レッドサイクロプス戦が中盤に差し掛かった頃、ウィンダは思い付きで初めてオリジナルのスキルを作成した。
ウィンダの作ったスキルを中心に、俺達は武器として脅威がある足枷の破壊を試みる。
俺は走り出しレッドサイクロプスの背後に回り込み、ウィンダはその場で止まったまま正面で銃を構える。
レッドサイクロプスはチェーンを持ち上げると、ウィンダに向かって勢いよく振り下ろした。
―――「回避狙撃(アヴォイダンスナイプ)」―――
ウィンダは横に向かってきりもみ回転をして鉄球を躱すと、そのまま鉄球の接続部を狙撃した。
しかし、狙撃は惜しくも逸れ接続部を掠る。
「ごめんクリス君、上手く当てられなかった!」
「大丈夫! 気にするな!」
左右に散った俺達を、今度は範囲攻撃が襲い掛かった。
俺は慣れた動きでチェーン部分をジャンプで回避する。
ウィンダは再度回避狙撃を発動させて、もう一度破壊を試みる。
―――「回避狙撃」―――
今度は真上に飛び上がってきりもみ回転をすると、接続部を狙撃した。
パキンッと高い音が鳴り響き、足枷のチェーンが切れる。
「よし、後は鉄球自体を無力化出来れば!―――」
俺は大剣に持ち替え、鉄球へ走り出す。
―――「ブレイドインパクト」―――
レッドサイクロプスの傍まで来た俺は、大剣を両手でしっかりと持ち、野球のようにスイングをする。
だが、大剣で吹っ飛ばす直前にレッドサイクロプスがチェーンを持って鉄球を引き寄せ、空振りをしてしまう。
「クソ!」
そして、レッドサイクロプスはそのまま頭上で鉄球を回し始める。
ブオンブオンと音を立て、徐々に速度が上がっていく。
レッドサイクロプスを挟んだ向かい側では、ウィンダが片膝を着いて鉄球に狙いを定めていた。
レッドサイクロプスがウィンダの狙いに気付き、身体をウィンダの方に向ける。
そしてチェーンから手を放し、ウィンダ目掛け鉄球を飛ばした。
「あれ、鉄球は!?」
ウィンダがスコープから目を離すと、鉄球が迫ってきていた。
「ウィンダ!」
―――「神速」―――
5倍の速度で間に合うか!?
真っ直ぐ走り出した俺は、レッドサイクロプスの股下を潜り抜ける。
もう誰も俺の目の前で死なせたくないんだっ!
「間に合えぇぇぇ!!」
足元に鉄球の影が見えたと同時に、俺はウィンダに向かって無心で飛び込んだ。
「キャッ!」
彼女を抱きかかえ地面に倒れ込むと、鉄球が頭上を通過した。
ウィンダは一瞬何が起きたのか分からない様子だったが、すぐに状況を把握した。
「説明はあとだ、とりあえず走るぞ!」
俺はウィンダの手を取り立ち上がらせると、高台の裏に見える隙間に向かって走り出す。
「はぁはぁ……」
「あ、ありがとクリス君」
一瞬、脳裏に妹の顔が浮かぶ。
「いや、ウィンダが無事ならそれでいいんだ……」
「クリス君には助けられてばかりだね」
「え? そうか?」
「だって私が初めてクリス君を見かけた時も……ううん、ごめんなんでもない」
俺には何の事だかさっぱり分からなかった。
「それよりウィンダ、これを使ってくれ」
俺は”魔力回復薬”とソフィーから貰った”みどりんご”をウィンダに差し出す。
「ありがと、早速使わせてもらうね」
視界右上に表示されているウィンダの魔力ゲージが半分ぐらいまで回復した。
レッドサイクロプスの残り体力は2本目のゲージを少し削った程度で、数値にすると9800ぐらい。
そしてリミッターゲージは60%といったところか。
まずあの鉄球をどうにかしないと……。
足から離したはいいものの、今度は手で振り回しておりさっきより厄介になっている。
