斯くして比企谷八幡は仮想現実にて本物を見つける。   作:ぽっち。

8 / 14
私が一瞬確認した時に日間ランキング10位・・・・?

週間ランキング51位・・・・?

一体何が起きてるんだ?

とにかく嬉しい。
才能のカケラもないクソ駄文の小説ですが、ごゆっくりお楽しみください。


第8話

 

途方も無い犠牲を強いて未だに終わりを見せないデスゲーム、《ソードアート・オンライン》が始まり、早1年が経とうとしていた10月のとある日。

 

攻略の最前線はすでに第49層となっており、攻略終了まで残り半分を切ろうとしていた。

 

俺は現在、第25層のとある宿屋に泊まって居る。

この宿屋は少し高めの値段設定だがその代わりにリビングと寝室、オープンキッチンも備え付けの宿だ。

とはいえ、キッチンを使っているのは基本時に俺ではないのだが。

そんな俺の宿に珍しい人物が訪れる。

いや、そもそも俺の部屋に訪れる人はいないので珍しく人物が訪れる、か。

 

「・・・・珍しいよな。お前から俺を訪ねてくるなんて。」

 

「そう言われればそうだナ。」

 

俺の部屋に訪れたのはSAO随一の情報屋《鼠》の異名を持つ女性プレイヤー、アルゴ。

迷宮区のマップ提供や情報収集のため月に一度くらいは会っていたがこうして俺の宿屋にまで来るのはとても珍しいことだった。

 

「・・・・また女の知り合いが来た!?って思ったらアルゴさんでしたかぁ。」

 

「私も思ったよー。でも、アルゴさんならなんだか安心するんだよね。」

 

「コロちゃんも、シーちゃんも久しぶりだナ。元気にしてたカ?」

 

「はい、お陰様で♡」

 

「はい!」

 

俺の部屋に何故かしれっと居るのがここ最近ずっと共に行動をしているシリカとコロルだ。

25層の方にホームを移してからというものの寝るとき以外はいつも俺の部屋に居る。

 

「クカァー・・・・。」

 

「相変わらず、ピーちゃんは可愛いナァ。」

 

「クアッ!」

 

シリカの膝の上に乗っている青い毛並みを持つフェザーリドラ。

この見ていて癒されるモンスターは以前、シリカが偶然テイムに成功したモンスターだ。名前はピナ。

リアルで飼っている猫と同じ名前なんだと。

 

そもそも攻略に必要ない情報は集めない俺はこのSAOでモンスターがテイムできることをシリカがテイムした事で初めて知ったわけだが・・・・それなりのAIが搭載されているようでなかなか有能なわけだこれが。

 

主人やそのパーティメンバーが一定量のダメージを負えば回復効果のある吐息を吹きかけてくれる。

更にモンスターのヘイトも集めてくれるため、連携した攻撃がしやすいなどメリットがたくさんだ。

 

だが、何故か知らないが俺は嫌われている。

まるで現実世界の飼い猫であるカマクラを連想させる無視っぷりだ。

同じパーティメンバーなのにガン無視だ。回復どころかたまに噛み付いてきやがる。

 

「で?世間話しに来た訳じゃ無いだろ?」

 

「アァ、そうだっタ。」

 

逸れかけていた話題を元に戻すとアルゴはケラケラとした表情から真剣な表情へと切り替えて、本題を話し始める。

 

「実はハー坊に依頼があってきたんダ。」

 

「依頼?いつもの護衛か?」

 

俺はたまにアルゴからの依頼は何度か受けていた。

アルゴは情報屋としてのスキルしか上げていないため、正直いうと戦闘向きではない。

とは言え、最新の情報や皆が欲しがる情報は最前線にあることが多いためアルゴのステータスレベルでは攻略できないクエストも多々ある。

その場合、信頼でき、なおかつ強いプレイヤーに護衛と称して依頼をしにくることがたまにある。

 

俺やキリトも何度かアルゴの依頼を受け、クエストを手伝ったこともある。

 

「確かに護衛みたいなものだガ・・・・少し毛色が違ウ。」

 

意味深な言い方をしながらアルゴは少し目を逸らす。

 

「・・・・なんだかめんどくさそうだな、断る。」

 

「せめて内容を聞いてからにしロ。・・・・じゃないと女2人と同居してるってアーちゃんに言いつけるゾ。」

 

