篠ノ之箒に一目惚れ   作:ACS

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第21話

––––目が覚めたら救護室のベッドの上に寝かされていた。

 

試合の後に意識を失ったから病院にでも運ばれたのかと思ったが、トーナメント中止のアナウンスが流れてるから学園の救護室なんだろう。

 

無人機戦といい今回といい戦った後に気を失うってのは中々に情けない、鍛え方が足りないんだろうか?

 

絶対防御を貫通して斬られた胸の痛みを堪えながらベッドから起き上がった俺は、喉が乾いたので横のベッドでまだ眠ってるボーデヴィッヒさんを起こさない様に救護室を出て重い体を引きずりながら自販機まで向かったんだけど、その途中で篠ノ之さんと出会った。

 

 

「佐久間!? もう動いて平気なのか!?」

 

「傷は浅いから大丈夫だよ篠ノ之さん」

 

本当はまだ包帯に血が滲んでるし痛みも残ってはいるけど、篠ノ之さんの手前痛がる様を見せたくは無い。

 

俺は体の痛みを表情に出さない様にしつつ、ジュースを買おうと財布を取り出したが、指先に力が入らなかったので小銭を全てばら撒いた上、身を屈めてそれを拾おうとしたら体がグラつき、そのまま前のめりに倒れてしまった。

 

「ば、馬鹿者!! 全然大丈夫じゃないじゃないか!!」

 

慌てて俺を起こしてくれた上に肩まで貸してくれた篠ノ之さんに感謝しつつ、思いの外心配されてる事に不謹慎ながら笑い声が出てしまう。

 

その声を聞かれてしまったのか、ムスッとした顔の篠ノ之さんに『私がお前を心配するのがそんなに変な事か?』と怒られた。

 

 

「……別にそう言う訳じゃないんだけどね? てっきり情けないとか、敵に遅れを取るなとか言われると思ってたから、ちょっと意外で」

 

「お前は私をそんな鬼の様な女だと思ってたのか……」

 

「あはは、まぁ誤解も解けたという事で一つ」

 

「はぁ……お前も一夏の様に無茶ばかりする男だな。見ていて心臓に悪い」

 

 

心底呆れた様にそう呟いた彼女は俺が散らかした小銭を拾いつつ、買おうとしていた水まで買ってくれた。

 

この優しさを一夏君に見せれば少しは女性として見られるだろうにと言う思いと共に、その優しさを向けてくれているのが彼じゃなく自分であると言う優越感が混在している事に気が付き、思わず自嘲してしまう。

 

例の泥人形戦で俺は彼をヒーローの様な奴だと素直に感じていたのに直ぐにこれだ。

 

恋愛感情が噛んでいる以上そう言った目で彼を見てしまう事を自覚はしているけど、男の嫉妬はみっともないと言う思いも当然俺の中にある。

 

この仄暗い感情を他人に向ける事が出来ず、結局俺は自分への自己嫌悪と言う形にしか変えられないから自信が持てない。

 

だから厳しい特訓をして自分の体に負担を掛ける様な戦い方をする、その結果がこの有様。

 

そんな落ち込んだ俺の表情を見たのか、篠ノ之さんは一旦近くのベンチへ俺を座らせると、自分も横に腰掛けてわざとらしい咳払いをした。

 

 

「あーごほんごほん。……何をそんなに暗い顔をしてるんだ? 何時もの佐久間らしくないぞ?」

 

「……らしくない、か。篠ノ之さんにとって俺はどんな男に見えてるのかな?」

 

 

弱音を吐く男が彼女の好みに合致するとは思わないのに、不思議と俺の口は彼女の問い掛けに答えてしまう。

 

なまじ、一夏君があの泥人形を倒した場面を見てしまったのがいけないのだろう、普段の自身の無さに拍車が掛かってる気がする。

 

 

「どういう男かだと? 今時の男にしては努力家でストイックな好感の持てる男だと思うぞ?」

 

「……そっか、そう見えてるのか」

 

 

それなら俺の努力は一定の成果を上げている、自分を変える為に努力を重ね、彼女に好感を持たれる様に自分を律して来た苦労は報われたと言ってもいい。

 

だけどその代わり、本当の臆病で劣等感を抱えた嫉妬深い姿は彼女には見えていない、好かれる為に付けた仮面を好まれてるだけじゃないのか? そう思ってしまった俺は、つい本音を零してしまった。

 

 

「……俺はね、篠ノ之さん。君が思ってるほど、好感の持てる奴じゃ無いんだよ」

 

「佐久間?」

 

「一夏君に対して嫉妬もすれば、劣等感もある。自分の感情一つ口にする事が出来ずにウジウジしてる情けない男でしかない、ただの弱い男さ。努力家でストイック? 一秒でも努力しないと追い抜かれそうで怖いだけだ。無茶な瞬時加速の使い方だって、普通の戦い方してたら一夏君には––––一夏には勝てないんだよ!!」

 

真面目な話、近接主体で本気でやりあった場合いつまで彼に勝てるかなんて分からない。

 

毎度毎度訓練に付き合ってくれる会長からはまだまだ俺の方がISへの慣れと言う分で実力は上だと言われてるが、彼は専用機を持っていて自由に機体に乗れるのだからそんな物が覆されるのは時間の問題だ。

 

一度吐き出したら感情が決壊した様に無様な自分への情け無さと、先に出会ったと言うだけで今も篠ノ之さんに思われ続けている一夏君への暗い感情が溢れて行く。

 

 

「早朝からトレーニングを重ねてるのだって、少しでもアドバンテージを稼ぎたいからさ!! 俺の専用機はまだ届いてないのに一夏は四月中には手に入れてる、訓練機は申請をしなきゃ使わせて貰えない上に申請そのものが通るかも分からない!! そんな状況で俺が一日乗らなかったら、その分一日一夏はISを動かせる!! 稼働時間の差なんて直ぐに埋まるに決まってるじゃないか!! 俺は……俺は一夏だけには負けたく無いんだよ!!」

 

「……なぁ佐久間。どうして、そこまで一夏に対抗心を燃やしてるのか、聞いても良いか?」

 

「それは、俺が––––!!」

 

 

『君の事を好きだから』そう続けそうになった俺は、悲しそうな目をした篠ノ之さんに気が付き、冷水を掛けられた様に一気に冷静になって口をつぐむ。

 

今こんな事を言っても確実に彼女を困らせるだけ、熱くなりすぎて周りが見えなくなるのは俺も一夏君と一緒らしい。

 

 

「……ごめん。それだけは言えない」

 

「いや、私の方こそ踏み込んだ事を聞いてすまなかった」

 

「別に一夏君が嫌いって訳じゃ無いんだけどね。友情と同じくらい、対抗心が俺の中にはあるんだ」

 

 

力の入らない指先をグッと握りしめた俺は、そう呟くと同時に何とか立ち上がると、付き添いをしようとしてくれた篠ノ之さんを手で制して抜け出した救護室へと戻るのだった。

 

 

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