斯くして比企谷八幡は仮想現実にて本物を見つける。   作:ぽっち。

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予想以上反響に私自身嬉しさでいっぱいです。

一瞬ですが日間ランキング91位・・・・ふぁっ!?

こんな拙い小説、読んでくれてありがとうございます!

引き続き宜しくです!


第7話

 

 

 

 

どうしてこうなった?

俺の頭の中をそれで埋め尽くしたい所だがそれどこではなかった。

そんな思考は頭の隅へと追いやり、目の前の敵を斬り裂く。

 

「シリカ!コロル!無理するな!!壁を背にして回り込まれないようにするんだ!!」

 

「は、はい!!」

 

「キリト!!早く援護に行け!!ここは俺がなんとかする!!」

 

「――――あぁ!!」

 

大混戦のモンスターハウス。

余りにも多いモンスター達を俺とキリトは次々と斬り倒していく。

 

なんでこんな事になったか、話は数日前まで遡る――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このデスゲームが始まって半年の月日が流れていた。

モンスターをトレインしていたシリカ、そして現実世界の後輩でもある一色いろは改め、コロルと出会って1ヶ月経つ。

 

俺はコロルの上目遣いに負け、2人を鍛えることにしたのだ。

 

2人のプレイヤースキルはキリトやアスナには及ばないものの、攻略組でもやって行けるほどの実力はあった。

だがレベルが足りないため、攻略にはまだ参加できていないという状況だ。

俺が指導と援護をしていたので2人はどんどんレベルを上げていき、今では25層まで到達している。

 

とはいえ、レベル的にはまだマージンを取れてないため前線では戦わず安全策として少し下層の20層で経験値を稼いでいるところだ。

 

「コロル!スイッチ!」

 

「うん!!」

 

シリカのソードスキルの打ち消しはかなり上手くなっている。

コロルも隙を作らないスイッチをしている。

2人のコンビネーションはまさに阿吽の呼吸だ。

 

「やぁぁ!!」

 

コロルの両手槍3連撃ソードスキル《トリプル・スラスト》が決まり、カマキリのようなモンスター(名前は忘れた)は光の欠片となり砕け散る。

 

「おつかれ。」

 

「だいぶモンスターのアルゴリズムに多彩さが出てきましたね。打ち消すのが大変です。」

 

シリカはそう言ってふぅと息をつく。

 

「20層を越えたあたりからこんなのばっかりだぞ。・・・・でも、上手く対応出来てる。」

 

そう言いながら俺はシリカの頭を軽く撫でる。

 

「えへへ・・・・。」

 

・・・・あ、やべっ。ついお兄ちゃんスキルが発動してしまった。

 

とはいえシリカはなんだか気持ち良さそうな表情をしているので・・・・ハラスメントで黒鉄宮に送られたりはしないよな?てか、ごめんなさい。

 

「むぅ〜シリカ、ズルイよ。せんぱいせんぱい!私にはないんですかぁ?」

 

語尾を伸ばすな。アホっぽく見えるぞ。

 

「あざといし、ハラスメントで黒鉄宮に送られそうだからやめとく。」

 

「ちぇっ」

 

なにこの子?隙あらば俺を犯罪者にしようとしてたんですか?

そして黒鉄宮に送られたくなければ100万コル支払えというんですね。支払ったら黒鉄宮に送られるんですね。そんなことは八幡にはお見通しだからね?だから触らない方が身の為。

 

「にしても、このフィールドはヤバイです。マジキモいです。」

 

コロルがそういうのも仕方がない。

ここはアインクラッド第20層の《ひだまりの森》。

主に出現するモンスターは昆虫系がほとんどで・・・・正直に言うとかなりキモい。

 

「文句は茅場晶彦(クソ運営)に言ってくれ。・・・・まぁ、キモいモンスターもRPGの醍醐味の一つだ。」

 

どんなRPGにもキモいモンスターは居るものだ。

割り切って戦っていないとこっちが滅入ってしまう。

 

こういったリアルな感情も茅場が望んだ世界観・・・・《本物》なのだろうか?

