篠ノ之箒に一目惚れ   作:ACS

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第14話

––––デュノア君が転校して来て五日が経った。

 

俺達の部屋のベッドが一ヶ所二段ベッドになったり、夜遅くまで起きて勉強してると異様に迫力のある笑顔で『もう寝ないと体に悪いよ?』と言って寝かされたり、風呂上がりに上半身裸だった織斑君が『なんで半裸なの!? 後髪はもっとちゃんと乾かさないとダメだよ!?』と顔を赤くしたデュノア君に叱られたり、部活と基礎トレーニングで消灯時間ギリギリに部屋に帰ったら『オーバーワークは体を壊すよ?』と何故か逆らえない笑顔で叱られたりと、男部屋の中でのヒエラルキーが確立してしまった以外は概ね落ち着いてる。

 

見てられないから口を出してるって感じなんだろうけど、それの所為で完全に母親ポジションが板についてしまってるのは男としてどうなんだろうか?

 

そんな疑問を覚えつつも、漸く学園側からISを扱う許可が下りたので今日は打鉄に乗って織斑君達と一緒にアリーナにいた。

 

本当はまだ医者から止められてる期間なんだけど、それが明けるのを待つと学年別個人トーナメント当日に練習無しで出場しなくてはならない。

 

治療用ナノマシン等の最新治療のおかげで怪我自体は治ってるのも相まって、その事を汲んだ学園側が特別に許可をしてくれたと言う形の為、以前の様に毎日朝から乗って午後からも乗ると言った真似は出来なくなった。

 

「まぁでも、久々にISに乗れたのは素直に嬉しいかな? 一日でも間を開けると剣が鈍りそうで不安で仕方なかったし」

 

「久々にISに乗って真っ先にやる事が総当たりか? 佐久間は随分と熱心だな」

 

思わずボソッと呟いた俺の言葉は篠ノ之さんの耳に届いてたらしく、デュノア君に射撃兵装のレクチャーを受けてる織斑君を横目で見ながらこっちに近寄ってきた。

 

彼女が言った通り、俺は久々に打鉄を起動した直後にやったのは専用機持ちとの総当たり戦。結果は二勝二敗で、白星を拾ったのは織斑君と凰さんの二人。

 

オルコットさんの時は懐に飛び込んだのはいいけど、ビットの動きを見るためとは言え想定以上の被弾を貰ってしまい、強引に踏み込んで近接戦をしている最中に背中から撃たれて一敗。

 

デュノア君の場合は付かず離れずの距離を保たれて間合いを取らせて貰えなかったけど、瞬時加速の重ね掛けとそれを利用した急静止を使って無理矢理間合いを潰したら病み上がりで無茶するなと監督官に叱られたので反則負け。余裕の感じる笑顔が一点して引き攣った物になったデュノア君の顔は正直見ものだった。

 

そんな情けない結果に内心ため息を吐きながら彼女の方を振り返ると、ISスーツによって強調されている篠ノ之さんのプロポーションに目が行きそうになる。

 

織斑君ならまだしも俺がそんな目で見たら一気に嫌われかねないので、俺も彼らを見る様にして視線を逸らし、それを誤魔化す様に振ってきた話題を膨らませた。

 

 

「そりゃ熱心にもなるさ。だって専用機持ちと本気でやりあった生の感覚を篠ノ之さんに伝えられるんだよ? やらない手はないじゃないか」

 

「そ、そうか? お前がそう言ってくれるなら私も心強い」

 

 

少し恥ずかしそうに頬を掻く篠ノ之さんの表情を見て、役得と嫉妬が混ざった幸せなんだか不幸せなんだか分からない気持ちになりながら、銃を構える織斑君の方へと近付いた。

 

 

「順調かい? 織斑君」

 

「何となく、シャルルの教え方が上手いってのもあるけど、一発銃弾撃ったら感覚的に掴めた気がする」

 

「一夏の瞬時加速は確かに速いけど、真っ直ぐ一直線に向かってくるだけだからね。軌道予測さえ合ってれば簡単に命中させられるし、外れても牽制になるんだ」

 

「だから簡単に間合いが開くし続けて攻撃されるのか……あれ? でも同じ格闘メインの佐久間は簡単に距離詰めてるぞ?」

 

