篠ノ之箒に一目惚れ   作:ACS

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第7話

 

基本的に俺は早朝と部活が終わった夕方の二回ISに乗っている。

 

朝一の方は謎の先輩Xさんとマンツーマンなんだけど、放課後の方は他クラスや他学年の人がアリーナに居たりして模擬戦の相手には困らないので、案外あの人に会う事は少ない。

 

今日は射撃戦メインの人と戦ってみるかと考えながらアリーナに向かうとどうやら使用中だったらしく、観客席から覗いて見ると、何やら派手に戦闘をおっ始めてる織斑君達を見つけた。

 

ティアーズ型に乗ったイギリス代表候補生の人と、打鉄に乗って近接戦を仕掛ける篠ノ之さんに苦戦しながら戦う織斑君、じわりと暗い感情が滲みそうだったので別のアリーナへ向かおうと踵を返したら、織斑君に気付かれたらしい。

 

 

「な、なあ佐久間!! お前も一緒に訓練しないか!? 二対一は流石にキツイ!!」

 

 

……中距離射撃型と近距離格闘型の二対一で()()()程度、ね。

 

その言葉に思わず目を細めそうになったけど、一旦深呼吸をして自分を落ち着かせた俺は、笑顔を浮かべながら返事を返す。

 

 

「クラス対抗戦があるのに三組の俺と訓練していいのかい? 織斑君の機体はブレード一本だから対策されたらキツくなると思うよ?」

 

「それはお互い様だって!! それに同じ男子だから競い合ってみたいってのも––––」

 

「一夏ッ!! いつまで余所見してるんだ!! ちゃんとこっちを見ろ!!」

 

 

織斑君のお誘いは正直に言って断るつもりだった。勝てない勝負をする気が無いと言う訳じゃないけど、正面から戦った場合、嫉妬で曇った剣を振りそうな気がして自重する気だったんだけど、今の篠ノ之さんの一言で気が変わった。

 

完全に織斑君だけを見てる彼女に少しでも自分を印象付けたくなり、俺は気を落ち着かせながら借りて来た打鉄を持ってアリーナへと入る。

 

それと同時に織斑君はなんとか二人を宥める事に成功したのか二対一の猛攻自体は止まってる、ただ篠ノ之さんともう一人の女の子からは凄く不満げな視線が俺に突き刺さってるけどね。

 

「あはは、お邪魔だったみたいだね」

 

「いや、そんな事無いって、おかげで助かった」

 

 

そりゃ君は助かっただろうけどさ、篠ノ之さんからしたら思い人との一時を邪魔された様なもんだからなぁ……辛い。

 

 

「じゃあタイマンかな? それともタッグ戦? 俺はどっちでもいいよ?」

 

「じゃあタイマンで、佐久間とは戦った事無いしな」

 

「クラスが違うし、俺はちゃんと部活に出てるから時間帯的に会わないからねぇ」

 

 

俺のこの言葉に篠ノ之さんはバツの悪そうな顔をして視線を泳がせる。だって彼女朝練は来るけど、放課後になると殆ど織斑君に付きっ切りだからあんまり部活来ないんだよね。

 

別に責める訳じゃ無いし、惚れた弱みもあって俺は気にしてないんだけど篠ノ之さんは後ろめたさがあるっぽい、主将怒ってるよ?

 

 

と、脇道に逸れそうな思考はここで打ち切りにして、SEの回復が終わった織斑君と向かい合いながら試合の合図を待つ。

 

今回は篠ノ之さんが居るから少し気合いを入れたいんだけど、彼女は『やるからには負けるなよ、一夏』と言ってる辺り、完全に俺の事は眼中に無いらしい。

 

それに気を取られた所為か合図として離れたブルーティアーズのライフル音に反応が遅れ、その隙を突いた織斑君が姿勢を低くしながら突っ込んで来た。

 

装備を見て近接型だと判断して速攻で主導権を握るつもりなのだろう、俺はそう考えながら一旦後ろに跳びのいて距離を測りつつ左手の焔備をフルオートモードにしながら引き金を引く。

