幻想の紅魔   作:エルナ

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エルナ作


第2話 クロフィの日常

 草木も眠る丑三つ時。

 木々によって星明かりすら届かない森の一本道にて異様な光景が広がっていた。

 

 道を塞ぐように腕を組み仁王立ちするのはあどけなさの残る紅色の髪の少年。

 その背に背負うコウモリのような羽は吸血鬼の証。

 血のような鮮やかな赤色の瞳から冷たい視線の先を見るとそこには人間ならば恐怖し逃げ出す異形の怪物達の群れ。

 

 しかし、その異形の怪物達の群れは1匹残らず地面に膝を着くか、地面に倒れ付していた。

 少年に向けるその怪物たちの視線には一様に恐怖のみがあった。

 

 その怪物達の中で一際大きな体を持ち、群れの長である妖怪は——だが他の妖怪達と同じく地面に膝を着き、少年に恐怖の眼差しを送りながら、どうしてこうなったのかと回想した。

 

 彼は紅魔館周辺の妖怪達を纏める長であった。

 彼は部下と共に人間を襲い、畏れを集めていた。

 だがその成果は芳しくなかった。

 

 何故ならば近くに有名かつ強力な妖怪である吸血鬼の一家があったからだ。

 

 彼にはそれが苛立たしかった。

 いや、彼の部下達もそうだった。

 自分達より人間を襲っていないにも関わらず、自分達以上に人間達から畏れを集めていることが。

 

 故に彼は部下を集め、紅魔館を襲撃することに決めた。

 そして、殺した吸血鬼達の首を人間に見せつけることで自分達が吸血鬼なんかよりも恐ろしい存在だと知らしめようとしたのだ。

 

 その結果がこれだ。

 

 彼等とて吸血鬼が容易い相手とは思っていなかった。

 だが吸血鬼は当主とその妻、後は100年も生きていない若造しかいない。

 数で押せば十分勝てると踏んでいた。

 

 にも関わらず、紅魔館に着く前に現れたガキ1人に為す術もなく全員が戦闘不能にされている。

 

 いったい何が起こっている。

 

 そんな彼の思考は断ち切られた。

 こちらを見ていた吸血鬼の少年がついに動き出したからだ。

 それだけで小さく悲鳴を上げるものさえいた。

 

 少年は一番近くにいた膝をつく妖怪に近づくとホコリを払うように手を振った。

 たったそれだけでその妖怪は肉片へと変わった。

 

 その後も少年は淡々と身動き1つ取れない妖怪達を殺していった。

 それは最早戦いとすら呼べないただの虐殺だった。

 

 群れの長は自分の部下達が殺されていく様をただ眺めているだけしか出来なかった。

 

 少年は虫でも駆除するかのような眼で部下達を殺していた。

 

「ウウウゥゥゥゥゥッ……」

 

 それを認識した時、彼は少年への恐怖も忘れ激しい憤りを感じた。

 少年にとっては彼らは敵ですらなく、ただ目障りな羽虫を駆除しに来たに過ぎないのだ。

 

「ふざけるなァァァァァアッ!!」

 

 そう叫ぶと群れの長は立ち上がった。

 それに少年は動きを止め、今まで表情の変わらなかった顔に、僅かに目を見開き確かに驚きの表情を浮かべていた。

 

 それを見た長は獰猛に笑う。

 それにまだ生き残っていた妖怪達の目に僅かに希望が宿る。

 

「死ねェェエェえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇエッ!!!!」

 

 地を蹴り砕き、目にも止まらぬ速さで少年に太い腕を振り下ろす——だが、その数倍の速度で振るわれた少年の拳に長は打ち抜かれた。

 

 地を揺らして崩れ落ちる長の亡骸を暫し眺めていた少年は、再び絶望と恐怖を瞳に宿した妖怪達へと向き直った———

 

 

「はぁ……」

 

 少年——クロフィ・スカーレットは生きているもののいなくなったその場でそっとため息を吐いた。

 

