斯くして比企谷八幡は仮想現実にて本物を見つける。 作:ぽっち。
「あ、ありがとうございます。」
「・・・・たまたま通っただけだ。」
このデスゲームが始まり、5ヶ月の月日が流れた。
現在の攻略階層は昨日で遂に27層へと達したのだが・・・・約半年で27層だ。
ゲームクリアまで程遠い。
俺こと比企谷八幡は野暮用といつも使っているプレイヤーメイドの片手剣を修理するために第11層まで降りてきた。
野暮用を済ませ・・・・たまたま通りかかったフィールドでモンスターをいい感じにトレインしていた少女に出会った。
トレインとはモンスターを連れて逃げ回っていると電車の様にモンスターが連なっている様に見えることからそう呼ばれているのだが・・・・よく押し付けられたりする場合があるため、ゲームでは一般的にはマナー違反となっている。
簡単に言うとめんどくさいから。
特にこのSAOでは死に直結してしまう様な行為なのだが、俺にとってここの階層のモンスターは一撃で葬れる程度のレベルなので仕方なく助けた様なものだった。
「何やったらあんなモンスターを惹きつけれるんだよ?ビッチなのか?」
「び、ビッチって!?初対面の女子に向かっていう言葉じゃないですよ!?」
「・・・・他人にどんな言葉をかけたって他人なんだからそれ以上関係が悪化することはない。」
真顔でそういうと、少女は苦笑い浮かべる。
「・・・・なんて言いますか、良い感じに捻くれてますね。」
「ありがと。」
「褒めてないですからね!?」
《良い感じ》って言ったじゃないか、つまり良いんだよ。うん、俺は性格がとても良いんだ。
そんな一通りの会話を終え、俺はポーチからPOTを取り出して少女に投げ渡す。
「飲んどけ、ここは圏外だから下手したら死ぬぞ。」
「あ、ありがとうございます。」
「んじゃ、俺は行くから。」
そう言って俺は第11層の主街区《タクト》に向けて足を運ぼうとした瞬間、袖を掴まれ動きを阻害される。
「・・・・なんだよ?」
「あ、えっと、えっと・・・・お、お礼です!!お礼をさせてください!!」
「・・・・断る。」
「なんでですか!?命の恩人にお礼くらいしたっていいじゃないですか!?」
「俺は養われる気はあっても施しを受ける気は無い。」
「だから、お礼ですって!人の話を聞かない人ですね!?」
「違う、聞かないんじゃなくて聞きたくないだけだ。」
「それなら尚更のこと
この後数回の押し問答が続いたが、結局俺がケーキを奢ってもらうことで解決してしまった。
はぁ、めんどくさい。
◆
なんやかんやで第11層主街区《タクト》に辿り着いた訳だが、少女は一方的に話をしてきた。
あのモンスタートレインの原因はどうやらトラップにハマってしまい起きた様だ。
てか、この辺りのトラップ情報は《鼠》の攻略ガイドブックに書いてあったと思うが確認してなかったのだろうか?
「そういえばお名前を聞いてなかったですね。私はシリカと言います。貴方は?」
「・・・・ぽんぽこりーちょっちょりーな3世だ。」
「絶対嘘ですよね?」
「っち。」
「舌打ち!?」
この自称シリカを俺は第一印象から《トレインちゃん》と命名。
心の中で呼ぶとしよう。
「・・・・エイトだ。」
「エイトさん、ですね。わかりました!」
ここで偽名を使ったのには訳がある。
あの第1層攻略から俺は悪い意味で名が知られているのだ。
ディアベルを騙して殺したベータテスター・・・・異名としては《卑怯者》《詐欺師》《インベーダー》なんてものもある。
《インべーダー》ってのが詐欺師を英語でimposterと言うのだがそれとベータテスターを混ぜて《インベーダー》だとよ。
攻略組に軋轢を生む侵略者という意味もあるのでダブルミーニングで罵っているのだ。
全くもってネット民のネーミングセンスは相変わらず素晴らしいものだ。
それとあれから一度も俺はボス攻略には参加していない。それどころかパーティすら組んでないのだ。
とは言え、攻略が遅れるのは俺からしても些か不本意な訳でソロで迷宮区に潜ってはマップデータをアルゴ経由で公開してもらってる。
