幻想の紅魔   作:エルナ

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火桜作


第7話

 クランとフラン達が目を覚ましたその頃

 

「はぁ──、早く妹達に会いたい。何故こんな男と二人きりで館まで帰らなければいけないんだ」

 

 あの戦いのあと、館まで夜は飛行しながら、朝と昼間は日影に隠れながら歩いて帰っていたのだが思っていたより傷が深く、治療による体力の消耗が激しかったのか思うように距離を進められずこうしてダラダラとしながら道を歩いて進んでいるのだが。

 それでも想定より早くここまで帰ってこれているのも妹達に会いたい一心なのだ。

 妹パワーは偉大なのだ。

 

「そう言うなよ、俺達はダチだぜ? 仲良くいこうぜ!!」

 

 ムカッ

 

「そもそもお前のせいだろ?! 途中からお前の傷が深いから引き摺るなと文句ばかり言って! それで俺がおぶってやって!! 

 だからここまで遅くなったってぇのに!!」

 

 あぁ、イヤダイヤダ。

 まさかこの背中に妹達以外を乗せるとは思いもしなかった。

 

「悪かった、それは本当に悪かったと思ってるんだぜ? でもよ、俺も大分やられちまってるからな?」

 

「そもそも、それもお前が!! ………………はぁ、もう良いや。こんなことしてる暇があったらさっさと館に帰った方がいい。無駄な体力は使わないに限る」

 

「おうよ!!」

 

 コイツ、本当に置いて帰ってしまおうか。

 いや、埋めて帰るのも有りだな。

 

「にしてもよぉー、クロフィの館ってのには何時になったら着くんだぁ?」

 

「俺の館じゃない、今はまだな。多分そろそろ着く筈だが」

 

 はぁー、やっと愛しの妹達に会えるぞぉ!! 

 ハッ! まさか!! これは妹達と俺の間の試練なのでは?! 

 離ればなれになってしまった3人はこの試練を切っ掛けに更に仲を深めて!! 

 そう考えると今までの道程も苦では無いな!! 

 

「グフ、グフフフフ」

 

「おい、どうしちまったんだ? お? 何か鼻から血が出てるぞ」

 

 おっと、妹愛が鼻から溢れでてしまったようだな。

 膨大すぎる愛は鼻から飛び出てしまうものなのだ。

 

「おっと、こんなことをしている場合じゃな………………ッ!!」

 

 何だ、この圧はッ!! 

 並の生物が出せるようなものじゃないぞ!? 

 

「これは、ヤバいンじゃねぇか?」

 

「これは、一刻も早く帰るぞ!!」

 

 今だに体の芯から震え上がらせるようなビリビリとした圧が襲いかかってくる。

 

 歩を進めていくうちに圧が大きく重くなってくる。

 

 森を抜けたその先にはあり得ない光景が広がっていた。

 

「嘘だろ、こんなことってあるかよ」

 

 館が、紅魔館が半分消え去っていた。

 

「クソッ!! 俺が今するべきことは此所で呆けてることじゃないだろ!!」

 

 館の門を潜り館の方へと走る。

 

 そこにあった光景は目を疑うものだった。

 そこら辺に散らばる〝何か〟だった赤い物。

 周りは赤く黒く染まり

 串刺しになっている何かの肉。

 山のように積み重ねられ血の匂いを放つ物体。

 

 大広間であったであろう部分の地形は変わり果てていた。

 至るところにクレーターがあり、逆に鋭い棘のような突起物が生えている所もある。

 その中心にこの惨状を作り上げたであろう人物が居るのだろう。

 

「酷どい、有り様だな」

 

 後ろから追いついてきたのか、クソッ何を呑気に!! 

