「ゴブリン?恐いから会いたくないけど会ったら処理するよ」   作:ブランク蟻

10 / 18
今回は難産でした(汗)


第10話

 ロックイーターの住む洞窟の入り口、そこは洞窟で戦っている冒険者達とは別の形で命のかかった戦場だった。

 

「その人はあちらに運んでください!」

「今、止血をします。動かないで!」

「治療の奇跡を使います」

 

 ロックイーター討伐戦の開始から2時間、洞窟前の仮設救護所には負傷者が次々に運び込まれていた。治療が出来る冒険者達はこの、命の最前線に全力で挑んでいる。そんな中で薬使いは、

 

「出血は酷いですか、止血すれば致命傷ではありません。軟膏で対応を!」

「はい!」

「傷が臓器まで及んでいます。奇跡による治療を」

「了解です!」

「かなりまずいですね。催眠香で眠らせから奇跡を」

「わかりました、誰か手伝いを!」

「この方は……看取ってやって下さい」

 

 冷静に対応してしていた。治療法を決める自分が慌てている姿を見せるわけにはいかないからだ。

 

 医療に携わる人間でも一生の内にここまで酷い状況を体験する人は希少だろう、運ばれてくる負傷者は全員重症で治療しなければ確実に死ぬ。しかし、負傷者は次々に運ばれてくるので一人に多くの時間はかけられない。死なないラインまで持って行くことが限界。

 

 治療が終わっても痛みを訴える人を放置して次の負傷者の所に向かわなければならない。これがいつまで続くのかも分からない。

 

 そんなこの場の空気がこの場いる冒険者達の精神を否が応でも確実に削りとっていく。薬使いは予めこの場いる全員に精安香を配り、予備も有るだけ持ってきているがあまりの使用頻度にストックが削られ底が見て始めている。

 

 このままでは精安香のストック切れ=この場にいる全員の精神の限界になりかねなかった。そんな不安と戦いながら治療をしていた彼らに待ちに待った瞬間が訪れた。

 

「やったぞ!ロックイーターの討伐に成功したぞ!」

 

 洞窟から出てきた冒険者が討伐成功を告げる。この場のいる全ての人が歓喜の声を上げる。まだ全ての負傷者を治療できたわけではないが、彼らの目には遂にこの戦場の終わりが見えた。

 

------------------------------------------------------------------------

 

 討伐を成功させ、その場いる全員に最低限の治療を施した冒険者達は神殿に負傷者を運び込んだ。

 

 予めギルドが場所を貸してくれるように頼んでいたのだ。治療は神殿に引き継がれ、多くの冒険者達がその場に座り込んだ。薬使いも立ってこそいるがかなり疲れている。

 

そんな彼に走り寄ってくる影があった。

 

「兄さん!」

「おっと。出迎えありがとう」

「お怪我はありませんか?」

「大丈夫。俺は後方支援だからな。滅多なことじゃ怪我しないさ」

「それで心配はします」

 

 抱きついてきた義妹に精神を癒してもらいながら、休憩すべきか、応急処置を手伝うべきかなど、この後に行動を考えていた薬使いだったが、そんな考えてを読んだのか義妹の少女は強い意志のこもった瞳で薬使いを見る。

 

「兄さん、無理をしないで休んでいて下さいね」

「いや、でも「ダメです。後は私達に任せて下さい。どうしても無理するなら、少しだけきっ嫌いになっちゃいますよ

「!?」

 

 そのとき彼の体にかつてない特大の衝撃が走った。薬使いを見ている者がいたならば、彼の背後に極大の雷が落ちる姿を幻視したことだろう。

 

「ハイ。ワカリマシタ。デスノデ、ドウカキラワナイクダサイ」

 

 最愛の義妹、癒しの天使とも言える少女に嫌われる。それは薬使いに取って精神の崩壊に繋がる(言い過ぎ?)ほどの衝撃だった。

 

「約束ですよ」

「ハイ。ヤクソクシマス」

 

薬使いは徐々に義妹に逆らえなくなってきていた。

 

