幻想の紅魔   作:エルナ

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エルナ作


第4話 増加と減少

 月明かりだけが照らす夜空を横切る1つの人影——

 

「はぁ……妹分が足りない……」

 

 ——変態である

 

 さて、彼——クロフィ・スカーレットが聞けば誰もがドン引く変態発言をしているのにはわけがある。

 

 彼の父、ソギト・スカーレットに敵対勢力の殲滅任務を受け、紅魔館を出発する時に敵対勢力の拠点と概要が載っている資料を受け取った。

 それを受け取ったクロフィは固まった。

 なんとそれには敵拠点までクロフィでも数日はかかる距離だった。

 

 クロフィの脳裏に一瞬紅魔館に来たところを迎撃するという選択肢が浮かんだ。

 しかし、いつもは迎撃していたにも関わらずソギトが拠点を襲撃しろということはレミリア達を巻き込む可能性がある強敵ということだ。

 

 敵資料を読んでみればまさしくその通りだった。

 

 敵——ヴィゴーレ・フォンセ。

 クロフィ達と同じく吸血鬼であった。

 

 ヴィゴーレは彼の父である前当主が早くに亡くなり、若くして——それでも100歳を超えているらしいが——当主となった。

 

 彼の性格を一言で表すなら——戦闘狂。

 

 強者と分かれば人間だろうが妖怪だろうが神だろうと関係なく戦いを挑む。

 それでもなお100年以上の時を生き延びている天才(ばけもの)

 

 父である前当主ですら手を焼いていた彼が手綱を握る父が死んでからたった数年。

 その数年で彼はスカーレット家以外の近隣勢力に喧嘩を売り——全て力でねじ伏せている。

 

 そんな相手と紅魔館の近くで戦えば勝ち負けを抜きにして考えてもレミリアとフランを巻き込む可能性が高すぎる。

 

 ソギトも達したであろう結論にクロフィも達すると血涙を流しながら、断腸の思いで、苦渋の決断を下した。

 すなわち——数日の間レミリアとフランに会えないという地獄を味わうことを。

 

 さて、このように敵であるヴィゴーレの情報を見てなおクロフィは余裕綽々である。

 自分の能力さえあれば誰にも負けないという自負があったためだ。

 分かりやすく言えば調子に乗って油断していた……。

 

「お、あれかな?」

 

 紅魔館を出発してから五日目。

 ついに目的地と思われる建物が見えてきた。

 それは森に囲まれた古びた古城の様であった。

 

「さっさと世界の宝(わがいもうとたち)に手を出そうとした罪を懺悔させて、命を以て償わせてレミリア達の元に帰らねばッ」

 

 そんな(謎の)使命感を抱きつつ、古城に近づくと古城の上空で腕を組んで待ち構えている男がいた。

 

 紺色の短髪に吸血鬼特有の赤い瞳。

 クロフィと同じくコウモリの羽を羽ばたかせ、不遜に笑いかける少なくとも外見的にはクロフィより僅かに年上程の青年。

 

「強い魔力が近づいてくると思ったら吸血鬼か。へっ、血が滾るぜ。俺の名は——ッ!?」

 

 自分の名を告げ、その後にクロフィの名を問おうとした吸血鬼はだが、そんなことは興味もないクロフィが能力を発動させ、力を落とし、上空から落下させた。

 困惑しながら落下していく吸血鬼に冷たい視線を送りながら、自身の周囲に100に及ぶ無数の魔力弾を作成。

 それらはクロフィの羽の動きに合わせて一斉に古城の屋根に墜落した吸血鬼に殺到した。

 

「さてさて。終わった終わった。さっさと帰ろ」

 

 轟音と土煙を上げながら崩れていく古城には目も向けず来た方向に振り返りながら伸びをした。

 そんな隙だらけのクロフィへ土煙を裂きながら高速接近し。

 吸血鬼は何かに気づき振り返りかけたクロフィの頬へ拳を叩き込んだ。

 

 鈍い骨の砕ける音を置き去りにしてクロフィは体勢を立て直すことも出来ずに吹っ飛んでいく。

 そして、先回りした吸血鬼が指を組んだ両手をハンマーのように振り下ろした。

 まるで隕石が落下したかのような爆音が地を揺らした。

 

「ゴホッ……ゴホッ」

 

 巨大なクレーターの中央で吸血鬼に転生してから初めての重症を負い、血を吐きながら膝を着くクロフィの前に吸血鬼がゆっくりと降り立った。

 

「さて、やり直すか。俺の名はヴィゴーレ・フォンセ。お前の名は?」

 

 獰猛に、不遜にクロフィを見下ろしながら嗤う吸血鬼——ヴィゴーレ・フォンセをクロフィは睨み返した。

 