「・・・・何故かは知らんが怖いからやめてくれ、いや。ください。」

 

最近この手でいつも脅されている気がする。

 

「で?どんな内容なんだよ。」

 

「そうだナ・・・・ハー坊は笑う棺桶(ラフィン・コフィン)は知ってるだロ?」

 

その発言により、弛緩していた空気が一気に引き締まる。

 

「・・・・知らない奴は、居ないだろ。」

 

このSAOに名を轟かせる悪名高いギルドがある。

笑う棺桶(ラフィン・コフィン)。通称ラフコフ。

彼らは平然とこのSAOでPKをしている。

それどころかPKを楽しんでやってるイカれている連中だ。

好んで殺人をしている《レッドプレイヤー》の集まる《レッドギルド》。

恐らくこのSAO内でその名を知らない者は居ない。

 

システムの様々な抜け道を見つけ出し、ありとあらゆる方法でプレイヤーを(キル)している。

現在、アスナが副団長として所属しているトップギルド《血盟騎士団(KoB)》を始めとし、様々なトップギルドがその所在の在り処を捜索している。

 

「情報によればその《ラフコフ》の幹部の1人がとあるオレンジギルドを仕切ってるらしいんダ。その調査を一緒に行ってもらいたイ。」

 

「・・・・一応聞くが、なんで俺なんだ?」

 

「オレっち以外で《隠蔽スキル》がバカ高くて、戦闘力があるプレイヤーはハー坊だけだからナ。」

 

「キリトもそうだろう。」

 

「そうなんだが・・・・キー坊はダメだ。」

 

「あ、あの!理由を聞いても・・・・?」

 

話から外れられたと感じたのか、シリカが慌てたようにアルゴに問いただす。

アルゴはゆっくりとその理由を述べてくれた。

 

「・・・・キー坊は優しすぎるのサ。いざという時、キー坊じゃあ人を斬れないからダ。その点、ハー坊は、斬れる。」

 

その発言を聞き、最初に反応したのはコロルだった。

ソファーの前にあるテーブルをバンッ!!と強く叩き、敵意のある視線でアルゴを見つめる。

 

「・・・・それは、せんぱいに人を殺せ、と言ってるんですか?」

 

「チガウ、落ち着けコロちゃん。・・・・万が一、オイラたちが見つかった場合、の話ダ。モチロン、見つからないように最善は尽くすサ。」

 

「それでも!私は納得できません・・・・!それならせんぱいじゃなくても良いじゃないですか!?」

 

「コロル・・・・落ち着け。」

 

「でも・・・・!!」

 

俺は声を荒げるコロルの肩に手を置き、落ち着かせる。

 

「アルゴ・・・・その依頼、受けさせてもらう。」

 

「せんぱい!?」

 

「ハチさん!?」

 

「・・・・本当に良いのか?」

 

アルゴは最終確認を取るため、再度俺に問いかける。

 

「ラフコフを壊滅させるには必要なことなんだろ?」

 

「そうダ。」

 

「それなら、俺は守りたいものの為に戦う。いずれこんな事は起こるとは予想はしていた・・・・覚悟は決めてる。」

 

人を斬る覚悟を。

この世界でプレイヤーを殺す、という事は殺人を犯すと同意義だ。

 

しかし、それに怯えていては本当に守りたいものを守れる訳がない。

俺が守りたいのは・・・・俺自身と俺の周りにいる奴らの日常だ。

 

この世界で好んで殺人を犯している奴らに与える慈悲などあってはならない。

・・・・それが身の回りに火の粉として降りかかるのならば尚更だ。

 

「それなら・・・・私も行きます。《隠蔽スキル》も最近MAXになりましたから。」

 

「コロル!?」

 

「お、おい。」

 

「・・・・良いんだナ?コロちゃん。」

 

止めようと思ったが、コロルはいつもは見せない真剣な表情を浮かべて軽く頷いた。

 

「はい。・・・・私だって覚悟はしてました。」

 

「シーちゃんはどうする?」

 

「・・・・私は、怖いです。」

 

手を震わせ、下を俯くシリカ。

 

「その感情は、間違ってないゾ。・・・・人として当然の感覚ダ。」

 