「エイトさん、悪いんですけどパーティメンバーに無事を伝えてからでもいいですか?」
「・・・・勝手にしろ。てか、パーティメンバー居るんならなんで1人でトレインしてたんだよ。」
「あははは・・・・途中で逸れちゃって。この階層にも慣れてきてたんで、1人でもいけるかなって・・・・慢心でした。」
少し苦笑いを浮かべながらトレインちゃんはそう言った。
するとトレインちゃんはウィンドウを開き、何回か操作するとキョロキョロと辺りを見渡す。
「この辺りにいると思うんですけど・・・・あ、いた!コロル!」
そう言って駅前で待ち合わせをしていた女子のように(まぁ女子なのだが)トレインちゃんはぴょんぴょん跳ねながら手を大きく降る。
その視線の先にはこちらに気づいたかのように手を振りながらこっちに向かってくるコロルというであろう1人の女性プレイヤー。
「もぉー、シリカってば心配したんだよ?1人で行っちゃダメなんだから――――」
そのプレイヤーは俺の顔を見て表情が固まる。
正しい反応だろう。俺も同じ表情をきっとしている。
「――――せんぱい?」
「・・・・一色?」
ゲームでリアルの知り合いと会うというのは気まずいものだが、このゲームでは違う。
現実の知り合いと会うとどうなるのか。
喜ぶのか?安堵するのか?それとも、こんなデスゲームに知り合いがいる事に絶望感を見つけてしまうのか・・・・。
一色の見せた反応はまさにその全部だった。
嬉しそうな顔をした後、悲しそうな顔をして最後には目尻に大量の雫を浮かばせながら俺に抱きついてきた。
――――え?
◆
私がナーヴギアを被ったのは偶然だった。
1年生で生徒会長になるという総武高始まって以来の異例なことを成し遂げて生徒会とサッカー部の板挟みになってしまった私は今後の苦労に気を病んでいた。
あのせんぱいの口車に乗せられてしまったのが原因だ。
いや、決めたのは私ですけどね?あのせんぱいの口車に乗せられたことがなんだか腹立たしい。
なにかと理由つけてこき使ってやろーっと♡
そんな屈強な精神力を持つ私も多少なりともストレスが溜まっていたのだろうか?
私は普段しないゲームをする気になってしまった。
お父さんが福引で当てた次世代フルダイブMMORPG、《ソードアート・オンライン》。
本気でする気は無かったのだが、話題のゲーム。男子を引っ掛けるネタとしてせっかくなので、という理由でプレイしてしまった。
しかし、始まったのはゲームで死ねば本当に死んでしまうデスゲーム。
私は死に怯え、1ヶ月以上もの間、始まりの街に引きこもってしまった。
自分の心の弱さに言い訳を重ねているとそんな中、第1層攻略との知らせが入ってきた。
街中は歓喜に沸き、私もその熱に当てられついに、外に出ることが出来たのだ。
その中で不穏な噂が自然と私の耳に入ってきた。
噂の内容といえば根も葉もない下らないもの。
《Hachi》というプレイヤーが攻略リーダーを殺した。
そのプレイヤーは詐欺師紛いの言葉でリーダーを死に追いやったというのだ。
しかし、信頼できる《鼠》と呼ばれる情報屋のプレイヤーが《Hachi》を擁護していることから始まりの街内では何があったのか、と話が交錯している状態だった。
女の勘というのか、私の直感はそうでは無いと言ったのは記憶に新しい。私には何となく《Hachi》がした行為が間違いではないと思っていたのだ。
事細かに聞けば聞くほど、その《Hachi》の行動は学校のとあるせんぱいに似ている。
あのせんぱいは総武高で『学校1番の嫌われ者』なんて噂が1年生の間にすら回ってきていた。
それがせんぱいのことだってことを知ったのだって生徒会選挙が終わってすぐのことだ。
でも、あの性格を知っていればなんとなく理解できてしまう。
おそらくせんぱいは誰かを助けるために自分を傷つけたんだろう。自分は傷ついていない、と公言して誰かを守って誰かを救ったのだろう。
《Hachi》はそんな捻くれた優しさを持つせんぱいにとてもよく似ている。あのせんぱいもこの世界にいるのだろうか?