どうせこんな思考に意味はないが、たまにはこうやって考えることも間違いではない気がする。

 

「そういえばせんぱい、そろそろホームを移しましょうよ。11層も人が多くなってきましたし。」

 

突然の話題変更をするコロル。

1ヶ月前から俺たちはずっと第11層の宿屋に泊まっている。

いや、もちろん部屋は別だよ?てか、俺の本当のホームは25層なんですけど。

 

とにかくコロルの言う通り、11層も人が多くなってきた。

攻略が進み、戦闘が得意ではないプレイヤーも攻略ガイドブックや上層プレイヤーからの支援を受けれるようになり、始まりの街に引きこもっていたプレイヤーも出てくるようになったからだ。

 

「その辺は任せる・・・・。俺はそろそろ自分のレベリングしなきゃならないからな。」

 

「あ、そうでしたね。忘れてました。」

 

忘れるんじゃない。

この2人と行動するようになってからは昼間はコイツらのレベリング、夜は俺のレベリングと過密シャケジュールをこなしている。

とはいえ、シリカとコロルは気を使ってくれてるのか戦闘はほとんど2人が行なっている。

俺は基本的にただ見ているだけで、たまに援護やフォロー、指示をしているだけだ。

 

「んじゃ、行ってくる。」

 

「気をつけてくださいね。」

 

「ん。」

 

一言だけそう伝えてきたコロル。

コロルは何があってもこれを欠かさない。

一度だけ何も言わずに前線に戻ったことがあるのだが、その時は泣きながら怒られた。

それからというもの欠かさずに前線に戻るという旨は伝えている。

さてと、今の前線は・・・・28層だっけ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わりアインクラッド第28層フィールドダンジョン《狼ヶ原》。

 

素早い狼系のモンスターが多数出現する、ソロには少し攻略し辛いフィールドだ。

とはいえ、この世界に来てからすでに半年。

ソロでの戦闘には慣れてきて、一対多数の戦闘には自信がある。

特に俺の戦闘スタイルは戦闘時間が長い代わりに硬直時間がないので隙ができにくいので多数の相手をするには持ってこいなのだ。

 

狼系のモンスターは素早い代わりに攻撃力は低い。

最近編み出した技の練習には丁度良い練習相手だ。

 

「・・・・多いな。」

 

しかし、現在俺の前にPOPしているモンスターの数は5体。

ソロでの攻略は少し骨が折れる。

 

とはいえ、エンカウントしてしまったからには逃げる事は難しい。

転移結晶を使えば逃げれるが、安いものではないので出来る限りの節約をしなければならない。

 

そんな思考を巡らせていると1匹の狼が襲いかかってくる。

鋭い犬歯が迫り来る。

 

「――――っ!」

 

開いた口に容赦することなく、片手剣の刃を滑り込ませる。

そのまま振り切るとダメージエフェクトを発生させながら狼が後方に弾き飛ぶ。

 

すると、間髪入れずに2匹同時に俺の方へ突撃を加える。

俺は左手でウィンドウを軽く操作し、片手剣から短剣に持ち帰る。

ほとんどの片手武器で初期から習得できる共通派生機能(モディファイ)である《クイック・チェンジ》だ。

クイックチェンジは、メニューウインドウに配置できるショートカット・アイコンを押すだけで装備武器を瞬時に変更できる。

俺の戦闘スタイルはソードスキルを使用しない変則的な剣術だ。

ソードスキルの再現にはやはりそのソードスキルに似合った武器の方がやりやすい。

 

放つのは短剣4連撃ソードスキル《ファッド・エッジ》。

ソードスキルでは無いが確実に敵のクリティカルポイントにヒットさせればソードスキルと同等のダメージを与えられる。

 

「ガァ!!」

 

2匹に2発ずつヒットさせ、ノックバックで弾き飛ばすと入れ替わるように残り2匹が襲いかかってくる。

普通のプレイヤーなら硬直時間(ディレイタイム)によりダメージを喰らう場面だが、俺は違う。

 

犬歯を短剣で受け止めるとその場に置くように剣を手放す。

手放す直前に左手でウィンドウを操作し、ショートカット・アイコンを押す。

短剣は姿を消し、俺の右手に片手剣が現れる。

 

1匹の運動ベクトルを後ろに流しながら、右に一回転し後ろから迫ってきていた1匹を斬り裂く。

その勢いで前方から襲い来る狼に片手剣3連撃ソードスキル《サベージ・フルクラム》を再現する。

左からの水平斬りをし、垂直に斬りあげる。トドメに垂直に斬り下ろす。

 

ノックバックで後ろに飛んでいく1匹を視界に入れ、確認したところで後ろにいる4匹の相手をする。

すでに1匹がこちらに向かってきているのでクイック・チェンジで両手剣に切り替える。

両手剣2連撃ソードスキル《カタラクト》を繰り出し、1匹のHPを消し飛ばす。

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

直ぐさまにクイック・チェンジをし、行動に制限がかかり難い細剣に切り替える。

細剣6連突きソードスキル《クルーシ・フィクション》。

十字形に突き技を放つソードスキルだ。

 

そして、攻撃を喰らったモンスターのHPが消し飛ぶ。

残り、後方に1匹、前方に2匹。

 