 

「ッ!!」

 

 落ち着け、感情に身を任せるな。

 

 今は妹達を保護することが先決のはずだ。

 

「俺もやれることは手伝うぜ? そこら辺にあるコレを片付けねぇといけないだろ? クロフィ、お前はお前の妹達を探してやれ」

 

「言われなくとも、分かってる」

 

 フランとクランはこの中心に居ることは分かっている。

 レミリアを探さなければ。

 

 必ずレミリアは近くにいる筈だ、居る、筈なんだ。

 

「レミリア──!! 何処だ!! 何処に居るんだ!!」

 

 レミリアはそこまで強くない、まさか、止めろ。

 この考えは良くない、絶対にレミリアは生きてる。

 

 存外レミリアはすぐに見つかった。

 館内の廊下で倒れていた。

 目立った外傷はなく、ただ気絶していただけだった。

 

「良かった。本当に、良かったッ」

 

 俺はレミリアの体を泣きながら抱きしめる。

 

 だがレミリアを見つけたがまだすべきことがある。

 フランを見つけなければ。

 

 だがレミリアをここに放置するわけにも行かない。

 

「妖精メイド、妖精メイドは居るか!!」

 

 妖精メイド達に呼び掛けてみるも返事がない。

 妖精メイド達もレミリア同様気を失っているのかもしれない。

 

 仕方なく近くの客室のベットにレミリアを寝させ、その部屋を後にした。

 

 庭へと戻ると、全ての物体は隅へと片付けられており、館のの中心部に巨大な鳥籠のような物が鎮座していた。

 

「何だぁコレ?」

 

 ヴィゴーレが俺にそう問いかけてくるも俺にもコレが何か分からない。

 ただ普通の鳥籠とは違い外からは中の様子が伺えず、真っ暗な闇のような物が蠢くのみ。

 

 ただ分かるのは、ここに二人が居るということだけだ。

 近づくと何が起きるか分からないが鳥籠へと足を動かし、歩を進める。

 

「オイ! 止めろ! 何が起きるのか分からねぇぞ!!」

 

 後ろから声が聞こえるが無視し、鳥籠へと近づく。

 

 鳥籠に触れようとした瞬間、俺は何かを察知しその場から飛び退いた。

 

 飛び退いた瞬間、俺が居た場所から鋭い棘が飛び出してきた。

 

「チッ、なるほど完全防御って訳か」

 

 恐らくクランの能力による物だろう。

 力が暴走しているのか、意識が無く攻撃をしているようだ。

 周囲に無差別に鳥籠に触れようとしている者に攻撃をしている訳か。

 

「何て悪趣味な、ヴィゴーレ!!」

 

「何だ?」

 

「お前の能力は他人にも使えるのか!」

 

「あぁ、分かったぞ。そういう事かよ。ほらよ、受け取れ!」

 

 ヴィゴーレの力によって俺の身体能力が上がる。

 それと同時に俺の能力を行使し鳥籠の攻撃速度と攻撃力を抑制する。

 

 鳥籠の元へと着くまで攻撃が絶え間なく続くが、全てを避けて移動し、そのまま鳥籠を叩く。

 

 案外鳥籠の耐久力はそこまでなく簡単にねじ開けられた。

 鳥籠を壊したと共に、鳥籠は消えて無くなり中から〝3人〟の人が出てきた。

 

 1人目はフラン、泣き崩れたような顔をして眠っている。

 

 2人目はクラン、こちらも同様眠っている。能力を使っていた影響なのか、髪色が少し変色していた。

 

 3人目は、遺体だった。血みどろで、身体中に穴を空けられ、目はなく、心音も、息もしない。

 それは誰だったのか、俺には分かる。分かってしまう、分かってしまった。

 母だ。自身の、スカーレット兄妹の母だ。

 

 戦闘後にも関わらず、妹達が今目の前で倒れているにも関わらず。年甲斐もなく。俺は泣いた。

 泣き崩れた。

 

 俺が行動を始めたのは、もう涙を出す水分は体にはないのか、涙は出なくなり、嗚咽を漏らすだけになった時だった。

 

 俺は兄だ、何を此所で泣いているのだ。

 俺は長男だ、何をしている。

 

 母が死んだ、恐らく父も死んでいるだろう。

 

 もう妹達を、この館を守るのは俺しか居ないのだ。

 何をしているんだ、クロフィ・スカーレット。

 みっともない。妹達に笑われてしまうぞ。

 

