篠ノ之箒に一目惚れ   作:ACS

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第4話

 

あの謎の先輩が帰った後も飛行訓練や教科書に載ってる技術の練習をしていたらすっかり遅くなってしまった。

 

特に瞬間的な加速で相手との距離を詰められる瞬時加速(イグニッション・ブースト)の練習をずっとしてたんだけど、やっぱ教えてくれる人が居ない状態から独学は辛いなぁ。

 

壁や地面に激突したりした衝撃であちこち痛む身体を労わりながら、SHRの時に渡された自分の部屋の鍵の番号を見る。

 

本当は初日から寮に入れたらしいけど、連絡ミスで俺に伝わって無くて、昨日は保護されてた研究所に帰ったんだよなぁ。

 

俺も入学前に一週間は外部からの登校になると言われてた事で確認しなかったし、先生が平謝りだったから怒るに怒れなかったけどさ……本当は初日からISに乗って早めに慣れる気だったからちょっと出鼻が挫かれた感がする。

 

廊下の窓から見える外の景色はすっかり暗く、空を見上げて見れば月が顔を出していた。

 

時計を見たら既に20時頃、放課後に入って少ししてからアリーナに入ったから、かれこれ三時間近く練習してたのか……先生に無理言ってアリーナの閉館時間越えてもIS乗ってたから晩御飯食いっぱぐれたや。

 

けどまぁ一旦荷物を部屋に置いてから食堂に行けばいいかとか考えながら自分の部屋の扉を叩き、一声かけてから部屋に入ったんだけど、『おう、いいぞ』と言う返事とは裏腹に風呂上がりなのか着替え途中の織斑君が頭を拭いてるところだった。

 

「……男二人だから同室なのは当たり前だけどさ、せめて完全に服を着てから返事した方がいいんじゃないか?」

 

「えっ? なんでだよ? 男同士だし別に––––」

 

「確かに俺は気にしないけどさ、俺以外の人は気になるみたいよ?」

 

 

そう言って、背後を指差した俺は学生寮に入った辺りから目のやり場に困る様な薄着でチラチラと何かを見ながら着いて来てた女子達を織斑君に見せる。

 

彼女達は手で目元を覆ったフリをして指の隙間から覗いてる子や、すかさず携帯のカメラでその瞬間を撮影してる子、『織斑一夏は誘い受け!! 繰り返す!! 織斑一夏は誘い受け!!』などと言う意味のわからない事を叫ぶ子など、非常に個性豊かな人ばかりでびっくりするくらいの騒ぎになり、割と俺もどうしようもない。

 

慌てた織斑君に腕を引かれて部屋に連れ込まれた俺は後ろ足で扉を閉め、鞄を空いてるベッドの上に投げて部屋の椅子に座る。

 

 

「ふぅ疲れた。織斑君も大人気だねぇ」

 

「大人気なのはそっちもだろ? 夕飯の時にお前のISスーツ姿の写真出回ってたぞ?」

 

「うぇっ!? えっ!? マジで? いつ誰が撮っ–––あの人かッ!!」

 

 

模擬戦の印象が強過ぎて忘れてたけど、ハンディカメラで撮影されてたのを今思い出した。しかもあのカメラ映像の撮影以外も写真撮影機能付きだって宣伝してた奴じゃん!!

 

衝撃の事実に思わず机に突っ伏したけど、死ぬのは俺一人じゃない事に気が付いたので何とか持ち直す。

 

「なぁ織斑君、君も明日から更に人気者になれるぜ?」

 

「いやぁ、俺はセミヌードは勘弁––––なぁ佐久間? さっき廊下で部屋覗いてた子に携帯構えてる子っていなかったか?」

 

「バッチリいた。バッチリ撮影してたよ?」

 

 

俺のその言葉に織斑君は疲れた様にベッドに倒れ込む、安心しろ恋敵。今この瞬間、俺達の気持ちは一つだ。

 

「「どうしてこうなった……」」

 

 

出回ってしまったのは仕方ない、超々前向きに考えたら女子側からの壁が少し薄く……既に障子紙並に薄いのにこれ以上薄くなるのかな?

 

なんとか現状を飲み込もうと頑張ってると、俺より先に持ち直したのか、のそのそと起き上がった織斑君が『そういえばさ』と口を開いた。

 

 

「佐久間は昨日なんで寮に来なかったんだ? 鍵貰ってたんだろ?」

 

「連絡の伝達ミスだってさ、今日放課後の前に担任の先生から平謝りされながら渡されたよ」

 

「あー、そりゃ災難だったな。んで? ISの練習の方はどうだったんだ? 模擬戦してたって話だけど」

 

「片手ブレード一本の縛りプレイに完封負け、情けないけど擦りヒットすら無かったよ。ああ、後写真ばら撒かれた」

 

「ご、ご愁傷様……」

 

織斑君のなんとも言えない雰囲気の視線を受けながらも、心身共に疲れ果てた俺は着替えもせずに自分のベッドに倒れ込む。

 

そして鞄の中から目覚ましを取り出し、早朝にセットしたところで食事をしてなかった事を思い出して部屋を出ようとしたんだけど……人の気配を感じて辞めた。

 

 

「なぁ織斑君、何か食べる物無い? 自分のブロマイドが出回ってるから今日は部屋の外に出たく無いんだけど」

 

「んー炒飯なら直ぐ作れっけど、それで良いか?」

 

「食べられるならなんでも」

 

「オッケー、じゃあ作ってくるわ」

 

「悪いね、借り一つってことで」

 

 

まだ早い時間だけど今日はこの炒飯食ったらもう寝よう、ドアの前に居たから扉越しに聞き耳立ててたらしき子の『織斑君が佐久間君の為に料理作ってる!!』という声が聞こえて来たし、精神的にそろそろ限界です。

 

アリーナのシャワー使ったから俺はもうこっちで浴びる必要は無いし、外は今珍獣を見に来てる女の子で一杯だからなぁ。

 

これから長い付き合いになる圧倒的な男女比問題に頭を抱えながら、織斑君の作って来てくれた予想外に美味しい炒飯を平らげた俺はそのまま寝るのだった。

 

 





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