「ゴブリン?恐いから会いたくないけど会ったら処理するよ」   作:ブランク蟻

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長い、とにかく長い。書いていたら10000文字を超えました。

皆様 いつも誤字報告、本当にありがとうございます。


第17話

         

          <私はThe Goblin Truthをこれ以上、世に出すことは反対です>

 

 

「…………」

 

ギルド長のその言葉に対して薬使いは言葉を返せなかった。

 

「………いったい何があったのですか?」

 

 大きく息を吐くことで余計な感情を排除し、冷静さを取り戻すこと成功した薬使いは、ギルド長に先程の言葉の真意を聞くことにした。強い熱意を持って協力を約束してくれたギルド長がこの様な発言をするにはそれなりの理由があるはずだからだ。

 

「………この手紙は本部にいる同期の友人が届けてくれたのですが」

 

ギルド長は手紙の内容と、この手紙を届けてくれたギルド長の友人から聞いた話を語ってくれた。

 

 The Goblin Truthの内容は、冒険者ギルドの本部に大きな衝撃を与え、幹部による緊急会議がすぐに開かれ激しい議論が交わされる事になった。

 

 普段から否定的な意見ばかり述べる幹部もいたらしいが、その幹部でもThe Goblin Truthの内容を否定することはできなかった。何故ならその幹部は元冒険者で本の内容にいくつもの心当たりがあったからだ。

 冒険者ギルドの幹部の中には元冒険者だった者も少なくない。現役時代に積んだ多くの実績が彼らを今の地位まで押し上げだと言っても過言ではないのだ。そんな彼らをもってしても何の矛盾点も見つけられなかった事からThe Goblin Truthに書かれた内容の信憑性は極めて高いと決定づけられたのだ。

 

 内容は認められた。次に議論されるのは何故、このThe Goblin Truthが出されるまで、誰もこのゴブリン軽視の風潮を否定してこなかったのかについてである。

 <ゴブリンは決して弱い魔物ではない>この事実は少し調べればわかることだ。滅ぼされた村や、多くの冒険者達がゴブリンに敗北した理由。それについて少しでも考え、調べていれば、このゴブリンは軽視の風潮はここまで酷いことにはならかっただろう。

 

 <冒険者の生死は自己責任>これは冒険者の原則である。それ故、冒険者ギルドに罰則などはない。しかし、ゴブリンと戦う仕事を斡旋する冒険者ギルドが、ゴブリンの間違った情報を否定しないばかりが、調べもせずに放置してきたことは、多くの若い冒険者達を死なせる要因の一つとなったのは否定できない事実だった。この事実が広がれば冒険者ギルドに対する世論の声は決して良いもとのはならないだろう。

 

 そのことに気づいたことで罪のなすりつけ合いをする幹部まで出たらしい(トップが一喝することで何とかこの場を鎮めた)

 

 ここまでの会議は荒れはしたが何とか話を進めることができた。問題なのは最後の議題である

<ゴブリンの討伐に関する難度の変更及び、それに伴う依頼料の増額>についてである。この問題は激しい議論が交わされ、未だに完全決着がついていないらしい。

 

 <ゴブリンは弱い>それ故に依頼料も安く、小さな村でも何とか依頼料を捻出できていた。しかし 、討伐難度が上がり、依頼量が上がれば、討伐依頼を出すことすらできない村が出るかもしれないのだ。

 特にゴブリン討伐は依頼を受けて現場に行き、実際に戦ってみなければ難度が判断できないのが問題だった。巣の規模はどのくらいなのか、上位種がいるのかなど巣の状態により、難度が変化してしまうのだ。

 

 依頼料の設定を、高い難度に合わせるのか、低い難度に合わせるか、それともその中間の金額にするのか、いっそ毎回調査員を送るかなど、様々な意見が出て中々決まらないらしい。手紙には仮の金額が書いてあるのが、それもどこまで信用していいのかわからなかった。

 

 仮に高い難度に合わせた料金にしてしまえば小さな村に払える金額ではなくなってしまう。中間や低い難易度に合わせた金額の場合は、依頼を受ける冒険者が減少する可能性がある。苦労して上位種達を倒しても、それに見合わない金額しか貰えないのなら受けたくないと思う冒険者が出て不思議はない。

 何より、一度、依頼料が正式に決まってしまえば、再度変更するのに数ヶ月から半年の時間がかかってしまう。その間、料金を払えない村は例えゴブリンに襲われても、冒険者に助けを求めることができなくなってしまうのだ。

