世界創造者   作:エターナルロリコン

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第三十二話 堕ちた聖剣

 シルドは立ち上がり、持っていた剣を真っ直ぐ構える。

 

 「この冒険者風情がぁ!!」

 大きな声を上げながら剣を真上に掲げ、勢い良くクリスの脳天目掛けて振り下ろす。

 

 太刀を具現化しても生成が間に合わないな……なら、具現化最速のコイツで!

 

 クリスは右手首を左手で握り頭上に持っていく、同時に武器を具現化させた。

 ガキンっ!!と音が響く。

 

 「そんな短剣で俺の剣を受け止めようとは浅はかな……そのままねじ伏せてやる」

 「やれるもんならやってみな、この状態で押せない時点で結果は見えてるけどな!!」

 

 クリスは一瞬両膝を曲げ、一気に上へ伸ばしシルド諸共弾き返す。

 「なに!?」

 シルドが少し体勢を崩した瞬間、回し蹴りで吹き飛ばした。

 「ぐあっ!!」

 

 シルドは数メートル飛ばされ仰向けで転倒する。

 

 「弱いな、一国の王子がこんな投擲用のナイフに弾かれるなんて」

 「き、貴様ァ!! この俺に2度も恥をかかせるとは」

 シルドはクリスを物凄い剣幕で睨みつける。

 

 「いや、1回目はあんたが勝手に転けただけなんだけど……」

 

 シルドが立ち上がり再び剣を構えたその時。

 人集りから聞き覚えのある声がした。

 「クリスー!!」「クリスさーん!!」

 その声に混じってユニコーンの足音も聞こえる。

 

 エリア達だ。

 「エリア! ウェン! 俺はここだ!」

 クリスは二人の呼び掛けに答えるように返す。

 すると、一部の国民達が後ろを見ながらザワザワと騒ぎ出し、奥から徐々に道が出来る。

 人集りの向こうにはユニコーンと引いてるアバロンの姿が見え、その後ろの荷台からウェンとエリアが降りてくる。

 こちらに気づいた二人は大きな声でクリスの名を呼び駆け出す。

 

 「クリス!」「クリスさん!」

 「無事辿り着けたみたいだな」

 

 二人に続きアバロンもクリスに向かってくる。

 「思ったより早く来られたようで、助かります」

 「お嬢様が大声で呼び掛けていただき、気付いた皆様が次々に馬車が通れるように道を空けて下さりました」

 アバロンが答える。

 

 「わ、私は一刻も早くお姉ちゃんとお母様の元に向かいたかっただけですから……」

 ウェンは顔を赤く染めた。

 

 「そ、それより、クリスさんありがとうございます……二人を助けていただいて……」

 ウェンは頭を深々と下げた。

 

 「そうね、間に合ったみたいだし、さすがクリスって感じね」

 「いや、それは二人のスキルと魔法があったからだし、三人で助けたと言ってもいいぐらいだぞ」

 

 「ふふ、そうかもね」

 「いえ、クリスさんが居たからですよ!」

 

 「いやいや、透明化の魔法がなかったら、近付けなかったかもしれんぞ」

 「いえ、クリスさんなら例え気付かれても、二人を助けてくれたと思いますよ」

 

 「ならなんで、使ってくれたんだ?」

 「それは、その……クリスさんが危険に晒されるのは嫌だなぁと思いまして」

 ウェンは恥ずかしそうに答える。

 

 クリスは咄嗟にウェンの頭に手を置いた。

 「ありがと、おかげで無傷だ」

 ウェンは頭に手を置かれキョトンとした表情を浮かべたが、クリスのお礼に「はい」と笑顔で返した。

 

 三人で話している所に、シルドが口を挟む。

 「貴様! 我が愛しのウェンの頭に手を置くとは、何様のつもりだ。

 冒険者風情が簡単に触れていい人ではないのだぞ!