 

単発の狙い撃ちじゃ命中率が低すぎるので、ばら撒く様に弾を散らしたのが良かったのか、距離を詰めて来た織斑君の足を止める事が出来た。

 

正直多少の被弾を覚悟で突っ込まれると読んでたんだけど、ISを動かしてる時間の少なさが出たのかも知れない。

 

けど足を止めたのなら好都合、俺はその隙を逃さない様に地面を蹴って踏み込みながら袈裟懸けに斬りかかる。

 

これで当たる相手なら苦労は無いんだけど、案の定織斑君は咄嗟に斬撃の軌道にブレードを差し込んで俺の一撃を受け止めた。

 

けどそれは想定内、これぐらいはやってくると初めからそう考えていた俺は、胸元に焔備の銃口を突き付けて残った弾薬を全て叩き込む。

 

ただ、最初の牽制で撃ち過ぎたのか思いの外早く弾が切れてしまい、SEをまともに削る事が出来なかった。

 

弾薬の再装填や拡張領域(バススロット)からの再呼び出しも致命的な隙となる、俺は咄嗟に弾切れを起こした焔備でそのまま白式の顔面を横薙ぎに殴り付けたけれど、それよりも若干早く織斑君の膝蹴りが俺の体に突き刺さる。

 

貫通した衝撃で空気を吐き出され、身体が強張った所為で十分な威力で殴りつける事が出来なかったからか、相手の体勢を僅かに崩すだけに留まり、距離を離す事が出来なかった。

 

この超至近距離は非常にマズイ。確かにこの距離は俺の距離だけど、それは織斑君にも当てはまるのでさしたるアドバンテージにはならない。

 

更に言えば彼には伝家の宝刀、零落白夜がある。相手を一撃必殺できる技なのだから、彼にとっては一太刀浴びせるだけで十分。

 

当然膝蹴りの衝撃で生まれた俺の隙を逃す彼じゃない、咄嗟に鍔迫り合いをしていた葵を弾き飛ばすと、そのままブレードを可変させて零落白夜を発動する。

 

打鉄の装備にこの一撃を防ぎ切るだけの物は付けてない、凶悪な斬れ味をしているこの単一仕様能力の前じゃ非固定浮遊部位(アンロックユニット)だけじゃ障子紙程度の防御力だ。

 

思わず身を引きそうになった俺だったが、ハイパーセンサーから伝わる篠ノ之さんの表情を見てその選択肢を捨てる。

 

まるで織斑君の勝利を確信したような嬉しそうな顔、そりゃ好きな人が勝つのは嬉しいだろうさ。だけど身勝手ながら俺としては酷く面白く無い。

そんな複雑な思いが俺を突き動かしたのか、焦りが霧散して逆に冷静になり、振り抜かれた零落白夜の軌跡に集中する事が出来た。

 

確かにこの単一仕様能力は凄まじい、当たれば致命傷レベルのダメージを受けるだろう、しかしそれは()()()()の話。

 

冷静に剣の軌道を見た俺は、ビーム刃が展開していない基点部分を拳で受け止めるとそのまま思いっきり横に払って白式の胴体をガラ空きにする。

 

一瞬面食らった顔をした織斑君だけど、零落白夜の恐ろしい部分はその刀身だけで元々の近接ブレード自体は極悪という程じゃない。

 

ならそこを弾く事が出来れば必殺の一撃は当たらない、そしてそれを弾く事は他の武装が存在しない白式にとって大きな隙となる。

 

だがまだこれだけじゃ反撃が怖いので俺はその場で体を捻り、回転の遠心力と共に葵を横一閃して白式のブレードを弾き飛ばす。

 

こうする事で彼は最早徒手空拳での格闘しか出来なくなる、必殺の一撃は封じた。織斑君は一旦後退し、距離を開けながら弾かれたブレードを回収しようとしているがそんな事は当然許さない。

 

