「ゴブリン?恐いから会いたくないけど会ったら処理するよ」 作:ブランク蟻
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皆様に心からの感謝を申し上げます<m(_ _)m><m(_ _)m>
今回、薬使いは義妹と共に水の街を訪れている。
彼がこの街に来たのはこの水の街で流通しているある薬について調査する依頼が入ったからである
依頼者である水の街の神殿によれば、この水の街で飲むだけで身体を強化できる薬が開発され、流通しているらしいのだ。しかし、この薬には副作用がある可能性が浮上している。
使用者の一部に不調を訴える人達が出ているのだ。水の街の神殿としてはすぐに原因の調査を始めたかったのだが、薬を開発者が、水の街でも有数の権力者の一人と繋がりを持つ人物であるため、不調の原因がその薬であると断定できない内は大々的に立ち入り調査ができないらしく、細々としか調査ができていない。
それに加えて水の街で薬学に詳しい人物は街の人にも顔を知られており、調査していることが知られれば要らぬ混乱を招く可能性がある。そのため、神殿はギルドを通して薬学に精通している人物を探すことにしたのだ。所属するギルドで実績を残していることや、有名すぎないことなど、複数の条件を加味した結果、薬使いに白羽の矢が立つことのなったのだ。
「兄さん、私も連れて行ってください!」
「いや、俺としては連れて行ってあげたいけど一応、依頼だからなぁ……」
「私と一緒にいれば怪しまれず街を歩き回れますし、神殿にも違和感なく入れるはずです!」
「それは……確かにそうだな」
1週間ほど家を開けることを義妹に伝えに行くと、彼女は自分もついて行くと言い出したのだ。それも自分を連れて行くことで得られる利点をしっかり上げて。
事実、少し前に神官見習いとなった義妹が一緒に来てくれれば、神官を志している少女が水の街の神殿を見てみたくて、冒険者である兄にねだって連れて来てもらっいると装うことができるのだ。
「わかった。一緒に行こう。ただし、色々手伝ってもらうからな」
「はい!」
薬使いは遠慮なく自分の意見を言えるようになった義妹に関心しながら、一緒にくることを許可するのだった。
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「ここが水の街です………綺麗な所ですね」
「確かにすごいな、街も立派だけどこんな大量の水を見るのも初めてだ」
水の街は西方の辺境でも最大の街で、町中に水路が張り巡らされている水上都市である。この街には至高神を祀る大きな神殿があり、裁判所の役目も担っている。
「これからどうしますか?」
「取り敢えず、薬屋、ギルド、神殿の順に見ていこう」
「はい!」
2人は行動を開始する。ギルドや店で薬の噂話を集め、薬の現物も手に入れた。そして現在は神殿を訪れて不調を訴えた人物と話をしている。
「では、その強化剤を使ったのは初めてではないんですね?」
「ああ、今まで20回は使ってるな、だが体調が悪くなったのは今回が初めてだから、ほかの連中と違ってこの薬が原因なのかは俺には分からん」
「成る程、今のお身体の具合はどうですか?」
「正直つらいな。身体が重くて関節が少し痛い」
「わかりました。これを吸って見て下さい、解毒作用のある香水です」
「ああ」
解毒香を患者に吸わせて20分ほど待つと患者の身体に変化が訪れる。
「おお、少しだか身体が軽くなった。痛みも和らいだ気がするな」
「………効果はあるけど、すぐには治りませんか……もしかして………」
「なあ、あんた。俺は治るのか?」
患者の男は恐る恐る聞いてくる。それに対して薬使いは冷静に見解を告げる。
「確約はできませんが、その香水がゆっくりといえ効いていますから、治せると私は考えています」
「あっありがたい。痛みの所為で仕事がやりずらくって困ってたんだ。頼む、俺を治してくれ」
「頼まれました。先程吸ってもらった解毒薬を数日分出しますのて一日3回、5分間吸い込んで下さい。それで徐々に良くなるはずです。それと他の症状が出たらすぐに神殿に来て下さい。酷くなってからでは治せるものも治せんから、私も数日間はこの街に留まるので何かあれば対応できます」
「わかった。ありがとう」
数時間後。調査に協力してくれた全ての患者達に話を聞き終えた薬使いは、街の薬屋で手に入れた薬の現物を調査し始める。解毒香を横に置いてもしもの事態に備えた薬使いは、始めに薬を匂い嗅いで匂いから使われている材料を予想する、次に僅かに口に含んで味を見ることで材料予想の精度をさらに上げていく。
「この匂いにこの味は…」
薬を吐き出して解毒香を吸った薬使いは、先程の診察を合わせて副作用の原因をかなり絞り込むことに成功する。
「どうですか。兄さん」
「ああ、大体の予想はついた。でも報告するなら確信を持ってからにしたい。そのためにはこの薬で実験する必要がある」
「お手伝いします!」
そして2日後、薬使いは強化剤を効果をレポートにまとめて神殿に提出する