 ……さぁウェン、その汚らわしい手を払い除けて私の元へ来てください」

 そう言いシルドは左腕を肩の高さまで上げ、羽織っていたマントを広げる。

 

 「シルド様、あなたは私を呼び寄せる為だけに大切な家族を殺そうとしました。

 それをわかっていてその態度ですか?」

 普段の喋り方より重くて低い声で話すウェン。

 

 「その男が邪魔をしたせいで、お二人の命は取っていません。

 それにウェンが帰ってきた今、もう用はありませんからすぐにでも解放してあげますよ、ウェンさえ私のモノになってくれれば……ね」

 シルドは不敵な笑みを浮かべた。

 

 「私はあなたのモノになる気はありません……さっさと帰っていただけませんか。

 でないと……私はあなたを殺しかねません」

 ウェンは杖を出し、杖の頭に付いた魔法石をシルドに向ける。

 

 「おー怖い怖い、いくら可愛いウェンでも怒ると怖いですね。

 尻に敷かれないように気をつけないと……ハッハッハ」

 

 シルドが笑いながらそう言うと、ウェンの持っていた杖の魔法石が緑色に光りだす。

 

 クリスは少し前に出てウェンの前に腕を伸ばした。

 「やめろウェン、わざわざこんなクソ野郎相手に一国のお姫様が手を汚すな」

 「その手を退けてくださいクリスさん!!」

 ウェンはクリスの腕を掴む。

 

 クリスがウェンに視線を向けると、ウェンの目は真っ直ぐシルドを睨み、掴まれた腕から震えているのが伝わってくる。

 

 「次期女王になるかもしれないウェンが今やることは、国民を安心させる事だ、人を殺めることじゃない!」

 「でも、それでも! あの男を許す事は出来ません!」

 

 「わかってる! 誰だって大切な人が殺されそうになった時、殺そうとした人を許せる奴なんか居ねぇよ……殺した奴は自分の手で殺したいよ」

 クリスはそう言い、シルドを睨みつけた。

 

 

 この男は義父(あいつ)に似ている、歳は違うし、髪の色も声も違うけど……奴の顔は少し似てる。

 

 

 ワークリーから聞いた通り、この世界は俺の頭の中にある情報を基に作られてる。

 全部が全部じゃないけど、見たことある顔ばかりだ。

 

 ヤツもウェンもエリアもセームベルもウィンダも。

 

 

 「わかりました、あの男の事はクリスさんにお任せします、最悪殺して頂いても構いません、全ての責任は私が取ります」

 クリスの腕を離し、自分の胸元に手を当てる

 「あぁ、わかった……ほら、縄を切ってるエリア達の方を手伝ってきてくれ」

 「はい」

 ウェンは軽く頭を下げると後方に居るエリア達の方へ駆けて行った。

 

 「ふっ、やはり逃げられてしまったか、まぁいい。

 それよりもクリスとやらよ、この俺と勝負しないか?」

 「……勝負だと」

 

 「そうだ、バルドヘイド剣士学校を首席で卒業したこの俺に勝てたら大人しく国に帰ってやろう、もし俺が勝てば国民の前でその首を落としてやる」

 

 「短剣に押し返されたのに、どうやって俺に勝つんだ? 痛い目見る前にさっさと国に帰ったらどうだ」

 

 「あの時は少し油断していただけだ、次は負けん」

 そう言いシルドは剣を構える。

 

 クリスも太刀を具現化し、両手で持って、少し右斜めにして構える。

 

 「つあぁぁぁぁ!!」

 シルドが大声を上げ、剣を右肩で担ぐように持ち走り出す。

 

 

 自分の方が強いと思ってるコイツには、力の差を教えてやらないとな。

 

 

 クリスは構えていた太刀を力いっぱい握りしめる。

 

 ガキンッ!!

 クリスが、シルドの振り下ろした剣を受け止める。

 

 「どうしたんですかシルド王子、手が震えていますよ?」

 「うるさい、何故だ……何故そんな細い剣で俺の剣を受け止められるっ!」

 「さあ? なんででしょうね?」

 

 クリスは少し力を入れ、シルドを押し返す。

 

 シルドが2歩、3歩とよろめきながら下がった瞬間、一気に詰め寄り右下から剣を左に振り上げる。

 

 ガキン!!

 という音を立て、シルドの手から剣が抜け、後方へ飛んでいく。

 

 弾かれた時に当たったのか、シルドは右手を抑えていた。

 

 「この俺がこんな奴に負けるとは……」

 「だから言ったじゃねぇか、俺にどうやって勝つんだ?って」

 

 「シルド様!」

 シルドの後ろに居た一人の兵士が、剣を構えてシルドに近寄る。

 

 「下がってろ、これはあの男と俺の勝負だ、邪魔は許さん!

