなかったとはいえ、可能性としてみればゼロでは無いので・・・・脱出不可能となれば正直言って、このイベント攻略参加は些か不本意な部分がある。

少し不確定要素が多すぎる。

 

フロアボス攻略の為に命を懸けるというならば、多少の覚悟はできるが・・・・どこまでいっても今回はただのイベントだ。

支障は出てしまうが、一生このままでもアスナには我慢してもらわなければならない。

とはいえ、ゴドフリーやエギルのようにおっさんがにゃーにゃー言い続けるのは俺は不愉快な為、努力は惜しまない。

 

「あ、この辺だったと思います。」

 

見覚えがある場所に来たのか、シリカがそう言うと俺たちは一旦、立ち止まる。

俺の記憶には無いが、どうやらこの辺りに(くだん)安全地帯(セーフティゾーン)があるようだ。

 

「・・・・あ、あそこですよ。あの岩の横道に入れば確かその場所です。」

 

シリカがそう言って大きな岩の左側を指差す。

その先には獣道のように不自然に開けた小道が続いている。

 

「一応、転移結晶はポーチに入れとけ。俺が《識別スキル》で俺たちだけで戦闘可能か判断する。」

 

「「「了解(にゃ)!」」」

 

必要最低限の確認をし、俺たちはアスナを先頭にボスがいると思われる安全地帯(セーフティゾーン)へと足を踏み入れる。

 

ちなみに《識別スキル》とは敵対したモンスターの強さを知ることができるスキルだ。

ソロ行動が多いぼっちには必須のスキルといっても過言ではないだろう。

 

歩くこと数秒、エリア移動の際に起きるエフェクトの光がが俺たちの体を包み込み、視界が閉ざされる。

 

少し緊張する身体を動かすと、エフェクトが消えて視界がクリアになる。

 

『ニャハハハ!!よく俺様の居る場所が分かったにゃ!!』

 

安全地帯(セーフティゾーン)に入って、数秒後に野太く、大きな笑い声が俺たちの鼓膜を揺らす。

 

武器を構え、俺たちは緊張を高めて相手を見据える。

どうやら予想通り、イベントボスが出現していたようだ。

《索敵スキル》にはボスの反応しかない為、ここに初めて来たのは俺たちということになるだろう。

 

そこで俺はボスの姿を確認する。

安全地帯(セーフティゾーン)の中心に2、3メートルは下らない巨大な身体を持つ・・・・ライオンがそこに居た。

 

猫じゃねーのかよ。いや、ネコ科だけども。

 

『ニャハハハ!!俺様に挑んでくる愚かな人間共!覚悟するにゃー!』

 

そう偉そうに言ったライオンは戦闘態勢に入る。

それと同時に3本の体力ゲージが現れ、名前が表示される。

表示された名前は《Nemean Lion》、日本語訳でネメアの獅子といったところか。

てか、名前もライオンなのね。

 

「ハチくん、どうにゃ?」

 

「・・・・《識別スキル》だと何とかなりそうだが、この人数だとギリギリかもな。」

 

「撤退しますか?」

 

まだ仕掛けてこないボスを警戒しながらシリカはそう提案してくる。

 

「いや、ここは戦ってもいいだろう。アルゴも《月夜の黒猫団》に援軍要請を送ってたみたいだし、いざとなれば撤退もできるだろ。」

 

「よし!頑張るにゃ!!」

 

フンス、とやる気を見せるアスニャン。

その気合いに合わせて猫耳もピンと鋭く反応する。

 

「フォーメーションは事前に決めた通り、大きな隙があれば俺が《無双剣》を使うから使用後の硬直時間(ディレイタイム)のフォローを頼む。」

 

「了解です!」

 

「いくにゃぁ!!」

 

そして、前衛のアスナが駆け出しイベントボス戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦闘が始まり、10分そこらが経過した。

今のところイレギュラーは発生しておらず、順調にボスの体力を削ってもうすぐで残り半分といったところだ。

 

このボスの元ネタ、《Nemean Lion》は俺の知識が正しければギリシャ神話に登場するモンスターだろう。

双頭の猛犬オルトロスと、上半身は女性で下半身は蛇というエキドナの間に生まれたとされ、嫉妬の女神ヘラによって錯乱させられた英雄ヘラクレスが我が子を殺してしまい、贖罪をするために数々の試練に挑むという逸話がある。

