篠ノ之箒に一目惚れ   作:ACS

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 久々にこっちも更新。


第33話

 更識さんとの待ち合わせは最寄りの駅だったんだけど、シャワー浴びて着替えをしてたら少し遅れてしまったのか、スマホを触りながら時間を潰している更識さんを見つけてしまった。

 

 

「ごめん更識さん!! もしかして結構待った?」

 

 

 そう言って後ろから声を掛けたんだけど……どうにも反応が無い。

 

 落ち着いて更識さんの様子を見たらガチガチに緊張してるのか、スマホを使って誰かしらとやりとりをしてるのが分かる。

 

 一瞬落ち着くのを待とうかとも考えたんだけど、映画の時間もある事だし、食事も一緒する予定なのであんまり待ってると時間がなくなるかと考え、今度は彼女の肩を叩いたんだけど…………まさか悲鳴を上げられるとは思わなかったなぁ。

 

 

 この女尊男卑の世の中で、女の子の悲鳴が上がったらどうなるかは火を見るよりも明らかで、俺は周りの人の通報で駆け付けた警察官に事情聴取をされてしまった。

 

 

 

「ご、ごめんね佐久間くん!! い、いきなり触られたからびっくりしちゃって、その、あの、ご、ごめんなさい!!」

 

「いやぁ、いきなり触った俺の方が悪いから気にしてないって、今のご時世で逮捕されなかっただけ不幸中の幸いって奴だね」

 

「う、うぅ……こんなはずじゃなかったのに……」

 

「ま、まぁまぁ、取り敢えず先に食事でもしようよ? 映画の時間もあるしね」

 

 

 完全に肩を落として意気消沈してる更識さんを宥めながら、良く考えずに近くのファミレスに入ったんだけど、何となくガラス張りの外から視線を感じるような気がする。

 

 思わずちらっと外を見たけど特に気になる物は無い、強いて言うなら遠くのビルの屋上に光る物があるくらいだろうか? 

 

 目を凝らしてその光る物体を観察しようとしたら奥へ引っ込んでしまったから、恐らくあのビルの関係者が持ってる何かが反射したんだろう。そう疑問を打ち切った俺は改めてメニューへと目を移したんだけど、視線を切るとやっぱり監視されてる様な気がする。

 

 

「……どうしたの佐久間君?」

 

「何というか……悪意は感じないんだけど、さっきから見られてる様な気がしてさ」

 

 

 そう言った瞬間、更識さんの目付きが少し真剣味を帯び始め、自然かつさり気ない仕草で周りを見渡し始めた。日本の代表候補生なだけあってか彼女もまたその手の訓練を受けているのだろう、店内を一通り見回してから小声でそっと耳打ちしてくれた。

 

 

「……とりあえず、見える範囲には居ないと思う」

 

「……見回しただけで察せるなんて、更識さんは凄いね」

 

「……佐久間君も多分感じてると思うけど……店内で私達に意識を向けてる人は居ないし、私達と隣接した席も空席……店員の動きや対応にも不審な部分が無いから……多分店の中は大丈夫……かな?」

 

 

 そう耳打ちしながらも、更識さんは俺の首筋に手を伸ばし、そのまま服の中へと指を入れて来た。

 

 話の流れをぶった斬る様な行動だったので少し面食らったが、首元にあった服のタグの裏に極小の盗聴器が付けられていたらしく、それを取り外した更識さんはそのままお冷の中へと入れてしまう。

 

 彼女曰く、この型の盗聴器は小型な事と電波を受信できる範囲の広さが特徴的ではあるものの、耐水性は無いに等しいのでこれで十分らしい。

 

 確かに盗聴器が水没した段階で監視されている感覚は消えた。人は見た目によらないと言うが、大人しい印象があった更識さんが手慣れた手付きをしていたことが意外で、思わずその顔を見ていたんだけど、視線が合った途端メニューで顔を隠されてしまった。

 

 

「……そ、その、は、恥ずかしいから、見ないでっ……」

 

「あっ、ごめんね?」

 

 

 赤面する更識さんに申し訳なく思いつつもとりあえず食事を注文して料理が来るまでの間に世間話をしてたのだけど、その中で話題が俺の普段の生活に移っていった。

 

 と言っても学園に来てからの生活ルーチンは変わらないし、今はデュノアさんも別室になったから消灯時間過ぎての自習も継続してる。

 

 専用機を手に入れてからは更識先輩との模擬戦は無くなったけど、その代わりにかなりハードな基礎トレーニングと素手の格闘戦も叩き込まれてるし、寧ろ入学してからの方がタフな生活をしてるような……。

 

 

「とまぁそんなところかな? ただ週末からは夏休み終盤までずっとイギリスでデータ取りとホーネット用の特別メニューをやるみたいだし、当分はIS漬けになるかなぁ」

 

「……そうなんだ……残念……」

 

「まぁそれが無かったとしてもプール使った基礎トレーニングとか、後期授業の予習とか、色々やる事があるからねぇ。正直言って夏休みとは言ってもあんまり遊ぶ余裕は無いかなぁ」

 

 

 一般的にIS関連の知識や訓練は中学生時点である程度履修済みになっている、それは即ち男性操縦者である俺達は3年分の周回遅れが発生している。

 

 だからこそこの長期休暇は無駄には出来ない。イギリスに着いたら着いたでその辺りの知識も叩き込まれる、俺にとっての夏休みは今日で終わりの様な感じだ。

 

 ただ、今日は更識さんから誘われてたのもあって昼からは完全に遊ぶつもりだったし、息抜きもしっかりさせて貰おう。

 

 そう意識を切り替えて、食事を終えた俺達は目的の映画を見たり、バッティングセンターの様な場所で遊んだりと、あっという間に時間が過ぎた。

 

 そんな風に友人との休日を過ごしてた訳なんだけど、その途中で厄介なセールスに捕まってしまった。一応サングラス付けたりはして変装してたんだけどなぁ。

 

 

「えっと、すみません。もう一度お願いできます?」

 

「プライベート中に失礼しました。私、こういうものです」

 

 

 ––––そう言って差し出された名刺にはIS装備開発企業『みつるぎ』渉外担当『巻紙 礼子』と書かれていた。


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