––––今日はクラス対抗戦の当日。
初戦の相手は四組の更識簪と言う人で、クラスの子の話によると日本の代表候補生らしい。
織斑君は一組の代表として出場しているから対戦する事があるとしたら次の試合となる、この試合は両クラスの人が自分達の組の試合を観戦するので当然織斑君との戦いには彼女の目があるだろう。
この間の模擬戦じゃ俺の勝ちだったが、正直に言って連続で勝てるとは全く思えなかった。
織斑君曰く白式は欠陥機らしいが、対面した俺からしたら誰も使い熟す事の出来ない究極の機体という印象を受けた。近寄って当てるだけで相手を倒せるんだぜ? やられる側はたまったもんじゃない。
試合開始よりも五分早くピットの中に入っていた俺は、始まるかも分からない二回戦に緊張して体が強張り、手足が震えてる事に気が付いた。
「ははっ、なんで震えてんだろ、俺?」
誰もいないのにそんな言葉が口から漏れる。何故震えてるかなんてとっくに分かってる癖に『自分に自信を持て』とあの先輩から言われた言葉の通りに強がって、拳を抑え込む。
––––俺は織斑に負けるのが怖い。既に精神的な面で引け腰になってるのに実際の試合でも負けてしまったら、きっと俺は自分の弱さに押し潰される。
だから態と強がって見せたけど、内心を自覚してる以上そんな事は焼け石に水でしかなく、震えが全然止まらなかった。
幸いな事に一組と二組、三組と四組の試合はそれぞれ別のアリーナで同時に行われるから、変に織斑君の試合を見て心が折れる心配は無い。
だから大丈夫、試合が始まるまでに弱気の虫はきっと引っ込むはずだ。落ち着け。焦るな。俺は俺を信じればいい!!
『それではクラス対抗戦、第一試合と第二試合を開始します。各クラスの代表はアリーナに入場してください』
遂に試合開始のアナウンスが流れて来た。言い聞かせた筈の身体は全く言う事を聞かなかったが、戦うかどうかも分からない相手に不戦勝なんて格好がつかないにも程がある。
俺は気合を入れる為に近くのロッカーを思いっきり殴りつけ、拳に走った痛みによって無理矢理身体に喝を入れた。
「––––行くぞ打鉄!! 相手が誰だろうと必ず斬り伏せて優勝してみせる!!」
声にする事で思いを確かにしながらカタパルトによって空へと飛んだ俺は、何時もの装備に肩と背中の部分にスラスターを増設した打鉄でアリーナの中央へと向かう。
対戦者である更識さんも同じタイミングで入場してきたらしく、俺たちはほぼ同時に向かい合う事になった。
相手の機体は専用機じゃ無くて訓練機の打鉄だったが、オプションパーツとしてスラスターが増設されていて、
機動性と火力と言う面で言えば俺より上の機体になってるけど、盾を取り外してミサイルポッドへと換装してるので防御性の面じゃこちらに部があるとは思うけど……相手は代表候補生、それだけじゃ利点にもならない。
ごくりと生唾を飲み込む俺とは対照的に、何故か更識さんは俯いたまま何も言わずにその場で立ち尽くしている。確かに俺達に接点は無いから話す事も無いんだけど、それでも目線を合わせようとしないのは何故だろうか?
そんな疑問を頭の中で浮かべている内に試合のブザーが鳴った為、疑問を振り払いながら葵の切っ先を向けたんだけど、その時に彼女と目が合った。
「……目を……合わせないようにしようと思ってた……」
「更識さん?」
「……勝手な感情だから……貴方には関係無い感情だから……あの人に鍛えられてるだけだから……こんな感情を向けるのは筋違いなのに、貴方を通してあの人を見るのは間違ってるのに、それでも私は––––」
誰に告げるでもなく、自分に言い聞かせる様にそう呟いた彼女は、キッと鋭く俺を睨み付けると葵を呼び出しながら斬り掛かって来た。
その一撃を受け止めながら鍔迫り合いに持ち込むと、彼女はそのまま膝蹴りを入れてくる。
「––––私は貴方を倒す」
強い言葉と共に放たれたその一撃で彼女は俺の機体を僅かに浮かせると、そのまま胴体へ横一閃しながら大きく斬り下がる。
そのおかげで膝蹴りに合わせた反撃の一撃をすかされた、代表候補生なだけあって動きが一般の生徒と全く違う。
しかも俺に向ける闘志も鬼気迫るものがある、何が彼女の琴線に触れたのかは分からないけれど、彼女が俺に対して向けている物だけは分かる。
––––それは嫉妬だ。
誰に向けた嫉妬かは分からないけど、あの暗い感情が滲み出る気持ちは俺にもよく分かる。実際この学園に来てからは自分が嫌いになりそうなくらい、織斑君へ鬱屈した感情を抱いているからさ。
けど、だとしても––––。
「––––俺だって、負けるものかよ!!」
吼える様にフルオートモードの焔備の引き金を引き、弾丸をばら撒きながら相手の回避先を誘導する。
引き撃ちに徹しながら左右に動きつつ滑らかな機動で避けて行く、俺の様な直線的な動きじゃないから動きは読み辛いけど、確実に壁際へと追い詰めているから後はタイミングだけ。