「それはスタンスの違いだと思う。一夏の場合は零落白夜があるから回避重視だけど、佐久間君の場合は盾受けしながら被弾覚悟で最短距離を最速で斬り込んでくスタイルだから、多少の射撃だと止められないんだ」

 

「格闘戦の基本は寄って斬るだからねぇ。究極的な話、多少被弾しても相手に取り付く事が出来たら後はこっちのものだから、それさえ頭に入れとけばいいんじゃない? 特に白式に関しては伝家の宝刀がある訳だし、それを当てる分のSEがあれば余剰分は飾りだって」

 

「……瞬時加速で生まれた慣性を反対方向への瞬時加速で止めて急静止する様な奴に言われてもなぁ」

 

「……一夏さん。それだけでは無くわたくしのスターライトmk-Ⅲの狙撃を斬り払いながら突進して来た事もお忘れなく」

 

「……佐久間君ってISに乗ると人が変わるのかな? 物凄く鬼気迫る戦い方してるよね。間違っても織斑君は真似しちゃダメだよ? さっきも言った通り戦闘スタイルが噛み合わないから」

 

 

三者三様に俺の事を人外扱いしてくるけど、こんな曲芸は練習すれば誰だって出来る。特に織斑君なんかは一回やり方見てる以上、少しコツを掴んだら確実にやれる筈だ。

 

…………彼にだけは負けたく無いからそりゃ人も変わるさ。

 

 

「まぁやれる様に努力したら誰にでも出来る技術の話はこの辺にして––––」

 

「あのね? アンタのやってる事は相当体鍛えてないと絶対耐えられないから。瞬時加速の連続使用だけでも体に結構なGが掛かるのに急加速からの急静止なんてやったら普通は体壊すか意識ぶっ飛ぶわよ?」

 

「佐久間の戦法や戦術は非常に参考になるんだが……鈴の言う通り動きが、なぁ?」

 

「凰さんに篠ノ之さんまで……これが四面楚歌ってやつか」

 

 

誤解されてる様だけど、俺だってこんな無茶苦茶な動きしてると意識が遠くなるし体も痛いんだよ?

 

ただこの程度のGで根をあげる様な弱い男が篠ノ之さんの好みになれるとは思えないから気合いで我慢してるだけなんだけど……本人の前でそれを言うのは恥ずかしい。

 

結局俺は頬を掻きながら視線を逸らしたんだけど、その際に黒い機体に乗った眼帯女子と目が合った。

 

あれは確か……ドイツの第三世代機シュヴァルツェア・レーゲン? えらく織斑君を睨んでるけど、何か恨まれる事でもやったのかな?

 

遠巻きに二人のやりとりを眺めてると、眼帯少女が一方的に恨んでる様な事を言って小競り合いが始まりそうになったんだけど、デュノア君が割って入ったのと監督官による静止によって引き下がっていった。

 

それを区切りに全員あがる事になったんだけど、織斑君はどうしてもデュノア君と一緒に着替えたいのか彼に迫り始めた。

 

誤解を生む様な言い方になったけど、デュノア君は部屋に居る時になるとよそよそしくなる傾向があるから、織斑君としては打ち解けるキッカケを作りたいんだろう。

 

……まぁでも、はたから見たら華奢なデュノア君に迫ってる織斑君にしか見えないんだけどね。

 

そんな何時ものやり取りを眺めてると今日は少々強引に行ったのか、少女漫画で言うところの壁ドンまでやって逃げるデュノア君を捕まえた。……だから男に興味があるって言われるんだぞ、織斑君。

 

 

「というか、どうしてシャルルは俺と着替えたがらないんだ?」

 

「ど、どうしてって、その……は、恥ずかしいから……」

 

 

そう言って満更でもなさそうに頬を赤らめるデュノア君、恥ずかしいのは分かるけどその反応は一体どうなんだ?