 だが来たついでだ、これを持って下がれ」

 

 そう言い、シルドは弾かれた剣を鞘に収め、マントを脱いで兵士に渡した。

 

 「剣無しでどうするつもりだ」

 「安心しろ、この勝負は俺の勝ちで終わる、なぜなら俺のとっておきの剣で葬るんだからな!」

 

 シルドは両手を前に出し、剣を構えるようなポーズをとった。

 「来い! 聖剣レーヴァテイン!」

 シルドが叫んだ瞬間、構えていた手に黒い炎が舞い、柄から剣が形成されていく。

 

 「聖剣!レーヴァテイン!?……なんでお前が、まさか適合者なのか!?」

 「適合者? なんの事だかさっぱり分からないな。

 この剣はアルニス城の地下室で見つけた俺の剣だ」

 

 

 聖剣レーヴァテインとは 、世界に7本ある”聖剣”の1本だ。

 刀身以外赤色に染まっていて、クリスの太刀とは違い、聖剣はどれも西洋風の剣のため峰が無く両刃となっているのが特徴だ。

 両刃と言っても必ずしも左右対称と言う訳では無い。

 レーヴァテインも左右非対称の剣で、他にも刀身が波を打っている剣も存在している。

 その他にも色んな形の刀身がある。

 

 

 聖剣には鍔に魔法石のような石が埋め込まれており、適合者なのかその石の光る色で判断できる。

 青なら適合者、緑なら他の聖剣の適合者、赤なら不適合者となる。

 そのため、聖剣の適合者に選ばれた7人以外が手を近付けると赤く光るのが普通の現象だ。

 

 さらに不適合が聖剣を使い続けるとその聖剣は黒く染まり、堕ちた聖剣は魔剣に変貌し、所有者に何かしらの災いを起こすと言われている。

 

 

 クリスがシルドの持つ聖剣を確認すると、赤く光っていた。

 「シルド、お前不適合者じゃないか! 今すぐその剣を離せ! でないと!」

 「適合者だの不適合者だの、さっきから何を言っている! 俺が選んで使っている、剣がどうであろうと関係ない!」

 そう言い、シルドは再び剣を構える。

 

 仕方ない、奴の手から剣を弾くしかないな!

 クリスも太刀を構えた。

 

 右側に剣を構えたまま、シルドがクリスに向かって走り出す。

 「はぁ!! くたばれ小僧!!」

 シルドはまたもや剣を振り上げ、クリスの頭部目掛けて振り下ろす。

 

 「ワンパターンなんだよ!」

 クリスは柄を両手でしっかり持ち、刀身を左下に向ける。

 すると、振り下ろされた剣は太刀の鍔の少し下に当たり、そのまま刀身に沿って降りていく。

 

 刃先から三分の一ほどまで降りた瞬間、クリスは一気に太刀を振り上げ、シルドの手から剣を弾いた。

 

 ガキンッ!!

 

 ドスっと言う音を立て、レーヴァテインは地面に突き刺さる。

 

 「クソォ、何故だ、何故勝てない……こんな細身で弱そうな男に……俺は……」

 シルドは突き刺さったレーヴァテインに向かって走り出し、再び手に取る。

 

 「俺が……この俺が、負けるはずないんだ!!」

 

 シルドから感じる負の感情と殺気が徐々に強くなっていき、同時にレーヴァテインが黒く染まっていく。

 

 そして、レーヴァテインが刀身諸共黒く染った瞬間。

 剣の至る所から赤黒いいばらが次々と出てきた。

 

 そのいばらは、次から次へとシルドに絡み付いていく。

 

 「な、なんだ、なんだこれは!? 貴様俺に何をした! これは幻影なのか!? く、クソ離せ! やめろ! やめろぉ!!」

 

 「なに!? 何があったの!?」

 エリアが、駆け寄ってくる。

 

 「いや、俺にも分からない……だが、聖剣がヤツを飲み込もうとしている?」

 

 クリスやエリア、後方にいたウェン、その他周りに居た兵士や国民はただただ、いばらに包まれ飲み込まれていくシルドの異様な光景を漠然と見ていた。

 