その時の最初の試練がこのネメアの獅子を討伐、だったと思う。

 

そんなあまり関係のない思考を巡らせることができる、ということは今は余裕のあるボス攻略ができているのだろう。

とはいえ、油断はできない。

 

主な攻撃はその鋭い爪や牙での攻撃。

単調な攻撃だが、その一撃はかなり重たい。ただし、俺とは相性は良く、その大振りな攻撃はとてもパリィしやすい。しかし、その代わりと言うかの如く・・・・ボス自体はかなりの防御力を持っている。

 

体力ゲージが1本削った時に転倒したのでその隙に俺のユニークスキルである《無双剣》を繰り出したが、想像以上に削れなかった。

普通に攻撃している時も思ってはいたが、防御力に関しては第38層のフロアボスである、巨大な亀を連想させられる。

 

「スイッチにゃ!!」

 

「――――っ!」

 

アスナの可愛らしいかけ声と同時に俺は駆け出す。

ソードスキルのクリティカルにより仰け反った身体の懐に入り込み、《クイック・チェンジ》を使って両手斧へ持ち替える。

 

このボスは隙が多くはない為、一撃の威力が高い両手斧へ変えたのだ。

俺が繰り出したのは両手斧3連撃ソードスキル《ラウンドトリプル・スラッシュ》。

力任せの3連撃で防御力による抵抗力を感じさせない強い攻撃を与える。

 

俺が振り抜いたと同時にボスの仰け反りが解除されたので素早くウィンドウを操作し、パリングのしやすい片手剣に《クイック・チェンジ》する。

 

迫り来る鋭い爪をベストなタイミングでパリィする。

 

「――――っく!」

 

激しく俺の片手剣が火花のライトエフェクトを撒き散らす。

 

流石はイベントボスといったところか、その辺りで出現するモンスターとは桁違いに攻撃が重い。

普通のプレイヤーならパリィしきれず弾かれてしまうかもしれないが俺のパリングスキルで何とかパリィに成功する。

 

「スイッ、チ!!」

 

息を無理に飲み込み、合図を送る。爪を弾ききった所で攻略組随一のコンビネーションを持つ後輩組が俺の前に飛び込む。

 

先にシリカが短剣8連撃ソードスキル《アクセル・レイド》を放つ。

《アクセル・レイド》は前進しながらの高速連撃だ。踏み込みが大きく、若干の隙があるが完璧なタイミングで入り込んだので余裕があるだろう。

 

シリカが攻撃し終わり、入れ替わるように後ろからコロルが両手槍突進ソードスキル《フェイタル・スラスト》を撃ち込む。

このスキルは突進系統スキルの中で最強の部類に入るソードスキル。

猛烈なダッシュから鋭い一撃を放つのだが、シンプル故に強い。

幸運値に左右されてしまうが、多段ヒットすることもある有能スキルだ。

 

今回は上手くいったようで3回の多段ダメージをボスに与えることができた。

 

「にゃあああああ!!」

 

間髪入れずにアスナが光のようなスピードでコロルとスイッチする。

その素早さは《猫化》の影響もあるのか、異名の通りまさに《閃光》を連想させる一撃だ。

にしてもかけ声までにゃーにゃー言ってるので絶妙に俺の集中力を削ってくる。

 

「アスナ!無理するな!一度下がって回復しとけ!」

 

少しアスナに焦りを感じる。

よっぽど《猫化》を解除したいのだろう。

とはいえ、俺の一言で少し我に返ったようで相手の攻撃を打ち消した所で俺とスイッチする。

 

この十数分間、俺も気を抜かずに戦い続けているので少し疲労を感じている。

 

『ニャハハハ!やるなぁ!人間ども!!』

 

「うる、せぇ。」

 

このボスのうざい所はなぜか度々、話しかけてくる所だ。

しかも、一々声がでかい。

 

アスナが回復をしている間は俺が前線を維持しなければならない。

かなりの集中力が必要で、話しかけられるとイラッときてしまう。

 

振りかざされる攻撃を随時パリィしていく。

それにしても一撃一撃が重い。

これが仮想世界じゃなかったら今頃俺の腕は引きちぎれているだろう。

 

