「ゴブリン?恐いから会いたくないけど会ったら処理するよ」   作:ブランク蟻

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第11話

 薬使い、その名の通り薬を操って攻撃と回復(応急処置レベル)をこなせる男。

先のロックイーター戦では彼の医療知識と、持ち込んだ薬が多くの冒険者達を救った。

 

 彼はその功績からギルドより昇級審査の参加資格を得ている。同期の中では間違いなく出世頭である。そんな薬使いは今

 

「……………………」

 

生気の薄い瞳で薬品を調合している。彼の背後には完成した薬が山の様に積まれていた。

 

 事の始まりは3日前、ロックイーター討伐の打ち上げから数日が経過しており、薬使いは久しぶりにギルドに訪れていた。

 

 彼はこの数日間をロックイーター戦で使い果たした薬品の素材集めと調合に費やしていたのだ。素材集めにあちこちを飛び回り、家に籠ってひたすらに調合する日々。中々過酷な日々だったそうだ(本人談)

 

 そしてある程度のストックが溜まったので久しぶりにギルドに顔を出すことにしたのだ。そしてギルドを訪れた事で彼の受難が始まった。

 

 受付嬢に挨拶をした薬使いは本日行われる昇級審査までの待ち時間を座って待つことにした。そんな中、

 

「お!薬使い、やっと来たか」

「男戦士か、嫁さんとの新婚生活はどうだ?幸せか?」

「最高だ。日常生活は厳しいけど、ふとしたときに甘えてくるところとか、可愛くて堪らなって言わせんじゃねぇ!」

 

聞かれ思わず。惚れ気を話してしまう男戦士を生暖かい目で見る薬使い。

 

「よしよし、幸せそうで何よりだ…………将来このネタでからかえるな(ボソ)……それで用件はなんだ?」

「今、小声で恐ろしいこと言わなかったか!?」

「言ってない言ってない。さあ、用件をどうぞ」

「くそ、後で問い詰めてやる」

 

 追求は後にして男戦士は用件に入る。内容を簡単に纏めると、薬使いの作った薬品を売って欲しいとのことだった。野伏という大切な人ができた男戦士は前以上に死ぬわけにはいかなくなった。

 

 例え、どんな英雄的で誰からも尊敬される死に方をしても、最も悲しませてはいけない最愛の人を悲しませてしまう。そんなことはあってはならない。

 

 自分はどんな無様をさらしても、ボロボロになっても彼女の元へ帰らなければならない。そこで彼は戦闘スタイル、装備、持ち物などを一から見直すことしたのだ。

 

 そして最優先で手に入れなければならないと思ったのが、治療用の薬品と逃亡用のかく乱アイテムだった。

 

 治療薬品は言うまでもなく、怪我や毒を受けた時にそれが原因で死なないためのもの。逃亡用の道具ともしもの時に逃げるために必要。これが有るか無いかでは生存率は大きく変わってくる。

 

 ではそれをどうやって手に入れるか、彼は薬使いから買うことを思いついた。薬使いの薬品の効果はロックイーター討伐戦で証明されている。更に男戦士は薬使いが煙玉を使うことも知っていた。なら市販の薬店で売っている物を買うより、薬使いから買った方が良いものを買えると考えたのだ。

 

「というわけなんだ。頼む、お前の薬と牽制用の煙玉を売ってくれ!」

「良いぞ「本当か!?」ああ、別に独占する気はない、欲しければヤバイ奴以外なら誰にも売るよ。但し、売れるものと売れない物があるからそこはよろしく。使い方を誤って死なれたりするのはごめんだしな」

 

 土下座しそうな勢いで頼んでくる男戦士の頼みを薬使いはあっさり了承する。別に彼は自作の薬を自分や身内で独占するつもりはない。今まで誰も頼んでこなかっただけで、頼まれれば適正価格で売っても良いと考えていたのだ。

 

「………こんなもんだな。ほら、これに売れる物と効果、価格を書いといたから、欲しいものがあったら別の紙に書いて受付に渡してくれ。後で確認する」

「思っていたより安いな。これなら必要な分が買えそうだ」

「どの薬が必要かは話し合って決めるのを進める」

 

彼は紙に薬の効果と価格を書いて男戦士に渡す。

 

「わかった!仲間と話し合って決めてくる」

「そうしてくれ、おっとそろそろの昇級審査時間だな」

 

 仲間の元に行く男戦士を見送った薬使いは受付嬢の案内に従ってギルドの奥に入っていった。

 

 この時、彼はあるミスを犯した。昇級審査と男戦士との会話に思考の殆どを割いていた薬使いは気づかなかった。

 

 周囲の者達が男戦士との会話に聞き耳を立てていたことに、薬使いの欲しければ誰にでも売る発言に反応していたことに。気づいていればこの後に起こる事態に対して心構えくらいはできたかもしれない。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「なんだ。これは…………」

 

 無事に昇級審査に合格し、白磁から黒曜に昇格した薬使いは受付から渡られた紙を見て絶句した。

 

 彼に渡された紙は一枚ではない、それは分厚い紙の束だった。どう見ても男戦士達が書いた分だけではない。紙をめくっていくとそこには冒険者の名前と欲しい薬が書いてあった………数十人分の。

 