「おう、薬使い。微笑ましいやりとりしてるとこ悪いんだが、こいつを見てやってくれ」

「いやいや俺は今から休………また、随分と傷だらけで帰ってきたなお前は」

 

 討伐戦にも参加していた槍使いが連れてきたのは傷だらけになっているスレイだった。この男、村を襲うゴブリンを殲滅した後、休みもせずに帰ってきたらしい。

 

「約束通り生きて帰ってきた」

「ああ……うん、そうだな、ボロボロだけど……」

「致命傷を避ける努力はした」

「その点はよくやった」

 

 スレイは多くの傷を負って動けなくなってこそいるが意識しっかりしているので命に別状はない様子。

 

「義妹様、これは俺の知り合いなのです。休む前にこいつの治療だけはさせて頂きたい。どうか許可を」

 

 休むと約束した以上、処置するためには義妹の少女からの許可が必要。一応、周囲を見てみるが手の空いてる人はいない、スレイの治療は薬使いがするのが最適だった。

 

「ふふ、わかってます。でもこの方の治療が終わったら絶対に休んで下さいね」

「必ず」

「よろしい。私も手伝いますね。兄さん」

「お願いします」

 

許可を取った薬使いは義妹と協力してスレイの応急処置を開始する。

 

「うわ、良くこの怪我で帰ってこれたな。襲われた村で休んでもよかっただろ」

「帰りを待っている人がいる」

「理由はわかるけど、あんまり無茶するなよな」

「善処する」

 

 この手のスレイの言動は相変わらず信用できないので具体的な治療日数を付けた強制休養日を宣告するべきかと、思案しながら治療をしていた薬使いだったが、ここで治療に使う薬が少し足りないことに気づく。

 

「兄さん?」

「ああ。深い傷は治療できたんだが、残りの手当てに必要な薬が少し足りない。ちょっと探しくるから見ていてくれ」

 

 薬使いが大量に持ち込んだ治療薬も怪我人のあまり多さに底を尽きていた。薬が無ければ治療もできないので周囲に分けてもらうため彼が動いた瞬間、目に小さな光が入った。

 

「今のは、治療の奇跡……ヒールか」

 

 小回復(ヒール)はその名前の通り、回復系の奇跡の一つでメジャーな奇跡でもある。この神殿にもヒールを使える者が多くいるのでヒールの光をみること事態は可笑しいことではない、問題はその光の発生源が薬使いのものすごく近くにいることだった。

 

「えっと、マジ?」

「はい。私、みたい……です」

 

ヒールの光の発生源はスレイで、それを使ったのはスレイを治療を手伝ってくれていた…………義妹だった。

 

「このタイミングで奇跡を授かったのか」

「地母神様に<この人を傷を少しでも治してあげたい>とお祈りしましたら突然光が。兄さんの役に立ちたかったですし」

 

どうやら地母神様は少女に奇跡を授けることにしたらしい。

 

「うん。取り敢えず、良くやってくれた」

「えへへ。ありがとうございます兄さん。落ち着いたら地母神様に感謝のお祈りを捧げてないといけませんね」

「そうだな、その時は一緒に祈ろう」

 

 義妹のヒールのお陰で残っていたスレイの傷は塞がった。突然の義妹の奇跡覚醒に衝撃を受けた薬使いだったが悪いことではないのですぐ気を取り直して義妹を褒め讃える。

 

「さて、我が自慢の義妹のお陰で傷は塞がったが、念のため包帯は巻くから動くなよ」

「ああ、頼む。それで俺は今日、帰れるのか?」

「医術を知るものとしてはもう数日はここで休んもらいたいな」

「何とかならないか?」

 

珍しく食い下がるスレイ。

 

「ならんこともないけど「俺の帰りをずっと待っている大切な人がいる」…………しょうがないすこし待て」

 

普段の言動から素っ気ない様に見えて、スレイは牛飼い娘を大切に思っている様だ。

 