直ぐさま左手でウィンドウを操作。片手剣に持ち替える。

まず最初に狩るのは前の2匹。

持てる筋力値を最大限に生かして加速する。

そのままの勢いで片手剣4連撃ソードスキル《ホリゾンタル・スクエア》を再現する。

 

2連撃ずつモンスターにヒットさせ、HPを吹き飛ばす。

直ぐさま後ろを振り返るとこちらに猛スピードで迫り来る1匹の狼。

あと、お前だけだ。

 

ここまで来れば余裕を持って倒せる。

単調な攻撃を回避しながらカウンターで攻撃を数回繰り返すとモンスターのHPは無くなり、光の欠片となり砕け散る。

 

「・・・・ふぅ。」

 

不利な戦いだったとはいえ、ノーダメージで切り抜けられた。

運も良かったが、ここ1ヶ月で習得した新しい戦い方が思ったよりも効果的だった。

 

《クイック・チェンジ》を使用した多変則な剣術。

1対1から1対多数の場面でも自由な攻撃ができる上に左手さえ開けていれば隙もでき難い。

特にプレイヤーとの対戦・・・・PvPでは効果は絶大だと自負している。

 

とはいえ、これをやれば武器の種類やスキルの習得に時間がかかるというデメリットもある。

奥の手として取っておこう。

 

「流石だな、ハチ。」

 

「うぉえい!?」

 

《クイック・チェンジ》の戦法の復習を脳内でじっくり思考していた時に突然、後ろから声をかけられ思わず変な声を上げてしまった。

うっわ、恥ずかしい。

 

後ろを振り返るとそこにはいつもと同じ、黒尽くめの装備で身を固めたキリトが立っていた。

 

「んだよ・・・・キリトか。話しかけるときは3日前から知らせてくれ。」

 

「・・・・何言ってんだよ。相変わらず捻くれてるな。」

 

そう言いつつ、苦笑いを浮かべるキリト。

ぼっちはな、話しかけられるのに慣れていないから事前に心の準備をしておかないとダメなんだよ。

そしてできるなら話しかけないでほしい。

 

「んで、何の用だ?」

 

「いや・・・・用はないんだが、たまたま見かけたからな。見させてもらった、さっきの戦闘。ハチらしい変な戦闘だった。」

 

マジかよ、恥ずかしい。

あの《クイック・チェンジ》を使った戦法はとても変則的なため、正直言うと他人に見せれるものではない。

今回は上手くいった方だから良かったもの、普段はよく武器を間違えてダメージを喰らっている。

 

「勝手に見んなよ・・・・。てか、こんな時間にレベリングか?お前こそ相変わらずぼっちなんだな。」

 

「お前にだけは言われたくないが・・・・まぁ、色々あるんだよ。」

 

そう言ってキリトは目を逸らす。

人が視線を逸らすときは大体やましいことか、人に言いづらいことがある時だ。

訓練されたぼっちはそこを見極めて接する。

 

「あっそ・・・・。ま、がんばれよ。」

 

「――――・・・・あぁ。お前も、な。」

 

何かを言いかけたキリトだったが、口を閉じ、別の言葉を投げかけてきた。

 

キリトのHPバーの上にはギルドに入れば付くアイコンが表示されている。

ソロのコイツがギルドに入ったというのはとても聞いてみたい衝動に駆られるが、そこはぐっと堪える。

自分から何も言わないということは言いたくない、という事だ。

キリトが心の拠り所を見つけたというなら、元相方としては喜ばしい事だ。

 

キリトは何も言わずにその場を立ち去った。

何かを抱え込んだその姿は、どこか哀愁漂う感じの背中を見せてどこかへと行く。

 

・・・・何を背負っているかは分からないが、顔立ちから年齢は小町と変わらないだろう。

そんな多感な時期にこのデスゲームに囚われているのだから、些細なことで気に病んでしまうのは仕方がない事だ。

 

キリトはこの世界で最も強く、この世界でのキーパーソンとなり得る人物。

そんな俺の期待すらキリトには重みになっているのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある日の早朝。

俺はシリカとコロルを連れて第27層の迷宮区までやってきていた。

 

2人の戦闘も安定し始め、俺の助力によるレベリングも大詰めを迎えたのだ。

そこで、一気に階層を超えて27層に遠征という形でやってきている。

 

「いきなり上層で訓練と聞いて、最初は怖かったんですけどなんとかなりますね。」

 

周囲を警戒しながらシリカはそう言う。

 

「あぁ。レベル的には余裕だったんだが、このSAOは安全に安全を重ねるくらいが丁度良いくらいだ。慢心はするなよ。」

 