俺は・・・・もしかしたらどこか欠如してしまってるのではないだろうか。

正当防衛という大義名分の元で大切な人を守るためにだったら人をも殺す。

それは間違ってはいないのかもしれないが、今まで培ってきた法律や常識が拒否感を煽ってくる。

そんな答えの無い問題を解かなければならない俺は上を向き、答えの出ない思考を巡らせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルゴから依頼を受けた、その日の夜。

俺は宿屋にあるベランダから空を見上げていた。

別に黄昏ているとか、カッコつけているとかではない。

ただ、何も考えずにぼーっと見れる場所が欲しかっただけだ。

 

アインクラッドの空は不思議なことに月明かりがあったり、星が見えたりとするのでここが宙に浮かぶ鋼鉄の城ということは忘れてしまうことはよくある。

 

見慣れた星座はあるわけもなく、無秩序に光の粒が点々としているだけの夜空。

階層によってはこれが雪景色に変わったり、蛍のような小さなモブによって幻想的な雰囲気を醸し出している場所もある。

 

そんな空を眺めているうちに自我が戻ってくるかのように先ほどまでしていた葛藤が蘇ってくる。

 

――――明日、俺は人を殺してしまうかもしれない。

 

淀んだ薄暗い感情が俺の心を支配する。

 

誰かを殺す、なんて事は本当の最終手段でしかない。

殺してしまう可能性の方が低いのだ。

 

なんせ相手は《オレンジギルド》であり、プレイヤースキルやレベルで見れば中層プレイヤーと何ら変わりわない。

 

下手したら5、6人に囲まれて攻撃され続けても《戦闘時回復(バトルヒーリングスキル)》で賄える量かもしれないからだ。

 

それならば相手の戦意を削ぐことも可能だろう。

 

しかし、1番の懸念はその《オレンジギルド》を指揮していると言われている、ラフコフの幹部だ。

 

ラフコフは正直、メンバー構成や人数、誰が所属しているかというのはほとんどわかっていない。

分かっているメンバーは3人。

 

赤目のザザ、毒使いのジョニー・ブラック・・・・そして、リーダーのPoHの3人。

 

この3人は基本的に表舞台には出てこないものの狂人的な殺害意欲があるため、注視されている人物たちだ。

情報屋や攻略組の有志の調査隊により、ようやく掴んだ情報らしい。

 

この3人か、それ以外の幹部が明日向かう場所に居るのかもしれない。

 

そんな想像をしてしまうと元々の俺の姿である小心者で臆病者な比企谷八幡が出てきてしまう。

 

「・・・・クソ。」

 

行き場のない憤りを言葉にして吐き出すが、なんら効果は見られない。

結局のところ、このSAOで強いのは俺じゃなくて・・・・《Hachi》なんだ。

比企谷八幡と《Hachi》は違う存在なんだと、この一件で痛感した。

 

すると、後ろの扉からコンコンっと小さなノックが聞こえる。

 

「・・・・どうぞ。」

 

ゆっくりとドアノブが周り、扉が開かれる。

そこには可愛らしいパジャマ姿のコロルの姿が立っていた。

 

「せんぱい・・・・隣、良いですか?」

 

不安を隠しきれない様子で立ち止まるコロル。

いつもならあざとさが滲み出て、嫌味の一つでも言いたくなってしまうのだが・・・・今日はいつもと様子が違う。

 

「・・・・あぁ。いいぞ。」

 

小さな声で許可をするとゆったりとした、どこか重みがある足取りで俺の隣へとやってくる。

 

「・・・・寝れないのか?」

 

「えへへ・・・・そうなんですよ。覚悟は・・・・決めていたはずなんですけどね。せんぱいもですか?」

 

「あぁ。・・・・実のところ、ビビりすぎてトイレにも行けないレベルだ。」

 

SAOではトイレに行く必要はないが・・・・寝れないのは本当だ。

少し場を和ませようと言った冗談は実に俺らしくない一言だった。

 

「意外ですね。せんぱいなら強がってカッコつけるのかと思いました。」

 

「お前は俺をなんだと思ってんだよ・・・・。俺だって怖いものは怖い。トマトとか超怖いし。」

 

「それはただの嫌いな食べ物じゃないですか・・・・ふふ、なんだか元気が出ました。ありがとうございます。」

 

どこか暗い表情でもコロルは優しい笑みを浮かべた。

すると、コツン、とコロルが俺の肩に頭を軽く載せるように寄りかかる。

 