「こっちはこれでよし、後は「兄さん、こちらも包帯を巻き終えました」おっありがとう」

「処置が終わったら少し様子を見てから送り届けるけど、数日は絶対に家で大人しくする様に。破ったら催眠香で起きる度に眠らせてやるのでそのつもりで」

「ああ」

「ふふ、兄さんはこの方の主治医さん見たいですね」

「本気でなるべきなんだろうか考えているよ。そうすれば大手を振ってドクターストップが掛けられるからな」

 

 この言葉は後の現実のものになり、薬使いの心労に繋がるとは本人は思っても見なかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 数時間後、休んで体力を回復させた薬使いは荷物(スレイ)を受け取り主(牛飼い娘)に届けに行くため歩いていた。そして目的地である牧場が見えてくる。

 

「ようやく着いたか、荷物があるから前に来た時より遠く感じるな」

「すまない」

「荷物って兄さん」

 

人を荷物扱いしている薬使いにスレイは謝罪し、着いてきた義妹は苦笑いする。

 

「俺は部屋はあちらの小屋だ。そっちに運んでくれ」

「その前に受け取り主に了承をもらってからだ。運び込みはその後だ」

「…………………」

「荷物扱いは継続するんですね」

 

 

家の前まできた薬使いは、義妹に扉をノックしてもらい声をかける。

 

「すいません。薬使いと言うものなのですが、どなたかいらっしゃいますか?お荷物、お届けにまいりました」

 

 すると中から声が聞こえてきて牛飼い娘が慌てて飛び出してくる。名前を名乗れば人見知りな彼女でも出てきてくれると予想したが、思惑は成功する。

 

「薬使いさん。どうしたんですか?彼なら………まだ帰ってきてません」

 

スレイが心配なのか後半は声が小さいなった牛飼い娘

 

「扉越しに行った様に荷物(スレイ)を届けに来た」

「荷物って……え?荷物って彼のこと?」

「そうこれが荷物(スレイ)だ。義妹と一緒に届けにきたぞ。この書類にサインしてくれ。サイン貰い次第、運び込むから」

「え?え?」

「兄さん、牛飼い娘さんが混乱しちゃってますよ」

 

簡単な書類まで作ってきた薬使いに混乱しながら牛飼い娘はサインする。

 

「何処に運び込めばいい?この荷物(スレイ)?」

「えっと、あっちの小屋に運んでください」

「了解。運び込みます」

「……………………」

 

 薬使いがスレイの荷物扱いを辞めることはないと分かったのか、牛飼い娘はこれ以上その件に触れるのを止めてスレイの部屋に案内する。

 

スレイの部屋に着いた薬使いスレイの鎧を外して気がさせてベットに入れる。

 

「俺は床で「荷物は黙ってるように」………」

「それで牛飼い娘、これが荷物(スレイ)の取り扱い説明書な。説明書に従って正しく取り扱ってくれ」

「うっうん。ありがとう」

 

 薬使いは荷物(スレイ)の破損(傷)の状態と保存(対処)法、問題(無理して動く)か発生した対応法(催眠香付き)を書いた紙を渡す。牛飼い娘は苦笑しながらも取り扱い説明書を受け取る。

 

「さて、届ける物は届けたから、俺は帰るけど荷物(スレイ)は人に戻る(動けるようなる)まで大人しくしてる様に」

「ああ」

「兄さん、そろそろ人として扱ってあげましょう?」

「お前の頼みでも今回は断る」

 

頑なに荷物扱いを辞めない薬使いだった。

 

「ありがとう薬使いさん。義妹さんもありがとうね」

「どういたしまして、さてと、帰るぞ」

「あっ兄さん。もう」

 

 見送るという牛飼い娘にスレイについている様に言って薬使い達は帰路に着いた。

 

 余談だか、帰る際に牛飼い娘の叔父に、スレイを届けたお礼にと牧場で作ったチーズをもらった(おいしくいただきました)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ロックイーター討伐から数日が経過し、ギルドでは討伐成功の打ち上げが行われていた。

 

「それではロックイーター討伐の成功を祝って乾杯!