とにかく、長期戦は不利になる可能性が高い。

人数の少ないこの攻略だと一瞬の隙が命取りになってしまう。

討伐に時間はかかってしまうが、今は回避とパリィに集中だ。

 

襲いくる攻撃は単調だが、やはり攻撃力がある。

左からくる鋭い爪をパリィ、今までの行動から予測して次に来るのは3連撃の右のなぎ払い、左のなぎ払い、そして噛み付き攻撃。

右からの攻撃をまず最初に必要最低限の動きで回避。

残り数フレームの距離を鋭い爪が横切る。

若干冷や汗を垂らしながら、左のなぎ払い攻撃をパリィする。

 

「――――っく!」

 

弾き飛ばされそうになる身体を必死に押さえ込み、なんとかパリィする。

最後の攻撃、噛み付きが迫り来る。

この攻撃はどう頑張ってもパリングできる代物ではない。

だって挟まっちゃうもん。

 

そんなことを言っている場合ではないが、俺には秘策がある。

俺は真正面から迫り来る顎門に向け、剣を振り下ろす。

もちろん、こんな攻撃で止まるような攻撃とは思ってもいない。

俺は振り下ろした刃を上顎に突き刺し、それを支点に持てる筋力値を最大限に発揮した大ジャンプをする。

ぐるりと回る視界、宙に浮く身体を捻り、顎門が閉じ切るまで回避したのだ。

 

ガチンッ!と大きな音を立てて、顎門か閉じたのを確認した俺は剣を引き抜き、顎を蹴って後方へ下がる。

 

「ふぅ・・・・」

 

激しい攻防をしたため、上手くいったことに安堵の息を漏らす。

ぶっつけ本番でやった回避技だったが綺麗に決まったので良かった。

 

「ハチさんってたまに人外みたいな動きしますよね。」

 

「誰が人外だ。俺はキリトやヒースクリフみたいな化け物じゃねぇ。」

 

シリカが俺の動きを見て軽く毒を吐いたところで回復を終えたアスナが俺の交代で入っていく。

コロルはその様子を見て、素早く援護に入っていった。

HPは3分の1ほど削れているのにも関わらず、ピナは相変わらず回復してくれようとはしないので俺はポーチをからPOTを取り出して口の中へと流し込む。

ジンワリと不味い苦味が口内に広がるが、最近は嫌悪感を感じずに飲むことができるようになった。慣れというのは恐ろしいものだ。

徐々にHPが回復していくのを横目に戦況を確認する。

 

現在のボスのHPゲージは2本目の3分の1、と言ったところか。

俺が回復している間にアスナとコロルの攻撃で最後の3本目に突入するだろう。

 

「3本目に入ったら行動パターンに変化はあると思いますか?」

 

「あるだろうな。今までの攻撃は単調すぎる。致命的なダメージになるのがあの噛み付き攻撃だけってのは腑に落ちない。」

 

「んー・・・・ボスって言うには少し弱いって私は思っちゃったんですよね。・・・・少し、嫌な予感がします。」

 

不安げな表情を浮かべるシリカ。

彼女の言う通り、俺にも嫌な予感はする。

あまりにも不自然な攻略難易度は罠を連想させる。

だが、そればかり気にしていてはこのボスを倒すための時間がかかり、俺たちの精神的な負担が大きくなって難易度はただ上がっていくだけ・・・・。

少し板挟みな状況になりつつあるが、HPは半分まで削れている時に事件は起きる。

 

「ハチくん!最後の1本にゃ!」

 

俺が回復している間にアスナとコロルは怒涛の攻撃を仕掛けていたようでアスナの得意技である《リニアー》が炸裂した所で3本目のHPに突入する。

 

アスナの《リニアー》によるノックバックでボスが後方に下がった所で俺たちは隊列を戻す。

 

『ニャハハハ・・・・やるにゃぁ、人間共・・・・。』

 

今までなかった会話パターンだ。

喋るボス、というのは今までなかったがある程度のゲームをしていればこれがアルゴリズムの変化の合図というのは分かるだろう。

 

『オマエらに、俺様の本気を見せてやるにゃ・・・・!!』

 

するとボスは大きく息を吸い込む動作をする。

 

「――――っ!?回避っ!」

 

俺が大きくそう叫び、その声に反応したアスナ、コロル、シリカはボスの直線上から回避を試みる。

ボスの動作は止まることはなく、大きく吸った息を吐き出すように口を開けた刹那――――ドンッという轟音と共に視界が白く染まる。

 

