クラン・スカーレットは自身にのしかかるような重みで目が覚めた。
「う……ん?」
「良かった! 目が覚めたんだね!」
大きなベッドで目を覚ましたクランに反応したのはベッドの左隣から覗き込んでいた紫髪の吸血鬼の少女——レミリア・スカーレット。
さらに寝ていたクランの右腕に抱きついて金髪の吸血鬼の少女——フランドール・スカーレットが涙を浮かべながら寝ている。
「……え……と?」
レミリアの声にフランに抱きつかれたまま起き上がったクランはレミリアに抱きつかれクランは困惑したような声を上げる。
「どうしたの?」
それに反応したレミリアは一旦クランから離れ、クランの顔を見る。
「あの、貴方誰ですか?」
その言葉にレミリアは絶句した様子を見せる。
「お、覚えてない……の?」
否定してくれと願うかのように吐き出されたその言葉は——
「すみません……何も……」
だがバツが悪そうに顔を逸らしたクランによって肯定されてしまった。
その言葉を聞いたレミリアは口を手で覆い、瞳から大粒の涙を零しながら部屋から走り去ってしまった。
「うーん……?」
レミリアの出ていった扉に目を向けていたクランはその声に記憶を失ってしまっているクランにはレミリアと同じく見覚えのないフランへ目を向けた。
レミリアが走り去ったドタバタで目が覚めたのか呻き声を上げながら起き上がる。
「ふにゃ……?」
目を擦りながらクロフィがこの場に居れば発狂するような可愛らしい声を上げて、寝ぼけ眼で辺りを見渡し、クランと目が合う。
しばらく不思議そうに見つめていたが徐々に目が見開かれて最終的に大きく見開かれると大粒の涙を流しながらクランに抱きついた。
「よかった……っ、おとうさまがしんじゃってっ……ぐすっ……くらんまでおきなかったらわたし…………っ」
泣きじゃくるフランに記憶のないクランはどうすれば良いか分からない。
先のレミリアの態度から記憶がないことを話すのははばかられた。
しかし、話さない訳にはいかない。
「あの……すみませんが私記憶喪失みたいなんです……」
「ぐすっ……きおくそうしつ?」
言葉の意味が分からないのか首を傾げるフラン。
それを見てクランは言い直す。
「その……貴方のこととか自分のことも何も覚えてないんです」
しばらく首を傾げたままだったフラン。
しかし、理解したのか顔を歪めて叫んだ。
「そんな! ふらんはくらんのいもうとでくらんはふらんのおにいさまだよ!? おもいだしてよ!」
クランの両肩を前後に揺らしながら、情報量の少なすぎる説明をするがクランの記憶は戻らない。
しばらくクランを前後に揺らしていたフランはクランの胸に顔を押し付けて先程とは違う涙を流し始めた。
「……目が覚めたみたいね」
クランが対応に困っていると入り口から女性の声が聞こえてきた。
そちらに目を向けると金髪の吸血鬼——アイチア・スカーレットが立っていた。
その表情は憔悴しきっている。
「えーと、貴方は?」
その言葉に一瞬ショックを受けた表情をしたが直ぐに戻り、ため息を吐いた。
「……レミリアの言っていたことは本当だったのね」
そして、アイチアはクランと自分達家族のことをクランに説明した。
その間にフランは泣き疲れたのか再び眠ってしまった。
「……なるほど」
話を聞き終わってもクランの記憶が戻ることはなかった。
話の中で自分達の父親が自分とフランの能力の暴走——主にフラン——が原因で亡くなってしまったこと。
それから自分は5日間眠っていたことも聞いた。
「貴方の記憶がなるべく早く戻るように私も調べてみるわ」
そう言ってアイチアはクランに背を向けて部屋を後にした。
その背中は酷く弱々しかった。
◆◆◆
ここは紅魔館近郊の都市。
そこにある1つの酒場。
本来様々な人で盛り上がっているはずのそこで1つの集団が貸切にしていた。
「みんな! 聞いてくれ! やはりあの噂は事実だったようだ!」
彼らは
復讐、または吸血鬼を倒すことでの報奨金などを目的とした吸血鬼を狩ることを生業とする者達である。
そんな彼らが集まっている理由は十日前に入ったある噂によるものだ。
その噂とは——紅魔館の次期当主が不在で現当主が急死したと。
にわかには信じ難い話ではあったがどうやら事実だったようだ。