・・・・それなら、逢いたい。
私らしくない感情が沸き、それだけを頼りにこのゲームが始まって初めてフィールドに出たのだ。
遠いけど、きっと《Hachi》が居るのは最前線で戦っている攻略組だ。
時間はかかるだろうがきっといつか会えるのを信じて私は地道にレベル上げを頑張った。
この世界では『みんなに好かれる一色いろは』は捨てた。
周りの男子を上手く使ってレベルを上げたってきっと胸を張って《Hachi》の前に立てないと思ったからだ。
そんな時、同じ女性プレイヤーだったシリカと出会った。
年下であろう彼女もこの世界に抗って、生きていたのだ。
数少ない女性プレイヤー同士だからか自然と仲良くなり、パーティメンバーとして毎日のように狩りに出かけるようになった。
そして、第11層まで来たところで思いがけない出会いを果たす。
あのせんぱいがシリカと共に居たのだ。
忘れる訳もない、あの死んだ魚のような目と怠そうに猫背になっている姿。
その時の感情は私らしくもなく激しく動揺していたと思う。
最初は初めて会ったリアルの知り合い、しかも会いたかった人だったのだから嬉しかった。
しかし、同時にこんなデスゲームに参加していると思った瞬間、知り合いがこんなところにいる事に哀しみが湧き出てきた。
感情を隠すのが上手い私でもこの仮想世界では泣きたくなくても涙が出てしまう。
私は今まで抱えた感情の制御が効かなくなり、思わずせんぱいに抱きついてしまった。
・・・・なんで私は大好きな葉山先輩に会いたいじゃなくてせんぱいに会いたいと思ったのだろうか?
そんな答えの出ない問題は頭の隅に置き、わんわんと泣いてしまった。
◆
「落ち着いたか?」
「はい・・・・ずみまぜん。」
急に抱きついてきた一色はそのままの姿勢でわんわんと大泣きしたのだ。
知り合いを見つけて安堵してしまったのだろう。
人に弱みを見せるより、弱みを握る方がお似合いくらいの腹黒さを持つ一色も結局はただの女子高校生なのだ。
屈強な精神力で前線に立てる同年代はアスナやキリト、俺などの一般的にズレた人間だろう。
勝手に2人をズレた存在として考えたのは怒られそうなので心の奥底にしまっておこう。
とにかく、あの一色が泣くとは・・・・というか女子に胸を貸すなど俺の人生でありえなかった事態が発生しているわけでして。でもここは仮想世界だから実際は触れてないけどてか良い匂いするなクソ。ありがとう茅場さん。
このアインクラッドで2回も茅場にお礼を言ってるのは俺くらいだろう。とにかく、今はそんな現実逃避じみた思考回路を別の場所に置いておく。
現状はなんとか一色が泣き止み、会話ができる状態まで回復したところ。
俺たちの関係・・・・というかリアルの知り合いだと気づいたシリカは気を使って宿屋の一室に2人きりにしてくれた。
・・・・なんだかいやらしいように聞こえるかもしれないし、見えるかもしれないが残念ながらこの男八幡にはそんな度胸はない。
平塚先生から『リスクリターンと損得勘定と自己保身にの計算についてはなかなかのもの』と評価されているだけは有る。
・・・・いや、常識的な判断が有ると言うべきなのだろうか。
そんな現実逃避じみた思考に浸っていると一色が口を開く。
「本当に、生きててくれて良かったです、せんぱい。」
「・・・・まぁ、な。一色も生きてて良かったよ。」
とはいえ、この4ヶ月間ずっとソロプレイをしてきたわけでして。
実は何度か死にかけている。
ソロでフィールドボスとエンカウントした時は本気で死を覚悟した。
逃げ腰で必死に逃げたのは良い思い出・・・・いや、トラウマ級の悪い思い出ですね。
「せんぱい、ここではリアルネームはマナー違反ですよ?・・・・コロルって呼んでください。」
「・・・・あぁ、なるほど。分かったよコロル。てか、お前は良いのかよ。」
「別に本名言ってるわけじゃないんでセーフです。」
確かにそうだが・・・・まぁ、細かいことは後で考えよう。
ちなみにコロルはラテン語で《色》という意味になる。
一色の色から取ったのだろう。
え?なんで俺がラテン語なんて知ってるかって?