「――――にゃあっ!?」

 

素で驚いたコロルが猫語を放ちながら驚愕の声を上げる。

閃光が俺たちの視界を奪ってコンマ数秒後に今まで経験したことのない衝撃波が襲いかかる。

 

「――――っ!」

 

近くにいたシリカの反応が遅れていたのを確認した俺は咄嗟にシリカを抱きかかえて持てる筋力値の全てを使い、攻撃範囲であろう場所から退避する。

 

数秒後、何とか崩れかけた思考回路を取り戻し、倒れ込んだまま辺りを見渡す。

 

「・・・・マジかよ。」

 

今の俺は驚愕、という言葉を表現した表情をしているだろう。

普通は壊されることができないオブジェクトである木々や抉られ、地面は赤く染め上がり高温であると分かりやすく表現されている。

この一撃を喰らってしまっていたら攻略組とはいえど確実にHPは消し飛んで死んでしまうだろう。

 

「シリカ!せんぱい!大丈夫ですか!?」

 

「あ、あぁ。」

 

俺たちとは反対側に回避したアスナとコロルが心配をしてこちらに走り寄ってくる。

俺たちに近づいたアスナはカチンと表情を固め、何やら恐ろしい笑顔で俺を見つめる。

 

「――――ハチくん?こんな時にそれはないかな?」

 

「え?」

 

ふと、俺は地面の方を向いてみると正面には顔を真っ赤に染め上げ、口をパクパクさせているシリカの姿があった。

距離も近いためか、女子特有の少しだけ甘い香りと柔らかそうな健康的で白い肌が確認できた。

俺は自分のしでかしたことに顔を真っ赤に染める。

 

「いや、これは、アレだよ、アレ。シリカが危なかったから助けただけだよ。」

 

「は、は、ハチさん?まだ早いっていいますか、もうちょっと場所とか雰囲気がある場所が良いって言いますか・・・・。」

 

何を言っているんでしょうか?会話が成立してませんよシリカさん?

あとピナは敵Mobを発見した時の鳴き声をしながら頭を齧らないでくれ。さっきから徐々にHPが減ってるんですよ。

 

と、少し現実逃避をしてしまったが今はそれどころではない。

俺は可愛らしい表情を浮かべるシリカを見ていたいと思う気持ちをグッと押さえ込み、素早く立ち上がる。

 

「あっ・・・・」

 

残念そうな表情とか浮かべなくても大丈夫ですからね。

俺を黒鉄宮に送れなかったことはそんなに残念ですか?

 

「ハチくんって・・・・本当に、ハチくんだよね。」

 

「・・・・どういう事だよ。意味が分からんぞ。」

 

あとアスナさん?ちょっと怖いですよ?

先程まで付けてた語尾はどこに言ったんでしょうか?

 

「むぅ・・・・シリカずるいよ。あ、せんぱい!私も押し倒してくれて良いんですよ!」

 

「絶対に嫌だ。」

 

どうせ既成事実を作って俺を黒鉄宮に送るんだろこの腹黒JK。

 

閑話休題

 

今は本当にこんな会話をしている場合ではない。

先程、ボスが放ったブレスはここ最近のボス攻略ですら見ることのなかった化物じみた一撃だった。

 

恐らくだが攻略組で最高位クラスのタンク職の奴らですら一撃で葬られてしまうレベルの代物だ。

そもそも、モンスターの攻撃で破壊不可能オブジェクトが破壊された時点でかなりやばい。

破壊不可能じゃなかったのかよ、努力して耐えろよ。諦めるなよ。

 

と言ったものの、あのブレスにはそういった演出をする機能もある、と考えるのが普通なのだろうがそれを押さえつけてほど俺に十分な恐怖を与えた。

 

「どうします?あのブレスは流石にヤバめですよ。」

 

「確かに・・・・ヤバイ。だが、流石にあの威力のものをノータイムで撃つのは理不尽すぎるからそこは無いと思って良いだろう。」

 

「アレだけの予備動作があれば意識すれば回避は余裕だにゃ。・・・・とはいえ、攻略が難しくなるにゃ。」

 

何時の間にか猫語に戻ったアスナだが、ツッコミを入れている場合ではない。

 

