篠ノ之箒に一目惚れ   作:ACS

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第15話

––––現状、俺はISを使った訓練を朝夕どちらかしか行う事が出来ない。

 

訓練密度で言うのならば断然午後の専用機持ち達との訓練に混ざるのが一番なんだけど、今度の学年別個人トーナメントに出場する以上対策を練られるリスクと半々だから毎日同じ様に練習するのは逆に首を絞める事になる。

 

特にデュノア君には急加速と急静止を使った間合いの潰し方を見られてしまっている、篠ノ之さんの参考になる様に全力を出していた以上仕方のない話ではあるけど、ガチガチに対策を練られたら勝ち目は無い。

 

もっと言えば、ある日を境に急に仲良くなったデュノア君と織斑君の関係も気になる。下世話な話では無く、教え上手なデュノア君が教師役になる事で彼の実力が伸びる可能性は非常に高いので、篠ノ之さんを最優先してしまって自分の事に集中出来ない場所で練習するのは非効率的だ。

 

…………それに、篠ノ之さんは俺の技量を評価してくれてるからね、その部分を他人に抜かれてしまったら最早俺に価値は無い。

学年別個人トーナメントも近いから打鉄の貸し出し許可も後何回降りるか分からない、入学して暫くの間は他の女生徒に比べて訓練時間が圧倒的に足りないと言う理由で融通が利いていたけれど、戦績の所為でその融通も限界だろう。

 

ピットの中で何時もの装備を付けた俺は、瞼を閉じてゆっくりと息を吐く事で気を静め、焦りと不安を散らして闘志だけを燃やしながらアリーナへと飛ぶ。

 

–––––久々の早朝訓練だと言うのに謎の先輩Xさんは当たり前の様にアリーナ中央で待っていた。

 

「練習熱心なのは感心だけど、程々にしなさいね? まだ佐久間君は病み上がりなんだから」

 

「箝口令が敷かれてる話なのになんで知ってるのかは今更聞きません。ですが、今日で俺は貴女に勝ちます」

 

「実戦と場数を踏んで一回り成長したってところかしら? ––––ならおねーさんも少し本気出してあげる」

 

 

彼女がその言葉を言い終わらない内に瞬時加速を使って距離を詰めた俺は、そのままの勢いを利用して突きを放つ。

 

刃を地面と水平にした平突き、心なし左に突きを放つ事で、右側へ避けると同時に斬り返す作戦だったが、それを読んだ様に彼女は俺の頭に手をつき、跳び箱の様にして頭上を越えて背後へとまわる。

 

ハイパーセンサーの情報には彼女がそのまま振り向きざまに居合い斬りを放とうとする姿が映っているので、瞬時加速の発動と共に反転し、氷の上を慣性で滑る様にして後方へ下がりながら回転斬りを放つ事で相手の有効打を潰しつつブレードを弾く。

 

狙い通りならこの一撃で相手のブレードを破壊し、再度瞬時加速で距離を詰め直すところなんだけど、お互いの斬撃が接触する瞬間、彼女は一気に脱力したのか手元からブレードが非常にすんなり弾かれた。

 

くるくると宙を回りながら落ちた葵はアリーナの外壁に突き刺さる。想定とは違う結果になるも相手を徒手空拳にした事には違いが無いので、瞬時加速で接近しながら斬りかかったのだけど、半身を逸らされて当たらない。

 

避けられた事は仕方ないので、そのままその場で機体を回転させつつ、返す刀の踏み込み斬りを放ったが、裏拳で刃元の部分を弾き上げられてあらぬ方向へ斬撃が曲がる。

 

咄嗟にブレードから手を離した俺は、左手の焔備を一マガジン打ち切る気で打ち込んだが、銃身を掴まれて真上に弾を撃たされてしまった。

 

 

––––しかしそのお陰で一瞬だけ死角が生まれている。

 

 

俺は音声認識を使わない呼び出しで葵を取り出すと、盾の移動を利用したシールドバッシュを行いつつ物理的に視界を塞ぎ、その裏からブレードを突く。

 

ガキン!!という硬い手ごたえを感じて一瞬喜びそうになるが、歯を食いしばってそれを堪えながら腕を伸ばして刃を押し込もうとした俺は、手ごたえの違和感を感じてしまった。

 

まるで鞘内を滑らせるような感覚、視界を奪う為に移動していた盾を離して確認すると、俺が更識さんにやった様に鞘の中に切っ先を入れられていた事が分かる。

 

 

「佐久間君の真似よ。まさか自分がやられるとは思わなかった?」

 

「いいえッ!! 似たような事はいつかやられると思ってましたよッ!!」

 

動揺がなかったと言えば嘘になる、だけど此処で隙を晒せばまた完全に主導権を握られて最後は完封負けだ。

 

