篠ノ之箒に一目惚れ   作:ACS

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主人公の専用機は読者の方から送って頂いた案を採用させて貰いました。この場を借りて改めてお礼申し上げます。




第18話

 

ドイツの代表候補生との模擬戦が終わり、ピット内のシャワーで冷たい水を浴びたからか十分に頭が冷えて来た。

 

どうにも月末の個人トーナメントが近付くにつれて精神的余裕が無くなってきている。篠ノ之さんの恋路を邪魔したい反面、素直に頼ってくれる事が嬉しいから協力を惜しみたく無いんだけど、トーナメント制である以上優勝者は一人。

 

もしも彼女と当たった場合、俺は手を抜いてしまうのだろうか? それとも全力で迎え討って彼女の優勝を妨害する?

 

……こんな事を悩んでるから俺は彼女を倒しきれなかったんだろうな。

 

ネガティブな方向へ流れそうになった思考を打ち切った俺は朝練を済ませてから教室に入ったんだけど、先に来てたクラスの女子が何人か集まって話し合っていた。

 

そして俺が教室に入った瞬間、全員が待ってましたと言わんばかりに俺の周りを囲み始める。

 

 

「ねぇ佐久間君!! あの噂って本当なの!?」

 

「対象は織斑君だけ? デュノア君と佐久間君はダメ?」

 

「オーケー、ちょっと落ち着いて? まず噂って何?」

 

「あっ、ごめんね? 噂って言うのは––––」

 

 

結構な食い気味に迫って来たその子曰く、『今回の学年別個人トーナメントで優勝した暁には織斑一夏と交際できる』と言う噂が学園内に持ちきりになっていて、その対象が織斑君だけなのか俺やデュノア君も対象なのかと言う話題で盛り上がってたところらしい。

 

それを本人に聞くのもどうかと思うけど、『三学年あって男子は三人だから丁度数は合うよね?』とか『それなら私は佐久間君が良い!!』とか言われても俺には苦笑いしか浮かべられないんだけど……。

 

取り敢えず噂は噂だとお茶を濁しはしたけども、男女比が尋常じゃないから何かの話題が雪達磨式に加速したのか? 少なくとも俺には心当たりはないし、織斑君やデュノア君との生活でもそれらしい話題は無い。

 

そこまで考えた辺りで噂が広まり切ってる以上、考えても仕方ないかと思い直して授業の準備してたんだけど、担任の先生が手招きをしている事に気が付いた。

 

何の用だろうと思いながら話を聞きに行くと、どうやら専用機が完成の目処が立ったと言う連絡が入ったらしく、最終的なスペックや仕様のデータが入った蝋印付きの茶封筒を渡される。

 

人目のある教室で開ける訳にもいかず、結局そのまま授業を受けたんだけど……まともに目を通せたのは放課後の部活が終わってからだった。

 

日が落ちて人気の無くなった屋上で、まず真っ先に目に入って来たのは機体の名称。

 

『第三世代/近距離強襲型/ブルー・ティアーズ 4号機/コワードリィ・ホーネット』

 

背面には四基のウイング・ユニットがX字に備え付けられ、スラスターの向きを調整することで急速後退や急旋回、更には個別で瞬時加速を行えるらしく、四基同時の瞬時加速は殺人的な加速を生むと注意書きがされていた。

俺の剣道経験や打鉄での戦闘記録からメイン武装となる物理ブレードは日本刀の形状をしていて、鞘にもレーザーブレード発振器が装着されている。

 

納刀状態でこれを起動すれば、鞘の両側面に設置された発振器からレーザーブレードを展開する事が可能で、高出力のエネルギー兵器相手に武装を潰すような防御行動を取らなくて済む。

 

一々ビームを斬り払う度に武器を換装してたらキリが無いから、正直この装備が初期装備なのは有難い。

 

更に言えばこの鞘はBT兵器としての面もあり、全部で六つの片刃式ブレードビットとして展開する事が出来る。

 

物理ブレードとしてだけでなく、この装備もレーザーブレードが搭載されているため、すれ違い様に斬り裂く形の運用になる事と、太腿・脛・爪先と言った脚部の三箇所にマウントする事で蹴り技にも転用できるらしい。

 

ただ、BT兵器に関しては適性があるってだけで、それそのものを扱った事は無いから要練習ってところかな?

 

そしてこの機体はもう一つビットが搭載されているが、こちらは防御型のシールドビットになっていて、普段は外部装甲として装着されているとか。

 

パージと再装着は可能らしいので、打鉄の感覚で被弾覚悟の接近も行えるだろう。

後は両下腕部に装着されたレーザーブレード。出力そのものは高くは無いけど、発振器が180度回転するおかげで密着した状態からの近接戦や背後への肘打ちにプラスして使用出来る、取り外しも可能と書かれているので中距離なら使い捨ての投擲武器にしてもいいかもしれない。

 

最後に腰部可変式レーザー砲。思考操作で放つ事が可能で、バレルの可変で収束レーザーカノンか拡散レーザー砲の2種類が使用できるらしいけど、この辺りは牽制くらいにしか使わないかな?