 

「………私も若い冒険者達は助けたい。しかし、そのために小さな村を見捨てることになるなら、私は賛成できません。どうかこの本をこれ以上世に広めず、ギルドへの申請も取り下げて欲しいのです」

「…………」

 

 頭を下げるギルド長に対して薬使いは、大きな反応はせずに無言で本部から送られてきた手紙を見ていた。その表情は決して良いものではなかった。

 

 依頼料の増額。それ自体は薬使いも想定していた。The Goblin Truthを書くにあたって薬使いは様々な人達と意見を交わしてきた。その中には当然依頼料の増額の話は出ている。そのため<依頼料の増額>に対して薬使いはいくつかの対策を準備していた。

 国への補助金の申請や、ゴブリンの被害で損害を負うことなる有力者との援助の約束など、増額分を余裕を相殺出来る様に準備していたのだ。、

 しかし、仮決定で出された金額は、上記の対策をもってしてもギリギリ相殺することができる額だったのだ。今後、依頼料の正式決定で決められた金額が、現時点の仮決定金額より高く設定されれば相殺しきれない可能性か高いのだ

 

「貴方がこのThe Goblin Truthを作るのにあたってどのような覚悟され、どれほど苦労をされたのは私には想像すらできません。しかし、それほど曲げてでも、お願いしたいのです!」

「………」

 

 小さな村では払えない金額になるかもしれない。その危険性があることを理解した上でこのまま進むのであれば、それはゴブリン軽視の風潮を変えるためならば、小さな村くらい切り捨てても構わないと思っていると、言えてしまうのだ。

 

薬使いは長い長い沈黙の後、口を開いた。

 

「……時間をください。このThe Goblin Truthは様々な人の力を借りて作り上げたものです。私1人の意思で勝手に決めていいことではないのです」

「わかりました。協力すると言っておきながら、この様なお願いをして本当に申し訳ない」

 

ギルド長は神妙な面持ちで深く頭を下げた後、薬使いの家を去っていった。残された薬使いは椅子に座ったまま、天上に向けて一言だけ呟く。

 

「想定が甘かったかな……」

 

 成功目前で叩き落とされた薬使いのダメージはかなりのものだ。被害者を減らすためにはゴブリン軽視の風潮を変えなければならない。しかし、それを行うためには、最も被害に遭う可能性が高い人達を見捨てる形になるかもしれない。そのこと覚悟しなければならない。そんな決断が18歳の若者に簡単に下せる訳がなかった。

 

 

 

 

 

 実の所を言うと、薬使い達が予め計算し算出した増額料金の想定は間違っていない。例え、The Goblin Truthがギルドに認められ、それを踏まえた上で増額分を決定したとしても、準備していた援助金で余裕をもって相殺できる金額になるはずなのだ。

 

 ではどうして、こんなにも仮決定で下された増額分が多いのか、そこには人の悪意が関わっている。

 

 冒険者ギルドの本部で会議が行われたとき、そこには当然複数の幹部達が集まっていた。そしてThe Goblin Truthの内容が認められたことで、ギルドの責任が問われる可能性まで出てきた。

 

 そんな中、1人の幹部は思った「責任を負いたくない」責任の取り方も、誰が責任を取るのかも決まった訳でないが、その幹部にはそんなことはどうでも良かった。幹部にとって重要なのは責任を負わせされて今の地位を失う可能性がすこしでもある、それだけで動くには十分な理由だった。そしてその幹部は(無駄な悪知恵を働かせて)考え最後の悪足掻きに出た。

 

 それはこの後に行われる。ゴブリン金額の増額分を話し合いでワザと高い金額を提案するということだった。通常の会議ではこの様な手は通用しない。少し冷静に考えればその金額が高すぎることは誰にでも分かること事だからだ。しかし、今回だけは違う。

 

 The Goblin Truthの登場で彼らの中にあるゴブリン討伐における依頼料の基準は既に粉々になっていたからだ。その場にいる他の幹部達も適正金額がいくらなのか分からなくなっていたのだ。

 それ故にその幹部は(無駄に回る舌で)ワザと話し合いを長引かせてその場での決定を見送らせた。そして仮決定で高い金額を出させたのだ。

 正式決定であればこの様な金額は通ることはなかっただろう。しかし、仮決定であれば後で修正可能なのでその場では通ってしまったのだ。

 