「――――ハチさん!2発目来ます!!」

 

シリカが言い放つ通り、ボスはまたあの予備動作を開始している。

2発目となれば案外冷静に対処できるもので俺たちは回避行動に徹する。

今度は余裕があったからか、過剰だと思うが距離を多くとって回避ができた。少し遠目で見ればブレスの威力は想像以上の物だと実感できる。

それらの事実を確認したところで判断を下さなければならない。

 

「・・・・討伐は続行すべきだな。」

 

「理由を聞いても良いですか?」

 

俺の判断にシリカは若干の戸惑いを見せた。

このボスの攻撃はイベントボスの攻撃にしては些か強すぎる。

フロアボスでもないコイツを無理に討伐するのは労力と時間の無駄遣いと言っても良いかもしれない。

 

「ここまで追い詰めた、情報も得た。ってのはデカイが・・・・コイツをここで放置すれば下手したら死人が出る。こんなクソイベでそれはあってはならない事だ。」

 

ここは中層プレイヤーが多く居る層。

攻略組である俺たちが危機感を覚えるボスを放置していてはどこかで被害者が出てくる。

警告をしても聞いていなかったプレイヤーが立ち入ってしまう可能性は低くはない。

今日1日で終わるイベントである確証もない。

 

「そんな見ず知らずの奴を助けようなんて高尚な気持ちは生憎持ち合わせてはないが・・・・後味は悪いだろ。」

 

「・・・・ふふっ、ハチくんは本当にハチくんだにゃ。」

 

「そうですね。せんぱいらしい言い訳です。」

 

「ハチさんの、そういうところは私たちは好きですよ。」

 

「・・・・勝手に言っとけ。」

 

好き勝手に言われてなんだかモヤモヤした気持ちが出てくるがそれを抑え込み、なんとか剣を構える。

視線の先には残り1本までHPを減らしたボスの姿。

注意すべき攻撃はあのブレス、回避が難しい噛みつき攻撃といった所だろう。

 

「最初はアイツの行動パターンの変化を観察しつつ、隙あれば攻撃のヒットアンドウェイに徹するぞ。残りHPが7割を切ったところでさっきと同じような隊列で攻撃する。んじゃあ・・・・――――行くぞ。」

 

「「「了解(にゃ)!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦闘を再開して、15分弱が経過した頃。

作戦通りに事は進んでいき、俺たちはある程度の余裕を持ってボスとの戦闘を行えていた。

ボスの行動パターンの変化はそれほど大きく変わったわけではなく、安定した戦闘ができていたと言っても良いだろ。

とはいえ、油断をしていたら足元をすくわれてしまうので警戒は怠らない。

 

「アスナ!左からの振り下ろしの後にスイッチ!」

 

「了解にゃ!」

 

大振りの左からの振り下ろし攻撃をアスナは余裕を持って回避、その後にソードスキルで攻撃を与えた後俺とスイッチをして入れ替わる。

 

ボスのHPは残り2割・・・・ここで決める。

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

俺は剣にライトエフェクトを纏わせ、ユニークスキル《無双剣》を発動させる。

この《無双剣》は特定のソードスキルはないが、全ての攻撃がソードスキルとしての判定になる。

そして、走りながらの発動をすれば初撃を《突進系》のソードスキルにできる所だ。

再現するのは片手剣突撃ソードスキル《レイジ・スパイク》。

猛スピードでボスの懐に入り込み、斬りつける。

普通なら硬直時間(ディレイタイム)が俺を襲ってくるがこの《無双剣》はその呪縛から解放してくれる。

俺は振り抜いた剣をそのままの勢いで横へとなぎ払いする。

ボスは抵抗のためか、予想していたルートを辿って攻撃を仕掛けてくる。

それを数フレームのところで回避しながら残り3連撃を喰らわせる。

片手剣4連撃ソードスキル《ホリゾンタル・スクエア》だ。

体に染みつかせたこの動きは抵抗を感じさせる事なく、ボスの身体を引き裂く。

 

――――残り10秒。

 

《無双剣》の熟練度は上げるのが難しいため、未だに使用制限は20秒と正直言って心許ないが・・・・それでも強い。

 

俺は自分が持てる最大限の連鎖攻撃を仕掛ける。

《シャープ・ネイル》に《ホリゾンタル・アーク》、最近覚えた《ハウリング・オクターブ》を喰らわせる。

 