 やがて、巨大ないばらの塊となり、完全にシルドを飲み込みしばらく経つと、いばらが真っ黒に染まり朽ちていく。

 

 中から出てきたのはシルドではなく、真っ黒な頭体をしたイモムシの様な姿をしたモンスターだった。

 

 「うわぁぁぁ!! 皆逃げろ!!」

 「きゃああああ!!」「わぁあああ!!!!」

 

 それを見た国民が悲鳴を上げながら、一斉に逃げていく。

 恐怖の表情を浮かべながらも兵士達は震える手で剣を構えるが、そのモンスターの近くに居た兵士数名を2メートル程の大きな口を開け頭から丸呑みにした。

 

 「う、うわぁぁぁ!!!!」

 

 飲み込まれた兵士の鎧なのかはたまた骨なのか、モンスターの口の中からバキッボキッと砕く音が聞こえる。

 

 「クソ、村長が言ってた聖剣の呪いってこの事だったのか!」

 「クリス、どうしよう」

 エリアがこちらを見る。

 

 「このままじゃまずい、兵士や国民を安全な場所まで避難させるんだ! 俺がコイツを食い止める!」

 

 クリスは両手で持った太刀の峰を右肩辺りに当てて戦闘態勢に入る。

 

 「待ってクリス! 私も手伝うわ!」

 「俺の方はいいから早く避難を!」

 

 すると、後ろからアバロンの声が聞こえる。

 「クリス様! 皆様のおかげで妻と娘は無事助け出す事が出来ました、避難誘導は我々アルニス家従者共にお任せください」

 「ご家族が無事で何よりです、避難誘導の方よろしくお願いします」

 「はい」

 

 アバロンはクリスに会釈すると、メルニ様の傍に集まっていた従者達に声を掛け、避難誘導を始めた。

 

 

 「じゃあクリス、私達も行こっか! 一緒に」

 そう言いながら、エリアは槍を具現化させる。

 

 「一緒にってお前……俺が今から何しようとしてるかわかってるのかよ」

 「当たり前じゃない、1ヶ月ずっとあなたの事を見てたのよ? それぐらいわかるわよ」

 エリアはクリスに笑顔で答える。

 

 「わかった……遅れるなよ」

 「同じスキルなんだから遅れるもなにもないわよ、それに私の方が先に終わるわ」

 「かもな……行くぞ!!」

 「えぇ!!」

 

 ―――「疾風!」「迅雷!」―――

 

 二人は同時に疾風迅雷を発動させ、クリスは紫色、エリアは青色の雷を全身に纏う。

 クリスは敵の右側を、エリアはクリスと逆側に走り出す。

 

 「はぁあ!!」

 クリスの疾風迅雷はスキルレベル4で14連撃。

 全身に長めの斬撃で側面に傷を負わせていく。

 

 エリアは覚えたてでスキルレベルは1の8連撃だ。

 クリスは斬撃のみで与えるが、エリアは身体を回転させながら槍を振り回し、突きと斬撃を与えていく。

 

 エリアが攻撃を終えて先に居た場所へ戻り、クリスも攻撃後エリアの横に立つ。

 かなりダメージが入ったのかモンスターはドスンッと倒れる。

 

 「やったかしら?」

 「ちょ、エリア、それはフラグ」

 

 モンスターはゆっくりとS字に身体を曲げて起き上がり、雄叫びを上げた。

 その直後クリスとエリアに向かって大きな口を開けたまま突進する。

 

 二人は同時にバックステップで回避すると、大きな口が二人のいた場所にかぶりつく。

 

 

 「クリスさーん! エリアさーん!」

 後ろからウェンの声が聞こえた。

 

 「はぁ、はぁ、はぁ……避難誘導、完了しました。 私も手伝います」

 どうやら街の方から走って来たようで、息を切らしていた。

 

 「ありがとウェン、お疲れ様」

 エリアが微笑む。

 

 「お疲れ様、早速で申し訳ないけど、ウェンは後方からの援護を頼めるか?」

 「もちろんです……すぅ、はぁ」

 ウェンはそう言うと、1度深呼吸をして杖を具現化させる。

 

 三人が集まっている所にモンスターがズズズ……ズズズ……と近付いて来るのが見えた。

 