(どうなってやがるッ……)

 

 だが、その内心は軽いパニック状態になっていた。

 

 なるほど、反撃された。

 それは分かる。

 敵から目を離し、戦闘態勢を解いたクロフィはさぞ攻撃しやすかったことだろう。

 だがそもそもクロフィが戦闘態勢を解いたのは殺ったという確信があったからだ。

 

 吸血鬼であることを考慮して自身でもまともに動けなくなるほどヴィゴーレの身体能力と魔力を低下させ、その後に吸血鬼でもまともに食らえばタダでは済まない程の魔力弾を浴びせた。

 それにも関わらず何故生きている——ッ!? 

 

 ヴィゴーレに目を向ければ、無傷ではさすがに済まなかったようではある。

 体の至る所から出血し、肉がえぐれ骨が露出している部分すらある。

 だがその怪我すら10秒程度で完治してしまった。

 それを見たクロフィは目を見開く。

 吸血鬼だとしても異常な程の回復速度だ。

 

(並の吸血鬼以上の回復速度で押し切った? いや、こいつはその後の攻撃も異常だったぞ!?)

 

 クロフィは自分の考えを即座に否定した。

 

 クロフィの不意を着いたヴィゴーレの拳は頬の骨を完全に粉砕し、頭蓋にもヒビを入れ、首を折った。

 続けての攻撃は咄嗟にガードした両腕を砕いた。

 吸血鬼同士の戦いでここまでのダメージを一方が負うなど普通ではない。

 

 混乱し続けるクロフィの耳にヴィゴーレの声が届いた。

 

「なんだ、混乱しすぎて答えらんねぇのか? いいぜ、てめえの疑問に答えてやるよ。俺の能力は「ありとあらゆるものを増幅させる程度の能力」だ! 力だろうが回復速度だろうがな!」

 

 それを聞いたクロフィは目を見開く。

 自分とまったく真逆の能力。

 なるほど、それならば全てに合点がいく。

 クロフィの能力を自身の能力で相殺し、最初の弾幕を迎撃して、油断して能力を解いたクロフィに増幅した力で攻撃したのだろう。

 

「てめぇの能力は能力低下系だろ? ははっ、やっと俺とまともに()り合える奴に会えたぜ! さあ、とことん()り合おうぜ!」

 

 そう言ってヴィゴーレは自分で名前を聞いていたことを忘れたのか、興味を失ったのか。

 地面を蹴り砕き、クロフィへ突進する。

 

「チッ!」

 

 舌打ち1つ。

 クロフィは後ろへ飛びながら、魔力弾を放ち迎撃する。

 もちろん、能力を使って力を下げながら。

 未だ治っていない腕では、殴り合いは不可。

 即断し、魔力弾による遠距離戦を行う。

 魔法が使えないクロフィでは魔力弾を打つ以外に遠距離攻撃手段はないが折れた腕で殴り合いをするよりはだいぶマシだ。

 

 ヴィゴーレは互いの力を相殺し合っているにも関わらず、クロフィを上回る速度で迫る。

 年齢差か、もしくはヴィゴーレが特別身体能力が高いのか。

 十中八九後者だろうと考えながら、腕が治っても殴り合いで勝つのは難しいかと思案する。

 

 そして、ヴィゴーレはクロフィの魔力弾が当たるという所で驚きの行動を取った。

 

「オラァ!」

 

 何とクロフィの魔力弾を拳で迎え撃ったのだ。

 もちろん魔力弾はヴィゴーレの拳を焼く。

 だが、自身の魔力で防御した拳にはダメージが少ない。

 

「そんなもんかァ!?」

 

 魔力弾を全て殴り潰したヴィゴーレが叫びながら血塗れの拳をクロフィへ振り上げる。

 

「なんでも力で解決しようとしてんじゃねぇぞクソ脳筋が!」

 

 そう叫び返したクロフィの身体が無数のコウモリへと変化した。

 

「んな!?」

 

 ヴィゴーレの拳が空を切り、クロフィが変化した無数のコウモリ達はヴィゴーレを取り囲み、一斉に弾幕を張った。

 

「それがどうしたァ!?」

 

 そう叫び、地を蹴り砕き前方へ飛び出し、弾幕を浴びながら、コウモリへと接近する。

 そして、コウモリ達を引き裂かんと爪を立て腕を振るうが。

 それより早く全てのコウモリ達が霧へと変化する。

 その霧はヴィゴーレの頭上に集まると元の姿に戻った。

 

「お前は狂ってんのか!? 弾幕に突っ込むとか頭おかしいんじゃねぇか!?」

 