 自身の母をその場に残し、フランとクランを両脇に抱えレミリアが居る部屋まで歩いていった。

 

 ヴィゴーレはずっと喋らず俺の後ろを歩いて着いてくる。

 レミリアの時は頭がいっぱいいっぱいで気付かなかったが、館のそこら中に妖精メイドの死体があった。

 奥に行くほど減ってはいるが、見ていて気持ちの良いものでもなかった。

 

 俺はフランとクランをレミリアが寝ていたベットに寝かし、部屋を出た。

 

「ハハッ、何してるんだろうな、俺。

 妹達も守れず、両親は死に、館はボロボロ。

 アハハ、俺がもっと早くしていれば両親も死ななかった。俺がもっと強ければ、俺がもっと賢ければ。

 俺の対応が早ければ、もっと早ければ、速ければ」

 

 あれだけ自分を鼓舞していたというのに、妹達を避難させた途端にコレだ。

 

 ハッ、そこそこ呆れる。

 こんな自分に嫌気が差す。

 

 何が次期当主だ、何が妹達を守るだよ。

 ふざけるな、ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな!! 

 

「ふざけるなぁぁぁぁぁ────ーッ!!!!」

 

 館の壁を叩きつけ、子供の癇癪のように暴れる。

 

 近くから足音が、こっちに近づいてくる。

 ヴィゴーレだろう。

 

 こんな俺を殴りにでもしにきたのだろうか。

 足音はすぐそこまで近付いて、音を消す。

 

 そろそろ衝撃が来るだろうか、そう考えると直ぐに俺の頬に衝撃が走った。

 

 パンッ

 

 平手打ちのような音が俺の頬からする。

 だが、おかしい。

 コレはヴィゴーレの拳ではない。

 まるで子供に殴られたような、そんな感触だ。

 

 涙で濡れ、乾き、くしゃくしゃになった顔を上げる。

 そこには思ってもいなかった奴が居た。

 

「……レミ、……リア……?」

 

「ッ──!! お兄様の、馬鹿ぁぁ──!!」

 

 ば、バカ? 

 捨て台詞を吐いて脱兎のごとく廊下を走っていくレミリア。

 

 俺はただ呆然とその後ろ姿を眺めているだけだった。

 

「ハァ、何してるんだ、よっ!」

 

「おわっ!! ッ! 何するんだよ!!」

 

 いきなり服を捕まれ投げ飛ばされた。

 

「追いかけてやれよ。それが兄ってモンだろ? ダチよ」

 

 ははぁ、まさかこの馬鹿に言われるとは。

 

「チッ、そんなことお前にいわれなくても分かってる」

 

「そうかそうか!!」

 

 どことなく嬉しそうに笑っているヴィゴーレ。

 ハハッ、コレは一杯やられたな。

 

「行ってくる」

 

「おうッ! 行ってこいよ!」

 

 俺は廊下を走っていったレミリアを追いかけ、俺も走る。

 何故か、少しレミリアを追いかける俺の足は軽くなった気がする。

 

 ▲▼▲▼

 

 目が覚めた。

 

 知らない天井だ。

 いや、記憶がないから何処で起きても知らない天井だけれど。

 唯一分かるのは、自室と言われたあの部屋くらいだろうか。

 

 辺りを見回すと、特に何か変なことはない。

 ただ、非常に〝食欲をそそられる匂い〟がするが。

 

 自身が眠っていた、隣を確認すると金髪の吸血鬼が眠っていた。

 記憶を少し漁ると、確か自身の妹だと紹介された気がする。

 妹だと分かる記憶は全くもって無いのだけれど。

 

 ベットの汚れ具合と自身と妹(仮)との間の空き具合を見てみるに他の人が隣で寝ていた可能性がある。

 さて、その人はどこに行ったのやら。

 恐らく、といっても確定的に姉と紹介された吸血鬼が一緒に眠っていたのだろう。

 

 ふむ、これから自分はどうするべきなのか。

 この妹(仮)を置いていくのは何故か駄目な気がする。

 

 そうなると、ここで誰かを待っていた方が健全かもしれない。

 

 ふむ、いくら待てども誰も来やしない。

 コレは些か不味いのではなかろうか。

 

 なんとなしに、部屋は出たくない。

 体はこの部屋から出たくないらしい。

 

 というか先程からドアの向こうにいる奴は何時になったら部屋に入ってくるんだ? 

