斯くして比企谷八幡は仮想現実にて本物を見つける。   作:ぽっち。

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投稿1日も経ってないのに1000UAを超えたのでちょっと予定変更で投稿させてもらいます。

嬉しくて調子乗っちゃった結果ですね、はい。






第2話

 

 

 

 

あの後、小町はすぐさまに警察と消防に連絡を取った。

案の定、お兄ちゃんはSAOをプレイしており・・・・いつ死ぬか、分からない状況だった。

 

両親にはすぐに連絡をしたがすぐに駆けつけてくれることが決まったが、どうしても来るのに時間がかかるとのことだ。

不安定な心情とは裏腹にことの次第はぐるぐると回っていく。

お兄ちゃんは救急隊により、近くの総合病院まで搬送されることになり、家には・・・・小町1人だ。

 

「・・・・お兄ちゃんの、嘘つき。」

 

別に口約束したわけではない。

しかし、お兄ちゃんは小町が家にいるときは極力家に居るようにしてくれていた。

本人は『ぼっちは外に遊びに行くことなんてないんだよ。家が1番リラックスできる所だ。だから、別に小町のためなんかじゃない。』と言っていた。

 

家に帰るといつも1人なのが寂しかった小町に対して、お兄ちゃんは兄として、最大限の愛情で接してくれていた。

当たり前だと思っていた日常が・・・・壊れていく。

 

先ほどまで寝ていたお兄ちゃんはそこには居らず、小町はベットに腰かけた。

 

枕元には最新式とまではいかないが、利用頻度の低いスマートフォン型の携帯電話。

お兄ちゃんの携帯だ。

 

「・・・・ふふ。」

 

自然と笑みがこぼれてしまった。

こんな状況でも、電話の一つも鳴らないのが少し可笑しかったからかもしれない。

何も考えず、手にして開いた携帯は生意気にもロックがかかっていたが・・・・案の定、私の誕生日が暗証番号になっていた。

防犯意識は皆無だ。

 

こんな事件に巻き込まれれば、普通なら様々な人からのメールやメッセージ、電話で履歴が埋まるはずなのだが、そこには小町がした電話しか履歴に残っていない。

すると、突如電子音が鳴り響く。

同時にバイブレーションも起動してしまい、思わず驚いて携帯を放り捨ててしまった。

画面に表示されている名前は『☆♡☆♡ゆい☆♡☆♡』と表示されている。

 

え?なにこれスパム?出会い系?

・・・・お兄ちゃん、ついにそんなものにまで手を出したの?

 

普段から残念な兄だったことは認めるが、流石に出会い系の様なものにまで手を出しているとは思ってもいなかった。

と、そんな兄に対して若干の失望感を感じているところで気がつく。

 

あ、これ多分、結衣さんだ。

 

お兄ちゃんのことだから、連絡先を交換しようと言われたが・・・・残念ながらそんな機能を使ったことがないから携帯ごと結衣さんに渡したのであろう。

・・・・相変わらず残念なお兄ちゃんだが、逆にそういうところがお兄ちゃんらしいとも言える。

 

小町はそっと携帯を取り、電話に出ることにした。

 

『あ、やっと出た!やっはろー、ヒッキー!ちょっと気になることがあって・・・・ん?もしもし?』

 

出た瞬間、結衣さんは若干安堵した様に会話を始めていた。

多分、お兄ちゃんがやっていたゲームについて少なからず知っていて心配になって電話してきたのだろう。

 

それにしても困った。

この人、いやこの人たちには伝えなければならないことだ。

でも、それでも、伝えるのが怖い自分が声を震わせる。

 

「結衣さん・・・・。」

 

『ふぇ!?小町ちゃん!?なんでヒッキーの電話に・・・・何か、あったの?』

 

小町が放った言葉はたった一言だったが、相手の表情を読んだり、空気を読むことに長けた結衣さんは電話越しとしてもすぐに察しがついてしまった様だ。

 

バレることはわかりきっていた。

だから、せめて周りに心配をかけない様にいつもの小町を演じて・・・・――――

 

「――――おにいちゃんが・・・・お兄ちゃんが・・・・!!」

 

我慢することが出来なかった。

冷静を偽ってた小町の精神は限界を迎えたのだ。

 

よく、ドラマや小説などで言われている『失ってから初めて気付く』なんて言われているがまさにその通りだ。

 

私は今、兄がどれだけ自分の中で大きかったか自覚することができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本当に俺は何をしているんだろうか。

 

茅場晶彦によるSAOの正式チュートリアルが終わり、未だに中央の広場では阿鼻叫喚の地獄が広がっている。

そんな時、後ろに座り込んでしまった1人のプレイヤーの手を無意識のうちに掴んで喧騒の中を走り回っていた。

 

善意?庇護欲?

