篠ノ之箒に一目惚れ   作:ACS

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漸く交戦、そして超高速強襲格闘機をフルスペックでぶん回す佐久間君の吐血回(白目


第28話

 

––––銀の福音は三十キロ離れた沖合上空で胎児の様な体勢で静止しているらしい。

 

何故こんな曖昧な受け答えかと言うと、俺は単騎で空気抵抗の少ない成層圏へと飛んでスラスターを吹かせながら速度を稼いでいる為、雲の下の光景が見えないからだ。

 

PICがあるからここまでする必要は無い様に思えるけど、福音はコア・ネットワークから強制的に切り離されているのでそれを使った他の機体の割り出しが出来ない。

 

従ってハイパーセンサーですら視認出来ない程の超高高度から一直線に垂直下降を仕掛ければ、速度を乗せた斬撃による強襲で一撃必殺が出来る。

 

勿論普通の機体ならこの垂直降下の最中に視認されてしまうが、俺のホーネットは搭乗者を殺し兼ねないほどの超加速が可能なモンスターマシーン、唯一の例外と言う訳だ。

 

 

福音撃墜の為の戦術としてはボーデヴィッヒさんの砲撃でイニシアチブを取りつつ体勢を崩し、オルコットさんの予測射撃で高速機動を封じる。

 

そして篠ノ之さんと鈴さんの二人で足の止まった福音を挟撃、デュノアさんが銀の鐘から全員を守りながらゆっくりと包囲したところへ俺が斬り込む。

 

ワンアプローチ・ワンダウン。リミッターの掛かった競技用の機体で軍用機相手に長期戦は厳しい以上、この戦法は変えられない。

 

俺は鞘と実体剣を連結させる事で刀身にレーザーブレードを展開させる。

 

そしてボーデヴィッヒさんからの通信を聴きながら、相手が銀の鐘を展開した事を知った瞬間––––全四基の大型スラスターを同時に点火し、一度目の瞬時加速を真下へと放つ。

 

これでジェット気流を生かして手に入れた超速度を殺す事無く下降体勢へと入れたが、ここまで速いと衝撃波で察知される可能性があるので、察知しても回避出来ない速さまで更に加速する。

 

失敗は許されない、零落白夜の火力に匹敵する一撃を入れるにはまだ速度が足りない、隕石の様な重さと閃光の様な速さが必要だ!!

 

俺のその思考をIBISが汲んだのか、ホーネットのスラスターが個別に起動してそれぞれが瞬時加速を行う。

 

一段、二段、三段と、発動する度にホーネットはその直前に使用した瞬時加速のエネルギーを再収束して爆発的な加速を作り上げて行く。

 

最早流れる景色が認識出来ない程の速さだけど、ここで意識を手放したらこの超速度のまま海面へと叩きつけられるので絶対に気を失うわけには行かず、歯を食いしばりながら四度目の瞬時加速を発動した。

 

 

スラスターから放出されたエネルギーが扇状に広がり、まるで巨大な翼の様な印象を抱かせたが、それに気を取られそうになった刹那、不意に銀色の何かが視界に映る。

 

それを見た瞬間、考えるよりも先にホーネットが反応し、レーザーブレードを振り抜いてその何かしらを斬り裂いた。

 

瞬間的に感じたシールドバリアを断つ感覚と、絶対防御が発動した時の抵抗感、俺は搭乗者を斬らない様にそのまま振り抜いたが、ハイパーセンサーすら役に立たない程の速さなので何を斬ったのか視認する事は出来ない。

 

なので俺は斬撃の直後にコア・ネットワークを確認して仲間を斬っていない事を確認すると、海面スレスレで機体を反転させつつスラスターを点火し、無理矢理背面飛行をしながら減速し––––胃の中からせり上がって来た液体をぶち撒けてしまう。

 

「は、ははっ、こ、こんな、量の血を吐く、なんて、ドラマだけだと、思ってた」

 

 

鎮痛剤のおかげで痛み自体は耐えられないほどじゃない。保護システムですら殺しきれなかった高Gと無理な挙動で負ったダメージは確かに痛いには痛いけど、まだ我慢して動く事が出来る。

 

……けど鎮痛剤使ってるのに痛み感じてるって、俺の体相当ヤバイ事になってんじゃないだろうか?

