篠ノ之箒に一目惚れ   作:ACS

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第20話

––––突然、ボーデヴィッヒさんが悲鳴の様な絶叫を上げると、彼女の機体が黒く濁った泥の様な物体に包まれ、その形を粘土細工の様に変えて行く。

 

初期操縦者適応(スタートアップ・フィッティング)』や『形態移行(フォーム・シフト)』とは全く違う変化、ISが姿を変えるのはこの二つ以外にあり得ないのに、その二つではあり得ないプロセスで機体を変化させている。

 

ドイツの新技術って可能性もあるけど、それにしては彼女の苦しみ方が尋常じゃない。

 

俺は機体の損傷が激しいため見ている事しか出来なかったが、やがて悲鳴も呑み込まれ、物言わぬ泥人形がゆっくりと地面にその両足を置いた。

 

 

泥人形のボディラインは彼女のそれであり、手足は最小限のアーマーがつけられていて、頭部にはフルフェイスのラインアイ・センサーが赤い光を漏らしている。

 

彼女の手に握られている武器は織斑君の雪片弐型に酷似していて––––余りにも有名過ぎる武装、雪片だと一目で分かった。

 

思わず織斑君の方を見たが、明らかにその剣に動揺しているのが分かったので、咄嗟に俺は辛うじて起動しているPICを利用しながら地面を蹴り、慣性を利用して滑り込むことで何とか彼の前に回り、突如として斬り込んで来た泥人形の一閃をなんとか受け止める。

 

左腕一本で無理矢理差し込んだからか碌に衝撃を流す事が出来ず、居合の構えから放たれた横一閃で葵を弾かれた俺は、胴がガラ空きとなってしまう。

 

続けて泥人形は剣を上段に構え、そこから稲妻の様な縦一線を振り落として来た。

 

機体がこの状態じゃこの一撃を防ぐ事は出来ないが、回避したところで右腕が動かない以上返しの一太刀に対処出来ない。

 

なので俺は相手の手首を狙って蹴りを放ち、斬撃の軌道を無理矢理変えると、回転斬りを放って相手に間合いを取らせる。

 

 

「織斑君!! ボーっとしてちゃダメだ!!」

 

「どけよ佐久間!! あいつ、ふざけやがって!! ぶっ飛ばしてやる!!」

 

「落ち着くんだ織斑!! 俺達の機体状況で闇雲に掛かって行って勝てる相手じゃない!!」

 

「黙れ!! 邪魔するってんならお前から先に––––」

 

「落ち着けって、言ってんだよッ!!」

 

 

頭に血が上ってる織斑君を落ち着かせる為、俺は肩で織斑君の顎を弾き上げながら、俺達が口論している隙に放たれた突進突きを躱して切っ先を踏み付ける。

 

そして首筋を狙って葵を斬り払ったが、手ごたえが鈍く、傷付けた箇所が即座に回復して行く様を見て俺では勝てないと察し、葵の峰で力尽くでその場から弾き飛ばす。

 

 

「––––冷静さを欠いたら、斬られるのはこっちだぞ!!」

 

「……あれは、千冬姉のデータだ。俺には分かる、それを……くそっ!!」

 

「……織斑先生の剣、か。そんな物がコッチに向いてるなんてゾッとしないね」

 

「かもな。でも俺はあんなわけわかんねぇ力に振り回されてるラウラも気にいらねぇ。ISもラウラも一発ぶっ叩いてやらねぇと気がすまねぇんだ!!」

 

「今見た通り、物理的な攻撃は通じなかった訳だけど……零落白夜は使えるのかい?」

 

 

彼の怒りは弟と言う立場である以上尤もなもの、頭も冷えたみたいなので無理に止める気は無かったから、肝心の必殺技が使えるか聞いたのだけど、彼は静かに首を振る。

 

一試合終わった後だから仕方ない……か。

 

教員の避難勧告と鎮圧部隊を投入すると言うアナウンスを聞き流しながら打開策を考えようとした時、泥人形の変形の余波でしばらく動けていなかったデュノア君がこっちに来た。

 

「エネルギーが無いのなら、他から持ってくればいい。でしょ? 二人とも」

 

「何か手があるのかい? デュノア君」

 

「普通のISなら無理だけど、僕のリヴァイヴならコア・バイパスでエネルギーを移せると思う」

 

「本当かシャルル!! だったら頼む!! 早くやってくれ!!」

 

「––––なら、俺は織斑君の目を慣らしに行くよ」

 

 

こちらの頼みの綱は織斑君の零落白夜だけ、あの泥人形が織斑先生のデータだとすれば世界最強の相手に一撃を入れなきゃいけない事になる。

 

先程三度打ち合ったが、その全てが機械的で殺気の籠らない形だけの剣だった。疾さや鋭さは確かにあるけれど、落ち着いて太刀筋に集中していれば当たる様な代物じゃない。

 

姉の剣を良く知る織斑君ならその差異に付け込んで難なく一撃入れられるだろうけど、万が一の事を考えると冷静な頭になった彼の目にあの泥人形の反応と太刀筋を見せた方が確実だろう。

