––––数日前に、一組でクラス代表を決める試合があった。
試合が終わって帰って来た彼の話によると、逆転の一手を打とうとした瞬間にポカをやらかして自滅してしまったらしく、特訓に付き合った篠ノ之さんや実の姉である織斑先生による説教を受けたと言う。
厳しい彼女の事だから確かに逆転の可能性が出た瞬間の自滅負けは許せる物じゃないだろう、精神的に弛んでるとか緊張感が足りないからそうなるとか、そんな説教を仁王立ちしながら言ってる姿が簡単に頭の中に浮かぶ。
「大体さぁ、渡された専用機がブレード一本で盾すら無いんだぜ? 多少のポカは許してくれたっていいよな?」
「白式……だっけ? 織斑君の専用機」
「おう、この前届いたばっか」
専用機––––早い段階で倉持技研が織斑君の専用機を開発していたらしく、彼は一年のこの時期に異例の専用機持ちになった。
その話を聞いた時に俺にもそんな話が来てるのかと織斑君に確認されたけど、俺の場合は日本以外の国から専用機のオファーが殺到してる為、一旦保留にしている。
携帯には毎日メールが届くし学園にも面会希望の申し込みがあるらしいけど、近接特化な自分だとどの機体も合わなさそうなんだよね。
特に一番メールや面会希望が多いのがイギリスだ。なんでも俺にはBTシステムに適性があるとかなんとか言っててかなり熱烈なラブコールを送ってくれるんだけど……中距離射撃型は俺にはね?
一応中国の甲龍型やアメリカの軍用機ファング・クエイクなんかは俺の適性に合ってると思うけど、射撃兵装が牽制程度にしか使えない俺からしたらどちらも持て余しそうで、中々煮え切らなかった。
まぁ急いで決めるものでも無いし、ゆっくりと各国の機体を吟味しよう––––今日まではそう、考えていた。
…………クラスメイトの子から借りた織斑君の戦闘映像を視聴覚室で再生し、その内容を見た俺は正直言って才能に嫉妬したよ。
結果だけを見れば確かに織斑君の自滅負け、自分のSEを削って一撃必殺の剣を振り抜く零落白夜という
…………俺が嫉妬したのは試合が始まってからの二十七分間、ブレード一本しか無い状況で先制攻撃を受けた上で二十七分専用機持ちの銃撃に満身創痍とは言え耐え切った。
相手はイギリスのティアーズ型、操縦者のイメージ通りの動きが出来るビットが売りの中距離射撃型の機体、引き撃ちに徹されれば近寄る事は難しいだろうし、何より空中を縦横無尽に動き回る移動砲台そのものが単純に厄介なのに、それを二十七分も耐えて居る。
しかも完全に自分に馴染んでいない機体でそれだ、入試で山田先生に蜂の巣にされた俺が同じ事をやれるかと言われたら絶対に出来ないだろう。
さらに言えば腹を決めた瞬間に、ビットを切り落とす事に成功しているのも彼の強さを表している。
対戦相手が操作している上に三次元的な動きをする的に近接武器一本で対処出来ている辺り、反射神経や判断力も相応の物を持っている証拠。
実際、白式が
見れば見るほど織斑君の強さが際立つ映像を爪を噛みながら目に焼き付けていると、唐突に視界が暗くなり『だーれだ?』と言う声が聞こえて来た。
「……そのからかい半分の口調と声のトーンは謎の先輩Xさんでしょ? 何の用です?」
「あら、随分とやさぐれてるのね、良かったらおねーさんが相談に乗ってあげましょうか?」
そう言って、謎の先輩Xさんは俺の前の机の上に座り、人をからかう様に足を組みながら俺に目線を合わせて来た。
胸元も見えるか見えないかのギリギリを攻めてるあたりそう言う性分なんだなと納得し、改めて映像の方に向き直る。
「…………信じられます? これだけ動けてISの稼働時間は二十分前後だったらしいんですよ」
本当は、何も言う気は無かった。才能の差なんて愚痴っても解決する問題じゃないし、弱音なんて自分のやる気を削ぐだけのマイナスにしかならない発言でしかないのに、俺は思わず自分の思いを口にしてしまう。
多分この人は俺の努力を知ってるし、それに付き合ってくれているから安心してしまったんだと思う。弱音を言っても大丈夫だって。
「俺は学園に来る前に保護されてた研究所で合計三十時間ISに乗りました。基礎知識もしっかり付けてから入学して、ISにだってオーバーワーク気味に乗ってます。それなのに織斑は才能だけで俺より強いんですよ? 神様は差別主義者なんですかね?」
先輩は何も言わない、ただ俺の次の言葉を待つ様に優しくこっちを見るだけだ。
「……俺は、俺は篠ノ之さんに振り向いて欲しくてずっとずっと努力して来ました。彼女が言う強い男になれるように、彼女が嫌う今時の軟弱な男達にならない様に、ずっとずっと努力してたんですけどね」
「その当の本人は織斑くんが好き、と」
「……なんで知ってるのかは聞きませんが、その通りですよ。勝ち目のあるなし以前に彼女の目に俺は映ってなかった。付き合いの長さは大して変わらないはずなのに友人としか認識されてないのが堪らなく悔しいんです」
気が付けば戦闘映像は終わっていた。改めて巻き戻そうとして––––止めた。
「先輩、俺は織斑に勝てると思いますか? 努力は才能を超える事が出来ますか? 俺は……俺は篠ノ之さんの目に映る事が出来ると思いますか?」
「––––出来ないと思ってる人間に何かを成す事が出来ると思う? 本当に君が彼に勝ちたいのなら、絶対の自信を持つ事よ」
先輩は机の上から降りて俺の元まで来ると『当分は私が君を鍛えてあげるから、そこから先は君次第ね』と言って、視聴覚室を去って行った。
–––––絶対の自信を持て……か。