 ヴィゴーレの行動に堪らず叫んだ。

 

「てめぇこそ小細工ばかり使ってんじゃねぇよ! 男なら黙って殴り合い一択だろうが!」

 

 ヴィゴーレも負けじと叫び返す。

 

「小細工ってなんだ! コウモリや霧に変化するのは吸血鬼の能力だろうが! お前だって出来るだろ! なんでそれで弾幕を避け無かったんだよ!?」

 

 そう、クロフィが使ったコウモリや霧への変化は吸血鬼特有の能力である。

 故にヴィゴーレは先の弾幕をそれらで対処すると思っていたのだが、あまりにあんまりな行動に霧への変化が間に合ったのは奇跡に近い。

 もちろんヴィゴーレもコウモリや霧への変化は出来る。出来るが——

 

「ンなことしたら面白くねぇだろうが!」

 

「殺し合いに面白いもクソもあるかァァァアッ!」

 

 どうやらソギトからの資料以上にぶっ飛んだ思考回路をしているらしい。

 クロフィはそれを再確認した。

 

「ハァ……ハァ……もういい、バカと話すのは無駄だな。なら、世界の至宝たる我が妹達に手を出そうとしたことがどれほどの大罪かその足りないおツムに力づくで刻み込んでやるよ!」

 

 そういつものドン引き発言を吐きながら、回復した拳を構えて、ヴィゴーレに突進した。

 

「ああん? …………よく分かんねぇがやれるもんならやってみやがれ!」

 

 どうやら脳筋にはシスコン発言はよく分からなかったらしい。

 だが、そんなことはどうでもいいと拳を構えて迎え撃とうとする。

 

 両者が激突しようとしたその時。

 再びクロフィの体が霧へと変化してヴィゴーレの体をすり抜けた。

 

「は?」

 

 間抜けな声を上げるヴィゴーレの後ろで元に戻ったクロフィはヴィゴーレの頭部を全力で殴り飛ばした。

 吹っ飛びかけたヴィゴーレだったが地面を蹴り砕き、即座にクロフィへ拳を突き出した。

 クロフィはそれを左の羽を硬質化させ、盾状に変形させてガードした。

 吸血鬼の羽は質感や形状を自由に変化させることが可能の万能兵器である。

 その羽に鈍い音を立てて拳がめり込むが、体には届かない。

 

「てめぇ! 小細工なしで殴り合うんじゃねぇのか!?」

 

「誰がんなこと言った! 自分より力が強い相手と力比べするか普通!」

 

「すんだろうが普通!」

 

「しねぇよ! お前が常識を語るな!」

 

 クロフィに常識を語る権利があるかは甚だ疑問ではあるが、言ってることはクロフィの方が正しいのは事実である。

 

 言葉の応酬をしながらも戦闘は続けている。

 

 クロフィは反対の羽を刀のように変化させ、ヴィゴーレへ振り下ろす。

 ヴィゴーレはそれを自身の羽を硬質化させ、防ぐ。

 そして、拳がめり込んだ羽をその手で掴み、反対の拳を振るう。

 クロフィはそれを両手をクロスして防ぐ。

 さすがに骨が折れることはなかったが、それでも腕が痺れた。

 

「まだまだ行くぞゴラァ!」

 

 右手でクロフィの羽を逃さぬように掴みながら左手で連続でクロフィに拳を叩き込む。

 

「ぐ……ぐぐ……っ。ちょ、調子に乗るなァ!」

 

 クロフィは周囲に魔力弾を展開。

 一斉にヴィゴーレへとぶち当てた。

 だがやはりバカのようでダメージを無視して殴り続けるヴィゴーレに舌打ち1つ。

 自身の掴まれている羽を千切り、後方へ跳んだ。

 

「逃がすかァ!」

 

「逃げねぇよ!」

 

 クロフィを追いかけようとしたヴィゴーレに逆に接近し、拳を振るった。

 ヴィゴーレはそれに反応し、拳を突き合わせた。

 その衝撃に地が抉れ、木々が吹き飛ぶ。

 強大な力同士の激突はやはりと言うべきかクロフィが力負けし、体勢を崩した。

 そこをついてヴィゴーレが上段蹴りを放つ。

 だが、その足をクロフィが残った羽で斬り飛ばした。

 

「チィィッ!」

 

 ヴィゴーレは舌打ちをするが、空を飛べる2人ならば足を切り飛ばされても戦闘不能にはならない。

 ヴィゴーレはならばと両羽をハンマー状にして連続で振り下ろした。

 クロフィは弾幕を放ちながら後方に飛ぶ。

 

「またそれか! 手札切れなら小細工なんざやめて素直に殴り合えや!」

 