 

そんな風に考えながら上を見上げると、銀の鐘を発動する寸前だった福音の両翼ごと背中を一刀両断していたらしく、収束していたエネルギーが暴発する。

 

 

息を吸うたびに痛む胸を押さえながら、俺は作戦の成功と一夏君が出来なかったワンアプローチ・ワンダウンを達成した喜びを密かに噛み締めていると、ボーデヴィッヒさんが何かの異変を察知したのか慌てた様子で叫んだ。

 

 

「待て!! 様子がおかしい!? 今の一撃を受けた上に特殊兵装の暴発を起こしているのにも関わらずISが解除されていない!!」

 

 

既に勝利ムードが漂い始めていた瞬間の出来事、全員が福音の姿を確認すると一瞬の閃光と共にその形状が変化し、斬り捨てた筈の福音が再起動する。

 

背中のスラスターの断面からはエネルギー体の翼が枝分かれするように生え、それを天使のように大きく広げて見せた。

 

 

「そんな……馬鹿な!? 確かに手応えはあった!! あの一撃は一切の速度を殺さずに放った一撃だ!! いくら両翼越しとは言え、絶対防御まで発動させたんだぞ? 耐えられる訳が無い!!」

 

「落ち着け佐久間!! アレは再起動じゃない!!––––第二形態移行(セカンド・シフト)だ!!」

 

「セカンド……シフト?」

 

 

取り乱した俺はボーデヴィッヒさんから飛んできた叱咤のおかげで一旦落ち着いたものの、俺に気を取られた一瞬を突かれたのかボーデヴィッヒさんは福音に捕まってしまう。

 

「くそっ!! ボーデヴィッヒさん!!」

 

「来るな!! コイツは––––」

 

 

俺は痛む身体に鞭打つ様に瞬時加速で距離を詰めようとしたんだけど、ボーデヴィッヒさんの制止に思わず怯んでしまい、エネルギー翼で包まれた彼女への銀の鐘によるゼロ距離射撃をみすみす許してしまった。

 

奥歯が噛み砕けそうなくらい歯を食いしばりながら、俺は再び熱が篭り始めた思考で斬り掛かろうとしたんだけど、体へのダメージの所為で機体が動かない。

 

……この程度のGに体が耐えられないなんて、なんて未熟ッ!!

 

自分への情け無さと、完全に俺を無視して戦う福音に対する怒り、急降下攻撃の代償として焼け付いたスラスターに対する焦れ、海上に浮かぶ俺はボーデヴィッヒさんが墜とされた怒りで向かって行ったデュノアさんや、そのカバーに入った鈴さん、距離を離しながら引き撃ちを行なっていたオルコットさんが次々と落とされて行く姿をただ見ている事しか出来ず、血が滴るほど唇を噛み締めていた。

 

––––俺はまだ無力なままなのかと。

 

 

「私の仲間を––––よくも!!」

 

「ま、待って篠ノ之さん!!」

 

 

俺の制止の声は届かず、彼女は急加速によって接近し、展開装甲を局所的に用いたアクロバットで攻撃を回避しながら、不安定な格好からの斬撃をブーストによって加速させる。

 

 

「互角? ううん、違う。ほんのすこしだけ篠ノ之さんの方が上だ」

 

 

俺が機体の世代差で押し切れるかと思った矢先、エネルギー切れを起こしたのか紅椿の動きが鈍り、その隙を突いて福音の右腕が彼女の首を捕まえる。

 

 

そして福音のエネルギー翼がゆっくりと彼女を包み込もうとしたのを見た瞬間––––俺の中で何かが弾けた。

 

 




ゴスペル戦の序盤があっさりしてますが、一撃必殺が可能ならそうするだろうと言う事で一つ。

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