「はぁーい!」

 

返事すらあざといこの後輩は平常運転のようだ。

シリカは先程から少し怯えた様子でも周囲警戒は怠ってはいない。コロル、見習え。

 

「私たちもそろそろ最前線・・・・ですか。ハチさんと出会う前は夢のまた夢だと思ってました。」

 

「私は最初から最前線に行くって言ってたじゃん。」

 

「コロルの言うことはいちいち気にしてないからね。」

 

「えーっ!?なにそれ!?」

 

シリカに対してぷくーっと頬を膨らませるコロル。

・・・・由比ヶ浜がやるとそれなりに可愛いと思ってしまうこの行動すら不思議なことにコロルがやるとあざとさが増す。

 

「おい、遠足じゃないんだから気を抜くな。」

 

「せんぱいもシリカに言ってくださいよぉ!私は至って真面目なんですぅ!」

 

それならまず語尾を伸ばすのは止めような。

ツッコミする気すら無くなりかけたその時、俺の《索敵スキル》が反応する。

2人に話すのを止めるようにハンドサインを送ると理解したのか、真剣な表情になる。

 

「ほら!俺たちなら余裕だって!」

 

「もう少しで最前線に行けるかもな。」

 

「あったぼーよ!」

 

俺の《索敵スキル》が反応したのはモンスターではなく、プレイヤーのようだ。

とはいえ、プレイヤーにも気をつけなければならないのがこのSAO。

 

最近の出来事を挙げるとすれば25層攻略時の《アインクラッド解放隊》と呼ばれる大規模ギルドの壊滅事件だろう。

嘘の情報を与え、ギルドを壊滅に追い込んだのはプレイヤーによるものとアルゴから聞いている。

そんな間接的なPKどころか直接的なPKすら起こっているこの世界で、信頼関係が出来ていないプレイヤーと接点を持つのは出来る限り避けた方がいい。

と言うのが建前で、本当は他のプレイヤーと話したくないというのが本音。

 

俺たちはそっと物陰に隠れ、《隠蔽スキル》を発動して待機する。

 

「・・・・ん?」

 

プレイヤー集団の中には見を覚えがある人影。

昨日、フィールドでエンカウントしたキリトが居たのだ。

 

「――――誰だ!!」

 

案の定、俺たちの《隠蔽スキル》を見破ったのはキリトだった。

ソロプレイで必須の《索敵スキル》を習得し、それなりの熟練度を誇るキリトならば仕方がないことだ。

 

「ど、どうしたの?キリト?」

 

「俺の索敵スキルが反応した。・・・・そこにいる奴、出てこい。」

 

「ま、待てキリト。俺だよ。」

 

「・・・・なんだ、ハチか。」

 

両手を挙げ、《隠蔽スキル》を解除しながら俺たちはキリトの前に姿を現わす。

流石にここで姿を現さなければただの不審者だ。

しかも、知り合いでもあるキリトを無視するわけにもいかない。

 

「・・・・なんで隠れてたんだ、って聞こうと思ったけど・・・・なんとなくわかったよ。」

 

「ご理解が早いことで。」

 

ふと、キリトの周りにいるプレイヤーを見る。

・・・・オレンジではないのだな。良かった。

 

ないとは思ってはいたが、キリトが隠したい事柄がそういうこと(・・・・・・)なら俺は敵対する可能性すら考えていた。

だが、反応を見る限りこのグループに何かしらの負い目を感じているのだろうか。

 

キリトを除く5人のメンバーを見る限り、最前線で戦えるような装備ではない。

そして、体力ゲージの上にはお揃いのギルドアイコン。

・・・・言い方は少し悪いが、キリトが入るギルドにしては少しレベルが低い。

 

「キリト、知り合いなの?」

 

少し怯えた様子でキリトの隣にいる女子が問う。

 

「あ、あぁ。昔、一緒にパーティ組んでたんだよ。」

 

昔と言っても5ヶ月前ですけどね。

 

「せんぱいって・・・・パーティ組めたんですね。」

 

「おい、なんだその言い方は?」

 

コロルが嫌味を含めた言い方をするのでつい反応してしまう。

 

「そんな事より、紹介してくださいよ。ハチさんの知り合いってリズさんかエギルさんしか知らないんですから。」

 

え?俺の交友関係狭すぎ・・・・?