普段より紅魔館の警戒が薄く、内部を探った結果幼い吸血鬼の3人の子供とその母親だけだった。
「これはまたとないチャンスだ! あの悪名高き紅魔館の吸血鬼共を一網打尽にするな! 次期当主が居ない間にガキと女を殺し、罠を張り、ノコノコ帰ってきた次期当主も始末するぞ!」
「「「おう!」」」
幼き吸血鬼たちに危機が迫ろうとしていた。
◆◆◆
クランが目覚めてから5日が経過した。
その間、レミリアとフランに紅魔館の中を案内されたクランだったが記憶が戻ることはなかった。
紅魔館の案内の中に紅魔館の庭に立てられたクラン達の父親であるソギト・スカーレットの墓があったが記憶がないクランは実感が湧くことがなかった。
クランに記憶を戻す方法を探すと言っていたアイチアだったがこの5日間殆ど自室に籠りっぱなしだった。
さらに時々会ってもフランとクランに複雑そうな表情を浮かべて何も言わずに去ってしまう。
当然だろう。
わざとでは無いとはいえ自分の愛する夫を殺されたのだ。
愛する我が子とはいえ、憎んでいたとしてと不思議はないのだ。
アイチアの内心が複雑な心境であるのは想像に難くない。
そんな重苦しい雰囲気の紅魔館に紅魔館の家事を行っている妖精メイドの声が響いた。
「奥様ー! 大変です! 武装した人間達が紅魔館に接近しています!」
紅魔館に緊張が走った。
ソギトもクロフィも不在の状態で多数の武装した人間の相手。
妖精メイドだけでは無く、レミリアやクラン達にも不安が襲った。
しかし、アイチアは妖精メイドの言葉に一瞬目を見開くも、瞠目した後、戦意が込められた目を開き妖精メイド達に指示を出した。
「全員戦闘準備! 人間達を迎え撃ちます!」
妖精メイド達は慌ただしく準備を始めた。
それを見たアイチアはクラン達へ向き直った。
「貴方達は隠れていなさい」
「嫌よ! 私も戦うわ! 私はお姉ちゃんだもの!」
レミリアの言葉にアイチアは静かに首をふる。
「ダメよ。お姉ちゃんならフラン達の側にいてあげなさい」
「おかあさま……」
フランも心配そうな顔で母を呼ぶ。
フランを見てアイチアは悲しそうな顔を浮かべる。
そして、フランを優しく抱きしめた。
「ごめんなさいね。あの人が貴方の力で死んでしまってから貴方とどんな風に接すればいいのか分からなくなってしまったの。ダメな母親でごめんなさい」
「ちがう……っ! おかあさまはわるくないのっふらんが、ふらんがわるいの! ふらんのせいで……っ」
首を振りながらそう言うフランにアイチアは優しく微笑む。
「たとえ貴方の力であの人が死んでしまっても貴方が私とあの人の愛する我が子とであることに変わりはないわ。だからそう自分を責めないでフラン」
そう言ってフランの額にキスをする。
「わからないよ……なんでおかあさまもおねえさまもおこらないの? ふらんがおとうさまを……っ」
アイチアの胸に顔を埋めてフランは歯を食いしばる。
「貴方にも分かる時がくるわ」
アイチアは慈愛の笑みを浮かべてフランを優しく撫でた。
そして、クランに向き直った。
「貴方にも悪いことをしたわ。記憶を戻してあげることが出来なかった」
「…………っ」
もうこれで別れのように話す母親にクランは何も言うことが出来ない。
記憶が——思い出がないから。
ただ歯を食いしばるクランにアイチアは頭を撫でフランと同じく額にキスをする。
そして、涙を流すレミリアにも額にキスをしてアイチアはクラン達に背を向けた。
「おかあさま!」「お母様!」
「レミリア、フラン、クラン……愛してるわ」
呼び止めようとするレミリアとフランだったが、アイチアはそう言って振り向かずに毅然と歩き出した。
「おかあさま!」「お母様!」
「ダメだ!」
追いかけようとしたレミリアとフランの腕を掴みクランは叫んだ。
「はなして! おかあさまが!」
「お母様死ぬ気よ!? 止めないと!」
2人は振り払おうと腕を振るが、クランの顔を見て動きを止めた。
クランは——泣いていた。
「ダメだ……っ、あの人の思いを裏切っちゃ……っ」
何故かクランは涙が止まらなかった。
記憶がなく、この5日間ほとんど関わることがなかった。
母親と言われても実感などわかない。
にもかかわらず涙が溢れて止まらなかった。
まるで魂が覚えているが如く。
「……行こう」
クランは2人の手を引いて歩き出した。
2人はもう抵抗しなかった。