「ええっと、薬使いさんが昇級審査に行かれた後に、たくさんの冒険者さん達が来られてこれを渡されまして」

 

 薬使いは見誤っていたのだ。自分の薬が冒険者達にどう評価されているのかを、どれだけの冒険者たちが彼の作った薬を欲しているかを。

 

 評価が飛躍的に上昇したのはロックイーター戦。彼の持ち込んだ治療薬は多くの冒険者達を救うことになった。血止め軟膏で多量の出血を免れてものや、催眠香で眠らされ痛みに悶えることなく治療された者。

 

 彼らやその仲間達は薬使いの薬の有用性を実戦の中で目撃したのだ。手に入るなら欲しいと考えるのも当然の流れだった。男戦士との会話で薬使いが自作の薬を普通に売ってくれることがわかったので彼ら一気に押し寄せたのだった。

 

「…………まずいな」

 

彼は欲しいなら売るのは構わなかった。それが複数でもそれは変わらない。問題なのは。

 

 

 

 

「ストック分じゃ、まったく足りない!?」

 

予想を遥かに上回る希望者の数に量が全然足りなかったのだ。

 

 その日から薬使いは家に篭って調合を始めた。材料の調達はギルドに依頼して自分はひたすら調合する。

 

「くっ薬使いさん。〇〇人分の材料をすり潰しました」

「そこに置いといて、休憩は適度に取ってな」

 

 依頼された薬の量を見た薬使いは、一人で薬作りの全工程をするには時間が掛かり過ぎる上に負担が大きいと考え、人を雇うことした(神殿に頼むことも考えたが金銭の絡むことなどで良い顔されないと考えて断念)

 

手伝いの募集を掛けようと考えていた薬使いの元にその人物は現れた。

 

「無理だけはしないように。無理させたと知られたら君の旦那が押し掛けてくる」

「はいぃ、わかりましたぁ」

 

 雇われたハーフエルフの少女は机に突っ伏す。そう。休憩に入り机の上で空気の抜けた風船の様になっている人物はあの野伏である。

 

 男戦士と結婚が決まり冒険者を引退した彼女は新たな仕事を探していた。そこに旦那である男戦士から薬使いがヤバイ状態になっていることを聞いた彼女は手伝いたいと言ってきてくれたのだ。

 

薬使いは二つ返事で彼女を雇い、難易度の低い工程をするのが彼女の仕事となった(薬使いが雇い主となったので敬語となっている)

 

「野伏さん、兄さん。リラックス効果のある紅茶が入りましたよ」

「ありがとうございます。義妹さん」

「ありがとう。俺も一息いれるかぁ」

 

 それに加えて、自分の家で他人の新妻と二人きりなのは倫理的まずいのと思った薬使いは義妹の少女にも助けを求めた。

 

 義妹の少女は笑顔で手伝いに来てくれ、調合の手伝いに加え、時間がなくてまともにできない家の掃除や料理など、身の回りの世話を泊まり込みでしてくれている。

 

「お二人のサポートは任せてください。精一杯頑張りますから」

「ヤバイな義妹に頭が上がらなくなってきたよ。困ることないんだけどさ」

「良い義妹さんじゃないですか。天使ですか?私もあんな妹が欲しい」

「俺もこの子と兄弟の契りを交わせたことに、毎日地母神様に感謝しているよ」

「もう、お二人とも大げさですよ」

 

 慈愛に満ちた少女の笑顔に天使を見た二人は思わず神に感謝の祈りを捧げる。少女は二人の高すぎる評価に頬を赤く染めるが怒ってはいなかった。二人はそんな少女の様子癒されて、この後の作業に挑むのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

予想外の量の注文を受けてから2週間後、彼らは全ての薬品を作って納品する。

 

 この2週間で義妹の少女と野伏の薬品調合の腕は飛躍的に上昇し、薬の種類によっては薬使いの手を一度も借りる事なく調合できる様になっていた。2人ともかなり辛かったらしく素直に喜べなかったらしいが。

 今回の件で薬使いは2人に破格の報酬を払ったが、それでもかなりのお金を手にしたのだった。

 

 そしてどんなコンディションでも身体が機械的な正確さで動いて、薬を調合できる域に達することになった(大変過ぎてミリ単位も喜べなかった)

 

 今回は良く確認しなかった自分が原因だったから受けたが、もうこんな無茶な注文は受けないと心に決めた薬使いだった。

 今後の薬の売り方は週に決まった量の薬を作ってギルドに納品し売ってもらう形に落ち着いた(追加注文は要相談で)

 

「「「お金より時間が欲しい(です)」」」

 

仕事を終えた3人が最初に口にした言葉だった。

 

 

おまけ

 

「へえー薬使いさんはそんなことになってるんだ?」

「ああ、かなりきつそうだった」

「君は手伝ってあげないの?」

「義妹と知り合いを雇っているから問題ない」

「義妹さんか、なら大丈夫だね」

「問題があるとしたら」

「したら?」

「あいつに余裕ができるまで頼み事はできない」

「ふふ、そっか、それは大変だね」

「ああ」

 

話題は薬使いの苦労話だったが、スレイとたわいない話ができて、すこし嬉しかった牛飼い娘だった。

 

 

 

 

 

 

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