多段ダメージが入ったからか、ボスは仰け反って隙を見せる。

そのタイミングはまさにベストと言えるだろう。

 

「スイッチ!!」

 

俺の《無双剣》の効果時間が切れ、長い30秒の硬直時間(ディレイタイム)が襲ってきたところで素早く後衛のコロルとシリカが俺の前に駆け出る。

 

2人のコンビネーションによる激しい剣戟が繰り広げられる。

息のあった2人の連撃は俺の《無双剣》も凌ぐ。

シリカの短剣4連撃ソードスキル《ファッド・エッジ》が決まったところで阿吽の呼吸でコロルが入れ替わり、両手槍3連撃ソードスキル《トリプル・スラスト》を放つ。

コロルの両手槍もかなりの練度のため、全てクリィティカルの判定を叩き出す。

この完璧な一連の攻撃にとどめを刺すのは俺たちのパーティで最強のダメージディーラーであるアスナがコロルたちの前へと出てくる。

 

「にゃあああああっ!!!」

 

放たれるのは細剣8連撃ソードスキル《スター・スプラッシュ》。

誰もが感心してしまうようなその攻撃はまさに《閃光》の呼び名が相応しいと思うほどの美しさを感じさせられる。

 

そして、ボスの残り少ないHPはアスナの攻撃により消しとばされてしまう。

 

『この、俺様を倒すとは・・・・覚えてろ、よ・・・・人間・・・・!この、恨みは必ず晴らす・・・・にゃ・・・』

 

そう言い残してボスは光のカケラとなり、砕け散る。

・・・・少しヒヤッとする場面もあったが、なんとか倒せたな。

全員で安堵の息を吐いたところで俺の視界にクエストクリアのウィンドウが表示される。

1パーティーで攻略したためか、かなり美味しい経験値とコルが入ってくる。

 

「あっ!」

 

コロルの驚くような声を聞き、そちらへと視線を向ける。

すると、先程まで付いていた猫耳と尻尾が光の粒子となって消えていく。

 

「どうやら、イベントクリアしたみたいだな・・・・。」

 

「そうですね。アスナさんの方は・・・・」

 

《猫化》を最も解除したかったであろうアスナの方へシリカと共に視線を向ける。

しかし、アスナはプルプルと震えているだけで《猫化》は解除されていない。

あれ?アスニャンのままなの?

 

「――――にゃんにゃのよ!!?これぇぇぇ!!!?」

 

アスナがそう叫ぶので、俺たちは驚いてアスナへと駆け寄る。

なんとも言えない絶望した表情を浮かべるアスナの前に表示されたウィンドウを俺たちはチラリと覗く。

 

「・・・・ドンマイ、アスニャン。」

 

「あー・・・・まぁレアアイテムですよ?よかった、ですね?」

 

「えー、私もそれ欲しかったなぁ。」

 

各々、当事者ではない俺たちは好き勝手な感想を言ってアスナの肩を叩いた。

アスナの手に入れたアイテムはLAで手に入る、ある意味でのレアアイテム。

 

『猫耳カチューシャ』

 

装備したら俊敏性が+30という壊れ性能だが・・・・装備したら《猫化》する上に1週間の装備解除は不可という俺的にはオイシイ・・・・ではなく、アスナにとっては一種の呪いのアイテムとなっている仕様だった。

そして、LAとして手に入れた瞬間に何故か強制的(・・・)に装備させてくるという・・・・本当に呪いのアイテムだな。

 

うん、ドンマイ。

 

こうして、俺たちの変なイベント攻略は幕を閉じたのであった。

 

「あんまりにゃぁぁぁぁあ!!」

 

アスニャンの苦労は終わらない。

 

 

 

 

 

 




書き終わって文字数確認したところ、ネタ回で前回と合わせて2万文字・・・・わぁお

書くのは楽しかったです。
ちなみに今回のネタはアンソロジーコミックスの方からインスピレーションを受け、作成しました笑

ネタ回を書くときにはアンソロジーコミックスは有能。

さて、今後の活動の方なんですが仕事の方が繁忙期に差し掛かったので投稿頻度は今よりもガクンと落ちると思います。
死なないように働きます。
私のことが嫌いになっても作品は嫌いにならないでください泣

次回からは普通に原作に戻るかな?

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