 そうして決まった仮決定金額が(辺境の街のギルド経由で)薬使いに伝わる様にしたのだ。薬使いの人柄や実績は会議の最初に説明されていた。その説明から薬使いが小さな村を見捨てらない人物であると分析した幹部は、薬使いが自分からThe Goblin Truthの承認を辞退する様に仕向けたのだ。咄嗟に思いついたにしてはよく計算された悪魔的な策略である。

 

 だが、この策略には複数の穴がある。1つ目は幹部の1人でしかないその男の発言のみでは会議を長引かせることも仮決定の金額を吊り上げて高く設定することは難しいことだ。それができたのは彼の考えに同調する幹部が他にもいたからだ。他の幹部達がどう考えてもいたかは不明だが、責任の問題で混乱した彼らは目の前ぶら下がった餌に咄嗟に食いついてしまったのだ。一度食いついてしまったら彼らもう逃げられない。傍観者から運命共同体に早変わりしたのだ。

 

 2つ目は依頼料の決める会議が再度行われる前(次に幹部達が集まれる5日後に決定)に薬使いがThe Goblin Truthの承認取り消しを申請しなければ、前回の会議で明らかにおかしい金額を提示した者たちがいたことを良識のある幹部達に追及されてしまうが高いのだ。そうなれば増額する分の金額を意図的に吊り上げた幹部達のエリート街道は終わりを告げることだろう。最悪、罪に問われるかもしれない。

 

 穴だらけの策略だが、その幹部にはそれしか縋れるものがなかったのだ(成功したからといって幹部達が後から罪に問われない保証はどこにもないことには気づいていない)

 

 流石の薬使い達も、人の悪意による依頼料の増額分までは計算に入れていなかった。穴だらけの策略だが、この行動は薬使いに確かなダメージを与えることになったのだ。

 

これからどうするか、協力者にどう話すか、薬使いは何も決められないまま、次の日を迎えることなった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ギルド長が訪れた次の日、薬使いは神殿にいた。その理由は神官見習いが彼を連れてきたからだ。

 

「義妹よ、おまえの気持ちは嬉しいが、俺は一刻も早く、みんなに今回の件を伝えないといけないんだ。今は祈ってるすら時間すら惜しい」

「兄さん……ダメです。今の兄さんはいつも兄さんではありません」

 

 神官見習いは覇気がない薬使いの瞳を真っ直ぐ見つめる。その瞳にはーーーーーーーーーーーーーーーーー決して譲らないという意思が感じられた。

 

「そんな兄さんでは、これからどうするにしても良い考えが浮かぶとは私は思いません。ですから兄さんには一度、休んでもらいます。」

 

 彼女は薬使いの手を引き、神殿の中庭にある太陽が当たる長椅子に彼を座らせた。そしてふわりと笑う。

 

「それから考えても遅くはありません。それくらい皆さんも許してくれますよ」

「…………わかった」

 

薬使いは神官見習いに導きかれるまま、隣に座った彼女の膝に頭を乗せて眠りについた。

 

「薬使い殿はお休みになられましたか?」

「はい。神官長様」

 

薬使いが眠りに着いたのを見計らって神官長が近づいてくる。

 

「彼がこうなるとは余程のことがあったのですね。人払いはして置きました。今はゆっくり休ませてあげなさい」

「はい」

 

 神官見習いは兄の寝顔を見ながら今朝のことを思い出す。彼女が帰って見ると明らかに寝ていない薬使いが、真剣ながらもどこか覇気のない瞳で何か考えて込んでいたのだ。彼女が帰ってくるまで朝になったのすら薬使いは気づいていなかった。

 

 そんな薬使いを見た神官見習いは、とにかく彼を休ませることにした。しかし、家ではダメだ。とにかく場所を変えて気持ちを少しでも切り替えてから休ませる必要があると彼女は判断したのだ。

 そこで選んだのが神殿だった。基本的に静かで神聖な雰囲気のあるこの場所なら薬使いを休ませやすいと考えたからだ。思惑は成功し、眠っている薬使いの表情は穏やかだった。

 

 数時間後に起きた薬使いの表情には、先程とは違い確かな力を感じたられた。それを見た神官見習いは心から安堵したのだった。

 

目覚めた薬使いは神官見習いと神官長に何があったのか説明した。

 

「………それは、何とも苦渋な決断ですな」

「酷すぎます!ギルド本部は何を考えているのでしょう」

 

 話しを聞いた神官長は悔しげ視線を落とし、神官見習いは仮決定とはいえ、そのような金額を提示した冒険者ギルドの本部に悲しみを覚えていた。

 

