「ゴブリン?恐いから会いたくないけど会ったら処理するよ」   作:ブランク蟻

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赤いUFO様 adachi様 誤字報告、本当にありがとうございます。

作者も今まで以上に誤字を出さないように頑張ります。


第13話

 薬使い、彼の周りでは色々なイベントが起こった。ロックイーターとの遭遇戦から始まり、剣の乙女との契約まで、通常ならそうそう起こりえない大型イベントが目白押しで、彼は大忙しであった。

 

 そんな望まないイベントが、盛りだくさんの時期も遂に終わりを迎え、彼の日常が返ってくる。しかし、彼の日常とは。

 

「不快だ」

「GYAOO」

「消えてろ」

「GAB!」

「鬱陶しい」

「GABA!」

 

             ゴブリンとの戦いの日々だった。

 

例えゴブリン討伐の依頼を受けていなくても道中で遭遇する。それが彼の日常だった。

 

「ふう、終わったか」

 

 この戦闘の発端は、彼が依頼の帰り道に立ち寄った村で白磁の冒険者達がゴブリン討伐ために洞窟に向かったと聞き様子を見にきたことから始まった。

 因みにそれを聞いた時の薬使いは「ちくしょおぉぉぉ、またかぁぁぁ!」と久しぶりに叫ぶこととなった。彼のゴブリン討伐数を数えるカウントは完全に再起動したのだ。

 

「今回はギリギリ間に合ったな」

 

 ゴブリンの駆除を終えた薬使いが後ろを向くと、そこには怪我をした新人冒険者達が横たわっていた。

 男が二人に女が一人のパーティで。男達は刺し傷で大量出血しており、女は犯されてこそいないが衣服は破かれて全身を殴打されていた。

 

薬使いが到着した時点では男の冒険者二人が女の冒険者を庇う様に戦っていた。

 

 状況から見るに女の冒険者が後ろから頭を強打されて服を破かれ、それに気づいた男の冒険者達が周囲のゴブリンを追い払い、身を呈して彼女を守っていたというところだろう。

 

 薬使いが戦闘に参加し、ゴブリンの数を瞬く間に減らされていく様を見たことで彼らを支えていた気力が尽きたのか二人ともその場に崩れ落ちることとなった。

 

「あ………あの……なか…ま…は」

「生きてはいる。怪我は酷いがなんとか助かりそうだ」

 

男冒険者二人を治療していると女冒険者が気力を振り絞って仲間の容態を問いかけてくる。

 

「よか……た…ありが……とう……ござい……ます」

「どういたしまして、あんまり喋らないほうがいい。あんたの傷も浅くはない。後は任せてくれ」

「は……い」

 

女冒険者は安心したように眠りにつく。一通りの治療を終えた薬使いは周囲を見渡した後、呟いた

 

「本当に胸糞悪い」

 

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怪我人を神殿に届けた薬使いはギルドに戻ってきている。

 

「そうですか……いつもありがとうございます薬使いさん」

「いえ、今回は助けられてよかったです」

 

 自分の依頼の達成と、重傷を負った冒険者達の容態をギルドに報告した薬使い。新人受付嬢も鎮痛な面持ちでそれを受ける。

 

 ゴブリンとの遭遇率が高い薬使いは、奴らに挑んで敗北した者の末路を知っている。何度見ても気分は最悪になるが、最初の頃より心の動揺が小さくなっていることも自覚していた。しかし、どんな動揺が小さくなっても見ていて気分の良いものではないので極力見たくはなかった。

 

「(どうにかならないものか。このゴブリン軽視の傾向は)」

 

ギルド内の椅子に座って声に出さずに考えている薬使い。

 

 重傷を負った新人達もゴブリンを舐めてかかったことが傷の原因だと思われる。勢いのある新人冒険者は戦う魔物のことを詳しく調べたりしない。

 特に半端に知っているゴブリンが相手なら尚更だ。実際、彼らの装備や持ち物には洞窟の中で使える短い武器や、毒を治療する解毒薬も入っていなかった。

 

「(問題は俺が忠告した所で聞く奴が少ないことだよな)」

 

 薬使いの等級は現在黒曜。言葉だけで周りを納得させるには最低でも紅玉(5番目)の等級が必要になる。ままならないものである。

 

「薬使い、頼みがある」

「前にも似たセリフを聞いたな。それで今回はどうした?」

 

色々考えながら座っていた薬使いの元にスレイがいつもの様にやってくる。二人のやり取りも、複数回行われているので薬使いもスレイも慣れた様子で会話を進めていく。

 

