「ゴブリン?恐いから会いたくないけど会ったら処理するよ」   作:ブランク蟻

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作者の知る、<イヤーワン>のにわか知識もここまでです。

閑話を2、3話挟んで原作の時間軸に入ろうと思っています。


タグも一つ増やしてみました。


第14話

「やあやあ、君が薬使い君だね。私は弧電の術師(アークメイジ)ゴブリンスレイヤー君と行動を共にしている者だ」

 

 牛飼い娘が相談に訪れた次の日。薬使いの元にある人物が来訪する。来訪者は金髪に眼鏡をかけた知的な美女でローブを着ていることから術師だと思われる。

 

「いらっしゃい。まさか、そちらから来られるとは思いもしませんでしたよ。確かに私が薬使いです」

「敬語はよしてくれよ。私は素の君と話して見たくてここまで来たんだ」

 

どうやら弧電の術師は明確な目的を持って現れたらしい。

 

「わかった敬語は辞める。それでどうして俺の家がわかった?」

「街の人に聞けば一発だったよ。君は自分が思っているより、有名人なのさ」

 

 意外なことかもしれないが、薬使いは街の人と交流を持っている。義妹と買い物に行くことも多いからだ。

 転んだ子供を見つければ傷薬を塗ってあげ、腰を痛めた老人を見つければ家まで背負って行く。基本的に善人であることに加えて、慈悲の心を持つ義妹と一緒に来ることが多い薬使いは、自然と人助けをする機会が増えていき街の人達に顔と家の位置を覚えられたのだ。

 

「それでご用件は?」

「この資料を作った君と話がして見たかったのだよ。他にも目的はあるがそちらは後ほど話をさせてくれ」

「………どうぞ」

 

薬使いは弧電の術師のどこか観察するような視線に疑問を覚えながらも彼女を家に上げた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

飲み物を出した薬使いが椅子に座ったところで2人の対話が始まる。

 

「まずはお礼を言わせてもらうよ。君がゴブリンスレイヤー君に渡した資料は私達の大きな助けとなった。あれのおかげでゴブリンの研究も進みが良かったよ。」

「簡易な資料でも役に立った様で何よりだ」

「これが私達が調べて分かった分だ。活用してくれ」

「どうも」

 

 人が何か研究する時に基礎となる情報(ある程度正しいことが前提)か有るか無いかでは効率の上で大きな差か生まれる。

 

「あの資料は中々の出来だったよ。だからこそ、聞いてみたくなったのさ。あの資料の元となった君の経験を!」

 

弧電の術師の纏っている雰囲気に変化が起きる。何かのスイッチが入ったようだ。

 

この時、薬使いは気づく「ヤベッ、こいつマジな人(マッド)だ」

 

「さあ、聞かせてくれ。この部分はどの様な経験から来たものなんだい?」

 

 研究者に限ったことではないが探究心が強い人間というのは何処にでもいる。だが、その中でも強すぎる探究心を持つ者の行動は時に狂気的に見えるものなのだ。どうやら彼女はそれに近い人間の様だ。

 

身を乗り出す彼女の顔には納得するまで帰らないと書いてあるかの様だった。

 

「ふむふむ、なるほど。だからこの結論に至ったのか。次はこの部分だ」

「そこの部分は………」

 

 彼女の探究心は留まる所をしらず、薬使いが1つ話せば4、5つの質問をしてくる。全てを話し終えて彼女が満足したのは4時間が経過した後だった。

 

「いやぁ、楽しかったよ。君の経験とゴブリンの対する考えかたは一般のそれとは異なっていた。とても勉強になったよ」

「…それは…良かった」

 

 話し終えた2人の様子は対照的で、弧電の術師は満面の笑みを浮かべ、薬使いは椅子の背もたれに身体を預けてぐったりとしている。

 

「さて、有意義な話も聞けた上に君の人柄も理解できた。そこでもう一つの用件に入らせてもらいたい」

「ああ、行ってたなそんな話」

 

質問タイムのあまりの長さに完全に忘れていた薬使い。

 

「それで本題の内容は?」

「君はゴブリンについて研究する気はないかい?」

「…………」

「習性や文字に言語。それらの正しい知識が広がればゴブリン軽視の世の中になんらかの変化が生まれるだろう。それを君にやってほしいのだよ。期限は設けない、何年かかってもいいから成し遂げてほしい」

「どうして俺に?」

「私の知る限り、ゴブリンを本気で調べ、戦っているのは彼(ゴブリンスレイヤー)と君くらいだ。彼はゴブリンを殲滅し、効率の良い殺し方を学ぶことがあっても、それを積極的に広めるタイプではない。ならば君に依頼するしかない。そうだろ?」

「確かに」

 

弧電の術師の下したスレイの評価に思わず大きく頷き納得する薬使い。

 

「それに私が頼まなくても、ゴブリンの本当の姿を君は世に広めるつもりだったのだろう?」

「………現時点では人脈や実績など足りない物が山積みの状態で実行不可能だけどな。」

「なに、君ならできるさ。君と話して私はそう確信した」

「その謎の信頼が重い」

 

剣の乙女から信頼できる人物と評価され、弧電の術師にもゴブリン軽視の世の中を変えられる人物と評価をされた。薬使いは嬉しくもあるが重圧にもなっていた。

 

「上手くいかなくても責任はとれないぞ。特に文字や言語の解明なんてできる気がしない」

「そこは、そういったことに興味のある学者を探してくれればいい」

「それなら………何とかなるか。やれる限りやってみよう」

「ありがとう。それが聞きたかった………これで思い残すことはない

 