舐めるなよ、これでも国語は県内有数の進学校である総武高で学年3位。文系科目ならその辺のやつには負けない。・・・・いや、嘘です。すみません。本当は厨二病発症時に『ラテン語って何かかっこいいな。』って感じで色々調べた時の知識です。
「せんぱいは・・・・《Hachi》ですか?」
そこで俺は表情を固める。
一色は・・・・いや、コロルはこういった類の噂には敏感だろう。
コイツの特徴はあざとさも有るが、それ以上に優れた観察眼もコロルの得意な分野だ。
なんせ、幾多の男を手駒にする程の敏腕JKだからな。
「・・・・俺は、エイトだよ。」
俺は嘘をついた。
この世界での《Hachi》はあまりにも悪名高い。
そんな人物が中層で頑張っているコロルの邪魔をするわけにはいかない。
特にSAOは閉鎖的社会の見本ようなものだ。
噂はネットが無いから事実の確かめようが無いため尾鰭がついてどんどん悪い方向へ広がっていく。
人伝にしか伝わらないから、偏見で事実が捻じ曲がる。
ここでコロルとシリカは《Hachi》というプレイヤーに会わなかった、という程の方が彼女らにとって最善だ。
俺と関わったところでデメリットしかない。
「うそ、ですよね。」
そんな俺の心情とは裏腹にコロルは俺の嘘を見抜いてしまっているようだった。
この俺の完璧なポーカーフェイスをどうやって見破ったのだ?
「せんぱいは、現実世界でも嘘ついたら眼を逸らします。結衣先輩から聞きました。」
「由比ヶ浜め・・・・。」
変なことを後輩に吹き込むんじゃないよあのアホ。
とは言え、それを伝える手段は無いため俺の行き場のない憤りはどうすることもできなくなる。
「はぁ。なら、噂は知ってんだろ?計算高いお前なら分かるだろ。俺と関わり持ったってメリットなんて物はねぇよ。」
「それでも・・・・目標だったんですよ。この世界で生きていくための、大切な目標だったんです。《本当の自分》で頑張って、この世界で生きていたら、胸を張って出会えるって。」
「・・・・その口振りだと、俺がSAOに居るって確信してたんだな。違ってたらどうするつもりだったんだよ。」
「せんぱいみたいな捻くれた人、なかなか居ませんから。・・・・ほぼ確信してましたけど、本当に会っちゃったら気が緩んじゃったんです。」
なるほど。
つまり八幡は唯一無二のぼっちと言うわけか。
なにそれ?泣いていい?
目尻に涙が浮かびそうになってきたので話題を変える。
「・・・・んま、いっしき――じゃない、コロルの言う通り、俺が《Hachi》だよ。」
「はい、知ってます。」
真顔でそう肯定されるとこっちが一方的に自己紹介したみたいじゃないか。
中学の頃に自己紹介したら、苦笑いで『え?あ?うん。』って言われたのをなぜか思い出してしまったじゃないか。
そんな黒歴史を勝手に思い出して、勝手に羞恥に浸っていると一色が意を決した表情で俺に言う。
「せんぱい、私たちを鍛えてくれませんか?」
そう言ってぺこりとコロルは頭を下げた。
もちろん、俺の答えは決まってる。
「嫌だ。」
「――――即答ですか!?可愛い後輩がこんなに頼んでるのに!?」
「自分で可愛いって言っちゃってるし、こんなにとか言いつつ1回しか頭下げてないし。」
「いいじゃないですか!――――っは!?もしかして、『女の子に戦わせるなんで俺が許さん。守ってやるよ』って言いたいつもりですか?ちょっとときめいちゃうかもしれないですけどもっとそういう関係になってから言ってくださいあと私は私の力で生き残りたいんですだからごめんなさい!」
と告白もしていないのに俺はなぜか振られてしまう。
「よく噛まずにいえるよな。てか俺はお前に何回振られれば良いんだよ・・・・。こっちが断る側なのに・・・・。」
なんだかこのやり取りがとても懐かしく思えてしまう。
現実世界にいた頃もこうやって一色に何連敗もしたのもすでに良い思い出になりつつある。
「てか、やっと調子出てきたな。・・・・んじゃ、俺は行くところあるから帰るぞ。」
「なにしれっと帰ろうとしてるんですか!?」
「はいあざといあざとい。」
「うっわ。可愛い女の子をあしらってる自分、かっこいい〜とか思ってるんですか?調子に乗るのも良い加減にしてください。キモいです。」
お願いされている立場のはずの俺が何故こんなにも罵倒されなければならないのだらうか?
てか、キモいって言うなよ。君たち女子のキモいって男子からすれば死刑宣告に近いからな?