 異形の怪物であるとはいえ、生物を殺してまったく罪悪感がない。

 その事に複雑な思いを持ってため息を吐いたのだ。

 

 転生して吸血鬼になってから精神構造が変わったのか妖怪達の死体を見ても何も思わない。

 人の血すら平然と飲めてしまう。

 

 しかしまあ、妖怪達は紅魔館を襲おうとしたのだ。

 必然的にレミリアを襲おうとしたわけだ。

 

「うん、やっぱ死んで当然だわ。というかもっと苦しめて殺すべきだったかもしれない」

 

 シスコンここに極めりである。

 こんな奴に殺された妖怪達に憐憫の念を抱かずには居られない。

 

 踵を返して、紅魔館に帰るために歩き出したクロフィの頭には最早ついさっき殺した妖怪達のことはすっぽ抜けレミリアのことで頭がいっぱいだった……。

 

 

 クロフィの妹——レミリア・スカーレットが誕生してから早数年が経過していた。

 

 その間当然と言うべきかクローフィはレミリアを溺愛した。

 レミリアに初めて「おにいさま」と呼ばれた時は心臓を撃ち抜かれたように崩れ落ちた程だ。

 

「でへへ」と擬音の聞こえてきそうなだらしのない笑みを浮かべて幼女(レミリア)を構う様はクロフィが少年の見た目だから良いものの、そうじゃなければ第三者が見れば通報ものである。

 兄妹なので問題ないといえばないのだが……。

 

 さて、そんなクロフィもまさか一日中レミリアを愛でている訳では無い。

 

 彼がスカーレット姉妹の兄に転生した事で本来当主になるレミリアではなくクロフィが当主になる。

 そのため幼い頃から様々な教育を施されている。

 

 加えて戦闘能力的に問題ないと判断した現当主——ソギト・スカーレットからこのような仕事を任されることも珍しくなかった。

 

 クロフィは転生前の日本での知識があったが天才という程でもなかった。

 元々が日本でぬくぬく暮らしていた凡人なのだからしょうがない。

 

 身体能力と魔力は化け物クラスだがそれは吸血鬼の特性であってクロフィの個性という訳では無い。

 吸血鬼の中では高い方のようだがそれでも個人差の範囲だ。

 

 加えてクロフィには魔法への適正が一切なかった。

 それを知った時、クロフィは膝を着き絶望にくれた。

 男の子は誰もが1度は魔法に憧れるものである。

 

 だが、チート能力がなかった訳では無い。

 それが彼の「程度の能力」——「ありとあらゆるものを抑制する程度の能力」である。

 

 この能力はかなり万能で、相手の攻撃の速度や威力を下げるのはもちろん、相手の能力を弱くしたり、相手の魔力や妖力などを小さくしたり、身体機能を抑えることすら可能だ。その気になれば、太陽の光を抑えたり、地球の自転、公転を抑えることすらできる。……凄まじいエネルギーを消費するだろうが。

 

 ここまででお分かりの通りこの能力で先の妖怪達の動きが封じられたのだ

 ……全員の力を一律で下げていたので力の強かった長の火事場の馬鹿力によって攻撃を仕掛けられる事故はあったが。

 

 かなりチートな能力である。しかし、この能力にも弱点はある。

 

 まず1つに、どんなに頑張っても、0にすることはできないのだ。故に相手の動きを抑えても、少しづつ動くし、攻撃の威力をなくすことはできない。……限りなくゼロにすることは可能なので誤差の範囲だが。

 

 そして、2つ目だがこれはかなり厄介で、知覚できるモノにしか無理だと言うことだ。つまり、地球の裏にいる奴の力を抑えることはできないし、なんらかの手段で姿や気配を消した相手の力を抑えることはできないのだ。

 

 つまり、不意打ちに弱い。が、余程の達人でもない限り、吸血鬼のクロフィの不意を付けるものは居ないだろう。

 

 この能力を使えば戦闘が成立しない。

 だが、彼の父のソギトはそれでも戦闘訓練をさせた。

 