 少し期待しているんだけど。

 

 相手側も此方が起きているのは気づいている様子だが入って来ないところをみると、恐らくここの番をしている、というところだろうか? 

 

 まぁ何にしても私が考えたところで何かが分かるわけでもない。

 

 ん? 『私』? すっと出たが、もしや一人称は『私』なのだろうか? 

 

 男なのに私なのか。

 そこは気にしない方がいいかもしれない。

 何故かそんな気がする。

 

 誰も来ないのもあるが、この隣の妹(仮)も起きてこない。

 もしや死んでいるのでは? 

 

 吸血鬼が形を残して死ぬことなんて殆ど無いらしいけど。

 しかも息してるし死んでは無いのか。

 

 グゥゥと私のお腹が鳴る。

 私の腹の虫が騒ぎ始めたみたいだ。

 お腹が空いているんだろうか。ここには食べるものなんてなさそうだ、今は我慢するべきか。

 

 グゥゥ

 

 それでも鳴き止まないのか、私のお腹は。

 どれだけお腹が空いているというんだ。

 原因は何となく分かる。

 先程から匂ってくるこの、〝匂い〟だ。

 この匂いのせいで飢餓状態に陥ってしまっているんだろう。

 

 吸血鬼の本能か、血が吸いたくなってしまう。

 だが吸う相手も居ない。

 居るとすればこの隣で寝ている妹(仮)だが。

 流石に妹の血を吸うわけにもいかないだろう。

 

 ふむ、この際だから自身の血を吸ってみるのも悪くないかもしれない。

 吸血鬼が自身の血を吸えばどうなってしまうのか、どれ少し味見を。

 

 パクリと私は自身の腕に噛みつき、吸血鬼特有の少し長めの牙を突き立てる。

 チクリとした痛みと共に血が入り込んでくる。

 動作的には牙で穴を空け、そのまま血を吸い出すような感じだろうか。

 

 味に関しては何とも言えない。

 不味くもなく、美味しくもない。

 お腹の足しにもならない。

 ただ自身の体の血を循環させただけなんじゃ? 

 じゃあたいして意味がないな。

 

 そういえば、部位欠損ってどうなるんだろう。

 吸血鬼だから傷は治るんだろうけど、切り離した部位は消えるのか、それとも残るのか。

 

 何か刃物はないかと部屋を漁っていると、いつのまにか目の前に包丁っぽい刃物が落ちていた。

 

 ちょうど良かったので、それを右手で刃物をもって勢い良く振りかぶり左手を切ろうとしたその時

 

 ガチャリと部屋の戸が開いた。

 

「………………ちょっ!! お前なにをしてるんだぁぁ──!!」

 

「クラン!?」

 

「ホワッ!?」

 

 え!? ちょ、誰? 

 紫色の吸血鬼は誰だかしってるけど確か姉と紹介された吸血鬼だ。

 

 だがもう片方は知らない吸血鬼だ。

 赤っぽい髪色をしている、姉(仮)より、私より身長は高く、外傷は見られないが中がボロボロだった。

 戦闘後なのだろうか? 吸血鬼の特性である治癒能力によって痛覚には鈍感ではあるが、流石にあれは痛いのでは無いだろうか? 

 

 着ている服もボロボロだし。

 

 おっと、考えが逸れた。

 コイツが危険な人物なのかどうか、そこを見極めなければ。

 

 私は相手をジッと見る。

 相手は何か慌てている様子だ。

 

 何か、あるのか? 