 

 

––––そしてこの機体の最大の特徴はBT兵器技術を応用した機体の操作アシスト。

 

技術試験用の機体でテストを行った際、乗った人全員が口を揃えて『機体が敏感過ぎる』と酷評したシステムらしく、最後まで搭載は悩んでいたらしい。

 

思考による操縦技術の補助。聞こえは良かったが、ハイパーセンサーによる視界の広域化が原因で、操縦者の認識していない攻撃に対して機体が反応し、機体の操縦とは反対の方向へ動いたり、銃を構えて照準を合わせようと集中した刹那には視界の端で動いた物へ引き金が引かれるなど、普通なら使い物にならないとまで乗った全ての人が反対したと書かれていた。

 

そして誠意を見せる意味も込めてシステム搭載の是非を俺に決めてほしいと言う言葉と共に、俺の専用機の資料は締めくくられてた。

 

確かに話を聞いてるだけでも欠陥のあるシステムだし、同封されていたCD-ROMの映像から実際の挙動や酷評の理由は分かったけど……超反応と呼んでも過言じゃ無い動きを可能としてるのは事実。

 

超近距離での格闘戦や弾幕の中を突き進んで間合いを詰める際に必要な事は度胸と反射、射撃兵装が接射以外で未だに当たらない以上、このシステムは是が非でも欲しい。

 

それに、専用機持ちである織斑君は訓練機を使っている俺とは違って他人の使用申請に左右されることなく訓練を行えるのだから俺が一歩立ち止まってしまえばその分彼は前へと行ってしまう。

 

癖のあるシステムでも使い熟せれば問題は無いし、コワードリィ・ホーネットもトーナメントまでには間に合わないのだから、機体性能を妥協されたくも無い。

 

そう考えた俺は封筒に同封されていた開発部のアドレスへシステム搭載の希望を送ると、読み終えた書類をシュレッダーに掛ける為に校舎に入ろうとしたんだけど––––屋上の出入り口の前に例の銀髪の子が立ち塞がっている事に気が付いた。

 

 

「……いつからそこに?」

 

「貴様がその書類に読み耽っている間にだ」

 

「よっぽど集中してたっぽいね。それで? 朝の続きを組手でやろうって話かい?」

 

「ふん。それでも構わんが、今回は別件だ」

 

 

そう言って、彼女は一枚の用紙を俺に突き出してきた。

 

『学年別個人トーナメントの変更のお知らせ』と書かれたその用紙には、諸事情によって個人戦からタッグマッチへと試合形式が変更されたと言う事と、そのタッグは申請さえすれば好きな相手と組める事が書かれている。

 

申請書とペンを持ってきているあたり、俺と組むつもりの様だけど––––正気か?

 

 

「俺らって今朝やり合っただけの仲じゃなかったっけ? しかもお互い不完全燃焼気味だったし、どう言う風の吹き回し?」

 

「––––単純に利害の一致に決まっている。私は織斑一夏を排除しなくてはならない、そして貴様は織斑一夏のスペアから脱却したい、別々のチームになってしまっては先に織斑一夏を討たれる可能性がある以上、お互いがお互いに組んで損は無いはずだ」

 

「随分俺をかってくれてるんだね」

 

「少なくとも、貴様は執念と言う点では中国代表候補生とイギリス代表候補生の二人よりは上だ。そして織斑一夏に至っては技量・実力共に全て貴様以下、勝てる訳が無いだろう?」

 

「……俺はそうは思えないけどね」

 

 

ボソリと吐いた俺の呟きは風の音にかき消されて彼女の耳には届かなかった。

 

技量・実力共に俺の方が上だと彼女は言ったが、そんな物は本気で織斑君と打ち合った事のない人間のセリフでしか無い。

 

以前やった模擬戦で彼の才能に震えた事があるけれど、つい先日の模擬戦でも似た様な事はあった。

織斑君相手に近接戦で挑んだ場合、同じ太刀筋の攻撃は剣を使わずに躱されるし、三度振れば初動で潰されてしまう。

 

戦闘時における驚異的な洞察力と学習能力、今の俺が勝ているのは単に努力して増やす事が出来た引き出しの多さによるものでしか無い。

 

過剰に練習や勉強を重ねるのも、その引き出しが無くなる事が怖いからだ。一度でも彼に負けてしまったら、きっと俺は––––。

 

 

ギリッと唇を噛み締めながら弱気な自分を振り払いながら彼女が持って来た申請書を引っ手繰ると、空欄の部分に名前を書き込んだ。

 

本当なら篠ノ之さんと組みたかったが、織斑君の性格的に同じ男だからと言う理由で俺かデュノア君と組みたがるだろうが、俺の方に彼は来ていない。

 

となると組んだ相手は必然的にデュノア君と言う事になる、あの二人に組まれたら俺一人じゃ勝ち目が無い以上、織斑君に勝つ為にはこの子と組むしかなかった。

 

 

「––––それでいい。貴様は他の連中に比べて殺気もあるからな、精々足を引っ張らない程度に頑張るんだな」

 

名前を記入した申請書を受け取った彼女は、もう用は無いと言わんばかりにそう言い放つと、踵を返して去って行くのだった。

 

 

 





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