 「悪いエリア、少しの間だけ一人で相手頼めるか?」

 「仕方ないわね、でも早く来てこっち手伝ってね、ウェンが妹みたいで可愛いから一緒に居たいのはわかるけどさ」

 エリアがイタズラっぽく言う

 

 「なんで、そうなんだよ……いいから、とりあえず行ってくれ」

 「はーーい、でも早く来てほしいのはホントだから」

 そう言い残し、エリアはモンスターへと駆け出す。

 

 「よし、ウェンには……」

 そう言いかけた時。

 

 「私も一緒に戦うわ、クリス君」

 ウィンダがエリアと入れ替わるように駆け寄って来た。

 

 先程の小汚い服装から、以前クエストに同行した時の服装に着替え、スナイパーライフルを担いでいる。

 

 「どこ行ってたのお姉ちゃん!」

 「ごめん、着替えたかったし、自室にこれを取りに行ってたの」

 肩に掛けたスナイパーライフルを揺らす。

 

 「無理しなくても俺達に任せてくれれば……」

 「ううん、私も一緒に戦いたいの! 無理はしないから」

 

 「わかった、ならウィンダも来てくれた事だし、ウェンにお願いしようと思ってた事を分担してお願いするか」

 

 「わかりました」

 「私達は何をすればいいの?」

 

 「ウェンは攻撃魔法を、俺達が一度下がった時に打てるように準備を」

 ウェンはコクッと頷く。

 

 「それから、ウィンダはヘイトを取って、俺達が近づける隙を作って欲しい……少しやってみた感じ、やつは攻撃してきたやつにヘイトを向ける癖がある。

 遠距離攻撃も持ってなさそうだし、仮に二人にヘイトが向いても近づかないと攻撃出来ないからな、俺達が闇討ちする機会が出来るだろ」

 「んーと、要は牽制用の射撃をして欲しいって事ね、わかったわ」

 

 「それじゃ、二人ともよろしく頼む」

 そう言い、再びモンスターの方に目をやる。

 

 「ちょっとクリス! いつまで喋ってんの! 早くこっち手伝って!」

 「悪い、今行く! っとその前に……」

 『verification(ヴェリフィケイション)』

 

______________

レベル:67

体力:20653/30000

魔力:60000

腕力:0

______________

 

 「ちょ、なんで、コイツ体力3万もあるんだ!?」

 「え、3万!? ボスクラス並じゃない」

 一旦下がってきたエリアが、近くで聞いていたらしく驚いていた。

 

 「ウェン! 何か大技で体力削れないか?」

 「わかりました!」

 ウェンはコクっと頷く。

 

 となると、ウィンダに注意を引き付けてもらわないと……。

 「ウィンダ!」

 

 「大丈夫、わかってるわよ……大事な妹に指一本触れさせない!」

 

 ウィンダは敵の視界ギリギリの位置に移動し、前衛の二人に攻撃が行く前に頭部辺りに射っていく。

 そして、ウィンダにヘイトが向いた瞬間、エリアとクリスはスキル攻撃を当てる。

 加えて、ウィンダの後方に居るウェンが魔法を構えていた。

 

 ―――五月雨突き―――

 エリアが愛用してる、多段ヒットするスキル攻撃。

 レベルが上がれば連撃数が増えて、最終的には24連撃になる、ちなみに今はレベル3で16連撃。

 一応槍以外に、剣でも使えるスキルだ。

 

 ―――剣舞(ブレイドダンス)―――

 クリスが制作したスキルで、一撃毎に魔力を消費する特殊なスキル。

 クリスは必ず10連撃以上入れる癖がある。

 スキルレベルが上がると魔力の消費量が減るだけだが、攻撃出来る回数が増えるため、実質ダメージ増加に近い。

 

 『windstorm(ウィンドストーム)』

 ウェンが得意としている風属性の、高火力魔法に該当する大技。

 両手にそれぞれ、バレーボール程の高速回転する風の球を作り出し、頭上で1つに合体させてから、相手に直撃もしくは付近に投げつける。

 着弾地点を中心にハリケーンが起こり、鋭い風の刃がダメージを与えていく攻撃魔法だ。

 

 本人は簡単に発動させるが、魔力のコントロールが難しく、ほとんどの人は風の球すら発現出来ない。

 さらに、ウェンは魔力を圧縮する力にも長けており、見た目より高威力になる事が多く、魔法学校でも歴代で最高の魔力コントロールを持っていると言われている。

 

 

 「クリスさん、エリアさん1度下がってください、コレを投げます」

 ウェンが両手を上げ、大きな風の球を構えていた。

 

 「「了解!」」

 スキル攻撃を当てた後、クリスとエリアは一度距離を取る。

 

 「てやあ!」

 

 ウェンが投げた球はモンスターの足元に落ち、ハリケーンを引き起こす。

 

 

 かなりダメージを与えたと思うが……今はどうだ?