「お前の知っているゴブリンの知識の全てを俺に教えてほしい」

「…………」

 

あまりにもタイムリーな話題に思わず沈黙する薬使い。

 

「どうした?」

「いや、お前並とは言わないが、その三分の一でもいいから新人達がゴブリンについて知る努力をしてくれれば死者も減るのになと思ってな」

「そうか」

「わかった。教えるから何時もの様に家にきてくれ。簡易だけど俺の知るゴブリンについての情報をまとめた資料がある」

「感謝する」

 

本気で努力するスレイの力となるなら、薬使いは自らの知識と時間を惜しむことなどなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

スレイを自宅に連れて来た薬使いが家に入ると。

 

「ただいま」

「お帰りなさい、兄さん。ゴブリンスレイヤーさんもいらっしゃいませ」

 

 神官見習いこと義妹の少女が出迎えてくれた。彼女は1週間の半分を薬使いの家で過ごし。それ以外の日は神殿で神官になるための勉強をしているのだ。

 

「邪魔をする」

「今、お茶を入れますね」

「ありがとう」

 

神官見習いはお茶を入れるために台所に入っていく。その間に薬使いは奥から紙の束を持ってくる。

 

「これが俺のまとめた資料だ。とりあえず一通り読んでみな」

「ああ」

 

 神官見習いの入れてくれたお茶を飲みながらスレイは資料を読んでいく。かなり集中しているらしく、ページをめくるとき以外は殆ど動かなかった。

 必要だと思う所は何度も読み返しているので、資料を読みだしてから1時間が経つがまだ読み終わっていない。

 

 ゴブリンを駆逐するにはどんな努力も厭わない。そんなスレイを見た薬使いは、このゴブリン軽視の風潮をすこしでもどうにかできないかと考え、そのために必要なことを本気で考え始めたのだった。

 

 彼が本格的に動き出すのは数年後の話になるが、それが大きな波紋となって各地に広がっていくとは今は誰もが想像していなかった。

 

2時間程経った頃にスレイは顔を上げた。

 

「参考にはなりそうか?」

「ああ、感謝する。これでゴブリンを更に駆逐できる」

「それは良かった。その資料から得られた知識はどんどん使ってくれて構わない。その代わり、一つやって欲しいことがある」

「何だ」

「ゴブリンについての詳しい知識を持っている人物、又はゴブリンを分析できる人間を探して見てくれ。その資料の内容は俺一人の経験からきているから、どんな偏りがあるか未知数だ。だから最低でもあと1人、ゴブリンについて冷静に考えられる人が欲しい」

「成る程」

 

 薬使いはあくまで薬師なので、ゴブリンを解体したこともなければ、必要以上にゴブリンについて研究したこともない。彼にとって重要なのは自分の毒で奴らが殺せるかどうかである。

 そのため、殺せればそれ以上の研究はしていない。この本の中身を使うならその知識を活かしながらも、自分の考えを持って分析し立証できる人物が必要なのだ。

 

「その資料を持っていってくれていい。期間は設けないけど、そんな人物が見つかった時はその人にも資料を見せて参考にしてもらってくれ」

「分かった。探して見る」

 

スレイは神官見習いに見送られ帰っていった。

 

「兄さんは、先程の条件に合う方が見つかると思いますか?」

「正直難しい。現代のゴブリン軽視はかなり深刻だからなぁ。居たとしてもその数はかなり少ないだろうな。けど、探さなければ見つかりもしないのだから、やらせることにした」

「そうですか。私、地母神にお祈りしします。見つかります様に」

「そうだな。頼むよ」

 

その数日後、条件に合う人物を見つけたとスレイから報告された時は驚愕した薬使いだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「スレイが帰ってこない?」

「……うん、正確には帰ってきてもすぐに出かけちゃう……かな」

 

 薬使いは自宅で牛飼い娘から2回目の相談を持ちかけられていた。久しぶりに見た彼女は長かった後ろ髪を肩に掛かるくらいまで切り、顔を隠す程長かった前髪もバッサリ切るなど大きなイメチェンをしていた。

 魔女にアドバイスされたらしい(さすがは魔女だと思った薬使い)

 

だが、本来なら明るい印象を持たせるであろう髪型も彼女の表情が暗いことで効果が半減させていた。

 

「叔父さんが言うには……娼…じゃ…って」

「ごめん。今なんて?」

「娼婦に、はまってるじゃないかって!」

「……………」

 