とは言え真面目な話、俺の交友関係は本当に数人だ。

武器のメンテを頼んでいるリズ、ドロップアイテムを高額で押し売りするエギル。

この2人が知らない交友関係といえば以前のパーティメンバーであるキリトとアスナくらいだろう。

 

「あー・・・・コイツはキリト。知り合い・・・・いや、顔見知り?」

 

「なんで疑問形なんですか。」

 

とは言ってもコイツとの関係性など第1層以来、迷宮区でバッタリ会って挨拶くらいする程度なので俺の口からは何とも言えないのだ。

 

「キリトの友達か!いやー、キリトって自分のことあんまり話さないから友達いるのかなーって心配してたけどよかったよかった!!」

 

お調子者という言葉がよく似合いそうなセリフを吐いたのがニット帽をかぶる男子。

 

「ダッカー、言い過ぎだよ。キリトだって友達くらいいるさ。」

 

「だよな!だよな!でもな、俺はちょっと本気で心配してた。」

 

ダッカーと呼ばれたニット帽がそう言うとキリト以外のメンバーが笑いを起こす。

キリトもその空気につられて苦笑いを含めながら笑う。

 

・・・・なるほどな。

キリトが何故このギルドに入ったか分かった気がした。

死が間近にあるこの世界でこのアットホームな雰囲気はとても珍しい。

 

「良い人たちですね。」

 

他人の心情を読むのがとても上手いコロルも自然と微笑みながら俺に小声で言ってくる。

 

「あぁ。」

 

このゲームでは不謹慎かもしれないが、彼らはこのゲームを楽しんでいるように見える。

もし、彼らが最前線まで上がってくれば閉鎖的な攻略組の空気を変えることができるだろう。

 

「改めて紹介するよ。メイス使いのテツオ、ソード使いでお調子者のダッカー、槍使いのササマル、そして、盾持ちの片手剣に転職中のサチだ。」

 

「よろしく!!」

 

「よろしくです。」

 

そう言って彼らは各々の俺に挨拶をしてくる。

ダッカーは俺に手を差し出し、笑顔で握手を求めてくる。

 

俺は苦笑いを浮かべながらも軽く握手をする。

 

「・・・・ハチだ。」

 

軽く自己紹介だけを済ませ、このリア充空間から脱しようとするが後輩'sがそれを阻止する。

 

「せぇーんぱい?私たちの紹介はしないんですかぁ?」

 

「俺とお前はそんなに仲良くない。紹介して『え?知り合いだと思ってたんですかぁ?キモーい!』とか言われて傷つくからしない。」

 

「うっわ、なんですかそれ?私の真似ですか?キモいのでやめてください。」

 

・・・・八幡の心はガラスなんだよ?すぐに割れちゃうんだよ?

そして結局キモいって言われるのかよ。

 

「私はコロルって言います!せんぱいの――――か、の、じょ!です!!」

 

キャルルン♪という効果音が出るくらいのあざとさMAXの表情でコロルはそう言い放つ。

 

 

 

 

 

――――は?

 

 

 

 

 

 

チョットハチマンナニイッテルカワカラナイ。

 

「ちょっとコロル!?抜け駆け禁止!!え、あ、ハチさんの――――か、か、かか彼女のシリカです!!」

 

顔を真っ赤にして噛みまくるくらいなら言わなくて良いんですよシリカさん。

てか、何言ってんのコイツら?

 

「・・・・ハチ、三股は、ちょっと・・・・。」

 

「いや、真に受けんなよ。コイツらが俺をからかってるだけだ。てか、三股ってなんだよ。もしかしてアスナも入れてるんじゃねぇだろうな?」

 

「え?違うのか?」

 

「・・・・断じて違う。」

 

 

 

閑話休題。

 

 

 

話がややこしくなり、弁明するのに数分の時間がかかった。

不服そうにしているコロルにゲンコツを入れておきたい所だがこんな所で攻撃してしまうとオレンジアイコンに変わってしまうためそれができない。

クソ、全部茅場晶彦(クソ運営)のせいだ。

 

そんな責任転嫁を終えたところで話を戻す。

 

「ハチがパーティとはな・・・・。世の中何が起こるか分からないもんだな。」

 

「それはこっちのセリフだ。お前こそギルドとか似合わねぇよ。」

 

ぼっち同士の悲しい罵り合いをする俺たち。

それを他所にコロルとシリカはサチと呼ばれた少女と仲良く話をしている。

 

SAOでは女性プレイヤーはとても珍しいため、必然と仲良くなるのだろう。

 

そうこうしているうちになぜか俺たちは共に迷宮区を練り歩くことになった。

 

先頭でトラップの有無を確認するのが片手剣使いのダッカー。

その後ろに前衛としてシリカ、コロル、サチ。

中衛としてテツオとササマル。

後衛並びに殿として俺とキリトが並んで歩いている。

 

何回かモンスターとの戦闘はあったがこの人数で居ると軽く対処できた。

 

俺としてはこんな大所帯で行動するのは初めてなので帰巣本能を発揮させ、しれっと帰ってやろうかと思い始めた時に事件は起こる。

 

「・・・・お!」

 

ダッカーが何かを見つけたようで迷宮区の壁に手を触れる。

起動音のような音を立てながら扉が奥に沈み扉が現れる。

 

・・・・隠し扉だと?こんな所に?