 やはり怪しい、何かあるんじゃないのか。

 

 ただ私は相手のことをジッと見るだけだった。

 

 ▲▼▲▼

 

 俺はレミリアと共に先程の部屋の前まで戻ってきていた。

 あの後に随分とレミリアに叱られてしまった。

 でも少し良かった。何がどう良かったのかは言わないけど、良かった。

 

 おっと考えが逸れた。

 

 ヴィゴーレは真面目に部屋の番をしていたのか

 ドア横の壁に背中を着けて立っていた。

 

 俺が帰ってきても何も言わない。

 何か少し喋れば良いものを、ここまで来る間はピーチクパーチク喋っていた癖に。

 寝てんの? 

 とりあえず、どうにもしようがないからドアを開け中に入ると、目を疑う光景がそこにあった。

 

 なんと弟が自身の腕を切ろうとしているのだ。

 

「………………ちょっ!! お前なにをしてるんだぁぁ──!!」

 

 驚きの余り大声を出して叫んでしまった。

 部屋の外に居るヴィゴーレがビクッとしていた。

 いや、起きてるならさっき何か言えば良かっただろうが。

 

「クラン!?」

 

 レミリアも俺同様、動揺して弟の名前を叫んでいた。

 ダジャレじゃないぞ。

 

「ホワッ!?」

 

 おい、何がホワッ!? だよ。

 こっちが言いたいわ!! 

 

 マヌケナ声を出して、こちらをジッと見だした。

 え? 何? 何で俺のことを見てる訳? 

 俺の顔に何か付いてるのか? いや、何かは付いてるんだろうけど、血とか。

 

 いやいや、お前冷静っぽい感じだしてるけど頭が可笑しいことしてるからな!? 

 俺が慌てているにも関わらず、それでも尚こちらをジッと見続けてくる頭がおかしい弟。

 

 もう、何なのコイツ。嫌だ、もうお家に帰りたい。

 家、ここだけどさぁ。

 

 ジッとこっちを見てきた弟に動きがあった。

 何と腰を落とし、包丁を両手で持ってこちらに突撃してくるではないか。

 

 あー、これ見たことあるわ。

 あれだ、昼ドラだ。

 弟君は『貴方を殺して私も死ぬ!!』と言わんばかりの体勢でこちらに突撃してきており、その後ろには殺害ヤンデレ嫁のスタンドが見える。

 

 あれ? 俺の目、可笑しくなったのかな。

 何か見えてるんだけど。えぇ、あれ何だよ。

 不思議なパワーにでも目覚めたのか? 

 

 嫌だ、こんなのに殺されたくない。

 何か俺の体動かないしさ。

 あれ? 俺、怖いのかな。全然体が動いてくれない。

 人生、生きてきた中で一番怖がってる気がする。

 レミリアも同様なのか俺の腕に引っ付いてプルプルしてる、何これ可愛すぎる。

 

 そんな馬鹿みたいなことを俺が考えている間にもジョジョが、違った。徐々に近づいてくる。

 

 そして俺は腹を刺されて、血を噴出するものかと思いきや、転けた。

 

 何が転けたのか、弟クランが思いっきり転けた。

 効果音を着けるとすれば、ズテ──ンッだ。

 それほど勢いよく見事に転けてしまった。

 

 一番の見せ場で転けてしまった。

 何か本人プルプルしてるし、うん。

 恥ずかしいんだろうな。

 そらそうだろうよ、あれが恥ずかしくないわけない。

 

 力を暴走させていきなり素早く動ける訳がない。

 少しの間、レミリアとその様子を見守っていると振動が止まった。

 

 そして止まったと思いきや、いきなり髪が変色しだした。

 

「って!! おい!! 恥ずかしいからって力を使おうとするな!!」

 

 弟の両方を両手で掴み、思いっきり前後にガクガク揺らすと、髪の色の変色が止まり色が元通りに戻っていく。

 

「あうっ、あうっ、ちょっ、やめっ、て……」

 

 何か言っている気がするが、きっと気のせいだろう。

 気のせいだろう。

 先程までの八つ当たりだとか、嫌がらせだとかそういうんじゃない。決してそういう訳じゃないんだ。決して!! 

 

「あうっ、あうっ、あ、うっ、あ」

 

 あ? 