「ウィンダ、俺が鉄球を受け止めるからその隙にチェーンを外せないか?」
「止まってるなら余裕!」
「よし、外してくれれば後は俺が何とかするから、レッドサイクロプスの方を注視してて」
「わかったわ」
俺とウィンダは、大胆にレッドサイクロプスの目の前に飛び出し、鉄球攻撃を誘い出す。
レッドサイクロプスは両手でチェーンを持ち鉄球を振り上げると、そのまま勢いよく振り下ろした。
―――「パラディン・ガード」―――
スキル"パラディン"レベル1は、相手の攻撃を5000ダメージまで無効化することが出来る防御スキルだ。
魔力を送ることで盾の耐久値を回復させることが出来るため、一撃で5000以上のダメージを受けない限り無限に耐えることもできなくはない。
大剣を斜めに持ち、側面を上に向けて防御体勢を取ると、目の前にオレンジ色の大きな盾を出現させ、降ってきた鉄球を受け止める。
「ぐっ……重いな……」
鉄球を何とか受け止め、ウィンダに鉄球の接続部を狙撃してもらう。
やがて勢いが弱くなった鉄球は、地面に転がり落ちていく。
レッドサイクロプスがその鉄球を拾おうと駆け出す。
急いでパラディン・ガードを解除し、大剣の刀身に魔力を纏わせて肩に担ぐ。
「師匠に教えてもらったこれで!―――」
魔力を纏わせた大剣を、鉄球に向かって振り下ろすと、刀身から三日月のような形をした白い何かが飛んでいく。
そして、鉄球を拾おうと手を伸ばしたレッドサイクロプスの右腕ごと、鉄球を真っ二つに切った。
腕を切り落とされたレッドサイクロプスが激痛のあまり叫ぶ。
「すごいクリス君、今の何?」
ウィンダが駆け寄って来た。
「今のは師匠に教えてもらった"刃魔(はま)"っていう、魔力を打ち出す牽制技なんだ」
"刃魔"は、魔法属性だがダメージは攻撃力の1/4を参照するという変わった性能をしているのが特徴。
距離があるほどダメージが落ちるというデメリットもあるが、切れ味は物理攻撃を遥かに上回る。
「よし、後は敵のリミッターゲージを貯めて倒すだけだ」
レッドサイクロプスに視線を向けると、その場にしゃがんで腕を抑えて痛みに耐えていた。
「レッドサイクロプスのリミッターゲージは70%手前、ウィンダの魔力は……40%といったところか」
「そうね」
「ウィンダは頭に何発か入れてくれ、多分それだけでリミッターゲージが貯まるはずだ」
「わかったわ」
返事をしたウィンダは、レッドサイクロプスの正面に向かって走り出す。
―――「投擲」―――
―――「属性付与」―――
俺は戦闘開始前と同様に麻痺と雷を大剣に纏わせて、レッドサイクロプスの背中に投げる。
大剣が刺さるとレッドサイクロプスの全身に青白い雷が走り、頭上の体力ゲージの上に麻痺のアイコンが表示される。
その後ウィンダはレッドサイクロプスの額に4発撃ち込む。
するとリミッターゲージが満タンになり光り出す。
リミッターゲージを満タンになったと同時にゲージが徐々に減少していき、その間はモンスターの動きが鈍くなる。
さらにリミッターゲージ減少中に空に打ち上げることで、"リミッターコンボ"と呼ばれる冒険者に有利な状況が作り出せる。
リミッターコンボ中はモンスターが無抵抗になり、地面に落ちるか、ゲージがなくなるまで解除されない。
大型モンスターなどの体力を一気に削るのに必要不可欠な戦術だ。
だが空に維持するためには、打ち上げる通常攻撃やスキル攻撃、魔法攻撃を行う必要がある。
「ウィンダ、スナイパーで何発射てる?」
「後……3発射てるよ」
「なら、1発だけ射つ準備をしておいてくれ!」