「これで一安心だな」
「お疲れ様です。これで明日からはお仕事抜きで街を見て回れますね」
「そうだな。流石に疲れたよ。体がガチガチだ」
「兄さん。今、マッサージしてあげますね」
「いつもありがとうな」
神殿に資料を提出した薬使いは義妹にマッサージしてもらうという至福の時間を堪能するのだった。しかし、このまま平穏で終わるほど薬使いの人生は甘くはなかった
次の日、2人は疲労とは別の意味でガッチガチになるのだった。
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「…………なあ、義妹よ」
「…………はい、兄さん」
「…………どうしてこうなったのだろうな」
「…………私にも分かりません」
「…………精安香吸おうかな」
「…………私にも下さい」
「あら、どうかされましたか?」
仕事を終えて水の街を満喫しようとした彼らの元に神殿から使いの男性が訪れのだ。要件は神殿に赴いて昨日提出した書類の内容を直接、上の立場の人物に説明して欲しいとのことだった。
薬使いも呼ばれる可能性があるとは考えていたのでそれを二つ返事で了承する。ここまでは予想していた。ここまでは。
薬使いが義妹と神殿に到着すると二人は応接室に招かれる。そしてそこには予想外の人物が待っていたのだ。彼はその人物を見て固まり、横にいた義妹も同じように固まっている。そこにいたのは金色の髪に抜群のプロポーションを持ち目元を布で覆った美女だった。
「わざわざ、ご足労頂いてありがとうございます。私がこの神殿の大司教です。皆からは剣の乙女と呼ばれております」
「「…………」」
剣の乙女。彼女は辺境における神官職の頂点に位置する人物で、水の街の神殿におけるもっとも高い位の人物でもある。また、5年前に魔神王の1柱を倒したパーティのメンバーでもある金等級(上から2番目)冒険者である。
神官としても、冒険者としても、2人にとって正に雲の上の人物である。
「(まさかのトップが来てしまった!?(しまいました!?)」
2人は自分達の予想を遥かに上回る立場の人物に、心の準備が全く出来てない状態で応対することになり平常心が空の彼方に亜音速で飛んで行ってしまっているのだ。
「あの、どうかなされました?」
「いっいえ、まさか剣の乙女様が直々に話を聞きに来られるとは思いもしなかったので、驚愕しておりまして、私は薬使いです。よっよろしくお願いします!」
「いっ義妹の神官見習いです。剣の乙女様にお会いできてこっ光栄です!」
「うふふ、よろしくお願いしますね。もっと楽にされて大丈夫ですよ」
心配させてしまったことに少し悪い気はするが2人はそれどころじゃなかった。このままでは普通会話するなど不可能。そこで薬使いは賭けに打って出る。
「少々よろしいでしょうか。剣の乙女様?」
「あら、如何されましたか?」
「私も義妹も緊張してしまって、このままではしっかりとした説明が出来そうにありません。そこでほんの少し時間を頂きたいのですが、よろしいでしょうか!」
この行動は相手によっては失礼と取られる行為になる。上の立場の人物がわざわざ時間を割いて話を聞きに来ているのに、落ち着くために時間に割いてくれと下の立場の人間が要求するのは、上の立場の人物のプライドを傷つける行為と取られる可能性があったのだ。
「ええ、構いませんわ。少しとは言わずにゆっくりと心を落ち着かせてください。私もその方が話やすいですから」
「ありがとうございます!」
上品な笑みで許可してくれる剣の乙女。彼女の温和な人柄は話に聞いていたが、危険な行為であることに変わりはなかった。内心では安堵する薬使い。
「妹よ。これを」
「ハイ、ニイサン」
薬使いは(こんな時に大活躍の)精安香を取り出し、義妹の少女と共に一気に吸い込む(薬は用法容量を守って正しく使いましょう)
そして2人はなんとか落ち着きを取り戻すことに成功して大きく息を吐く。そして正面に向き直る。その顔からは先程の極度の緊張が消えており、しっかりとした会話できる状態になっていた。
「お待たせして申し訳ありません。それでは説明に入らせて頂きますが、よろしいでしょうか?」
「ええ、構いませんわ」
通常なら緊張でガチガチになってきた人物が何かの薬を吸い込んで緊張を緩和させれば、危険な薬を使っているのではではないかと思って警戒するところだが、
そこは魔神王を倒したパーティの一人である剣の乙女。穏やかな姿勢を崩すことはなかった。それどころか見るものが見ていれば彼女の瞳には薬使いの行動に対しての強い興味の色が浮かんだことを見て取れたことだろう。
「以上が私の見解です」
「なるほど……そういうことでしたか…それではこの薬は販売を中止した方が良いですね」
「はい、もっと詳しくこの薬を研究すれば副作用を無くすことができるかも知れませんが、現時点のこの薬を売り続けることはおすすめできません」
薬使いの説明したことを要約すると。例の件の薬には毒素が含まれていた。毒と言ってもその毒性は弱く、余程大量に摂取しなければその場で身体が不調を訴えることはない。