◆◆◆
「ここに隠れよう?」
隠れる場所を探していた3人だったが一つの部屋の前でレミリアがそう言って立ち止まった。
その部屋は彼女達の兄——クロフィ・スカーレットの部屋だった。
「……うん」
不安そうなレミリアの表情にクランは頷いた。
クロフィの部屋にはクロフィが出掛けている時にも鍵がかかっていない。
クロフィ曰く、「フラン、レミリア。俺が恋しくなったらいつでも俺の部屋に来ていいんだぜ? そして「お兄様に包まれてるみたい〜」なんて感じでベッドに入ってもええんやで? 俺は帰ってきた時にフランやレミリアの匂いがついたベッドで寝ることができぶへら!」とのこと。
最後の「ぶべら!」はドン引く変態発言にクランがぶっ飛ばした悲鳴である。
部屋に入ったフランとレミリアはそのやり取りを思い出し、僅かに微笑んだ。
だが、直ぐに怒号や金属音などの戦闘が始まったことを知らせる音が聞こえてきて2人の顔に再び不安を浮かばせた。
クランはすぐさま扉の鍵を内側からかけると部屋のタンスなどを扉の前に置いてバリケードにした。
そして、不安を紛らすように3人で寄り添い、祈った。
母の無事と——兄の帰還を。
◆◆◆
それからどれだけの時間が経っただろうか。
響いていた戦闘音は既に止んでいた。
しかし、人間達とアイチア達のどちらも自分達を探しに来る気配がなかった。
「…………ねぇ、1回出て状況を確かめてみましょう?」
戦闘音を聞いているのも不安だったが何も聞こえなくなるのはそれはそれで不安が積もる。
状況が全く分からないままただ部屋に隠れ続けるのは辛い。
故にクランとフランは頷き、3人でバリケードを退かし、部屋を出た。
部屋を出た3人は足音を殺しながら入口の大広間を目指して歩き出した。
しばらく静寂に包まれた廊下を歩いていたが、大広間に近づくに連れて声のようなものが聞こえてきた。
それに顔を見合わせた3人は歩く速度を早め、大広間に向かった。
しかし、その声が聞き覚えのない男達の声だと気がついた3人は足を止めた。
クランは直ぐに2人に戻るように言おうとしたがそれよりも早くフランが走り出してしまった。
「フラン!」
その後をレミリアが追いかけて行ってしまう。
それらに一瞬躊躇したがクランも2人を追う為に走り出した。
そして、3人が大広間に着くとそこには。
負傷した仲間を治療している武装した複数の人間と人間と妖精メイド達の死体。
そして———…………
無数の武器に突き刺された母の死体があった。
「あ、ああ……っ」
レミリアが言葉にならない声を上げながら膝を着く。
「おい! 吸血鬼のガキ共だ! 戦える奴は武器を構えろ!」
1人の人間がクラン達に気が付き叫ぶ。
その声に人間達が武器を構える。
だが、クランとフランにはそれらは全く認識出来ず。
ただ無残な殺され方をした母の姿だけが見えていた。
クランとフランの脳裏に戦いに向かう前に自分達を愛していると言った母の姿が過ぎる。
そして、2人の中で何かが——壊れた。
「「あ、ああ……アアアアァァァァァァアア!!!!」」
その2人の叫びが大広間に響いた直後——大広間は消滅した。
そして、ヴィゴーレを伴い帰ってきたクロフィが目にしたのは消し飛んだ大広間で母の遺骸を抱き、涙を流す弟妹達の姿だった……
エルナ「今回もお読みいただきありがとうございます。作者1号のエルナです」
火桜「ありがとうございます。
作者2号の火桜です」
エルナ「ふっ、今回は忘れなかったぜ……。というわけで今回は私が書いた回です。えとーこれはその1ヶ月近く待たせちゃった回ですねへへ。改めてすみませんでした火桜さん」
火桜「いえいえ、良いですよ
次話は私が…おぉっと、この話は次回ですね。それで今回の感想とかはありますか?エルナさん」
エルナ「今回はマジでモチベがなかったですねぇ(遠い目)後、クランが書きづらかったですね。他人のキャラの上に記憶喪失でしたから」
火桜「あぁ、それはなんかごめんなさいですね。濃い設定だから書きにくいと思いますがこれからもよろしくしたいです。私もクロフィは書きにくいですけど」
エルナ「お前ら二次創作作家ダルルォ!とか言われそうですね……。
さてさて、それでは次回もお楽しみに!」
火桜「お楽しみにしないで欲しいけど、お楽しみに~(震え声」