どん、と彼女の機体がアリーナの壁にぶつかった瞬間、俺は
お陰で勢い余った俺は壁に激突し、振り抜いた葵の刃が半ばまで外壁に埋まってしまう。
「くっ、素早い!!」
「……あれだけ熱心に練習してれば嫌でも貴方の戦術は耳に入ってくる」
その言葉と共に背後を取られた俺はミサイルを撃たれ、爆風で壁へと押し当てられる。
固め打ちで固定された俺に対して、彼女は接近戦を仕掛けてくる事は無く、確実にSEを減らすヘッドショットを狙って来た。
近接戦は警戒されるレベルだと思われてるのは有難いけど、その所為で完全にメタられてるのはかなり辛い。
しかしだからと言って諦めるのはまだ早い、要は射撃戦さえ封じてしまえば此方のペースに持っていけるという事だから、焔備の破壊を最優先すれば後は何とでもなる。
そして焔備は標準的なアサルトライフルだから盾受けしながら突き進んで行けば止められる心配は無い、問題は俺自身が持つかと言う部分だけど、それは気合で耐えればいい。
俺は盾を背面へと回して銃撃を防ぎながら、左肩の葵に手をかけつつ、外壁を蹴り飛ばして加速を付けて
直線的な動きだからこそ簡単に避けられてしまうが、彼女は相当警戒しているらしく、大きく距離を開ける様な真似をせずに半身を逸らすだけで俺の突進を回避する。
そして再び俺の頭目掛けて引き金を引こうとするだろう、しかし避けられるのは折り込み済みなので増設した肩部のスラスターを前面に回して後方に向けて無理矢理
「………っ!? なんて、無茶苦茶!?」
「無理を通せば道理は引っ込むもんだ!!」
急加速を止める為に急静止をしたせいか、身体の節々に痛みが走り、口の中で血の味が広がり始めたけど相手の懐に飛び込めた。
俺はそのまま盾を押し付ける様にしながら体当たりし、強引に密着しながら今度こそ壁際まで更識さんを押し込むと、左肩の葵で居合い斬りを放つ。
壁へ激突した衝撃で身体が強張っていたのか、更識さんはその一撃を受け止める事が出来ずに肩から腰へ掛けて一直線に斬り裂かれる。
更に大ダメージを狙うのならカスタムパーツのミサイルポッドに切っ先をねじ込んで誘爆を狙う手もあるけど、この至近距離じゃ確実に爆風に巻き込まれるし、SEの残量は圧倒的にこっちが少ないから自滅行為だ。
更識さんは苦し紛れに自分の葵を振るが、腰の入ってない手打ちの斬撃なんて何の脅威にもならない。
剣の軌跡を遮る様に盾を移動して受け止めつつ、今度は逆袈裟に切り上げる事で更なるダメージを狙ったが、更識さんは切り上げの勢いに合わせ機体を上昇させ、装甲を削りながらも滑る様に外壁を登って俺の拘束から逃れて行った。
そして今度は上空を取った彼女はミサイルを全弾発射しつつ、残った片手に焔備を取り出してフルオートで俺に発砲する。
俺は拘束が甘かった事に歯噛みしつつも、追尾して来るミサイルを誘導する様に円を描く様にアリーナを周り、入試でやった様に勢いを殺さないまま外壁を蹴って更識さんに斬り掛かる。
その際に誘導されてきたミサイルが全て外壁へ直撃し、大きな爆風となって俺の機体に更なる加速を与えてくれた。
俺はその隙に付け入る様にブーメランの如く握っていた焔備を投げ付け、それを追い抜かんばかりの勢いで再度
無理な挙動と加速によって生まれた強烈なGが俺を襲い、一瞬意識が飛びそうになったが、唇を噛んでそれを防ぐと、右肩の葵に手を掛けつつ投げ付けた焔備を反射的に撃ち落としてしまった更識さんへ二刀で斬り掛かった。
咄嗟に身を引いてクリーンヒットを防ごうとした彼女だが、俺の狙いは残った手に握られている射撃兵器、武装破壊を目的とした交差斬りは見事に彼女の持つ焔備を破壊する。
驚きの表情を浮かべながら更識さんは更に別の武装を取り出そうとした様だけど、
そしてその一撃で一瞬俺の攻撃が止まった隙を突いて更に左手の葵に回し蹴りを入れて吹き飛ばし、彼女も同じようにブレードを呼び出して突きを放つ。
SEの残量的にこれを受けると勝ちがかなり遠ざかるので、俺は腰にマウントしていた鞘を掴んで刺突の軌跡に合わせて刀身に鞘を被せ、刃の半ばあたりをテコの原理を利用する事で無理矢理へし折った。
これで完全に相手の抵抗力を奪った!! まだ
俺は右肩の鞘を左手で握り、右手で更識さんの破壊されていない方のマニュピレーターを力尽くで握りしめる事で装備の呼び出しを封じる。
そしてトドメの一撃を彼女に向けて振り下ろそうとした瞬間、アリーナに衝撃が走った。
思わず振り向いて音の発生源を見るとそこには見た事無い深い灰色をしたISが腕を上げながら立っていて––––––次の瞬間、ハイパーセンサーにロックオン警告が表示されたのだった。
簪ちゃんの機体は諸事情によって開発計画が凍結した弐式の事情を学園側が汲んでくれた為、今大会では特別に大胆なカスタムを許されてます。