いつまでも負けていられるかという負けん気から自分に言い聞かせる様に叫び声を上げ、ブレードを自らへし折る様に横薙ぎにすると、そのまま肩から入る様に瞬時加速付きの体当たりをぶつけながら、抑え込む形のまま肩口から腰へ掛けて彼女を斬り裂いたが、手ごたえの違和感から鞘を差し込まれた事に気が付く。

 

毎度の事ながら行動の一つ一つが読み切られてる、先輩の反射神経も尋常じゃないから多少の奇襲じゃ全く通じない。

 

なら相手が反応出来ない連撃で攻め立てれば!! そう考えてた矢先、先輩の盾が僅かに動いた事がハイパーセンサーに映り、思わず身を引いてしまった。

 

シールドバッシュを読んでの行動だったが予想していた攻撃は来ず、先輩は人を食った笑みを浮かべながら弾かれたブレードを回収し、鞘の中の折れた刀身を取り出しながら俺との間合いを離す。

 

 

「目と反射神経が良すぎるのも問題よ? 反応しなきゃいけない時としなくていい時をちゃんと見極めないと、今みたいに仕切り直されちゃうから」

 

「く、くっそ、まんまとフェイントに引っ掛かった……」

 

盾一つ動かしただけでまんまと……自分の未熟さに歯噛みするが、後悔よりも先に瞬時加速で距離を詰めて来た先輩の顔が近くに来たので思考を打ち切り、反射だけで左手の焔備で殴り付ける。

スッと身を引いてその打撃を回避した先輩は、体を逸らした体勢から葵の居合い斬りを放って来た。

 

この一撃に対して俺は反射的に身体を引いて避けようとしたがギリギリで思い直し、半身を捻って腰のスカートアーマーで斬撃を受け止めると、武装が干渉しないように両手の武器を手放しながら相手のブレードの刀身を両肘で挟み込む様にして固定、そして背中を支点にして両肘を前方へ引く。

 

そうする事でテコの原理で刀身を砕き、右手で切っ先の破片を掴むと同時に非固定浮遊部位を差し込めない至近距離から左足でハイキックを放つ事で、先輩の右腕をガードに使わせる。

脚と腕が交差する様にして死角を作った俺は、その一角から先輩の顔目掛けて折れた切っ先を投げ付け、一瞬だけ注意をそちらに向けた。

 

彼女がそれを避けるか避けないかの一瞬、俺は空いた左手で握り拳を作り、回避された場合の事を考えて瞬時加速の準備をしながら下からアッパーを放つ。

 

投げた切っ先は回避され、振り抜いた左拳も止められたが、その代わり先輩の()()()使()()()()

 

 

「左手……使わせたッ!!」

 

「……ッ!? 随分と成長したわねッ!!」

「まだ……まだァ!!」

 

俺は殴り付けた左手を振り抜く様に瞬時加速を発動し、先輩の打鉄を吹き飛ばしてアリーナの外壁へと叩き付ける。

 

まともに一撃を入れたとは言い難いが、それでも掠らせる事が出来なかった今までに比べると十分一矢報いる事が出来た。

 

「どうです、謎の先輩Xさん? 俺だって男ですから何時迄も進歩ないのは嫌なんですよ」

 

「––––楯無」

 

「はい?」

 

「私の名前は更識楯無。何時までも謎の先輩Xさんじゃ呼び辛いでしょう?」

 

「更識……先輩」

 

 

更識と言う名前がそう多くあるとは思えない、つまりこの先輩は更識さんのお姉さんか親戚だろうか?

 

一瞬とも言えない思考の隙、瞬きをする様なレベルの空白だったけど、気が付けば額に焔備の銃弾が突き刺さる。

 

連続して被弾しない様に盾を動かして射撃を受け止めたが、そのせいで足が止まってしまう。

 

 

「それともう一つ––––私はこのIS学園の生徒会長よ」

 

 

声は正面からでは無く背後から。被弾を嫌ってガードした隙に回り込まれたのか、更識先輩は新たに呼び出した葵で俺のスラスターを破壊し、背中を蹴り飛ばす様にして地面に叩き落とす。

 

そしてそれと同時に彼女も的確にSEを削れる部分へ焔備の弾を当てながら急降下し、墜落の衝撃で動けなくなった俺へ葵の切っ先を向けた。

 

 

「と、言うわけで。次からは両手で戦ってあげる、左手使わせただけで満足しちゃダメよ?」

 

「あ、ありがとう、ございました……」

 

 

優勢だったはずが一転してこの有様、生徒会長ってのはここまで強いのか……。

 

壁の上に手が届いたと思ったら、倍以上に高さがある事が分かった様な気分を噛み締めつつ、部活の朝練が始まるまでの間、更識先輩とマンツーマンの特訓を続けるのだった。

 

 

 




佐久間君が会長のブレードを折った方法は刀語を参照して下さい(白目

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