「こ、コロル?」

 

SAOは変なところを忠実に再現してやがる。

コロルから伝わる安心を与えてくれる人肌の体温、女子特有の甘さを含む穏やかな香り、俺に寄りかかるコロルの華奢な体躯すら感じ取れる。

 

「せんぱい・・・・なんで、彼らは人を、プレイヤーを殺すんですかね。」

 

コロルが投げかけてくる問いに、俺はすぐに反応することは出来なかった。

人が人を殺す理由・・・・そんなものは数多にあり、そして理解し難く共感してしまうような、論理的思考とは真逆の存在だ。

 

「・・・・俺には、分からない。でも、アイツらはある意味、ゲームと現実の区別ができてるんだよ。」

 

「どういうことですか?」

 

「俺たちにとってこの世界は・・・・《本物》だ。でも、アイツらにとっては悪役を演じることができるゲームの中の世界なんだよ。だから、戸惑うことなく人を斬る。殺すことに快感を得ているのかもしれない。理解は・・・・したくないがな。」

 

このSAOのプレイヤーの中には少数だが、未だにこの世界の死=現実の死と結びつけていないプレイヤーがいる。

もしかしたら、死ぬことがログアウト条件だったりするかもしれない・・・・。

 

だが、今の俺たちにその真偽を確かめる術はない。

 

「この世界を最も楽しんでる人が・・・・殺人鬼って、茅場晶彦は本当にそれを望んだんでしょうか?」

 

「・・・・さぁな。」

 

そんなものは考えても考えても、出る答えはない。

だが、茅場晶彦はきっと・・・・この世界で必死になって生きていく俺たちの姿を見たかったのだろうか。

 

すると、もたれかかっていたコロルからすーすーと寝息が聞こえてくる。

・・・・おい。

 

「コロル?コロルさーん?一色さーん?いろはすー?」

 

何度も呼びかけるが返事はない。

聞こえてくるのは規則正しい寝息。

首だけ動かして見れば、あざとさの一片もない可愛げのある無垢な寝顔と安心したように少し微笑みながら寝ていた。

その顔に少し見惚れてしまい、俺は顔を赤く染めながら視線を外す。

 

視界の端に表示されている時間を見ると深夜2時。

そりゃ寝るのも仕方がない時間だ。

でも、俺を枕にして寝落ちしないで欲しいんですが・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日、俺は目を覚まして最初に目に入ってきたのはテーブルの脚だった。

 

あの後、コロルが寝落ちしてしまい部屋に連れて行こうとするが律儀に扉をロックしてくれていたおかげで仕方なくコロルを俺の部屋で寝かせた。

 

かと言って隣で寝るなんて度胸のあることがこの八幡にできるわけもなく・・・・リビングのソファーで寝ていたのだが、どうやら寝相が悪く落ちてしまったようだ。

現実世界ならば痛みで目が醒めるところだが、この世界には痛覚がない為、仕方がないと言えるだろう。

その分、ソファーで寝ようと床で寝ようと身体は痛くならない。

 

少し睡眠不足でぼーっとしているところにコンコンっと扉をノックする音が聞こえる。

 

「どぅぞー・・・・。」

 

かと言ってすぐに目が醒めるわけではない為、少し掠れた声で入室を許可する。

扉が開くとそこには可愛らしいお髭がチャームポイントと公言しているアルゴかいた。

 

「お寝坊サンダナ。昨日は寝れなかったのカ?」

 

「ふぁ〜・・・・あぁ、お陰様でな。んで、依頼の詳細だったな?ちょっと待ってくれ、着替えてくるから。」

 

「あぁ、ゆっくりしてくレ。・・・・それよりハー坊、コロちゃんを見なかったカ?部屋には居なかったんダ。」

 

「え・・・・?部屋にいなかった――――っ!?」

 

寝ぼけていた頭が一気に覚醒する。

今、隣の部屋の寝室にはコロルが寝ているはずだ。

この噂好きで人をからかうのが好きなアルゴにこの事実を知られれば今後そのネタで弄られることは間違いない。

マズイ、どうする!?

そ、そりゃあ、別にやましい事なんて一切してないけど!