弧電の術師の後半の言葉は薬使いに聞こえなかったが、彼女はそのまま話は続けた。

 

「さて、ここからは依頼を受けてもらう代わりに私から提供できる物について話そう。私が提供できる物それは人脈だ。それも各地にある学院に所属する者達との」

 

学院 大陸各地にある魔法と学に関わる機関のことで、魔法の研究や学問の追究を行っている。その実績から国にも強い影響力を持っている。

 

「それはまた、すごいものを提供してくれるな」

「私の紹介状があれば、学院の者達も君の話を聞いてくれる筈だ」

「それを使ってゴブリンの真実を広げろと?」

「うん、頼んだよ」

「………学院ってマジかよ」

 

どんどん大きくなっていく話の規模に頭が痛くなる薬使いだった。

 

「後は報酬だね。君は何を望む?これだけ時間のかかる依頼をしたんだ。私のできることなら何でもしよう。何でもだ」

 

弧電の術師は豊満な胸を強調しながら薬使いに近づいていく、その姿は実に色っぽかった。しかし。

 

「特にいらないな。人脈を提供してくれるだけで充分だ」

「……君も彼も女に興味はないのかい?自信を失いそうだよ」

「あなたは美人だ。それは誰もが認めるだろ。俺も興味がないわけじゃない。だけど」

「だけど?」

「好きでもない女性と肉体関係をもったとバレたら、義妹に嫌われるかもしれないから遠慮する」

 

 薬使いの中では、美女を抱ける喜びより、義妹に嫌われた時の悲しみの方が大きいのだ(彼は立派なシスコンになった)

 

「あははは!確かにそれは辛いね。わかった報酬は私なりに考えて君に送ることするよ」

「そうしてくれ」

「本当に君達(スレイと薬使い)は面白いな。それではよろしく頼むよ」

「ああ」

「私からの話はこれで終わりだよ。何か質問はあるかい?」

 

薬使いは少し考えてから質問する

 

「なら、二つ聞かせてくれ」

「何だい?」

「何故、こんなあなたに取って一文の得にもならない依頼を俺にする?」

 

 これまでの反応を見る限り、弧電の術師はゴブリンのことを何とも思っていない。恨みも恐れもない。端的に言ってどうでもいいのだ。そんな彼女がわざわざ報酬を用意し、人脈を提供してまで依頼を出す意味がわからないのだ。

 

「それが彼の、ゴブリンスレイヤー君の報酬となるからだ」

「スレイの?」

「私はこれから彼にある依頼を出す。私の夢の為に必要なことだが、かなりの危険が伴う。ならばそれに見合った報酬を用意する必要がある」

「それがゴブリン軽視の世の中を変えることってわけか…」

 

 このままスレイがゴブリンを狩り続けてもゴブリンを完全に殲滅することは恐らくできない。その上、ゴブリン軽視するこの世の中では、どれだけの人をゴブリンから救っても正当な評価はもらえない。ならば、そこから変えて行くしかない。彼女はそう考えたのだ。

 

「尊大な話だな」

「けど、不可能な話じゃない」

「……納得した。それじゃもう一つの質問だ。どうしてあなたが発表しない?」

 

 薬使いは研究者ではないので自己流の研究はできても本職には及ばない。ならば学院に人脈を持ち研究者でもある弧電の術師が研究し、発表した方が周囲を納得させられるはずなのだ。しかし、彼女はそうしない。

 

「……私は今回の依頼が成功して夢が叶った時、旅立たなればならない。何時、戻ってくるかもわからないし容易に連絡も取れなくなる。だから手伝えないのさ」

 

 弧電の術師は、夢への期待とスレイを手伝えないことへ残念さが混ざった複雑な笑みを浮かべていた。

 

薬使いはその表情を見て、これ以上の質問を止めた。

 

「わかった。俺からの質問は以上だ」

「よろしく頼むよ」

 

彼女は残っていたコップの中身を飲み干して立ち上がる。

 

「さて、私はお暇するとしよう。君と話ができてよかったよ」

「機会があればまたどうぞ」

「ふふ、そうしよう」

 

玄関に向かおうとした弧電の術師は途中で立ち止まって振り向いた。

 

「そうだ。参考までに聞かせてほしいのだが<攻略するまで無限にゴブリンを生み出すダンジョン>があったら君はどう対処する?」

 

 冗談と取られかねない内容だが、薬使いは顎に手を当てて真剣に考える。彼女が真剣だとわかったからだ。

 

「無限か…倒しても無駄なら薬品を使って攻略までの時間を稼ぐな。眠らせたり、痺れされたり、死なないで程度に苦しめたりして」

「成る程、参考にさせてもらうよ」

 

弧電の術師は薬使いの家を後にした。

 

数日後、家を訪ねてきたスレイから弧電の術師が夢を叶え旅立ったことを聞いた薬使いだった。

 

 

 

 

 

おまけ

 

「報酬ってこれか」

 

 薬使いの家に、弧電の術師が用意したと思われる大量の荷物が送られてくる。薬学の本や植物の図鑑など、どれも薬使いの知識を向上させる物ばかりだった。報酬としては文句はなしに素晴らしかった。問題があるとすれば。

 

「多すぎだろ」

 

数十冊の本に最新の調合器具などが薬使いの目の前に置かれていた。

 

「どこに置こう……」

 

全てを整理し終えるのに数日を要した薬使いだった。

 

 

 

 

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