篠ノ之箒に一目惚れ   作:ACS

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漸く専用機ゲット回。




第25話

––––臨海学校二日目。海岸線に集められた生徒を前にして織斑先生が授業の内容を説明していた。

 

専用機持ちは専用パーツのテスト、それ以外の生徒は各班ごとに振り分けられたISの装備試験。

 

そもそも臨海学校の最大の目的がこの実習となるので、今日は一日ISに関係する授業になる訳だけど、俺は少し離れた場所でイギリスの開発チームの人達に囲まれながら専用のISスーツに着替えて、専用機コワードリィ・ホーネットの最適化処理(フィッティング)を行なっている。

 

「俺だけ離れた位置で作業してるから凄く目立ってるんですけど……態々来る必要があったんですか? 一夏君の時は機体だけが届いたって話ですし、別にホーネットだけ送ってくれたら良かったんじゃ……」

 

「必要があったから彼らが居るんですよ」

 

 

俺の疑問に答えてくれたのは以前この機体の開発計画を持って来た交渉人。この人は俺と開発チームの橋渡し役として割と何度か連絡を取り合ってたので、忙しそうな彼らじゃなくてこの人に向かって更なる疑問を投げかけた。

 

 

「その機体だけ送って来なかった理由って何ですか?」

 

「搭載されている新技術が問題なのですよ。本国では扱いきれる人が居なかった『Intelligence・Bluetears・Innovation・System』頭文字を取ってIBIS(アイビス)とでもしましょう。とにかくそのシステムを搭載している以上、調整は我々にしか出来ない為、最終的な修正をする為には開発チームを連れてくるしか無かった訳です」

 

「……てことは大破させた場合」

 

「開発チームの招集か、本国まで来て頂く事になります。なので本日中にホーネットの整備と簡単な修理も覚えて頂く予定になっていますので、我々だけ離れた場所に居るんですよ」

 

「あ、あはは、大変だなぁ……」

 

「それとこの書類にサインと拇印をお願いします」

 

そう言って差し出された書類は国籍をイギリスへと移す契約書。IS学園に居るから特に問題になってないけど純正品のイギリス第三世代機を受領する以上、国籍を移して貰うと言う話に元々なっていた。

 

俺自身IS適性が発覚した瞬間に超法規的措置で自由国籍になってたから、国籍を移す事は問題じゃない。……ただこれで俺も日本生まれ日本育ちのイギリス人になるのかと思うと少し複雑な気分かな?

 

とは言え契約は契約なので大人しくサインと拇印を押している間に最適化処理が終わったらしく、目の前のウィンドウに表示された確認ボタンを押すと、それまで感じていた煩わしさが消えて機体のフォルムも変化する。

 

空気抵抗を小さくする為に流線を基調とした装甲と、特徴的な四枚羽のスラスター、鞘状に構築されたビットと日本刀を模した一振りの実体剣に加速の邪魔にならない形状をしたアーマービット、そして機体名の通り蜂を連想させる帯状の黒と黄色の警告色。

 

これがブルー・ティアーズ四号機––––コワードリィ・ホーネット、俺だけの機体。

 

やっと手に入った専用機に少なからず感動していると、無事に最適化処理を行えた事を確認した開発チームから機体を動かすよう指示が出た。

 

 

「ではこれより、ブルー・ティアーズ四号機の最終チェックを行います。まずは通常飛行を行って下さい」

 

「分かりました、飛べばいいんで––––」

 

 

言葉を言い終わらない内に機体が反応して空高く飛び上がってしまう、一瞬驚いたけど確かに自分の考えがダイレクトに機体へ伝わる感覚があるので、一旦深呼吸をして気を落ち着かせて雑念を取り払う。

『大丈夫ですか佐久間さん。やはりIBISの搭載は見送った方がよろしいのでは?』

 

「いえ、大丈夫です。かなりじゃじゃ馬ですけど余計な事を考えず、感じたことを素直に受け取れば機体の制御は出来ると思います」

 

『……では次はそのまま周囲を飛んで下さい、こちらが十分だと判断出来れば次のステップへと移ります』

 

「分かりました」

 

短く返事をした俺はスラスターを点火して空を飛び回ってみたけれど、打鉄の時とは違って一切のタイムラグを感じないばかりか、本当に自分の体以上に機体が動いて行く。

 

どこまで機体の追随性が高いのか気になった俺は、曲芸飛行で言うところのキューバンエイトを加速しながら行なってみたけれど一切の負荷を感じなかった。

 

その上操縦感の軽さも凄い、正に思った以上に機体が良く動くのだ。

 

あまりの操縦性に思わずテストを忘れて空を飛び回ってたんだけど、新しい通信が入って来てその遊覧飛行を中止する。

 

 

『その程度で十分です。では次のテストに移りますので瞬時加速をお願い致します。ただし、スラスターの四基同時使用はしないように』

 

「すっごい不穏なんですけど、それ」

 

『テスト機体で搭乗者が失神しましたからね、アリーナ内なら兎も角海上ですから墜落した際に捜索しなければならないでしょう?』

 

「……なんつー機体」

 

緊張感から出た生唾を飲み込みながら、指示通り一つ目のスラスターで瞬時加速を行ったんだけど、対G仕様のISスーツのお陰か一切のGを感じなかった。

 

これならと、俺は続けて四角形を作る様に下方・後方・上方へと連続して瞬時加速を行ったけど、それでも気が遠くなるほどのGは感じない。

 

ただ、これで調子に乗ってしまった俺はやるなと言われていたスラスター四基の同時使用による瞬時加速を行ってしまい、半分意識が飛びそうになった。

 

なんとか機体の制御をしながら海岸線へとたどり着いた俺は、一旦ホーネットを解除して浜辺へ胃の中の物を吐き出してしまう。

 

 

「……一個分かりました。この機体乗る前は胃に物入れちゃダメです」

 

「はぁ……ですから、四基同時使用は控えるように言ったんです。貴方が幾ら高機動に慣れているとは言え、この機体の加速力は理論上は第三世代最速。一二を争う速度と言うのも搭乗者の心理的ブレーキが掛かるからと言う意味ですので、下手をすると大怪我しますよ?」

 

「……確かに殺人的な加速でしたね」

 

「爆発的な加速を得る為に拡張領域(バススロット)はスラスター関連の物で埋め尽くされていますからね、後付武装も予備の近接ブレード一本程度しか積めません」

 

「あ、あはは、そりゃ速い訳だ……」

 

 

景色が流れるとかそんなレベルじゃなくて文字通り景色がぶっ飛んでる、感覚的には瞬間移動とかそんな類いの無茶苦茶な加速力だった。

 

口の中を水で濯ぎながら呆れた視線を無視した俺は、次のテストとして本命のビット兵器の展開を始める。

 

初めて使用する武器だから少し不安があったけど、その気持ちとは裏腹に六分割になった鞘と一部のアーマーがパージされ、独立したパーツとして周囲に浮かぶ。

 

頭の中で考えた様に動くそれらは何とも言えない感覚で、実際に扱っていると言う手応えや実感が薄いけれどそう言う物らしいので慣れるしか無さそうだね……。

 

アーマービットは一旦元のように装着し直した後、鞘のビットを操作して性能テストへと移ろうとした時だった。––––俺を含めた専用機持ち全員が招集されたのは。

 




次回から福音戦に入ります。

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