 牛飼い娘が顔を真っ赤に染めて叫んだ内容に薬使いは一瞬思考が停止する。しかし、即座にその可能性を切って捨てた。

 

「娼婦か……ないな」

 

 こう考えるのも無理はない。彼にとってスレイとは(かなり失礼だが)まともに性的な欲求があるかどうかも疑わしい人間なのだ。

 

 突然だか、薬使いには容姿レベルの高い女性の知り合いが多くいる。ぱっと思い付くだけでも、明るくスタイルも良い新人受付嬢、色気を纏い男を誘惑する肉感的な身体を持つ魔女、美術品の様な美しくも豊満な身体の剣の乙女など、薬使いは絶世の美女と呼ばれる人物とも知り合っている(義妹はまだ10歳なので除外)

 

しかし、彼の中ではその内の誰が迫ってもスレイが肉体関係を結ぶ姿が全く想像できないのだ。

 

「……そう……かな?」

「ああ、ありえない。例え、スレイが女性と行動を共にしていたとしても、それはその女性に好意を持っているからじゃない。断言できる」

 

 現時点でスレイを落とせる人物がいるとしたら、目の前の牛飼い娘だけであると薬使いは本気で思っている。

 スレイが心を最も許している彼女でさえも肉体関係まで行くのはかなりの時間がかかるとも分析しているので、ぽっとでの娼婦など論外なのだ。

 

 

「なら、どうして家にいてくれないのかな?殆ど休んでもくれないし」

「俺はスレイじゃないからはっきりとは言えないが、ゴブリンへ憎悪が静まっていないってことなんじゃないか?」

 

 冒険者になって数ヶ月が経ち。普通のゴブリンなら危なげなく殺せる様になったスレイ。

 今までできなった怨敵の駆逐ができるようになり、感情を込めて殺せる様になったことで彼の中の憎悪の炎が今一度燃え上がり始めたのだろう。

 

「そっか………彼らしいな…私には何もできないのかな?」

 

 ゴブリン狂いと言っても過言ではない今のスレイが人間性を保っているのは牛飼い娘の存在が大きいと薬使いは思っている。牛飼い娘は唯一スレイがゴブリン以外で執着している人物なのだ。

 

 そうでなければ牛飼い娘の叔父の所とはいえ、他人の家に下宿などする男ではないだろうし、周囲に無理を言ってまで彼女の元に帰ろうともはしないはずだ。

 

 現時点で十分役目を果たしていると言うのは簡単だが、思いつめた彼女に薬使いそんな言葉は言えなかった。考えた末に薬使いはあることを思い付く。

 

「………日常の時間を作るのはどうだ?」

「日常を作る?」

「今のスレイがゴブリン討伐しかしないのは、他にやることがないっていうのもあるんじゃないか、他にやることがあったらその時だけはゴブリンから離れられる筈………たぶん」

「日常………うん、考えてみる!」

 

牛飼い娘の目には強い意志が宿る。少しでもスレイに日常を満喫してもらうために彼女は燃えていた。

 

「解決の糸口が見つかった様で良かったよ」

「うん。ありがとう!」

 

牛飼い娘に笑顔が戻る。

 

「スレイが無理していると思ったら、俺の名前を出しても構わないから止めてくれ。主治医からのドクターストップってことでね。それができるくらいには信頼関係を結べていると思うから」

「ふふ。わかった」

 

「それとスレイが行っている場所に一つ心当たりがあるからそちらを調べて見る」

「お願いね。ふふ、お金出そうか?」

「そこは友人割引と初回割引でダダということにしとくから、次回からのご利用もお待ちしております」

 

笑顔で冗談を言ってきた牛飼い娘に、薬使いも大げさな動きで応じる。

 

「今日はありがとう。今度来るときは彼も連れてくるね」

「おお、待ってるよ」

 

元気になった牛飼い娘を見送った薬使いは大きく息を吐く。

 

「良かった。何とか解決できたぁぁ」

 

 今の牛飼い娘とスレイの関係はかなりデリケートな状態なので、薬使いも細心の注意をはらって挑まなくてはならず、顔には出さないがそれなりに疲れるのだった。

 

 

 

 

おまけ

 

「今日は義妹がいなくて良かったな」

 

神官見習いの義妹がいたら、娼婦の話題あたりで顔を真っ赤に染めてオーバヒートしていたかもしれない。

 

「少し残念かな」

 

(可愛らしく)失神している姿も、少し見て見たいと思うこの男は、徐々にシスコン化が進行しているのだった。

 

 

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