 

ガチャ

 

あ・・・・

 

「せんぱい・・・・どこですかー・・・・」

 

完全に寝ボケた様子でパジャマ姿のまま現れるコロル。

 

「あれ?アルゴさん?何でここに?」

 

アルゴはコロルの姿を見て、数秒の停止のあとギギギっと音が鳴りそうな動きでこちらを見てくる。

 

「ハー坊・・・・オマエ・・・・」

 

「ち、違う!!断じて違う!!」

 

「アーちゃんだけじゃ、飽き足らずコロちゃんまで・・・・。」

 

こうして俺はこの誤解を解く(終始疑いの目だった)のに30分。

 

アスナにこの出来事を売ろうとするので口止め料として1万コルを支払う羽目になったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うー最悪です、せんぱいに寝顔見られるとか・・・・。」

 

「悪かったな、俺で。」

 

顔を真っ赤に染め上げながら、コロルは手で顔を覆い隠しながらそう呟いた。

 

「だって、せんぱいですよ?1番見られたくない人に見られた・・・・最悪の気分です。」

 

あのコロルさん?言い過ぎじゃあないですかね?

八幡の心はガラスなんですよ?

 

「別にそんなに気にすることじゃないだろ?たかが寝顔くらい。」

 

「・・・・え?なんですか、寝顔見たから彼氏ヅラしてるんですか?そういうのはちゃんとした手順をしてからしてください正直言って気持ち悪いですごめんなさい。」

 

「・・・・また振られちゃうのかよ。」

 

告白をしていないのに俺はコロルに何連敗すれば良いのだろうか。

でも、このやり取りができるということはそれなりに調子が戻ってきたということか。

 

あの後、何とかアルゴとの話し合い(交渉)を終え本来の目的である《オレンジギルド》の調査について説明を受けた。

 

標的であるオレンジギルドの名は《フレーズヴェルク》。

北欧神話に出てくる鷲の姿の巨人で古ノルド語で確か、『死体を飲み込む者』という意味。

基本的な行動はグリーンカーソルの仲間のプレイヤーが獲物を選出。

獲物を指定したポイントに誘き寄せ、オレンジカーソルの仲間で一斉に襲いかかるという至って良くある手法を用いたやり方だ。

 

とはいえ、これは人の信頼を逆手に取ったとても悪質なものであり、許されることではない。

 

ちなみに先週の『Weekly Argo』にはこのPK手段の特集が組まれていたりもする。

 

そんな思考を巡らせている俺は現在、第19層の主街区《ラーベルク》の転移門広場の前で張り込みをしている。

《ラーベルク》の特徴は街のどこも扉を閉め、NPCすら歩いていないゴーストタウンのような場所だ。

中層プレイヤーの主な活動場所になっているが、場所が場所のため、自然と人気が少ない。

 

俺たちの今回の目的と相成って心なしか、どこか不気味な雰囲気を出している。

 

「んにしても、本当にここに拠点があるのかよ?」

 

「それの真偽を確かめるためもあるんダ。・・・・木を隠すなら森の中、怪しいプレイヤーを隠すなら怪しい街ってわけサ。」

 

確かに人気がないこの階層を潜伏先にすることによってカモフラージュしているのだろうか?

怪しい街で怪しい行動をしても不思議と普通に見えてしまうからな。

 

ちなみに余談だが、ここは人気が少ないので俺はここを勝手に『ぼっちの聖地』と心の中で勝手に呼んでいる。

聖地なのだから住むべきだと思い、ホームとして拠点を構えようとしたらシリカとコロルに猛反対されたのもいい思い出だ。

 

「来たゾ。」

 

アルゴがそう呟くと弛緩していた空気を引き締め、転移門を方角を覗き込む。

すぐさま《隠蔽スキル》を選択し、完全に隠れる。

スキルレベルMAXの俺たちを見つけることができるとしたら《索敵スキル》をレベルMAXにしなければならない。

中層プレイヤーほどのスキルレベルを持った彼では見つかることは皆無だろう。

それこそ、目の前を通り過ぎても気づかないほどだ。

 

転移門から淡い光が消えるとそこには黒色のポンチョを被ったプレイヤーが姿を現した。

・・・・いや、本当に怪しすぎだろ。

 

ポンチョのせいで装備品は殆ど見えない。

どんな武器を装備しているかも不明だ。

 

「集めた情報によるとアイツが《フレーズヴェルク》の選出役の《ブラスト》だ。」

 