 弾幕を両羽で弾きつつ、接近しながら、クロフィへ叫ぶ。

 

「るっせぇ脳筋! その小細工でジワジワとダメージを受けてるくせに!」

 

 クロフィはそう叫び返して振り下ろされた2つのハンマー状の羽を両手で受け止める。

 そして、残った羽で切り裂かんと刀状の羽を向ける。

 それをヴィゴーレは真剣白刃取り。

 そのまま羽をへし折る。

 だが、クロフィはレザー状の魔力弾でヴィゴーレ腹を貫いた。

 

「ゴハ……ッ」

 

 血を吐いたヴィゴーレの羽から力が抜けた瞬間、クロフィは羽を振り払い、ヴィゴーレを殴り飛ばした。

 だが、殴り飛ばされるのと同時にヴィゴーレも拳を振るい、クロフィを殴り飛ばした。

 

「ハッ! そう来なくっちゃな!」

 

 口元を拭いながら、そう言って笑う。

 同じく口元を拭いながら、眉を顰める。

 

 両者は示し合わせたように地を蹴り、拳を突き合わせた。

 

 ◆◆◆

 

「ハァッ……ハァッ……ハァァ……」

 

 戦いの決着が着いたのは東の空が白んで来たところだった。

 

 両者肩で息をし、身体中ボロボロであるが、立っていたのはクロフィだった。

 

「ハハハ……ッ。最っ高の遊びだったな……。またやろうぜ」

 

「ふざ、けんな。二度とゴメンだクソ脳筋が……ッ」

 

 満足気なヴィゴーレとは対照的にクロフィは疲労困憊である。

 

「そう言うなよ、マブダチ。お前だって全力で運動して楽しかったろ?」

 

「こんなズタボロになるまで運動なんかしたく——って今なんつった。マブダチ?」

 

「おうよ。男同士が殴り合やぁ、その後はダチよ」

 

「アホか、殺し合ってたんだぞ……それに俺の妹達に手を出そうとした大罪人は死刑と決まってんだよ」

 

「妹だぁ? どういうことだよ」

 

「俺の名前はクロフィ・スカーレット。お前が襲撃しようとしたスカーレット家の長男だよ」

 

「あぁ、喧嘩売ろうとしてた家か。ハハッ思った通り面白い相手がいたじゃねえか。おう、ダチの妹に手ぇ出そうとして悪かったな。許してくんねぇか?」

 

「いや、ダチじゃねぇての……」

 

 だが、クロフィとしてもこんなにダチダチ言われると殺す気が失せる。

 

 クロフィはため息一つ。

 とりあえず朝日が刺し始める前に移動しようとヴィゴーレの腕を掴み引きずりながら、日光を凌げる場所へ歩き出した。

 

「なぁマブダチよぉ……助けてくれるなら引きずらねぇでくれねぇかな」

 

 ヴィゴーレの要求を無視しながら、クロフィはそういえばと気がついた。

 今世になってから友達は1人もいないかもしれないと。

 それに気がついたクロフィの足取りが重いのは、体の傷やうるさい荷物(ヴィゴーレ)のせいだけではないだろう……。




エルナ「皆様お読みいただきありがとうございます。作品1号のエルナです」

火桜「いつもありがとうでふ。作者2号こと私です。」

エルナ「この後書きでは裏話的なのを載せております。興味のない方は読み飛ばして頂いて結構です。
さて、今回は私が書いた回です。
この辺りから既にモチベが下がり始め、後半雑になっています……」

火桜「戦闘回でしたからね、それで気力が尽きたんでしょうね。」

エルナ「新キャラのヴィゴーレは皆様にはどう感じられたでしょう?
このキャラは私がクロフィのライバル的なキャラとして考えていたキャラです。
裏設定は特にないかな?
本編の通りです。
こっちがオリキャラ1人出したからそっちも出してもいいのよ(チラッチラ」

火桜「私のクランちゃんは設定が豊富だからね。オリキャラなんて要らないのよ。多分、というかコレ以上オリキャラ増やしたらゴチャゴチャしそうだし。」

エルナ「まあ、それもそうですね。
代わりにこっちのキャラ達は設定がスッカスカなのでちょうど良かったかもしれません。
それでは、最後にこの回の軽い感想を火桜さんに言ってもらって終わりましょう」

火桜「ふぁ?感想、そうですね。今回登場したヴィゴーレはレギュラー入りだと思うのでこれからの活躍に期待したいところですね。」

エルナ「ぶっちゃけレギュラー言っても主人公じゃないしそこまで活躍はないかなー。
それでは皆様次回もお楽しみに!」

火桜「お楽しみにー」
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