篠ノ之箒に一目惚れ   作:ACS

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またも戦闘に入れず……次回は確定で入るので許して下さい。


第27話

––––一夏君が撃墜された原因は、教師陣がISを利用して封鎖されているはずの海域に密漁船が侵入した事で、流れ弾から彼らを助けるために零落白夜を使ってしまい、それに気を取られた篠ノ之さんを庇って銀の鐘を被弾したらしい。

 

作戦が達成できなかったと言う点で見れば彼の行動は間違ってるだろうけど、道徳的な点から見れば責められる事じゃない、彼の優しさが祟った結果だろう。

 

俺はそれについて何も言う気は無いし、誰も何も言わない。言ったところで何も変わらない、そんな叱責をするくらいなら次の手を打ったほうが良い。

 

……けど、篠ノ之さんは自分を責めて塞ぎ込んでしまった。彼女は一夏君が撃墜されて暫く時間が経過したと言うのに俯いたまま寝かされている彼の側から離れようとしない。

 

様子を見に行った俺は一時間前と同じような体勢で呆然としている彼女の横へと座り、声を掛けた。

 

 

––––自分の無力さが許せない気持ちは俺にも分かる、けどね篠ノ之さん。その無力さに負けて下を向いちゃ何も変わらないんだよ?

 

 

「篠ノ之さん。一夏君はまだ死んだ訳じゃない、だから元気出して?」

 

「……何故、誰も私を責めないんだ」

 

「…………責めても、仕方ないからね」

 

「仕方ない? 仕方ないだと!? 私が、私の所為で一夏はこんな目に遭ったんだぞ!! あの時私がもっとしっかりしていれば!! 浮ついた気持ちで戦っていなければ!! ––––密猟者を見捨てろなどと一夏を責めていなければ!! こんな事にはならなかったんだ!!」

 

「…………」

 

「紅椿だって!! 一夏が他の女と毎日訓練しているのに私は自由にそれに混ざれないから!! 姉さんに頼めば必ず自分用の機体を作って貰えると確信した上で頼んだんだ!! 私はッ!! 私はお前の様に努力と実力で専用機を手に入れた訳じゃ無い!! 浅ましい考えと!! 他の女への嫉妬と言う低俗な理由でこの機体を手に入れたんだ!! 責められて、当然の女じゃないか……」

 

 

吐き出す事の出来ない感情が弾けたのか、彼女は大粒の涙を流しながら俺に向かって溜め込んでいた思いをぶちまける。

 

俺が彼女に気を許されているからか、或いは古い友人だからかは分からない、しかし一度堰を切った感情の津波は止める事が出来なかったのか、彼女は自責の念を更に続けた。

 

「一夏がセシリアと戦った時も!! 紅椿の事もそうだ!! 私は篠ノ之束の妹として見られる事を嫌っている癖に自分に都合が良い時だけあの人の妹に戻ろうとする!! 力を手にするとそれを使いたくて堪らない!! 何度自分を諌めても!! 二度と力をその様に振るわないと決心しても!! 必ず言い訳を作って私はそれに縋ってしまう!! そしてそれを正当化するんだ!! だからっ、だから私はッ!! …………もうISには乗らないと決めたんだ」

 

 

悲痛な決心の込められたその言葉に、優しい言葉を掛けようかと思ったけれど、弱ってる彼女に付け込む様な真似はしたくなかったので、俺も素直に思った事を口にする。

 

 

「……篠ノ之さん、それはただの逃げだ」

 

「逃げ、だと?」

 

「さっき、篠ノ之さんは言ったよね?『何度決心しても理由を付けて力を使ってしまう』って、今君がISに乗らないと決めても、またいつか似たような事を博士に頼むんじゃないかな?」

 

「……それは」

 

「––––自分の弱さから目を背けたい気持ちも、そんな自分が許せない気持ちも、俺はよく分かる。だけど、強さも弱さも免罪符にはならない。それを免罪符にしてる限り、一生自分が嫌いなままなんだ」

 

 

グッと拳を握りしめながら俺は彼女の目を見て自分の思いを告げる。変わりたいのなら、変わろうと思うのなら、自分で努力しなきゃ変われない、自分の弱さが嫌いだと言うのならそれは尚更。

 

 

「篠ノ之さんは本当のところはどうしたい? 一夏君を撃墜されたのは自分のせいだって泣いて紅椿を博士に返す? だったら俺が君の代わりに一夏君の仇を討ちに行く、君が泣いてる間に斬り捨ててくる。 ––––だけどもし、君が自分の手で仇を討ちたいと戦う決意をしたのなら、俺は例え撃墜されたとしても全力で君の背中を押す」

 

「わ、たし、は––––」

 

「決めるのは君なんだ、篠ノ之さん。泣いて、下を向いていちゃ何も決まらない、誰も決めてくれない。だから、今此処で聞かせて欲しい、君はどうしたい?」

 

「––––一夏の、仇を討つ。仇を討ちたい」

 

 

その言葉と共に彼女の瞳からは悲観の色が消え、普段の様な凛とした力強さが宿る。俺は指先で彼女の涙を拭いながら立ち上がり、手を差し出して彼女を立たせた。

やっぱり、篠ノ之さんはこうじゃないとね?

 

そんな風に、元気が出た彼女を見て胸を撫で下ろしていると、立ち聞きでもしてたのかやれやれと言った顔で凰さんが入って来た。

 

 

「あーあ、まだ泣いてたら一発張り手かましてやろうとおもってたのに、先越されたわね」

 

「鈴か、すまない。私が不甲斐なかったばかりに一夏が––––」

 

「そーいうのはあとあと、今ラウラが現在位置を割り出してるところだから、一旦顔でも洗って来なさいな」

 

「……そうだな、気を引き締めてくる」

 

 

そう言って篠ノ之さんが部屋を出て言った事を確認した凰さんは、真剣な表情から一転してにやにやしながら俺の脇腹を肘で突き始める。

 

いやな予感がした俺は思わず彼女から目を逸らしてしまったが、よくよく考えたら立ち聞きされてたって事は俺と篠ノ之さんのやり取りを聞いてるって訳で––––。

 

 

「前々から怪しいとは思ってたけど、アンタも中々隅に置けないわね〜?」

 

「あの、凰さん? この事は誰にも……」

 

「そんな野暮な事しないわよ。それと、これから一緒に戦うんだから鈴でいいわ」

 

「わかったよ、鈴さん。––––じゃあ俺も、ボーデヴィッヒさんの作業が終わる前に鎮痛剤貰ってくる」

 

「…………鎮痛剤?」

 

「相手が軍用機なら、ホーネットの加速で生まれた痛みに怯んでられないでしょ? 痛みを鈍らせたらフルスペック引き出せるんじゃないかって思ってさ」

 

「はぁ……私は止めないけど、男ってどうしてこんなバカばっかなのかしらね」

 

そんな呆れた声に苦笑いを返した俺は、緊張感を無くす為に深呼吸をしながら担当の先生に適当な理由をでっち上げて鎮痛剤を貰いに行くのだった。

 





フルスペックを発揮する為には鎮痛剤が必要なIS、GP-03[デンドロビウム]かな?(震え声

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