 

『そんな状態なのに大丈夫なのか?』と心配そうに聞いてきた織斑君に笑顔で答えた俺は、ホバー移動を利用した踏み込みで一気に泥人形へと詰め寄ると、顔面へ目掛けて平突きを放つ。

 

これを避けさせて返す刀に横薙ぎへと切り替える予定だったけど、踏み込みの勢いと全体重を乗せる様にして放ったその一突きは剣の腹で受け止められてしまった為、有効打とはならなかった。

 

思わず舌打ちしそうになったものの、その状態から押し込まれる様にして葵を弾かれてしまったので、横へ向かって飛び退いたが、読み切ってた様に向うもサイドステップで追いかけて来る。

 

そして再び雪片を横薙ぎに振るって来たので此方も迎え撃つ様に葵を一閃したが、金属同士がぶつかる甲高い音と共に葵が半ばから絶たれてしまう。

 

 

機体の状況や性能差から何合も打ち合う事は出来ないと察してはいたけども……まさか一太刀で剣を断たれるとは思わなかった。

 

しかしこの一太刀だけではまだ不十分、せめて後二度は刀を振らせないと織斑君の糧にはならない。

 

俺は刀を振り抜いた状態から無理矢理踏み込み、肩から体当たりして相手の体勢を崩すと、そのまま折れた葵で下から斬り上げつつ、追撃に回し蹴りを放って大きく機体を吹き飛ばす。

 

ただ見るからにダメージは浅く、攻撃が当たる直前で身を引く事で打点をずらされた事が分かる。

 

流石にガワだけとは言え世界一の剣士だと関心した瞬間、瞬時加速によって一気に距離を詰められてしまった。

 

零距離の間合い、横一閃に放たれた居合斬りを後ろに飛び退いて回避し、泥人形が放つ空いた距離を潰す様な突きを葵の刀身で受け止めつつ、その上を滑らせる様にして雪片の刃元まで葵を捩じ込む。

 

そして顔面を蹴り飛ばそうとした瞬間、今度は俺の顔面が殴り飛ばされてしまい、ただでさえ底をつきかけていたSEが削れ、間合いも離されてしまう。

 

拳打だろうと斬撃だろうとあと一撃受ければ完全に機体が動かなくなる、ちらっと背後を見ればまだエネルギーの譲渡が終わっていない。

 

織斑君も食い入る様にこちらの動きを見ているのだから、まだ俺のやれる事は残っている。

 

崩れた体勢から踏ん張る事で立て直し、追撃として放たれた平突きを再び避けながら返す刀の薙ぎを葵の刃元で受け止めた瞬間、今度はその場で一回転する事で泥人形の後頭部に遠心力を乗せた峰打ちを当てて機体ごと弾き飛ばす。

 

 

避難中の観客や後ろで見ていたデュノア君が驚いてるけど、いかに世界最強の斬撃を放ってくる剣と言えども全く同じ太刀筋を数回も見せられれば返し技の一つや二つ思い付くさ。

 

ただもう葵の方が限界に近い、次まともに打ち合った場合、一撃で砕かれて諸共斬り裂かれてしまうだろう。

 

SEの残量や機体の損傷的にもコレが最後の一撃になる、俺は覚悟を決めながら折れた葵を真っ直ぐに投げ付け、同時に踏み込んで行く。

 

剣で弾けばその隙を、身を逸らして避けたなら投げた葵を空中で掴んで最後の一閃を振り抜く、そう言う算段だったが、泥人形は投げ付けた葵を拳で弾いて来た。

 

完全に動きが読み切られている、振り上げられた雪片の一閃を防ぐには左手で弾くしか無いけど、弾いたところで返しの打撃を防ぐ事は出来ない。

 

どのみち詰みである以上、俺は雪片を弾いて敢えて打撃を受けようとしたが、弾いた瞬間俺と同じ様に回転斬りを放って胴を一閃された。

 

完全に予想外の行動だったから威力を殺す事が出来ず、その斬撃と共に壁際まで弾き飛ばされ、衝撃で肺の空気が全て絞り出されてしまう。

 

SEがゼロとなり焼き鏝を押し付けられた様な熱が胸を襲い始める、どうやら絶対防御を貫通して斬り裂かれたらしい。ISスーツのお陰で何とか傷は浅くなってるようだけど、もう俺に戦う力はない。

 

しかし––––同時に織斑君の準備も整った。

 

 

「––––後は俺に任せろ、佐久間」

 

「よく……見れた、かい?」

 

「ああ!! おかげで100%勝てる!!」

 

「んじゃ、カッコよく決めてくれよ? ––––一夏君」

 

「分かった。一発で仕留めてくるぜ、樹!!」

 

 

彼はその宣言通り、勢い良く踏み込みながら相手の一閃を難無くいなし、零落白夜の一撃を叩き付けて泥人形を撃破した。

 

……ほんと、ヒーローみたいな奴だね。

 

嫉妬や劣等感では無く心の底からそう思った俺は、脱力感と共にゆっくりと意識を手放すのだった。

 

 

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