 『verification』

 クリスが再び敵のステータスを確認する。

______________

レベル:67

体力:10824/30000

魔力:60000

腕力:0

______________

 

 クリスが思っている以上に守備力が低く、想定より多く削れていた。

 

 「残り1万! 気を緩めるなよ!」

 クリスが声を掛けるが、自分も含め、皆肩で息をしていた。

 

 その時、モンスターが口から紫色の煙を吐き出す。

 「まずい、毒ガスかもしれん! 息を止めろ!」

 「任せてください! 私が吹き飛ばします!」

 

 『tempest(テンペスト)』

 

 ウェンが唱えると、周りに突風が吹き荒れ、毒ガスを天高く巻き上げていく。

 地上から毒ガスが無くなり、風が止んだ瞬間。

 

 「エリア!」

 「わかってるって!」

 エリアが走り出し、手前で高く飛び上がる。

 空の階段でさらに上空へ上がり、身体を反転させて空気を蹴り勢いよく降りてくる。

 

 そして、空中でクルクルと槍を回しながら近づくと

 

 ―――槍の舞(ランス・オブ・ワルツ)―――

 

 とスキルを発動させた。

 

 槍の舞はクリスの剣舞を元に、エリアが創作したスキルだ。

 攻撃方法を剣から槍に変えただけのため、特に変わった点は無い。

 

 強いて言うならリーチが伸びたぐらいだが、クリスの太刀と比べると誤差の範囲だ。

 

 

 エリアの奴、いつの間にあんなスキル技を。

 疾風迅雷と言いこれと言い、俺の技を真似してるのか?

 まぁ、悪い気はしないけど。

 

 クリスは少し口角を上げ、ニヤつきそうになる。

 

 槍の舞の10連撃で敵がダウンし、クリスはすかさず走り出し大剣に持ち替える。

 

 そして大剣を担ぐように構えズサーと滑らせながら近付く。

 

 

 ―――「パワースタンプ!」―――

 

 身体を少し浮かせ、一回転した後、溜め込んだ力で叩きつけるハンマー寄りの一撃技だ。

 

 ドカンッと空気が震える程の大きな音を立てて、モンスターの頭にクリーンヒット。

 衝撃で辺りに砂埃が立ち込める。

 

 「はぁ……はぁ……これで終わっただろ……」

 

 クリスが尻もちを着いたその時、モンスターは起き上がりクリスを飲み込もうと顔を近付る。

 「クッソ、コイツまだ生きて……」

 

 咄嗟に大剣を盾にするように側面を向けて持ち上げる。

 その時、クリスの頭上を拳大の光の玉が通過し、モンスターの体内へ入っていった。

 

 …………ズドーンッ!!

 

 数秒後、城壁や地面が陥没するほどの大爆発が起きた。

 

 クリスの周りにはいつの間にか青色のドーム状の結界が張られており目の前に居たクリスはもちろん、戦闘に参加していた他の三人も爆発に巻き込まれず無傷だった。

 

 「い、今のは一体……」

 

 クリスが謎の大爆発に驚いていると後方から名前を呼ぶ声が聞こえる。

 「クリスさん! 大丈夫ですか! クリスさーん!!」

 

 後ろを振り返るとウェンと目が合いこちらに駆け寄ってくるのが見えた。

 

 「クリスさん、良かった……無事なんですね」

 「ウェン、今の爆発は……」

 

 「すみません、アレは、その……私が放ったマジックショットなんです」

 「は? マジックショット? あの三大高火力魔法の!?」

 ウェンが頷く。

 

 「クリス、ウェンやったわね! ってどうしたの? そんな驚いた顔して」

 エリアがウェンの後ろから顔を出す。

 

