一年三組。それが俺の所属するクラスになった訳だけど、視線が刺さる事刺さる事、そりゃ世界に二人しか居ない男性IS操縦者なんて珍獣みたいなもんだけどさぁ……。
同じ男子の織斑君だっけ? 彼もきっと俺と似た様な目に遭ってるに違いない、挨拶に行きたいけど廊下は他のクラスや上の学年の人でひしめいてるし、お昼とかにした方が良いなこりゃ。
チラッと周りを見ると小声できゃあきゃあ言ってるのが聴こえてくるけど、これはどう反応するのが正解なんだろう?
取り敢えず営業スマイルよろしく笑顔で手を振ったら歓声が上がった。考えなくても分かる、今後の人間関係の構築的な意味なら成功だけど、一瞬で取り囲まれたから今この瞬間の対応としては失敗だった。
「ね?佐久間くん!! 趣味は? 出身校は? 異性の好みのタイプは?」
「彼女居る? この中で付き合うなら誰かしら?」
「ねね!! 同じ男性操縦者の織斑君についてどう思う?」
「佐久間くんは部活は何するの?」
こんな感じで周りの女の子全員から同時に質問責めに会い、HRの時間になる頃には精神的にくったくただったよ……。
その後の授業は事前の予習をしっかりとしてたから一応乗り切る事は出来たけど、それでも完璧に理解できてた訳じゃないから休み時間を使って復習する事になったけどね。
ただ、そのおかげで『勉強熱心だね』とか『努力家なんだ〜』とか言われて余計に視線が……。
一応授業内容に対する解説とか、俺の覚え違いを指摘してくれたりしたから悪い人達じゃないのは分かるんだけど、可愛い子が多いから健全な一男子としては色々辛い。
特に廊下の上級生も手を振ってからぐいぐい来るし、写真撮影とかもされる様になったから精神的疲労が溜まる一方だ……。
はぁ、登校した時にいの一番に訓練機の使用許可を貰って来たけど……この調子で一日過ごしてトレーニング出来るだけの余裕が残ってるかな?
そうこうしてる内にあっという間にお昼になったんだけど、その前の授業でクラス代表にノミネートされてしまい、悩みのタネが増えてしまった。
半日くらいで頭痛がしてきた様な気がして、頭を抑えながら好奇の視線と共に食堂に入ったところで見知った人を見つける。
––––それは俺が何年も片思いをしてる女性、篠ノ之箒。
あまりの嬉しさに駆け寄りたくなったが、彼女の正面に座る男に気が付いて思わず足が止まる。
織斑一夏––––文字通り世界初の男性IS操縦者、元々挨拶をする気だったからある意味一石二鳥なのだが、篠ノ之さんの彼を見る目で俺は察してしまった。––––彼が、俺の恋敵だと。
何という皮肉、この学園で唯一の同性が絶対に負けたく無い男なんて思わなかった。神さまって奴はよっぽど茶番が好きらしい。
篠ノ之さんの態度を見れば未だに思い慕ってる事が分かる、俺と一緒に居た時よりも良い表情をしてるんだから心がささくれ立ちそうだ。
しかし男の嫉妬ほど醜い物はない。この暗い感情は蓋をして織斑君とは前向きに付き合った方が健全だろう、明らかに彼を嫌ったらそれこそ篠ノ之さんに嫌われる。
「––––やぁ!! まさか篠ノ之さんもこの学園に通ってるとは思わなかったよ」
「ん? 佐久間かそれは私のセリフだ。一夏だけじゃなくお前もISを動かすとは思わなかったぞ……」
一夏、ね。幼馴染って話だし、そりゃ名前で呼び合う関係でも不思議じゃないだろうけどさ…………俺は未だに名字呼びなのが差が開いてるみたいに感じるのは、きっと嫉妬から来る被害妄想なんだろう。
「ニュースで顔と名前を知ってるからお互いはじめましてって感じしないけど、二番目の佐久間樹です。同じ男子だしこれからよろしくな、織斑君」
「はは、確かにお互い四六時中ニュースで放送されてたもんな。俺は織斑一夏、こちらこそよろしくな?」
「俺は三組だからクラス対抗戦とか学校の行事で戦う事になるかも知んないけどその時は負けないよ? ––––絶対に、負けない」
ぎゅっと力を込める様に握手したんだけど、俺のその発言に織斑君は少しバツの悪そうな顔をしながら頬を掻く。
不思議に思って聞いたら、小さな諍いからクラス代表決定戦をする事になってしまい困ってるらしい。
俺のクラスは幸いな事に専用機持ちが居なかったし、クラス全体がそんなノリだったからスムーズに決まってしまったけど、彼は彼で初日から散々なんだな。
「で、今箒にISについて教えて貰えないか頼んでるんだけど……」
「くだらない挑発に乗るからだ、馬鹿め」
「そこをなんとか!!」
両手を合わせて頼み込む織斑君。彼を見る篠ノ之さんの目は複雑そうで、力になりたいけどなれない事への後ろめたさが感じられる。
その気持ちは痛いほど分かる。手を差し伸べたいのにそうする事が出来ないむず痒さ、彼女が喜んでくれるのなら俺だって手を貸したい。
しかし、人にものを教えられる程ISについて理解してる訳じゃない上に、勝手な横恋慕とは言え彼女への協力はそもそも恋敵に塩を送る様な真似をする事になる。
胸を締め付けられる様な自己嫌悪と共にその場を離れ、その感情を誤魔化す様に日替わりランチを注文した俺が席に戻ると篠ノ之さんが『私が教える事になっています』と上級生に言っているところだった。
「––––私は、篠ノ之束の妹ですから」
この一言で上級生の人は逃げる様に去って行ったが、そんな事よりも辛そうにその言葉を紡ぎ出した事の方が心配だった。
––––俺、篠ノ之さんの事何も知らなかったんだな。