しかし、この毒素は人の免疫システムでは完全には解毒されず、身体に蓄積していくのだ。そして徐々に悪影響を及ぼし始める。
不調を訴えた者達は共通して薬の使用回数が15回を超えていた。一回の使用量や体質の個人差はあるが15回が毒素が牙を剥き始めるボーダラインと推測された。
開発者も人体実験はしていた様だが、まさか毒の影響が出るのがそんなにも遅いとは考えもしなかったのだろう。
「現段階の不調でしたら、時間はかかりますがこの解毒香を使用していけば改善できる筈です。材料を用意していただければすぐ調合します」
「わかりました。材料はすぐに用意します。薬の開発者と販売元にもすぐに使いの者を走らせます」
「よろしくお願いします」
剣の乙女は人を呼び、その場で認めた(したためた)書簡を持たせて走らせた。この一件はこうして解決に向かっていく。
「薬使いさん、神官見習いさん。貴方達のおかげで被害者を救済し、被害の拡大も防ぐことができました。水の街を代表するものとしてお礼を申し上げます」
「お力になれてよかったです」
「わっ私もですか?特に何もできてませんが」
「そんなことはありません。貴方がいたから薬使いさんが怪しまれることなく、街を見て回れたのですから」
「剣の乙女様の言う通りだ。それに他にも俺をサポートしてくれただろう。かなり仕事が捗ったよ」
「あぅぅぅ」
大好きな兄と尊敬する剣の乙女に褒められて顔を真っ赤にして俯く神官見習い。
「これで依頼は終わりです。報酬もすぐに用意させますわ。それではこれからは別のお話をさせていただきたいのですがよろしいですか?」
「別のお話ですか?」
剣の乙女ほどの人物が2人を呼び出し、直接応対したのは依頼の成果を聞くためでもあるが、それだけではなかった。
「先程までのお話が依頼者として私だとしたら、これから話すのは神殿の代表としての私のお話になります」
「……………お聞きします」
「薬使いさん。私は貴方と今後とも良い付き合いをしていただきたいと思っています」
「付き合いですか?」
「……………」
剣の乙女の言葉に意図が掴めない薬使い。神官見習いは兄達の話の邪魔にならない様に黙った。
「私の作った薬がご所望ということですか?」
「それもありますわ。私個人としても貴方のお作りになる薬を売っていただきたいですし、この水の街の人達にとっても有益なものとなるでしょう」
「でも、それだけではないと?」
「ええ、私がお願いしたいのは、貴方にいざという時の外部協力者になって欲しいのです」
「協力者……ですか?」
今回の一件で剣の乙女は、水の街の問題だとしても外部の者の力を借りなければならないときがあることを再認識した。
だからと言ってその度に別の街のギルドの声をかけて、冒険者を探してもらっていては時間がかかる。そこで信頼できる人と直接契約を結ぶことで、依頼を出したときに誰かではなく、特定の人物を派遣してもらえる様にしたいのだ。そうすれば時間がないときでも無駄なロスタイムを減らすことができる。
「失礼ながら貴方のことは調べてさせてもらいました。その結果、貴方は信用に足る人物だと私は判断したのです。どうから私と契約を結んでいただけないでしょうか?」
「………」
「どうかお願いします」
頭を下げる剣の乙女に薬使いはどうすればいいかわからなかった。薬使いは自分がそこまで凄い人間だとは思っていない。そんな自分が冒険者として雲の上の存在である剣の乙女の力になれるのか疑問だったからだ。そんな考えに縛られていた薬使いの手が暖かい温もりに包まれる。薬使いがそちらに顔を向けると。
「大丈夫ですよ兄さん。兄さんならきっとできます」
義妹の少女が笑顔で薬使いの手を握っていた。
「もし、兄さん一人でだめなら、私が手伝います。それだけじゃありません。兄さんがお願いすればゴブリンスレイヤーさんや魔女さん、みんなが手を貸してくれますよ」
確かに彼らなら喜んで手を貸してくれる。そう思えるくらいには薬使いは彼らを信頼していた。
「……そうだな。剣の乙女様。その話をお受けします」
「ありがとうございます。代わりと言ってはなんですが、私の力になれることがあったら言って下さい。必ず力になりますわ」
ここに薬使いと剣の乙女に協力関係が結ばれた。
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水の街をでの滞在期間が終わり、辺境の街に帰ってきた薬使いは思った。
「なんだか、とんでもない人との縁ができたな。俺の人生って実はけっこう波乱万丈なのかもしれない。嬉しくないけど」
「ふふ、そうかもしれないですね。でも兄さんなら大丈夫ですよ。私はそう信じています」
「程々に頑張ります」
おまけ
「これが今週分の水の街からの薬の注文だな。剣の乙女様は精安香と催眠香をご所望っと」
図らずとも薬師としての仕事を更に増やしてしまった薬使い。彼は水の街の神殿にも、こちらの神殿と同じ様にレシピを渡して、何かを作ってもらうべきかと本気で悩むのだった。