すでに攻略された迷宮区とは言え、まだ未探索エリアは多い。

しかし、情報屋のガイドブックにすら載っていないこの扉は怪しすぎる。

 

「トレジャーボックスだ!うっひょー!」

 

隣のキリトも同様の反応のようで唖然としている。

そうこうしているうちに部屋の奥に宝箱を見つけたダッカーが嬉しそうに中に入っていく。

 

「――――お、おい!」

 

単純な仕掛けの隠し扉。

大部屋の中央にポツンと置かれたトレジャーボックス。

そこから導き出される答えは一つ。

 

「――――キリト!!」

 

「分かってる!!ダッカー!待て――――」

 

俺とキリトが駆け込んで部屋に入った瞬間、ダッカーはトレジャーボックスを開けてしまった。

 

ビー!ビー!ビー!

 

すると不気味な警報音と共に部屋が赤く染まる。

部屋の所々の壁が開き、中から数十体のモンスターがわらわらと溢れ出てくる。

後ろを振り返ると俺たちが入ってきた扉は固く閉ざされている。

最悪のパターンだ。

 

トラップ形式のモンスターハウス。

SAOで遭遇したら生き残る確率は・・・・低い。

 

「クソ!!コロル!シリカ!転移結晶を使え!」

 

「は、はい!!」

 

慌てた様子でシリカが転移結晶をポーチから取り出す。

 

「転移!《タクト》!!」

 

しかし、発動コマンドを叫ぶが結晶はうんともすんとも言わない。

他のメンバーも何度も叫ぶが、転移が起こる気配すらない。

 

「――――どういうことだよ!?」

 

俺たちはどうやら最悪中の最悪を引いてしまったようだ。

ここは結晶無効化エリア。

回復結晶も転移結晶も使えない、完全初見殺しのトラップ。

 

――――慌てるな。冷静になれ。

 

ここで焦りを見せて慌てればそれだけ生き残る確率が減る。

俺は剣を鞘から抜き取り、構える。

 

「俺とキリトが先頭に出る!!お前らは固まって背後を取られないように互いを守れ!!」

 

「は、はい!」

 

キリトもすでに抜刀しており、ソードスキルで次々とモンスターたちを蹴散らしていく。

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、話は冒頭に戻る。

大混戦のモンスターハウス。

前後左右から次々と攻撃が襲いかかり、回避するのすら億劫になってくるレベルだ。

 

「――――きゃあ!」

 

「サチ!!」

 

近くモンスターは出来る限り蹴散らして居たが後方の低レベル組の方にも流れ込んだようだ。

陣形を崩されてしまい、サチやコロルたちの悲鳴が後ろから聞こえる。

 

「シリカ!コロル!無理するな!!壁を背にして回り込まれないようにするんだ!!」

 

「は、はい!!」

 

「キリト!!早く援護に行け!!ここは俺がなんとかする!!」

 

「――――あぁ!!」

 

左上のコロルたちの体力ゲージを見る限り、持ってあと10分ほど。

俺とキリトはより多くのモンスターを斬り倒すため無茶な攻撃をしているためHPもそれなりに減っている。

 

――――出し惜しみはできない。このままでは誰か死ぬ。

 

《クイック・チェンジ》を用いた変則戦闘。

こんな大混戦で使えるとは思えないが、全力で当たらなければ――――全滅してしまう。

俺は次々と武器を持ち替えながらモンスターを消滅させていく。

 

俺はソードスキルでの対応が出来ないので確実にクリティカルを狙っていく。

 

「うぉぉぉおおおっ!!!」

 

そして・・・・戦闘が始まって30分ほど経過し、地獄のような戦いにも終わりがやってくる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・おわっ、たのか?」

 

モンスターハウスには既に敵は1匹足りともおらず、俺たちの息遣いだけが響いていた。

俺はドサッと尻餅をつき、大きな溜息を吐く。

 

「はぁ・・・・生き残っ、た。」

 

今回は本気でヤバかった。

俺とキリトはレベル的にソロでも生き残れたかもしれないが何より低レベル組が死ななかったのはデカイ。

 