と、アルゴはご丁寧に小声で必要最低限の情報を教えてくれる。

 

黒ポンチョのカーソルは緑色。

というか、緑色じゃないと街には入れないため当たり前か。

オレンジカーソルの場合、街に入ろうとすると何処からともなくフロアボス並みの強さのを持つ衛兵が現れて追い返してくる。

その強さからプレイヤーの間で『もうオマエたちが攻略してくれ』と囁かれているとか。

 

そんなどうでもいい余談を頭の中でしているうちに黒ポンチョは行動を開始する。

 

「行くゾ。」

 

アルゴの指示に俺たちは無言でコクリと頷く。

ここに来るまでの足取りは重いものだったが、一旦スイッチが入ると素直に動き出す。

尾行している間の標的である黒ポンチョは実に挙動不審だった。

 

周囲を警戒してか、常にキョロキョロと辺りを見渡したり、途中で立ち止まりウィンドウを開いては密に連絡を取っているように見受けれた。

度々こちらの方を見てくるので見つかってしまったかとヒヤヒヤしたが、偶然こちらを警戒しているだけのようだった。

 

それにしても、この行動は怪しすぎる。

まるで自分を尾行してくれ、疑ってくれと言わんばかりの主張の激しさ。

だからと言って何かしらの情報を掴めていない俺たちは身を引くこともできない。

 

次に彼の行動がはっきりとわかる情報を手に入れることすら難しくなってくるだろう。

・・・・待てよ?

 

「アルゴ、お前はどうしてコイツがここに来るって分かってたんだ?」

 

「情報屋はネットワークみたいなものダ。情報屋仲間から色んな情報を仕入れて繋ぎ合わせて特定したんだヨ。」

 

なるほど。

このアインクラッド で情報屋といえば《鼠のアルゴ》が最初に出てくるが、他の情報屋だっているだろう。

アルゴしか関わりないからその可能性を忘れていた。

 

「罠の可能性は無いと思っで良いゼ。オイラぐらいの情報屋じゃないと辿り着けないような細かな情報を繋ぎ合わせたからナ。」

 

シレッと自画自賛しているアルゴだが、意外にもイラっとはしない。

この世界で1番信用でき、実力のあるアルゴだからこその発言だ。

まぁ俺も心の何処かでアルゴを信頼しきっているということか。

 

そうこう変な思考にトリップしているうちに黒ポンチョはフィールドへと出て行く。

 

こんな人気のない中層エリアでフィールドに出るなどかなり怪しい。

そんな怪しさと相成って軽く霧に包まれたフィールドも薄気味悪く見えてくる。

 

「この方角は・・・・《死霊の丘》カ?」

 

「せんぱい、《死霊の丘》ってなんですか?」

 

「・・・・なんで知らないんだよ、攻略組。」

 

コロルがごく自然に俺に情報を求めてきたが、攻略組として活躍している槍使いが放つ言葉ではないのは確かだ。

 

「だって・・・・この層は不気味でキモいから殆ど足を踏み入れなかったんですよ。シリカも同意見でしたし。」

 

確かにコロルとシリカが攻略の為のレベリングを手伝っていた時にはあまり足を踏み入れなかった層だ。

その時には気付かなかったが執拗に避けていたような気がする。

まぁ場所や手順を間違えなければ触れなくても良い層なのは確かだが・・・・。

 

てか、貴女たち女子はなんでも『キモい』って付ければ良いと思ってるんですか?

まぁ、この層のモンスターはゾンビ系や死霊系統のモンスターでキモいのは多いけどな。

 

「《死霊の丘》はその名の通り、死霊系統のモンスターが多いフィールドダンジョンサ。アーちゃんは苦手だから良く攻略をサボってたゾ。」

 

この層の攻略時にアスナを見かけなかったのはそのせいか・・・・。

アイツ、虫系は大丈夫なクセにホラー系はダメなんだな。

昔の疑問が解消したところでコロルも驚いた表情をしている。

 

「あの《攻略の鬼》と呼ばれるアスナさんがサボるほどとは・・・・なるほど、だからせんぱいも避けられてるんですね。」

 

「誰がゾンビ系のモンスターだよ。さりげなくディスるな。あと、避けてるのは俺だ。」

 

俺はあの第1層攻略の際からアスナからは距離を置いている。

悪名高い《インベーダー》と呼ばれる俺が近づいて彼女の邪魔をするのは不本意なことが主な理由だが・・・・ただ気まずいというのも理由の一つだ。

 

「お喋りもそこまでにしようカ。オネーサンの前でそんなにイチャイチャされても困るからナ。」

 

「・・・・イチャイチャしてねぇよ。」

 

「イ、イチャイチャしてませんし・・・・。」

 

コロルの顔が少し赤い。なに?そんなにおこなの?