弾切れを起こした焔備を槍の様に投げ付けると同時に、謎の先輩への対策として覚えたばかりの瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使い、距離を詰めながら右肩の葵を抜き放つ様に斬り付ける。

 

加速の勢いと居合い斬りが組み合わさった一撃は、振り抜いた側の此方にも衝撃が伝わる程の強力な一閃となり、織斑君の顔に焦りの色が浮かび始めた事からも白式のSEが目減りしている証拠。

 

畳み掛ける様に右手のブレードで突きを放つが、崩れた体勢ながらも身体を逸らされてその一撃を回避され、手首を掴まれて背負いなげられた。

 

空中で姿勢を制御して機体が流されないようにしたものの、体勢を立て直す間は無防備になる。

 

その一瞬の時間で弾いたブレードを拾われ、俺が織斑君に向き直った時には再び零落白夜を展開して斬り込んで来る所だった。

 

引く事は出来ないタイミングだったので両手の葵を交差して受け止めようとしたんだけど、ビーム刃を止め切る事は出来ず、切っ先が俺の胸元をひと撫でして行く。

 

それだけで絶対防御が発動しこちらのSEが洒落にならない程目減りする、しかも交差して受け止めようとしたブレードはビーム刃で焼き切られてしまった。

 

訓練機と専用機、第二世代機と第三世代機の性能差に唖然としたものの、まだ左肩に一振り葵が残っている。

 

それを引き抜こうと右手を伸ばすと返す刀で盾ごとマニュピレーターを斬り捨てられ、SEも一気にレッドラインになってしまった。

 

直撃していないのにたった二振りで劣勢を覆すその性能に背筋から冷たいものが走るが、戦慄する前に三度目の斬撃が振り抜かれる。

 

先程の様に弾いてもその後の追撃が出来ない、後ろに引いたとしても直線的な動きになるから相手の追撃に対処する事が出来ない、SEの残量的に瞬時加速(イグニッション・ブースト)も使えない。

 

けどまだ手はある、俺は残った右肩の盾を織斑君の顔面にぶつけて視界を遮った後、今度は残った左手でブレードを握った白式の手首を掴むと、そのまま向きを反転させて零落白夜の刀身を白式の肩に押し当てる。

 

バチバチとスパークが走りながら白式の絶対防御が発動すると同時に零落白夜が消失し、試合が終わった。

 

終わってみると勝てた事に対する安堵感はあったものの、それ以上に向かい合うだけで垣間見えた才能の片鱗に謎の震えが止まらない。

 

緊張感のせいで普段以上に疲れたのか自分が荒い息をしていた事に気が付いた俺は、震えを止める為に深い深呼吸をしながら下に降りた。

 

 

「佐久間は強いなぁ、動きも参考になったし全然歯が立たなかった」

 

「うーん。俺の場合は織斑君よりもISに乗ってるからねぇ、単純に経験の差じゃないかな?」

 

そう俺は織斑君にフォローを入れたのだけど、その言葉を肯定する様にイギリスの代表候補生の人ら織斑君の手を握り、それに対して篠ノ之さんも食ってかかる。

 

 

「彼の言う通りですわ一夏さん。 白式は癖のある機体ですし、どうしても最初の内は負けが込むでしょう。しかしご安心下さい、このセシリア・オルコットが手取り足取り、付きっ切りで特訓に付き合いますわ!!」

 

「何を言う、鍛え方が足りないから佐久間に負けるんだ。癖のある白式に乗っているいないは関係無い、単純に今のお前が佐久間より技量で劣っていると言う事だぞ一夏」

 

 

イギリス代表候補生の人––––オルコットという人の励ましを一刀両断した篠ノ之さんは、そのまま織斑君を挟んで口論を始めてしまったが、正直に言って俺は篠ノ之さんが俺の実力をちゃんと評価してくれていた事が嬉しかった。

…………その言葉で、今までの努力がほんの少しだけ報われた様な気がする。

 

そんな思いを抱きながら、俺はSEの回復の為に一旦ピットへと戻るのだった。

 

 


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