「はぁ・・・・あのな?一応理由があるんだよ。俺はお前らを鍛えれるほど強くはない。」
「・・・・せんぱいはレベル幾つですか?」
「プレイヤーのステータスを聞くのはマナー違反だ。」
「私は昨日23レベになりました。これでせんぱいも言わなきゃ不公平ですよね?」
「いや、一方的に聞かされただけなんですけど。」
「ふ、こ、う、へ、い、ですよね?」
そう言って俺にグイッと近づき、胸倉を掴むコロル。
なにこの金銭を要求されてないのにカツアゲされてる気分は?
ちなみに俺は一度カツアゲされてからお金は靴下の中に隠すようにしている。
やだ八幡策士!
そんか思考にトリップしようがコロルは俺に容赦をすることなく更にグイッと近く。
近い近い近い近い近い良い匂いする近い!!
屈強な精神力を持つ俺もついに折れてしまい、コロルを直視できないため眼を逸らしつつ口を開く。
「・・・・41だよ。」
嘘ついても良かったのだが、ここで言ってもまた見抜かれるような気がしたので素直に言う。
「攻略組でもトップクラスじゃないですか・・・・。それなら、私たちを守りながらもレベリング手伝えますよね?」
確かに俺のレベルはその辺の攻略組をも凌ぐものだ。
俺と同等となれば、キリトやアスナなどと言ったトッププレイヤーになってくるだろう。
「待て待て、俺には攻略がある。そんなに手伝えない。」
「でも、ボス攻略には参加してないんですよね?・・・・だったら、問題ないじゃないですか。」
なんで知ってんだよ。
なに?俺のことそんなに調べるほど好きなの?八幡勘違いしちゃうよ?告白して振られちゃうよ?って振られるのかよ。
「いや、俺だってレベリングしなきゃだし?最前線の迷宮区のマッピングしなきゃだし?」
「そんなの私たちのレベリングの後でいいじゃないですか。」
「俺に徹夜で働けと?八幡死んじゃうよ?」
「もう死んだような目じゃないですか。」
確かに死んだ魚の目とは会う人会う人に言われるが・・・・なに?そんなに俺を過労死させたいの?
「目は関係ないだろ。てか、俺にメリットがない。」
「攻略組が増えれば、攻略も早くなって早く帰れる。それじゃあ・・・・ダメですか?」
「――――うっ。」
そう言ってコロルはウルウルと眼を潤ませながら上目遣いで俺を見つめてくる。
「・・・・はぁ、分かったよ。俺が暇な時だけだからな?」
「ありがとうございます!じゃあ、シリカにも伝えてきますね!」
ぱぁと満面の笑みを浮かべて、コロルは部屋を後にした。
これだから、年下のあざとい後輩は苦手だ。
――――小町と姿を重ねてしまって断れなくなる。
◆
「ということなの、シリカ。だからこれからこの人も私たちのパーティに入るからね。」
「・・・・色々情報がありすぎて理解できないよ。」
そう言って自称シリカ(またの名をトレインちゃん)はそう言って項垂れる。
「えっと、エイトさんは実は攻略組の《Hachi》さんで、コロルとはリアルで同じ学校の先輩後輩で、攻略やレベリングの合間を縫って私たちのパーティで鍛えてくれる、と・・・・。」
「そうそう!そんな感じ!」
「頭がパンクしそうだよ・・・・。でも、分かった。コロルが突拍子も無いことをするのはだいぶ慣れて来たから。」
トレインちゃんはとても物分かりが良い子のようだ。
どっちが年上か分からなくなってくるが、この子はすでにだいぶコロルに振り回されているようだ。
「てか、シリカはそれで良いのか?俺とパーティ組んでも良いことないぞ?てか、帰って良いか?」
「ナチュラルに帰ろうとしないでくださいよ。・・・・それに大丈夫ですよ。コロルからだいぶ《Hachi》さんのお話は聞いてるので。」
「なんだよ?話って?」
「それは――――「わぁー!わぁー!シリカストップ!!」――――モゴモゴ」
突如、トレインちゃんの口を塞ぐコロル。
コロルはだいぶ顔が赤いようだが、大丈夫なのか?
なんか変なデバフでも付いてるのか?