 

 あれ? 何か様子が? 

 髪の毛がドンドン赤黒く染まっていって、あれ? 

 ヤバくない?? 

 それでもガクガクするのを止めない。

 

「やめ、やめ、やめ!! ガッグゥ!!」

 

 ありゃ?? 

 

 羽がドンドン歪な禍々しい形に変形していって? 

 何か、駄目だな疲れてるんだな。

 テンションが可笑しいことになってるし、今の状況に対しても何も思わない。

 

「止めろつってんだろうがァ!!」

 

 俺の腕を振り払うと、後ろの方に後退していく〝弟らしき者〟

 

「ハァハァハァ、ング。お前マジで何なんだよ!? 何のために俺の肩を掴んで揺らしてるんだよォ!!」

 

「だって、なぁ?」

 

「分からねェよ!? お前が言ってることは何1つ分からねェよ!? なぁ? だけで伝わってたら人生誰も苦労しねェぞ!?」

 

 何か人生について説教されてるんだけど。

 そんなの元オタクの俺にも分かってるよ。

 

 なぁ? だけで伝わったらコミュ症になってないからな。

 同士達には伝わるけどね。

 

 昔にこんなことがあった。

 

『なぁ?』

『何だよ』

『やっぱりだよなぁ?』

『そうだなぁ?』

『やっぱりだよなぁ?』

『なぁ?』

『なぁ?』

『なぁ? なぁ?』

『なぁー!!』

 

 みたいな馬鹿みたいなことがあった。

 フッ、もう会えないんだな。

 あれ? 何か涙が。

 

「お前、マジで何なんだよォ──────!!」

 

 あぁうん、何かゴメン。

 

 ────────────────────────────―

 

 少し時間が経過

 

 やっと落ち着いてきたのか、こちらを睨むだけになっている。

 そんなに見られると照れるなぁ。

 

「クソッタレェ、せっかく出てきてやったってェのによォ? 何なんだよ、何なんだよ」

 

「せっかく? 何か話でもあるのか?」

 

「普通はよォ、もっとシリアスになるところじゃねェのか?」

 

「何でだろうな、何かテンションが上がちゃって、何かゴメンな?」

 

「チッ、もういい。それで、お前が〝俺に〟聞きたいことがあるんじゃないのか?」

 

「あぁそうだな、話を聞かせてもらう」

 

 先程までのふざけた態度は俺にはなく、真剣な雰囲気を出している。

 

「あぁまずはだな────―」

 

 そう言って、話を始める。

 三時間程たった頃に話は終わり、俺は深く考え込んでいた。

 

「はぁ、本当にそうなっているとはな、最悪の結末、いや、まだマシな方だな」

 

 最悪、地球は消えて無くなっていたかもしれないのだから。

 

「さて、俺の話は終わりだ。後は俺じゃなくて、コイツに聞かせろ。じゃあな」

 

 フッと頭を落とし、髪の色が元通りになっていくのを確認して、弟が目を覚ますのを待つ。

 翼が元通りになった頃合いに目を覚ました。

 

 辺りを見回し、こちらを見てくる弟君はどういうとこを言うのだろうか。

 

「あぁ、えーと、なんだ。とりあえずお前は誰だ」

 

 まぁそう来るよな。

 

「俺はお前の兄だ」

 

「俺の兄、ねぇ。それにしては似てないんじゃないのか? そもそもどうしたら私とそこの二人、そしてお前との身長の差がこれだけあるんだ? お前は何年生きてる、そこまで成長するには400年500年じゃ到底無理な話だ。吸血鬼はどれだけ長い年月を生き、どれだけ血を啜ったかによって力が強いか変わるって聞いたんだが」

 

 そういうことか、何でそんな話をしてきたのかと思えば、あながちそれも間違いではないけど。

 

「まぁそうだな、一々年を数えないよ。血なんて反り血で十分だしな。これで満足か? 一々覚えてられない。分かったな?」

 

「まぁ、良いか。俺は何故ここに居て、記憶がない? そして俺は誰だ」

 

 まてよ? それは確か

 