 

そんな会話をしていると《死霊の丘》に到着した。

黒ポンチョは相変わらずの挙動不審だが、ここまで来るとワザとやっているのかと疑いたくなるレベルだ。

 

軽い会話を終えた俺たちには少し余裕ができたのか、集中して黒ポンチョを尾行する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒ポンチョが《死霊の丘》に入ってから数十分。

終始挙動不審でオドオドしていた彼に少し余裕の表情が見えた。

尾行されずにここに来れた、という安心感からなのか。その表情はとても自然に見えた。

 

《死霊の丘》の中腹辺りで黒ポンチョは何も変哲も無い巨木に手を押し付けると、突如として木の幹に亀裂が入り、道ができる。

 

「――――!?隠し、部屋だと?」

 

驚きの表情を浮かべたのは仕方がないと言えるだろう。

俺の知識の中にはあんな場所に隠し部屋があるとは思わなかったからだ。

俺が知らないだけだとは思い、ふとアルゴの方へと視線を向けるがゆっくりと首を横に振る。

 

あの《鼠》のアルゴでさえ知らない隠し部屋。

ここがオレンジギルド《フレーズヴェルク》のアジトと見て間違いないだろう。

 

黒ポンチョが部屋に入ったのを確認してから俺たちは部屋の入り口へと近づく。

一定時間経つと閉まる仕組みなのか、部屋の入り口は開いたままだ。

 

「・・・・どうする?」

 

「正直言うともう少し情報を集めたイ。だが焦りは禁物ダナ。ここで一旦引き返そウ。」

 

アルゴの発言により俺たちは踵を返そうとしたその刹那、俺の直感によるなんとも言えない殺気が襲いかかる。

 

「――――っ危ない!!!」

 

俺はコロルとアルゴの首元を掴み、強引に後方へバックステップを踏む。

 

アルゴとコロルがいた場所には振り下ろされた片手剣が2本。

視界の隅に移る敵のカーソルはオレンジ色だった。

 

――――しまった、罠だったのか。

 

確実に計画性を伴った犯行。

急にバックステップを踏んだため、止まることはできず隠し部屋の方に転がり込んでしまった。

 

直ぐに態勢を整えて、装備していた片手剣を抜刀する。

コロルとアルゴも同様に武器を取り出して取り出して戦闘態勢を整える。

 

円柱型に形どられた隠し部屋の内部にはオレンジ色のカーソルを持つ人物が数人待ち構えていた。

 

その中には先ほどの《ブラスト》と呼ばれる黒ポンチョも居る。

そして、中央の深くフードを被ったオレンジプレイヤーがゆっくりと拍手をした。

 

「――――いやぁ、惜しかった、惜しかった。まさかそこで避けるとは思わなかったよ。流石だな比企谷(・・・)。」

 

俺は、言葉を失った。

目の前にいる深くフードを被ったプレイヤーはいつも呼んでるかのように俺の名前を、本名を言ったのだ。

俺の本名を知っているのはコロルを除き、アスナだけだ。

何処かでそれを聞いていたのか?それとも俺のことをリアルで知っている人物か?と思考を巡らせるが、動揺していて上手く纏まらない。

 

「――――・・・・誰だ?俺はお前のことなんて知らないが。」

 

「酷いな、俺のことを忘れたなんて。・・・・この顔を見れば分かるか?」

 

そう言って彼は深く被ったフードをゆっくりと捲りあげる。

そして、本日2度目の衝撃が俺を襲う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――葉山、先輩?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隠し部屋の中にコロルが手放してしまった両手槍の音が無情にも鳴り響いた。




ちなみに私がSAOで一番好きなキャラはアルゴ。

死亡説が噂された時は川原礫先生に泣いて抗議の電話をかけようと思った(嘘)

アルゴはSAOの二次小説を書く上で必要なキャラだと私は思った(小並感)。

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