 「いや、さっきの大爆発、ウェンがマジックショットを打ったって言うから」

 「マジックショット? なんだっけそれ?」

 「だから三大高火力魔法の一つで」

 

 エリアに説明しようとしたところ、ウィンダも駆け寄ってきた。

 「あーあ、久しぶりに打ったわね、壊れた城壁やこの陥没の修理にどれだけ時間が掛かるかしらね」

 「ごめんなさいお姉ちゃん……クリスさんが食べられちゃうと思ったらつい……」

 ウィンダはウェンの頭に手を置く。

 「まぁ、私はいいけどね、打ったあと皆にちゃんと対魔法用防御結界貼ってくれたから無傷だし」

 

 「……あぁ、さっきのバリアか」

 「そっ、ウェンが自分で作った魔法でね、自分の魔法で生じた影響をかき消す効果があるの」

 

 「すげぇなそれ……てか、アイツは!?」

 

 クリスが立ち上がると、真下に砂の山が出来上がっているのが見える。

 ウェンの放ったマジックショットで直径10メートルほどの範囲で陥没が起きており、中心部の深さは2メートルから3メートルほどあった。

 

 クリスの後ろはウェンの独自シールドで守られていたためか無傷だ。

 

 上から砂の山を確認するとシルドの顔が出ているのが見えた。

 

 「おい、大丈夫か!」

 クリスが斜面を滑り降りて、駆け寄る。

 

 「すまなかった……な、クリスとやら、私はどうかしていた……あの剣を手にした時から、ずっと変だった……自分が自分じゃないようで……ウェン……ウェンは居るか……」

 「……ここに居ますよ」

 

 クリスの後を追って降りてきた、ウェンがシルドの傍に寄る。

 しゃがみ込み、砂の山から出ていた左手を両手で優しく包んだ。

 

 「ウェン、本当にすまなかった……君を困らせるつもりはなかったんだ……父上に頼まれて、エルフの森を侵略するのに力を借りたかった……でも、結果的に愛する女性を悲しませただけだったな……」

 「シルド様……」

 

 「クリス……私を止めてくれてありがとう、ウェンの事をよろしく頼む……よ」

 「おい、シルド」

 

 シルドが目を閉じると、突然風が吹き、砂山を飛ばしていく。

 そしてシルドの体は徐々に砂化していき、一緒に風に飛ばされて行った。

 

 やがて風は止み、残ったのは聖剣レーヴァテインだけだった。

 

 「これは、俺が預かるよ……俺なら持ってても平気なはずだから」

 そう言うと、クリスはレーヴァテインに手を伸ばす。

 シルドが持っていた時は赤く光っていた石が、緑色に光りだした。

 

 剣の柄に触れ、魔力化して取り込む。

 

 「ここに居ても仕方ないし、登るか」

 「そうですね」

 

 「ダッシュで登れるかな? あ、そうだ」

 クリスはある事を思い付く。

 

 「エリアー!」

 クリスは上から見ていたエリアに手を振った。

 

 「どうしたのー?」

 「悪いけど、階段使ってもらっていいか? ここから出るのに一番楽だと思うから」

 「そういう事ね、了解」

 エリアは空の階段を発動させ、その直後クリスも連携で空の階段を借りる。

 「ウェン、登るから手貸して」

 「え、あ、はい」

 ウェンは左手を差し出す。

 

 クリスは差し出された左手を握って引き寄せる。

 「……あ、お姫様抱っこの方が早いか」

 

 そう言い、クリスはウェンの手を離し、右手を背中へ左手を膝裏に入れ持ち上げる。

 「きゃっ」

 ウェンはお姫様抱っこされ、咄嗟に両腕をクリスの首に伸ばす。

 

 「んじゃ、行くぞ」

 

 そして、登り切ったその時。

 

 「お嬢様ー!! 皆様ー!! ご無事ですか!!」

 城の方からアバロンの声が聞こえた。

 そちらに目を向けると、アバロンがこちらに向かって走って来るのが見える。

 

 「アバロンさん! 俺たちはここです!」

 クリスはアバロンへ手を振る。

 

 「ご無事で何よりです、皆様どうぞ城の中へ……メルニ様がお待ちです」

 アバロンに導かれ、城へ向かった。


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