 

このやり取りを録音して今の状況を写真に撮ったら整備科の黛先輩に高く売れそうだなぁとか考えながらも、俺はさっさとピットを出る。

 

その時に助けを求める様な視線をデュノア君に向けられてたけど、残念ながら織斑君の強引さには諦めるか受け入れるの二択しか無い、諦めて楽になるんだ。

 

そんな風にデュノア君を見捨てた俺は、一旦部屋でシャワーと着替えを済ませてからその足で第二整備室へと向かう。

 

最初は篠ノ之さんを食事に誘ったんだけど、織斑君と食べるからとあっさり断られてしまったので、今日はクラス対抗戦以降仲良くなった更識さんのところでISの整備について教えて貰うつもり。

 

二、三日前に三組と四組が合同でISの実習をやった時に色々整備に関して教えてもらった延長線と言ったらいいんだろうか? 地味に無人機戦の事をまだ少し気にしてるみたいだし、貸し借りを無くす意味合いでも遠慮なく好意に甘えさせて貰ってる。

 

 

「という訳で、今日もよろしくね? 更識先生」

 

「……せ、先生はやめて……」

 

 

少し軽い冗談を言ったんだけど、内向的な性格もあって頬を赤らめながら視線を泳がせる更識さん。

 

挨拶ついでの物だったから軽く謝った後、整備に関するあれやこれやを持ってきたノートにメモしながら、実際の作業も合わせて頭の中へと入れて行く。

 

一応毎回ボイスレコーダーで録音もしてるから帰ってからも復習が出来るんだけど、やり過ぎるとデュノア君が怒るから、出来るだけここで要点をまとめる必要がある。

 

だから何時も真剣に話を聞いてるんだけど、時々更識さんに横目でチラチラ見られたり、逆に目が合ったら逸らされたりする事があるから中々落ち着かない。

 

男性が苦手な女子はウチのクラスにも居るし、学園自体にも一定数居るから彼女もそんな類なんだろうか? 偶に指が触れたりするとかなりビクつくからなぁ。

 

かと言ってあんまり離れると彼女の解説が聞こえないし、教えて貰ってる立場だから離れすぎるのも失礼だから、距離感が難しい。

 

だから普段は集中してそう言った雑念を消してるんだけど、結構な時間が経った頃に『くぅ〜』と言う音が隣から聞こえて来た。

 

ここで更識さんを見るのはデリカシーに欠ける行為、黙って聞こえないふりをしてノートに書き入れたメモをまとめてると、その気遣いが逆効果だったのか彼女の解説が完全に止まってしまう。

 

「……食堂、行こっか?」

 

「……うん」

 

 

顔から火が出るって表現がぴったりなくらい赤面した彼女は凄くか細い返事と共に立ち上がる。

 

そして俺は更識さんと一緒に食堂に向かったんだけど、寮へ行く廊下から篠ノ之さんとオルコットさんに両腕へ抱き着かれた状態の織斑君が歩いて来た。

 

 

「ああ、ちょうどいいところに来た!! 助けてくれ佐久間!!」

 

「……織斑、お前は俺に自慢したいのか? どこをどう見ても助けを求める状況じゃないだろ」

 

「おまっ、人の気も知らないで!!」

 

「あーあー『モテる俺つれぇわ』ってか? ちょっと前にデュノアに壁ドンまでして迫ってた癖に節操なさすぎだろ!!」

 

「なんかスッゲェ棘感じるんだけど!?」

 

「俺じゃなくても同じ立場の人なら棘の一つや二つ出るっての!!」

 

 

何が悲しくて好きな人がいちゃついてるところを見なきゃならないんだろうか? しかもその挙句助けてくれ? 素で話しちまう程には羨ましすぎる。

 

そんな僻みから思わずキツく当たってしまったが、更識さんが居た事を思い出し、織斑君から隠れるように俺の後ろに移動した彼女に謝って、彼らに続いて食堂に行こうとしたんだけど、どうにも様子がおかしい。

 

何というか、そこはかとなくご機嫌斜めと言うか、面白く無さそうな不思議な表情を浮かべてる。

 

 

「あ、あの、更識さん?」

 

「……佐久間君は……あ、あれくらいの……お、大きさが……いいの?」

 

「えっ、大きさ? 何の話?」

 

「…………な、なんでもない!!」

 

 

話の流れが分からなかったから思わず聞き返してしまったが、二回も同じ事を言う気が無かったみたいで、割と早足で食堂まで行ってしまう。

 

取り残された俺だったが、少し面食らいながらも空腹を解消するために食堂へ向かうのだった。

 




まぁ無人機戦でボロボロになりながらもほぼ一人で敵ISを撃破した挙句努力家な人なら更識さんも意識すると言う事で一つ(震え声

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