「と、とにかく!!せんぱいはなんでこんな中層の方にきてたんですか!?」
「慌てすぎだろ。・・・・野暮用と武器の修理だよ。野暮用は済ませたからあとは武器の修理だな。・・・・お前らのせいで本来の目的忘れて帰るところだったわ。」
事実、リアルの知り合いと会うという珍しいイベントをこなした俺は本来の目的を忘れて帰宅するところだった。
「じゃあ、付いていっても良いですか?せんぱいの御用達のプレイヤーメイド店ってのも気になります。」
「・・・・まぁいいけど。こっちだ。」
正直言うと付いてきてほしくない。
俺がこれから向かうプレイヤーメイドの武具屋は少しめんどくさい奴が店長だ。
そんな所に女子を2人も連れて行くなんて、何を言われるか・・・・考えただけでもめんどくさい。
とはいえ、すでに許可をしてしまったわけだし、許可しなくても勝手に付いてくる可能性があるため諦めることにしよう。
俺の座右の銘は『押してダメなら諦めろ』だからかな。
世の中諦めが肝心なのだ。
こうして2人を連れ、俺は《タクト》の中心街の方へ足を運ぶ。
数分歩いたところで安い賃貸形式の宿屋へとたどり着く。
前線からは離れ、職人クラスをやっているプレイヤーはこうして部屋を借りて店として経営している。
プレイヤーハウスは攻略組の俺ですら価格が高いと思うため、低レベルのプレイヤーにはまだ手が届かないのだ。
すると、トレインちゃんが俺に疑問を投げかけてくる。
「ハチさんの剣を鍛えてる人ってどんな人なんですか?」
「えーっと、めんどくさいやつだな。テンションが特にウザい。・・・・でも、腕は確かだ。」
「あー職人気質ってやつですか?」
「そういうわけではないんだが・・・・俺の苦手なタイプだよ。」
「せんぱいは人間関係全般苦手じゃないですかぁー♡」
「ぐっ・・・・!言い返せないのが腹立たしい・・・・!」
そうこう言ってるうちにお目当ての部屋に辿り着く。
軽くドアをノックすると中から「どうぞー」という声が聞こえる。
俺が扉を開くとそこには数々の武器が飾られた部屋が視界に入る。
店主の姿はまだ見えない。
連なっている隣の部屋から金属を叩く音が聞こえるのでどうやら作業中のようだ。
展示されている武器を眺めながら待つこと数分。
中から黒髪でエプロンをつけた女性プレイヤーが出てくる。
「お待たせしました!リズベット武具店にようこそ!――――って、ハチか。」
「悪かったな俺で。」
「ほんとそれよ。お得意様だから文句はないけど修理頻度高いし、求めてくる能力値は高いし面倒なのよアンタ。」
文句言いまくりじゃねぇか。
しかも、お得意様にそんなことを面と向かって言っちゃうの?
少し計算が入っていそうな笑顔が特徴的な活発系女子。
彼女こそが俺が贔屓に使わせていただいているリズベット武具店の店主、リズベット。通称リズ。
第18層攻略中に迷宮区でアスナと偶然会った時に教えてもらったのだ。
「――――って!?ハチが女子連れ!?」
「・・・・悪いかよ。」
「へぇ・・・・結構可愛い子たちね。」
そう言ってコロルとトレインちゃんをじっくりと値踏みするように見つめるリズ。
「アスナに言っちゃおうかな?」
「なんか怖いからやめてくださいお願いします。」
このペースを持っていかれるところが俺がリズを苦手とする部分だ。
とは言え、現時点でこれほど腕の良い鍛治士は居ないため生存率を考えると必然とここに通うしか無くなる。
「へぇ・・・・女の人なんですね、せぇんぱい?」
「コロルさん?なんだか声色が違いますよ?いつものあざとさMAXな声はどうしたんでしょうか?」
なんだよこの板挟み的な状況は?
なんてエロゲ?