「「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」

 

 本来は討伐成功したその日に開かれるはずだったのだが、負傷者が予想以上に多かったため、彼らが落ち着くのを待って開かれたのだ。

 

「おら、飲め飲め薬使い」

「ええい。無理に飲ますな酔っ払いが。くそ、催眠香が切れてなければ」

「ほどほどに…ね」

 

酒に酔った槍使いに絡まれいる薬使いに、それを微笑んで見ている魔女。

 

「何故、討伐に参加していない俺まで参加させられている」

「がはは、細かいことは気にするでないわ」

「こうなれば誰も止められません。諦めましょう」

 

 その横で偶然ギルドに来ていたスレイも何故か巻き込まれていたりする。今は鉱人の戦士に付き合わされて酒を飲んでいる。僧侶もその横で座って食事をしていた。

 

「おう、飲んでるかお前ら?」

「楽しく飲んどるわい」

「楽しく食べてますよ」

「……………」

 

 スレイ達の元にやってきたのは男戦士だった。彼も討伐作戦に参加しており、勝利に貢献したらしい。そして、

 

「貴方は飲みすぎてはいけませんよ」←僧侶

「そうじゃ、家で奥さんも待ってることだしのう」←鉱人の戦士

「結婚したのか、おめでとう」←スレイ

「ヒューヒュー、お暑いねぇ」←槍使い

「可愛らしい…奥さんで…よかった…わね」←魔女

「結婚式やるなら言えよ。盛大に祝ってやるから」←薬使い

「うっうるせぇ!まだ、慣れてないんだからそのネタでからかうな!」←男戦士

 

 話からわかる様に眠ったままだった野伏は目覚めたのだ。きっかけは薬使いの義妹の少女だった。彼女がダメもとでヒールを掛けたみたところ、何と野伏が目覚めたのだ。

 詳細は不明だが彼女の使うヒールは野伏の意識不明の原因に効果のあるものだったらしい。少女のヒールがどんな患者に効果があるかは絶賛研究中。

 

 野伏が目覚めたことはすぐ仲間に伝わり、男戦士が最初にその場に駆けつけて彼女を抱きしめた。そして勢いで守れなかった責任を取ると言ったらしく(無自覚に告白した後悔はないとのことだ)野伏も勢いに飲まれて了承した(こちらも後悔はないらしい)

 

 それを後からきた他のメンバーにも聞かれ、そのまま背中を押しこまれて即ゴールインするのことなったのだ。

 

「そっそうだ。お前も大変だったらしいな。ゴブリン討伐」

「話を逸らしましたね」

「見苦しいぞリーダー」

 

パーティの仲間の言葉を黙殺し、男戦士はスレイに目を向けた。

 

「ああ、勝ちはしたが平野で奴らを戦うのは二度とごめんだ」

「だが、ゴブリン討伐は続けるだろ?」

「当然だ。奴らは根絶やししなければならない」

「そうか………ならお前は今日から<ゴブリンスレイヤー>だ」

「ゴブリンスレイヤー………そうだな、そう名乗ることする」

 

 原作主人公たるゴブリンスレイヤーがこの場に正式に誕生する。彼はその名の通り、数多のゴブリンを殲滅するゴブリン殺しのプロへと成長することなる。

 

 

「ゴブリンスレイヤーか………長いからスレイって呼ぶわ」

「台無しだ!」

 

薬使いの略称にツッコミ入った。

 

 

 

 

 ダイスで遊んでる者達がいた。彼らは無数のダイスを持っており、次から次へとダイスを振った。

 

 ある時、投げたダイスの1つがもう止まって目が出でいる2つのダイスに接触する。1つは勢いよく弾き飛され目を全く違うものに変え、もう一つには端に掠る様に接触し、目を少しだけ別のものに変えた。

 

 それを見た遊んでいる者達は思った面白いと、変わってしまった目を直さず。成り行きに任せてみることにした。ぶつかったダイスはまだ、転がっている。

 




目の変わったダイスは誰のものでしょう。

一つ目は死ぬ運命から逃れ、二つ目は正史とは少しだけ違う力を得た。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。