「レミリア、アイツはちゃんと自分が誰だか知ってるんだろ?」

 

「うん、母さまが教えたと思うけど」

 

 つまりは、再確認。

 ちゃんと俺が答えられるか、それを問いかけてる訳か。

 

「分かった、全部話そう。だが長くなるぞ」

 

「良い、話してくれ」

 

「分かった、まずは何故お前がここに居て、尚且つお前が誰なのか、それはお前がクラン・スカーレットという名前のスカーレット家次男だからだ」

 

 話してみるが、別に何も行動は起こさない。

 

「記憶がないのは何故か、これが本題だ。そうだろ?」

 

「そうだ」

 

「お前の記憶喪失の原因は、お前自身の能力のせいだ」

 

「俺の能力?」

 

「あぁ、たまに居るんだ能力を持って産まれてくる生命が。人間にも居るらしいが、今はこの話は良い。お前の能力だが、詳しくは俺もよく分からないが、言うなれば『ありとあらゆるものを創造をする能力』だ」

 

「なんだ、その能力は。破格の能力じゃないか」

 

「因みにそこのベットに寝ているフランの能力は『ありとあらゆるものを破壊する能力』これも未だにどこまでなのか検討がつかない」

 

「なるほど、もしかして私とそこの娘は双子なのか?」

 

「そうだけど」

 

「なるほど、陰と陽の関係か? バランスを取るために、切り離された? 分裂した?」

 

 何かブツブツ言ってるな。

 

「話を続けるぞ?」

 

「あぁうん、続けてくれ」

 

「続けるぞ、正直に言ってお前の能力については何も分かってない。だが1つだけ確かなのは、お前の中にもう一人、居ることだ」

 

「もう一人? 多重人格ってことなのか?」

 

 何故、そういう知識があるんだ。

 

「まぁそう考えてもらって良い。さっきまでそいつと話してたんだが、能力について話を聞いた」

 

「…………」

 

「お前の能力は1つじゃないらしい」

 

「俺の能力が1つじゃない?」

 

「そうだ、これは珍しい、あまり事例がない。

 そいつ言うにはお前の能力は、フランの能力の絞りカスのようなものが入っているらしい」

 

「つまりは『破壊する能力』か」

 

「そうだ、フランにもお前の能力が入り込んでいる。その能力だが、お前の記憶を破壊したらしい」

 

「は? つまり自爆能力ってこと?」

 

「間違いじゃないな。物を壊そうとしても何も壊せないらしい。精々自分の手足を吹っ飛ばす程度らしい」

 

「嘘だろ~、何時使い道があるんだよ。吸血鬼にその能力は入らないぞ」

 

「しかも、吹っ飛ばしたところは回復速度が遅くなるっていうおまけ付きだ」

 

「使えねぇよ!?」

 

「正直に言って使えない、だがそれのお陰で助かったらしいぞ?」

 

「どういうことだ?」

 

 レミリアのことが突然気になったので、レミリアの方を見ると、眠っているフランの横に座っていた。

 やはりフランも、疲れてるのか。

 

「それで続きだが、その破壊の能力でお前の感情が破壊されたらしい」

 

「感情が破壊? なんだそれ?」

 

「おれに聞かれても詳しくは分からない、俺は聞いただけだからな。それで感情が全て破壊されて、残されたのは狂気のみという悪質なことになってる」

 

「なんというか、酷いな」

 

「酷いな、それでお前が無意識的に生き残るためにした行動は、もう一人の自身を創ることだったらしい」

 

「なるほどな、それでソイツが全面に出てきたお陰で何とか助かったっていうことか」

 

「まぁ、そうだな」

 

「でも、話を聞く限り、ソイツは前から私の中に居たみたいな話し方だな」

 

「確かに、そうだな。どちらにしろ俺には分からない話だ。これについては本人に聞くしかないからな」

 

「まぁ、分かった。お前の言っていたことは信じることにする」

 

「そうか」

 

「信じるに当たって、やらなきゃ行けないことがある。そうだろ?」

 

「そうだな、この話を信じるならばお前の能力をどうするか、自身の危険は取り除いておきたいだろうしな」

 

「それで、だが。ずっと考えていたんだが、能力の暴走には何か切っ掛けがあるんじゃないのか?」

 

「多分だが、あるだろうな。常に暴走してた訳じゃないからな」

 

「恐らくだけど、俺とそこの妹の関係性、双子っていうことは離れちゃ行けないとかじゃないのか? 私も良く分からないけど」

 

「つまり?」

 

「どこかに閉じ込めた方が良いってことだな」

 

 つまり、フランと会えなくなる!? 