 クロフィはこっちが虐殺するか不意をつかれてやられるかの2択なので必要ないと思ったが前世で調子に乗ってやられたアニメや漫画のキャラを沢山知っていたので大人しく従った。

 

 

「ただいま〜」

 

「あ、おかえりなさい、おにいさま〜♪」

 

 紅魔館に帰宅したクロフィを迎えたのは羽をパタパタさせながら抱きついたレミリアだった。

 

 にへら〜、だらしのない笑みを浮かべてクロフィはレミリアを抱き返した。

 

「やぁ、レミリア。いい子にしてたか?」

 

「うん! れみりあ、いいこにしてたよ!」

 

「そっか〜、偉いな〜」

 

 デレデレと気持ちの悪い笑みを浮かべ続けるシスコンに話しかけるものが1人。

 

「……あのな、一応私もあるんだが」

 

「おや、お父様。いらっしゃったのですか。気づきませんでした」

 

「……お前、やっぱり性格変わってないか?」

 

 ソギトは半眼で自分の息子を見つめる。

 

「それで、襲撃に向かってきていた妖怪達はどうした」

 

「はい、皆殺しにしてきました。大したのはいませんでしたね」

 

 レミリアの頭を撫でながらそう言うクロフィをソギトはじーと見つめる。

 

「……油断したなお前」

 

「イエ、ソンナコトゴザイマセン」

 

 何故バレたし! という内心を押し殺しつつ返した。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「……すみません、油断しました」

 

 父の無言の圧力に耐えかね白状したクロフィにソギトは大きくため息を吐いた。

 

「あのな〜、お前が怪我をすればアイチアやレミリアがどれだけ心配すると思ってる。もちろん私もな」

 

「……返す言葉もございません」

 

「そもそも、お前は昔から詰めの甘いところが——」

 

「そ、それよりお父様! お母様の容態はどうですか?」

 

 このままでは長ったらしい説教タイムに入ると感じたクロフィは慌てて、話題を逸らした。

 

 ソギトは再びため息を吐いた。

 

「……容態は安定している。後で顔を見せてやれ」

 

「分かりました」

 

 容態とは、別に怪我や病気ではなく、再び妊娠したのだ。

 恐らくフランドール・スカーレットを。

 

 可愛い妹が1人増える。

 

 その事実にクロフィは再び気持ちの悪い笑みを浮かべてレミリアを抱きながらアイチアの部屋へと歩き出した。




エルナ「皆様お読みいただきありがとうございます。作者1号のエルナです」

火桜「ありがとうございます。作者2号の火桜です!」

エルナ「この後書きでは作品全体やその回ごとの裏話的なのを載せていきたいと思っております。
恐らく長くなると思いますので興味のない方は読み飛ばして頂いて結構です。
さて、前置きはこのぐらいにしておいて今回は第2話で私が書かせて頂いた回です。
これは3日と比較的早く書き上げることが出来た回ですね。
それなりに良い出来だと自負しているのですがどうでしょう?」

火桜「そうですね、エルナさんが書いてくれる物は全部私の物よりとても面白いです。
なので前回、1話目でとても物足りなかったという読者の皆さんには満足していただけるのではないかと思っています。」

エルナ「ありがとうございます(*´ω`*)
そうだととても嬉しいです。
この回を書いた私の感想としましてはスランプ気味だったので新しいことを始めて気分転換も出来て楽しく書くことが出来ましたね……この時はまだ。
さてさて、思ったより話すことがないぞー?
火桜さん、最後に何かあればどうぞ」

火桜「お、おぉ。
え~と、どうしましょう?
この時は特に何かに困ったこともなかったですし。
楽しく書かせてもらってましたよ。
自分も息抜きになりましたし。
まぁ、この時は〝まだ〟ですけど。

最後ということなのでありがとうございました的なことを言えば良いんでしょうか?」

エルナ「そうですね。
今回もお読みいただきありがとうございました!
次回もお楽しみに!」

火桜「言われちゃった。
ありがとうございました!!」
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