俺の中にそんな感情があるとは到底思えなかったが、無意識のうちにやってしまったので仕方がないとも言える。

 

人混みを押しのけ、やっとのことで人気のない場所まで出て来れた。

あれ?なんだか、俺がヤバいことしてるように見える。

 

「はぁ・・・・はぁ・・・・大丈夫、か?」

 

仮想現実の中で肉体的疲労はないのに息が上がる、というのは不思議なものだが・・・・自分でも気づかないほど精神的にきているのだろう。

 

「は、はい・・・・。」

 

「あー・・・・無理に引っ張って悪かった。し、下心とか、そういうわけではなくて・・・・。」

 

視線を逸らしながらしどろもどろに即興で思いついた言い訳を並べようとするが、うまく思考が回らずモゴモゴと口を動かす。

 

いつもなら饒舌な俺も現実を目の当たりにして動揺しているようだ。

・・・・いや、いつも饒舌ではないな。

 

「・・・・気にしなくていいです。助けて、くれたんだよね?」

 

よく見てみると彼女はとても綺麗だった。

栗色の髪の毛に整った顔立ち。

奉仕部部長の完璧超人、雪ノ下雪乃にも劣らない人だ。

そんな美人を引っ張ってここまでやってくるとか、俺も成長したものだ。

いや、本当にこの行動力を現実世界でも実践できればね。

したところで由比ヶ浜あたりに『ヒッキーキモい』とか言われるんだろうか?

・・・・ここでは現実世界のことはあまり考えないようにしよう。

 

「あー・・・・迷惑だと思ったんなら、悪かった。」

 

「いや・・・・どうすればいいか、分からなかったから・・・・助かりました。ありがとうございます。」

 

そう言って少女はペコリと頭を下げた。

 

「あー・・・・アレだよ。リアルで困ってる人を助けるボランティア部みたいなのしてるから、癖みたいなもんだ。お礼を言われるようなことは、してない。」

 

奉仕部の理念は『飢えてる人に魚を与えるのではなく、魚の捕り方を教える』なので少し俺の言い訳には語弊があるが、関係ないことを言うのは話をややこしくするだけだ。

 

一通りの会話を済ませたところで彼女はスッと自分の手を差し出した。

 

「とりあえず、自己紹介しましょう?」

 

・・・・柄じゃないんだけど。

ぼっちは自己紹介とかが1番嫌いなんだよ。

自己紹介したって結局名前なんて覚えてもらえねぇし、こっちだけ一方的に覚えて、話しかけたら『え?誰?』みたいな表情するに決まってる。ソースは俺。

 

しかし、ここで無視するのもおかしい話だ。

俺は差し出された手を握り返す。

 

「・・・・《Hachi》だ。よろしく。」

 

ハチとは俺のプレイヤーネームだ。

自分で考えた名前を堂々と言うと若干の羞恥心が俺を襲ってくるがここは本名を言う場面ではないと良識ある判断を俺はする。

 

最初は凝った名前にしようかと思って、『エイト』とか『ハチ公』とかしようと思ったが、残念ながら使用済みと言われた。

ハチは大丈夫でハチ公はダメってみんな上野にいるあのワンコが大好きなんだな。

 

「・・・・分かった、ハチくんね。私は、結城明日奈です。」

 

「お、おい!バカ!リアルネームを言うな!」

 

「え?」

 

何かおかしいの?みたいな感じで首をかしげるな。

こいつ・・・・一色に劣らずあざとい。

いや、一色が《非天然》に対して彼女は《天然》と言えるだろう。

アザと可愛いから。惚れちゃうでしょうが。

惚れちゃって告白して振られるまで一瞬で見えたよ。って振られちゃうのかよ。

 

「はぁ・・・・まさか、ネットゲームはこれが初めてか?」

 

「う、うん。・・・・なにかダメだった?」

 

ネットではリアルネームを出さない。

これはマナーと言うよりかは自己防衛のためだ。

世の中には名前一つで住所まで特定することができる暇人がゴロゴロといる。

 

「ネットリテラシーってやつだよ。・・・・リアル情報が漏れれば、何かと面倒になる。プレイヤーネームはなんだ?」

 

