篠ノ之箒に一目惚れ   作:ACS

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第13話

 

篠ノ之さんの相談が終わった後、部活の朝練に参加してから教室に向かったんだけど、朝のHRの時に一組の方から悲鳴の様な黄色い歓声が聞こえて来た。

 

その時は織斑先生が何か言ったのかな?くらいにしか思わなかったんだけど、噂話が広がるのは早いもので、お昼にならない内に歓声の内容を知る事が出来たんだけど……そりゃ歓声も上がるよね。

 

 

フランスで見つかった三人目の男性IS操縦者、俺や織斑君とはまた違ったタイプの少年らしく、朝一で一組の周りは人でごった返している。

 

俺も気になるには気になるけど、部屋割り的に三人部屋になる確率が高いから慌てなくても良いかな? 押し掛けたら迷惑そうだし。

 

一応顔や名前くらいはネットに載ってるだろうと思って調べみたんだけど、不思議な事に俺や織斑君の時とは違って一切話題に上がっていなかった。

 

話によるとラファールを作ってる企業、デュノア社の子供らしいからその辺は秘匿されてるのかもしれないな。

 

クラスの全員が一組に向かった所為でガラッガラになった教室で、一人次の授業を待ちながら椅子に座っていた俺は『これがぼっちか……』とアホな事を考えてお昼まで過ごすのだった。

 

 

––––そして、時は過ぎて昼食時。一組と二組は合同でISを使った実戦訓練をしてたらしく、アリーナの方から織斑君が歩いてくるのが見える。

 

 

「おっ佐久間、丁度良いところに。これからみんなで飯食うんだけど、良かったら一緒にどうだ?」

 

「もしかして例の三人目も一緒かい?」

 

「おう、シャルルも転校してきたばっかで右も左も分からないだろうからさ」

 

「うーん、みんなが来るんなら行こうかなぁ」

 

 

今朝篠ノ之さんが頑張ってお弁当を作ってたから、お邪魔するのは印象良く無いかなぁと一瞬考えたけど、織斑君の口ぶりからして篠ノ之さんと二人っきりの食事じゃ無いっぽいからご相伴に預かろう。

そんな訳で、購買でパン買ってから屋上で待ってる織斑君達に合流したんだけど、代表候補生の二人とまともに話すのは今回が初めてかもしれない。

 

篠ノ之さんからの空気読め的な恨みがましい視線に苦笑いで返しながらオルコットさんと凰さんに改めて自己紹介をした後、件の転校生を見る。

 

「佐久間樹君だよね? はじめまして、シャルル・デュノアです」

 

「初めまして、佐久間です。お互い妙な事になったけど三年間の辛抱だから頑張ろうよ」

 

そう言って握手したその手は心無しか男の手にしては柔らかく感じたが、剣道をやってる人間だからそう感じるのかもしれないと思い直し、買ってきたパンを齧ってたんだけど…………モテるね、織斑君。

 

三人の女性からお弁当を渡されてる辺り、彼は順当に人を惹きつける事が出来る人種らしい。まぁ俺がモテたいのは篠ノ之さんだけだから、羨ましいかどうかはまた別の話だけど。

 

そんな風に恋の競争に騒がしい三人を一歩離れた視線で見ていると、織斑君がオルコットさんから差し出されたサンドイッチを見て顔を引きつらせていた。

 

 

「さぁ一夏さん。お一つどうぞ、よろしければ佐久間さんも」

 

「俺も貰って良いのかい?」

 

「ええ、勿論。シャルルさんも如何ですか?」

 

「僕は自分の分で大丈夫だよ。気持ちだけ頂くね?」

 

「じゃあ俺は一つ貰おうかな、購買のパンだけだと足りなくて」

 

「まっ、待て早まるな佐久間!!」

 

 

気遣いの出来る女アピールをさり気なく織斑君にしてるオルコットさんの狙いに乗りながら、俺は妙に慌てた織斑君を気にせずそのサンドイッチを口に運んだんだけど…………凄まじいね、これ。

 

香りが甘いからって理由でバニラエッセンス丸々一瓶入れた様な感じかな? 味と香りがミスマッチしててお世話にも料理上手とは言えないレベル仕上がってる。

 

オルコットさんとデュノア君以外の面子からは『あーあ……』みたいな顔されたけど、ここで泣き声言うのは男らしくないし、そもそも俺がお世辞を言って余計に酷い料理を食べるのは織斑君になるから別に問題は無いはず。

 

そう考えて『独創的な味だね』と笑顔で誤魔化した後、手を付けたサンドイッチを完食すると、織斑君がそっと耳打ちをしてきた。

 

 

「……大丈夫か、佐久間? セシリアの料理って、その、個性的な味だからさ」

 

「……男なら出された料理がどんなものでも黙って食うもんだ」

 

「……そ、そうだよな」

それに酷い味なのは変わらないけど飲み込めない程の代物じゃないからまだ全然食べられる、これで生魚が入ってたりしないだけマシだろう。

 

そんな事を考えながら雛鳥の様に次々と手料理を食べさせて貰ってる織斑君を眺めながら、哀れなんだか羨ましいんだか分からない感情に襲われてると、デュノアが話しかけて来た。

 

「ところで佐久間君は専用機持ってないんだよね? 良かったらデュノア社(ウチ)なんてどうかな? 全距離に対応できる柔軟性はあるし、カスタムのしやすさも売りなんだけど?」

 

「えっと……その事なんだけど」

 

「公開されてる情報だと佐久間君は近接戦に尖ってるよね? だったら機動性に優れてて近接カスタムが可能なラファール・リヴァイヴカスタムⅠとかどうかな? きっと気にいると思うよ?」

 

「えっと、確かにその辺りの機体は候補にあったんだけど……実はもう専用機は用意してもらう話になってるんだよね」

 

 

商魂逞しいというか何というか、かなり身を乗り出して俺に迫ってきたデュノア君を押し退けながらそう答えると、彼よりも先に織斑君が反応した。

 

 

「へー、佐久間にも漸く専用機かぁ。どんな機体なんだ? 教えられる範囲でいいから教えてくれよ」

 

「近距離強襲型ブルー・ティアーズってところかな? 詳しい仕様とかは勘弁」

 

 

俺がそう答えると、今度は食後の紅茶を口にしていたオルコットさんが『ブフッ!?』と吹き出してしまう。

 

まぁ確かに自分の国が機体のコンセプトを変えてまで四号機を改修したらそんなリアクションになるよね。

 

 

「お、お待ち下さい!! その話本当ですの佐久間さん!?」

 

「うん。俺にはBT適性があるからって、二ヶ月くらい前からずっとオファーが来ててさ、最近のデータを参考にして近接改修した機体を用意してくれるんだってさ」

「…………そっか、それじゃあ仕方ないね」

 

 

そう言って残念そうにデュノア君は笑ったが、彼の勤めてる会社はデュノア君が居るから別に俺のデータを態々求めなくても平気だろうに。

 

ふとした疑問だったが、それの答えが出る前に自分の昼食を食べきってしまった俺は、一足早くお暇させて貰う事にし、篠ノ之さんに手を振ってから屋上を後にするのだった。

 

 


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