 待て待て待て!! そ、そんなのあり得るのか!? 

 駄目だろ!? 駄目に決まってるじゃないか!! 

 

 いや、でもフランの為にはお兄ちゃんが我慢しなければ、フランが死んでしまってはそれこそ駄目だ。

 

「分かった、そうしよう」

 

「ありがとう、あと1つだけ聞いて良いか?」

 

「何だ?」

 

「お前の能力は何だ? それによってはお前の妹に会えるかも知れないぞ?」

 

「俺の能力は『ありとあらゆるものを抑制する程度の能力』だけど」

 

「なるほどな、それで外に居るやつの能力は?」

 

「確か、『ありとあらゆるものを増加する程度の能力』だったと思うけど」

 

「分かった、ならその外に居るやつは俺達に近づけさせるな。何が起こるか分からない、お前なら能力を使ってくれれば俺達も能力を暴走させなくて済むし大丈夫だろうけど」

 

「本当か!?」

 

「うるさい、次はどこに閉じ込めておくか。あまり日光があるところは駄目だからな、何処か地下とかが良いかも知れない」

 

「それならこの紅魔館の最深部の地下に部屋がある。それでも、牢屋みたいな所だけどな」

 

「ふむ、なら一番マシな部屋で良いだろう。この娘もまだ子供だし、吸血鬼だからって流石に汚いところには住みたくないだろうしな」

 

「分かった」

 

 ▼▲▼▲

 

 数時間後、連れ込まれたのは、ぼんやりとした如何にもな雰囲気を醸し出している地下であった。

 何というか、趣味が悪い気がするな。

 

「この部屋が多分一番綺麗だな、一度も使われたことない部屋みたいだ」

 

「ありがとう、館の修復は能力が使いこなせ次第に手伝わせてもらうよ」

 

「あぁ、それは有り難いな。あの館を修復するには手間が掛かりそうだ」

 

「それじゃ」

 

「あぁじゃあな」

 

 そして俺はその後、何百年との付き合いになる部屋に未だに目覚めない妹を抱え入って行った。




エルナ「今回もお読みいただきありがとうございます。作者1号のエルナです」

火桜「最近学校が始まって疲れ気味の作者2号の火桜です」

エルナ「はい……そのえっと……またなんだ………その……すみませんでした!!!
いやもうね言い訳はしません……反省致します……。
さて!今回は火桜さんがお書きになった回です。何と1万601文字!過去最高です!」

火桜「辛かったですよぉ、というかもう少し文字数多かったと思ったんですが、かかった時間は一ヶ月くらいですかね?」

エルナ「そうですね、私と同じくらいでした。まあ、私の倍以上書いてるんですが……。
さて、火桜さん今回の感想をどうぞ!」

火桜「そうですね、今回の話ですが少し、いや大分違和感があった読者さんも居ると思います、そうなんです前回の話と今回の話、微妙に繋がってないんです。
前回の終りかたを見てもらえれば分かると思いますが微妙に物語が変わってるんですよ、まぁ仕方ないと思ってください。
私も気力が尽きて変なテンションでカオスな物ができて、終わったあとにヤバイと思いましたから。

はい、無駄に長い話でした。」

エルナ「1万も書けば気力もつきますよね……。私は前回は4000程度で尽きてしまいましたし。
さて、この回で書き溜めは終了なので定期更新(笑)も今回で終わりです。次回は書き上がり次第投稿させていただきます。
では、次回もお楽しみに!」

火桜「お楽しみに~」
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