ネットリテラシーには様々な意味合いが含まれているが、確か自己防衛という意味合いもあったはずだ。

 

「そうなのね・・・・。分かったよ。えーっとプレイヤーネームはアスナよ。」

 

「・・・・結局、リアルネームなのかよ。」

 

少し呆れた表情で軽く俺はため息を吐いた。

 

「だ、だって!そんなにやり込むつもりは無かったゲームだったし・・・・たまたま、興味本位でお兄ちゃんにやらせてもらったゲームだから・・・・。」

 

徐々にアスナは表情を暗くしていく。

俺みたいに自ら待ち望んでプレイした訳ではなく、アスナは偶然にも、今日プレイしてしまったのだ。

 

「そうか・・・・。俺は比企谷八幡だ。これでお互いリアルネームを知ってるから、フェアだ。」

 

「・・・・なんか、ごめんね?」

 

「謝るな。俺も初心者かどうか確認してから名前を聞けばよかった。お互い様だ。」

 

とりあえず、一息ついて俺はアスナに問う。

 

「まず、俺たちができることは2つある。」

 

「うん。」

 

彼女も真剣な表情になり、軽く頷いた。

 

「まず、一つ目。現実世界からの救助もしくは、このゲームが攻略するまで安全圏内で待つ。」

 

この案のメリットはなにより『安全』というところだ。

街などの圏内であれば、モンスターに襲われることもなければ他のプレイヤーからの攻撃も効かない。

 

そして現実世界の俺たちは寝ているわけで、別に無理してご飯を食べなくても点滴か何かで栄養補給はしてくれるはずだ。

しかし、この世界には何故か飢餓感があり食べなければこれを解消することはなできない。

 

それは我慢してもいいが、第1層の《始まりの街》には安全に稼げる、お使いクエストなどもあるため無理に戦闘する必要はない。

 

しかし、デメリットもある。

現実世界からの救助が皆無というところだ。

こんな大それた計画を実行に移した天才、茅場晶彦が簡単に救助をさせてくれるとは思えない。

ここまでのことをした人間だ。ありとあらゆる想定をして対策をしているに決まっている。

 

そして、攻略するまでの時間は最低でも2年以上かかる計算。

精神的なダメージがとても大きい。

 

「二つ目、このゲームを攻略する。」

 

メリットとしては早く帰還することが出来る、のみだ。

それだけのメリットにも関わらず、これはとても危険な案だ。

まさに命をかけた戦闘など多々あるだろう。

 

この世界での死は現実世界の死と同意義。

しかし、攻略をしなければこの地獄からは解放されることはない。

 

デメリットしかないように見えるが、誰かがやらなければならないことだ。

 

「どうする?」

 

「ハチくんは・・・・どうするの?」

 

「俺は・・・・――――」

 

思考を回す。

今までの俺だったら攻略なんか他の奴に任せて安全圏内でじっと待つだろう。

だが、俺は・・・・。

 

「――――俺は、攻略する。」

 

待たせてる人がいる。会わなきゃならない奴らが居る。

俺は1秒でも早く、この世界から抜け出さなければならないのだ。

 

「現実からの救助はさっきも言った通り、絶望的だと思う。それなら・・・・1秒でも早く攻略するしかない。それなら、動けるやつは動いた方がいい。」

 

「・・・・私は、怖いよ。」

 

至極当たり前の感情がアスナから溢れ出てくるのがわかった。

戦うということは死ぬかもしれない。

このSAOはゲームであって、ゲームではないのだ。

死ぬのが怖くない人間なんて居ない。

居るとしたら、そいつはきっと人間をやめてしまっている。

 

「無理はするな。・・・・最後の選別だ。これをやる。」

 

「ん・・・・?なにこれ?」

 

俺はアイテムウィンドを開き、一つのアイテムをアスナに渡す。

アスナがそれを実体化させるとアスナの頭上にフード付きのポンチョが落ちてくる。

先程モンスタードロップで手に入れたアイテムだ。

売っても数コルにしかならないので譲っても問題にはならない。

 

「・・・・SAOは男女比かなり偏ってる。少なくともそれを被っとけば絡まれることは少ないだろ。」

 

SAOは圧倒的に男のプレイヤーが多い。

女性プレイヤーなんてほぼ皆無と言ってもいいだろう。

 

アスナは雪ノ下に貼るほどの美人だ。

くだらない思考回路を持ったプレイヤーが近づいてきてもおかしくない。

 