仲間の死、なんて見たくなかった。

ディアベルの時でさえ、あんな衝撃を受けたんだ。

 

「キリト、お前には言いたい事は山程あるが・・・・。」

 

「分かってる・・・・ちゃんと、あとで説明するよ。」

 

キリトも荒い息遣いをしているが、何より仲間の死が無かったことに安堵しているようだった。

 

「せんぱい〜・・・・今回は本当に怖かったです。」

 

「うぉっ――――まてまてまてまて!?」

 

すると泣きそうな顔で突然抱きついてくるコロル。

引き剥がそうとするが女子とは思えない筋力値により抱きついているため引き剥がせない。

 

軽く溜息を吐き、軽く頭を撫でる。

 

「・・・・生きててよかったよ、一色。」

 

・・・・つい本名で言ってしまったが周りには聞こえてない・・・・はず。うん、大丈夫。

俺の胸に顔をうずめているので表情は見えないが身体が軽く震えているので本当に怖かったのだろう。

 

「・・・・ずるいです。本当にせんぱいはずるいです。」

 

何がずるいのだろうか?

とにかく混乱しているコロルを落ち着かせるため何度も優しく撫でる。

 

・・・・っは!?これってヤバいやつ?

 

精神的に来て、遠い何処かにトリップしていたであろう自我をなんとか元に戻し、コロルをなんとか引き剥がす。

なんだか不服そうな視線をぶつけられた。

俺に撫でられたことがそんなに嫌だった?

 

「キリト!!」

 

疲弊しているであろうダッカーが声を上げて立ち上がった。

 

「・・・・お前、なんであんなにも強かった?・・・・俺たちを騙してたのか?」

 

「ダッカー・・・・。」

 

不穏な空気が流れる。

ここで俺のとある疑問が解消する。

 

何故、キリトは彼らに対して負い目のようなものを感じていたのか。

それはきっとキリトが本来のレベルを隠していたからだろう。

 

しかし、この戦闘で彼らはキリトのレベルは自分たちを遥かに上回ることを実感したのだ。

 

「あの強さは・・・・攻略組だ。ならこのトラップだって知ってたんじゃないか!?知ってて・・・・俺たちを、罠に嵌めたのか?!」

 

PKの中でも自分の手を汚さない悪質な部類に入るモンスター(M)プレイヤー(P)キル(K)

ダッカーはキリトがそれを行なったのではないかと疑っているのだ。

 

「ダッカー・・・・き、キリトだって事情があったんじゃ・・・・?」

 

テツオはなんとかダッカーを宥めようとするが、キリトに対しての疑惑が消えきってないため、苦い表情を浮かべている。

 

「・・・・ち、違うんだ、ダッカー――――「言い訳なんて!!聞きたくない!!!」・・・・違う、んだ・・・・。」

 

キリトは必死に抗弁しようとするが、ダッカーは聞く耳を持たない。

 

「最初から俺たちギルドの《共有ストレージ》に入ってるアイテムが狙いだったのか!?頭が良いケイタが居なくなったのを見計らって行動に移したのか!?答えろよ!!キリト!!」

 

「ダッカー!?」

 

ササマルとテツオの制止を振り切ってダッカーはキリトの胸ぐらを掴む。

キリトは口を何度も開こうとするが自分のしてきた事に負い目を感じて何も言えなくなっていた。

 

「・・・・マズイ、ですね。」

 

シリカは俺の袖を掴み、そう呟いた。

ここでキリトを弁護するようなことを言っても焼け石に水だ。

逆に俺たちも共犯として疑われる可能性がある。

いくら思考を巡らせてもこの状況を打開する言葉は・・・・出てこなかった。

 

「やめて!!!!」

 

不穏な空気を破ったのはサチの悲鳴にも近い悲痛の叫びだった。

 

「キリトが・・・・キリトがそんなこと、するわけないよ・・・・。」

 

今にも泣きそうな震えた声でサチは言う。

 

「キリトが強いのは・・・・私は知ってた。ごめんね、一回ステータスウィンドウ覗いちゃったの。」

 

サチから衝撃の一言が放たれる。

キリトの実力をサチは知っていたのだ。

ということは疑って当たり前のことを疑わずキリトを信じて、黙っていたということだ。

 

「キリトのステータスなら、こんなまどろっこしいことしなくても簡単に・・・・できたと思う。でも、キリトはいつも私たちのことを守っててくれた。・・・・キリトはそんなこと、する人じゃないよ・・・・。」

 

涙を堪えながら必死にサチは言葉を紡いでいく。

彼女は心の底からキリトのことを信頼していたのだ。

 