俺は動きが鈍くなったレッドサイクロプスの足を薙ぎ払いで転倒させ、仰向けになったレッドサイクロプスの腰あたりで、上半身を横に捻り大剣の剣先が上になるように構える。
―――「ブレイドインパクト」―――
捻った身体を戻しながらUの字を描くように大剣を振り、レッドサイクロプスの腰に直撃させる。
するとレッドサイクロプスの身体が持ち上がり、10メートル程上に飛んだ。
俺は太刀に持ち替えてレッドサイクロプスに向かって飛び上がる。
まだコンボが多いスキルをあまり習得していない上に、スキルは使った後クールタイムを挟まないと他のスキルが使えない。
そのため通常攻撃を挟みつつ、今習得してるスキルでコンボ数の多い技を使っていくしかない。
「はぁー!」
―――「華の舞」―――
華の舞は我流で突き抜け攻撃を16連撃行うスキルだ。
華の舞が終わり着地すると、すぐさまジャンプして通常攻撃で7連撃を加えて、敵を切り上げて空中に留まらせる。
再び着地すると、また華の舞で攻撃する。
これを繰り返すこと4回目の通常攻撃を始めた時、ウィンダに声を掛ける。
「ウィンダ! 次の攻撃が終わったら合図するからコイツの頭を射ち抜いてくれ!」
「わかったわ!」
この時点で敵の体力は残り30%程まで削れていた。
そして5回目の華の舞と通常攻撃が終わると、レッドサイクロプスに刺さっている大剣を引き抜いて着地する。
「ウィンダ!」
ウィンダは銃口を、上空に居るレッドサイクロプスの頭部に向けた。
息を止めトリガーを引く。
ウィンダの狙撃銃から放たれた赤い光は、真っ直ぐレッドサイクロプスの後頭部から撃ち抜いた。
落下し始めていたレッドサイクロプスが空中で止まり、背中や後頭部からさらさらと砂化が始まる。
視界に「QUEST CLEAR」の文字が表示された。
「クリス君!」
ウィンダは駆け寄ってくると、飛び付いてきた。
俺はウィンダを両手でしっかり受け止め、勢いで抱き締める。
「お疲れ様ウィンダ、ナイス狙撃だった」
「ありがと、クリス君こそさっきの連撃すごくカッコ良かったよ!」
「あぁ、ありがとう」
少し照れくさくなり頬を指先で掻く。
「ウィンダこそ、戦闘中に新しいスキルを生み出すなんてすごいじゃないか」
「えへへ、ありがと」
2人は抱き合ったまま視線を合わせ、微笑んだ。
しばらくすると、レッドサイクロプスの砂山ができあがっていた。
「さて、戦利品でも漁るかな」
「ここには入ってこないと思うけど、私は周囲の確認をしておくね」
「あぁ頼んだ」
お互い身体から手を離しウィンダは入口の方へ、俺は砂山に向かった。
スコップを具現化して、レッドサイクロプスの砂山を掘っていく。
掘り進めていくと、砂の中から黒色の爪が出てきた。
『クリムゾンサイクロプスの爪』
「こ、これは? 何?」
あれ?俺達が戦ってたのは"レッドサイクロプス"じゃなかった?
俺はさらに掘り進めて、ほかの戦利品を探した。
最終的に出てきたのは、爪と角とレア素材の"巨人の胸骨"の計3種だった。
爪も角も名称は"クリムゾンサイクロプス"になっている。
俺達がクエストを受けてから進化したのか、それとも依頼票が貼り出された後で進化したのかどっちかだろう。
少なくとも"クリムゾンサイクロプス"は"レッドサイクロプス"の進化系で右足に足枷を着けているのが特徴だ、と全知全能の図書から情報をもらった。
「クリス君、とりあえず周囲にはモンスターは居なかったわ」
「了解、ありがと」
とりあえず進化したことについて、レインさんに聞いてみるか。
俺とウィンダはボスエリアで少し休憩をした後、出口を目指して歩き始めた。