「じゃあ、俺は行くぞ。」

 

現実問題、生き残るためには出来る限り早く動いた方が良い。

SAO内のリソースは配分は有限であり、メンテ不要の自立式のAIによって管理されているとどこかの雑誌で読んだことがある。

 

このスタート時点で生き残りの戦いは始まっている。

 

俺はアスナに背を向けて、そう言い放って足を進めた。

 

この先のモンスターポップの場所などはβテスト版での記憶を頼りに行かなければならない。

・・・・でも、知識があると言って慢心しすぎてはダメだ。

俺が持っている知識はあくまでβ版の内容。

製品版にするにあたって変更された点は何箇所かあるだろう。

 

頭の隅でそんなことを考えていると自分の袖をクイッと引っ張られる感覚に動きを止めてしまう。

ゆっくり振り向くとそこには涙目を浮かべているアスナの姿があった。

 

「・・・・どうした?」

 

「あ・・・・えっと・・・・」

 

しどろもどろになり、軽く口をパクパクさせているアスナ。

はいはい、可愛いですよ。

そんな考えが頭をよぎったことにより若干の頬が赤面する。

 

「・・・・連れて行って、ほしいなって。」

 

「ダメだ。」

 

「え!?即答!?」

 

「理由はちゃんとある。・・・・俺はベータテスターだけど、正直言って戦闘に自信はない。弱いと言ってもいいと思う。更にここから先のモンスターポップとかイベントとかも曖昧な記憶が多い。正しい選択ができるか分からない。そんな危険な綱渡りは俺1人で十分だ。だから、ダメだ。」

 

俺に人一人分の命を背負える甲斐性、度胸なんてない。

更に俺の言ったことは何一つ間違ってない、真実だ。

 

「・・・・でも、右も左も分からないの。」

 

「命を他人に握らせる気か?・・・・この世界では守ってくれる人なんて居ないぞ。」

 

ゲームならロールプレイの一環でそんな行動くらい出来てしまうかも知れない。

でも、ここは仮想でありながら現実だ。

命の残量が表示され、システムにアシストされた現実なんだ。

 

「でも・・・・。」

 

アスナは今、何かに縋りたいのだろう。

死が間近にある、こんな現実で頼れる人が居ない、情報も欠如しており、助けてくれる人は・・・・居るか分からない。

 

「俺は、他人の人生を預けられるほどできた人間じゃない。・・・・でも、近くにいる奴くらいは助けるくらいはできる。」

 

俺はアスナのような完全な初心者と言うわけではない。

レベルももうすぐ上がるだろうし、他のプレイヤー比べれば差は付いているはず。

戦闘経験もβ版で実践済みだ。

 

「近くにいたら、助けてやるよ。」

 

少し目を逸らしながら俺はそう呟いた。

その様子を見て、アスナは数秒ぽかんと呆けて笑みをこぼす。

 

「ふふっ・・・・何よそれ?・・・・とっても捻くれてるのね。」

 

「うっせ。」

 

「ハチくん、私は・・・・このままここに居るのは簡単だと思う。もしかしたら、助けが来るかもしれないし、安全。・・・・でも、分かっちゃうの。ここにいたら、腐っちゃう。私の中で、私の大切なものが朽ちてしまいそうなの。だから、私は私の意思で貴方について行くわ。・・・・困った時には近くにいると思うから、助けてね?」

 

そう言って、アスナは優しい微笑みで俺に向かって可愛げな上目遣いをする。

あまりの可愛さに少しドキッとしつつ、俺は町の外へと歩を進める。

 

「――――勝手にしろ。」

 

「ふふっ。こんな感じの人、なんて言うんだっけ?ツンデレ?・・・・いやハチくんはツンツンしてないし、捻くれてるし・・・・そうだ、《捻デレ》ってのはどうかな?」

 

「・・・・捻くれてねぇし、なんだよその造語は。」

 

小町に同じことを言われた記憶があるから寂しくなっちゃうだろ。

妹成分足りなくてお兄ちゃん発狂しそうだよ。

 

すでに2年以上会えないことが確定した小町に対して胸が締め付けられるような淋しさを感じながら、俺とアスナのSAOでの生活が始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え・・・・比企谷くんが?」

 

「うん・・・・。」

 

総武高校の特別棟の3階、端の方にある使われていない空き教室はとある部活の部室となっている。

私こと由比ヶ浜結衣はその部活、奉仕部の一員だ。

 