「私、いっぱい考えたんだよ?なんでキリトはこんなに強いのに、私たちのことを助けてくれるんだろうって・・・・考えても、考えても分からなかった。でも、一つだけは分かったの・・・・キリトはレベルも低くて、頼りない私たちを助けてくれてる。・・・・それだけじゃあ、足りないの、かな・・・・?」

 

サチの悲痛の訴えはダッカーに届いたようで、ダッカーはキリトの胸ぐらをゆっくりと手放す。

 

「ありがとう・・・・サチ。でも、俺が嘘をついてたことには変わりないよ。ダッカー、本当にすまない。でも、これだけは信じてくれ。・・・・俺は、君たちとただ一緒に居たかっただけなんだ・・・・。」

 

ポツリ、ポツリとキリトは語り出す。

何故自分が《月夜の黒猫団》に入ろうと思ったかを。

 

「君たちのアットホームな雰囲気が好きだったんだ。君たちと一緒に居れば、辛いことも苦しいことも共に乗り越えれると思ってた。・・・・でも、俺が嘘をついた時点でそこに《本物》は無かったんだよな。・・・・《偽物》の、関係性だったんだよな・・・・。」

 

歯を喰いしばり、自分の行動を戒めるようにキリトは言った。

 

「――――違う。」

 

俺は、ゆっくりと口を開いた。

無関係の俺がいうのは間違ってる。

そんなことは分かっている・・・・でも、ここで言わなきゃ俺が俺を許せなくなる。

皆が注目する中、俺はゆっくりと口を開く。

 

「それを、許容できる関係性が《本物》なんだよ・・・・。嘘をつくってことは自分を守るための自己満足だ。」

 

しかし嘘というのは自分を欺き、他人をも欺く。

でも、俺たちはその真実を知りたい。

それが残酷であろうと、知って安心したいのだ。

何故なら・・・・分からないことはとても怖いことだから。

完全に理解したいなんて、酷く独善的で、独裁的で傲慢な願いだ。でも――――

 

「――――でも、その醜い自己満足を許容できる関係性があるなら・・・・それは・・・・《本物》だと俺は思う。」

 

つまり、これからなのだ。

キリトと《月夜の黒猫団》の関係性はここから始まるのだ。

 

「そ、そうだよ!ダッカー!俺たちの関係はこれからなんだ!・・・・ちゃんと、話し合おう。ケイタもキリトもみんなも含めて俺たち《月夜の黒猫団》だろ?」

 

テツオはそう言いながらダッカーの肩に手を置く。

ダッカーは少し目を逸らすが、どこか安心したような表情を浮かべている。

 

彼も迷っていたのだ。

キリトを含めた関係性が、好きだったのだ。

しかし、疑わなければ誰かが死んでしまうかもしれない。

その行き先に《本物》は無くても守りたいものを守らなければならないからだ。

 

「・・・・ごめん、キリト。頭に血が上ってたよ。ちゃんと話し合おう。そして、俺たちの関係をやり直そう。」

 

「あぁ・・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、キリトは俺の所へ事の顛末を伝えにやってきた。

関係者ではないとはいえ、巻き込まれたことは変わりないため、説明をしに来たのだ。

 

「結局、《月夜の黒猫団》は脱退したよ。」

 

「そうか・・・・。」

 

キリト曰く、嘘を付いていたことには変わりないとしてケジメをつけたかったらしい。

そしてあの場に居なかったギルドリーダー含め、皆キリトに頼りっぱなしなのは申し訳ないとのこと。

 

いずれ、自分たちの実力だけで攻略組に追いついた際に改めてキリトをギルドに誘うらしい。

 

「ま、良かったんじゃねぇの?本当にお前が欲しかったものは・・・・手に入ったんだろ?」

 

「あぁ。」

 

キリトはギルドを脱退したとはいえ、どこかスッキリしたような表情を浮かべていた。

 

「・・・・それより、ハチ。お前なんでそこで寝てるんだ?」

 

そう言われた俺の姿勢はソファーの足元でうつ伏せで寝っ転がっている。

 

「いや、これは深いわけが・・・・。」

 

そう、今の俺はアイデンティティクライシスなのだ。

柄にもないことを知らない奴に向けてめっちゃ真剣な表情で話したのだ。

 

あぁ、思い出しただけでも恥ずかしい。

恥ずかしい・・・・!!

なんだよ!?《本物》って!?

過去に戻って自分をぶん殴ってやりたい!!!

助けてキリエもん!!!

 

結局、俺は自分の黒歴史に新たな1ページを刻んだだけだったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




また長いのを書いてしまった。

後半端折り過ぎた感が否めない。

1話完結形式は止めようかなと思うこの頃。

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