いや、エロ要素ないけど。
「まぁ、後でこの事は根掘り葉掘りと聞き出すとして・・・・今日も武器の修理?見せてみなさいよ。」
「なんでそんな上からなんだよ・・・・ほらよ。」
リズの対応に少し不満を抱えてしまうが本来の目的を果たそう。
俺は背中の鞘に収めている片手剣をリズに渡す。
リズは剣を受け取ると早速、ウィンドウを開いて鑑定スキルで状態を確認する。
「――――って!?3日前に修理したばっかりよね!?なんでこんなに耐久値減ってんのよ!」
「・・・・迷宮区で三徹してたから、かな?」
少し目を逸らしながら俺はそう言った。
この世界で睡眠を削る事は自殺行為に等しいが、俺は気にせずソロで迷宮区に連日潜っていた。
睡眠を必要とする理由としては身体の疲れが原因とどこかの本で読んだことがある。現実世界で身体を動かしていない俺たちは理論上、そんなに睡眠を必要としない訳で多少の徹夜は問題ないのだ。
あとはプラシーボでなんとかなる。うん、プラシーボって言葉は便利だ。これで大抵の人は納得してくれる。
「アンタねぇ・・・・。まぁいいわ、ちょっとこれは時間かかるわ。待ってて。」
そう言ってリズは隣の部屋に入っていく。
中から砥石で剣を研ぐような音が聞こえてきたところでコロルの方を見るとジト目でこちらを見ていた。
「・・・・なんだよ?」
「せんぱい、そんな無茶なことしてたんですか?」
「安全マージンは取ってるし、
このSAOでソロプレイというのはかなり危険を伴う。
基本的にモンスターは群れで行動していることが多いため、ソロで戦うには分が悪い。
そのため俺は迷宮区を連日練り歩き、単独行動をしているモンスターだけを狙って狩っているのだ。
第1層攻略後の俺のプレイスタイルはこれを一貫して行っていた。
しかし、やはり倒せるモンスターの量がパーティに比べて少ないため、レベルを維持するためにはこういったことは必要になってくるのだ。
「・・・・まぁいいです。その代わり、今日はレベリング手伝ってもらいますからね!」
不服そうな態度を取られてしまったが、これが俺のプレイスタイルだ。
今更、変えようとは思わない。
それにこの副産物として迷宮区のマッピングが捗ったことに変わりはないし、第1層と第3層と第12層を除いた全ての層のボス部屋は俺が見つけた訳だし。
てか、その代わりってなんだよ。どうせ確定事項だろ。
そして、15分ほど経った頃にリズが俺の剣を持って出てくる。
「はい。これで耐久値はMAXになったけど、あんまり無茶な攻略はしないでよね。アンタが死んじゃったら悲しむ人が居るってこと忘れないこと。いいわね?」
「・・・・善処するよ。」
俺が死んだところで悲しむ人はいない、なんて事は今まで思った事はない。
現実世界には小町が待っているのだ。
小町を悲しせることなんて、お兄ちゃんとしてできるわけがない。
あ、小町さんや、今の八幡的にポイント高いぞ。
◆
リズベット武具店を後にした俺たちはフィールドへと繰り出した。
誠に不本意ながら、コロルとトレインちゃんのレベリングを手伝う約束を果たすためだ。
ちなみに無期限らしい。わぁーいゲームがクリアされるまで働けるドン!
今コロルたちが戦っているのは《Wicked Vine》。
メロンのような柄を持つ球体状のモンスターだが、ドロップするアイテムから見てどうやらサボテンらしいのだが・・・・メロンにしか見えない。
しかし侮るなかられ、《Wicked Vine》は素早い攻撃を得意とし鋭い鉤爪でヒットアンドアウェイを基本とした戦い方だ。
そして、1番厄介なのは群れをなしてることが多く、2人以上のパーティを組んでいないと囲まれてしまうことがある。
ちなみに俺はこの層を攻略中に何回も囲まれて死にかけた。
そうやって群れを成す奴らはぼっちを寄ってたかっていじめてくる。
そんな思い出に耽りながらもコロルたちへのアドバイスは忘れずに行う。
「シリカ、ソードスキルの発動が早い。今のうちはなんとかなってるけど、20層過ぎたあたりからそれじゃあ通用しなくなるぞ。何度も相手のソードスキルを見てタイミングを身体で覚えるんだ。・・・・コロルはスイッチのタイミングが合ってない。前衛や盾役の奴らが苦労するぞ。」
「「はい!!」」
何だかんだ言いつつも俺は真面目に2人の教育に勤しんでいた。
まぁ、知り合った奴がどこかで死んだと知らされるのはキツイものがある。いや、この世界でも知り合いは少ないのでそんな経験はないですが。
とにかく、コロルはリアルでも知り合いだ。
ここで見捨てたとなれば雪ノ下や由比ヶ浜に顔向けできない。
そんな理由もあってか、俺は比較的に真面目な講義をしている。
「シリカ、短剣は武器の面積が小さいからパリング向きじゃない。ベストなタイミング以外使うな。タイミングが悪かったら後方に下がって回避に徹しろ。」
「はい!」
「コロルは槍なんだから中距離での攻撃に徹しろ。接近し過ぎたら逆にクリティカル喰らうぞ。自分の攻撃範囲を把握して、ギリギリのラインでの戦闘を心がけろ。」
「はいぃ!!」
トレインちゃんとコロルのパーティは思った以上にバランスの取れたパーティだった。
基本的な前衛は短剣使いのトレインちゃん。
先程シリカにアドバイスした通り、パリングはし難い武器だが細かな攻撃でモンスターのヘイトを集め、回避やソードスキルで攻撃を相殺している。
そしてスイッチでコロルと入れ替わる。
コロルは槍使いで中距離からノックバックでトレインちゃんとモンスターとの距離を離し、トレインちゃんが作った隙を上手い形で利用している。
2人しか居ないパーティなのだが、効率のいい攻撃パターンを繰り出している。
正直言うと最前線にいる攻略組でもこんなに練度が高いパーティはほぼいないだろう。
数回の戦闘を行い、それなりに疲労が溜まったところで今日は切り上げることにした。
「おつかれ。」
「ふぅ・・・・でも、凄く的確なアドバイスでした。ハチさんは本当にパーティ組んでないんですか?」
「まぁ、な。第1層攻略からは誰ともパーティを組んでない。」
「せんぱいは観察眼が凄いですからね。」
「人間観察はぼっちの必須スキルだ。他人の行動を先読みして、関わりを持たなくする。ずっとそういう生き方してきたからな。」
「自分で言ってて悲しくなりません?」
そ、そんなことない。あれ?目から汗が・・・・?