昨日、21世紀最大の事件が発生したとニュース番組が報道した。

よく分からないけど、世界から注目を浴びていたVRゲームで1万人ものプレイヤーが閉じ込められてしまったらしい。

しかも、そのゲームで死ねば現実でも死ぬ。

私は全く興味がなかったが、奉仕部の一員でもあり、私の想い人のヒッキーこと比企谷八幡はそのゲームに当選したと、部室で中二に自慢していたことを思い出した。

 

思わず、すぐにヒッキーに電話をかけると出たのは妹の小町ちゃんだった。

 

そして、現実を教えられた。

ヒッキーはそのゲームに囚われており、いつ死ぬか分からないと言う。

ヒッキーと仲直りできそうになってきた、そんな矢先の出来事だった。

 

そして、小町ちゃんを落ち着かせるために昨日はヒッキーの家に泊まらせてもらった。

終始泣き止むことがない小町ちゃんを慰めに行ったのに私まで・・・・大泣きしてしまった。

結局、朝まで泣き腫らしなんとか学校に行けるまで回復した私はなんとか教室にたどり着いた。

 

ヒッキーのことはまだ知られてはなく、事情を知るのは先生と私だけだった。

学校側が事態を重く受け止め、騒ぎを起こさぬように他言無用としたようだった。

ヒッキーはよく『俺が居ても居なくても変わらない』と言っていたが、私的には全然違った。

私の中で大切な何かがポッカリと空いてしまってるのだ。

そんな私の心情は関係がないように授業は何事もないように進んでいき、誰一人としてヒッキーについて触れなかった。

 

いや、優美子と姫菜だけが私にヒッキーの様子を聞いてきたが簡単に話せることではなかった。

何か感づいたような様子を見せた戸部っちが言及してきそうになったが、私の尋常じゃない様子を見て優美子が止めてくれた。

姫菜が隼人くんが珍しく休みという話題を振ってくれたおかげでなんとか話しを逸らすことができた。

本当に助かる。

 

そして授業を乗り越えて、放課後すぐに奉仕部へと向かった私は奉仕部へと向かったのだ。

 

そして、話は冒頭へと戻る。

 

「比企谷くんが言ってたゲームって・・・・あのゲームだったの・・・・?」

 

「うん・・・・。」

 

ゆきのんには事の顛末を話した方がいいと、小町ちゃんと平塚先生に言われた。

最初は隠すべきではないかと思ったのだが・・・・事が事なので変に軋轢を生む可能性があった。

 

「比企谷くんは・・・・今どこに?」

 

「ち、千葉の総合病院だよ。」

 

ゆきのんは今まで見た事のない・・・・悲痛な表情を浮かべていた。

せっかく見えてきていた希望が打ち砕かれたような、そんな絶望感が見える表情だ。

 

「・・・・なんとか、ならないかな?」

 

「無理よ・・・・。犯人である茅場晶彦を探すために日本中の警察や政府関係組織が血眼になって探してるもの・・・・。一介の高校生である私たちがどうにかできるわけないわ。」

 

ゆきのんの言う通り、今回の事件の主犯である茅場晶彦は完全に行方をくらませていた。

ゆきのんや陽乃さんを凌駕する圧倒的な才能を持つ彼は・・・・手がかり一つ残さず消えてしまったらしい。

 

でも、事件が発覚してまだ1日ほどしか経ってない。

まだ可能性は残されている。

 

「由比ヶ浜さん。諦めた方がいいわ・・・・。あの男は簡単に捕まるような人間じゃない。」

 

「え?ゆきのん、茅場晶彦のこと知ってるの?」

 

「・・・・親の仕事の関係で、ね。姉さんの代わりに何度か顔を合わせたことくらいはあるわ。・・・・でも、彼がこの事件を起こしたと言うなら、何か納得できるわ。」

 

ゆきのんは淡々と語っていく。

 

「彼はいつも言っていた。『この世界には《本物》と呼べるものは無いのかもしれない。でも、作ることは出来る。』と。」

 

「・・・・そんなの、勝手すぎるよ。」

 

今まで感じた事のないような怒りが、込み上げてくる。

そんな自分勝手な思想のために・・・・ヒッキーを巻き込んだって言うの?

関係のない人たちを巻き込んだって言うの?

人を、殺すって言うの?

 

「・・・・私たちのできることは、比企谷くんの帰りを待つだけよ。悔しいけど、それしかないわ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




八幡×アスナってわけではないかも?

実は誰がメインヒロインかは決まってません。



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