そんな会話をしながら俺たちは第11層主街区《タクト》に戻っていくのだった。
◆
「小町ちゃん!!入学おめでとう!!」
「おめでとう、小町さん。」
「ありがとうございます!これからよろしくお願いします!」
お兄ちゃんが《ソードアート・オンライン》に囚われてついに5ヶ月の月日が経った。
お兄ちゃんはまだ帰っては来ていないが、生きている。
季節は巡り、ついに春。
私は総武高校に入学することができたのだ。
友達とも遊ばず、とにかく必死に勉強してなんと小町が特待生として入学することになった。
特待生は入学金の免除や授業料の免除が含まれており、両親は大喜びだった。
私はそのお金をお兄ちゃんのために取っておいてくれと両親に頼み込み、少し渋ったが了承を得た。
今は最初の授業が終わり、放課後に奉仕部に遊びに来たというわけだ。
この2人には感謝しても仕切れないほど勉強を教えてもらった。
特に雪乃さんは分からないところなどは全て優しく教えてくれたし、結衣さんは・・・・一緒に勉強してくれた。
「特待生は凄いよ!私も鼻が高いよ!」
「由比ヶ浜さんは一緒勉強してただけでしょう。特に何もしてないわ。」
「うっ!?で、でも、一緒に勉強することが大事なんだよ!」
「そうですよ、雪乃さん。一緒に頑張れる人が居るだけで心強いものですよ!」
「・・・・私はそうは思わないけれど、モチベーションは大切なのは分かったわ。」
雪乃さんは1人で黙々と勉強するタイプなので確かに私たちの言い分は分からないのだろう。
「あ、今日はお兄ちゃんの所へ行こうと思ったんですけど一緒に如何ですか?」
「ええ。私は行かせてもらうわ。」
「私も行く!」
今年から2人は受験生という事もあり、今までほどお兄ちゃんへのお見舞いが出来ないだろう。
それなら、出来る限り誘ってあげたほうがいい。
「・・・・そう言えば、ここの生徒会長さんもSAOに、でしたよね?」
そう言うと2人は少し暗い顔をする。
「うん。今は副会長さんが代理でやってるけど・・・・いろはちゃんも囚われてるの。2人とも面識あるから、もしかしたら今頃一緒に居たりするかもね。」
「そうだったんですか・・・・。」
お兄ちゃんは学校での出来事はあまり家では話さない。
まさか生徒会長さんと知り合いだとは・・・・。
むむ!?もしかして、新しいお義姉さん候補!?
「それに・・・・彼も、よね?」
「うん。戸部っちが凄く悲しんでた。戸部っちからしたら大切な友達と後輩が2人同時に居なくなっちゃったんだもん、仕方ないよ。・・・・それに優美子なんて、日に日に窶れていくし、見てられなかったよ・・・・。」
「え?まだこの学校にSAOに囚われてるの人が居るんですか?」
「うん。聞いたことあるんじゃないかな?有名人だし。名前は――――
――――葉山隼人、サッカー部の元部長だよ。」
俺ガイルで1番好きなキャラはいろはす。
異論反論異議申し立ては一切受け付けない。