「冒険者ギルドに抗議文を出すのはどうでしょう?」

「有りだとは思いますが、本部がどんなの意図を持ってこんな金額を提示してきたのかが不明なのでどんくらい効果があるのか分からないですよね…」

「それは………そうですな」

 

 悪意ある策略が関わっていることを知らない彼らからしてみれば、ギルド本部に何か意図があると考えてしまうのだ。

 

「正直、現時点ではまともな解決策は俺は思い付きません」

「薬使い殿。今の言葉を聞くと、まともでなければ解決策が有ると聞こえたのですが?」

「……有るといえばあります。しかし、この対策には沢山の人手が必要な上に、その人達に少ない賃金で働いてもらわなければ成立しない方法なんです」

「……兄さん、それは…」

「分かってるよ。俺もこんな方法は使いたくないし使う気はない。それに、そもそもそんな都合良い人達がいるわけがないからな」

「一応、聞いてもよろしいですかな?その方法を」

「わかりました」

 

 薬使いは2人に現時点で自分が思いつく(まともではない)解決策を話した。その話を聞いた2人も考えた末に実現は不可能だと判断し、その方法を諦めたのだった。

 

 話に集中していた彼らは気づかなかった。この話に聞き耳を立てている人物がいたことを。その人物は話を聞くとすぐにその場を離れ、何処かに向かっていったことを。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 神官見習いの機転により、気持ちを持ち直した薬使いは協力者達に集まって貰える様に連絡を取った(全員が集まれる様にするため、時間は夜にした)

 

「………って事なんだ」

 

薬使いは、集まってくれた仲間達に手紙の内容を説明した。

 

「………成る程、そんな事が…」←スレイ

「おいおい、マジかよ」←槍使い

「面倒なこと…に…なった…わね」←魔女

「なんだそりゃ、畜生!殴り込みに行ってやろうか」←重戦士

「バカなことを言うな。それでは何も解決にもならんではないか」←女騎士

「えっと、やっぱり高いだよね?」←牛飼い娘

「……そうですね。その依頼料ですと、小さな村だと支払うのは難しくなります…」←受付嬢

「…やっと、ここまで来たのに。どうすりゃいいんだ!?」←男戦士

「おっ落ち着いてみんなで考えれば、いい案がでるよ」←野伏

 

 その場に集まったメンバーは、The Goblin Truthを作るにあたって最初期から手伝ってくれた仲間達である。スレイや槍使いといった冒険者のメンバーはゴブリン討伐で得た情報を、野伏や受付嬢、牛飼い娘といった非戦闘員のメンバーは外部(牛飼い娘なら牧場仲間や取引先、受付嬢なら王都の同僚など)からゴブリンの情報を集めてくれた。

 彼らは薬使いにとって決して自分を裏切らないと思える仲間達である(剣の乙女は連絡を取るだけで時間がかかるので特別枠)

 

「皆さん。何かいい案はないでしょうか?」

「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

 神官見習いの質問に答えを返せるものはいない。当然と言えば当然だ。問題の規模が規模である。そう簡単に解決策が見つかれば誰も苦労はしない。

 

 

「……やっぱり、有力者や知識人にも連絡を取って見るべきなんだろうか…」

 

 薬使いとしては有力や知識人にこの事を相談するのはできるだけ避けたかった。彼らの多くは自らの利益にために薬使いに協力している。そんな彼らに解決の糸口がまったく見えない問題があることを伝えれば協力を打ち切られる可能性があるからだ。

 

「兄さん。神殿で神官長様に説明した案を皆さんに話してみてはどうでしょう?」

「いや、あの案は使えないだろう」

「……何かあるのか?」

「いや、スレイ。あるにはあるが現実じゃない案だか「かまわない。話してくれ」………先に言っとくけど、これは致命的な問題のある案だからな」

 

皆が聞く体制に入ったのを見て薬使いは話し始める。薬使いの考えた方法。それは…

 

 国や有力者達の援助金で足りないなら、自分達で会社を作り、その会社の売り上げの中から足りない分を出してしまうという方法である。

 

しかし、これは非現実的な方法と言ってもいいレベルのものだ。この方法を使うにあたって必要ことは3つ。

 

①売れる確率の高い商品

②製造する場所

③ゴブリン討伐の援助のために、労働量に対して安い賃金で働いてくれる人材

 

 1つ目は、薬使いが新たに開発した薬や香水(主にリラックス効果のあるもの)を大量生産して売ることで解決できる。2つ目は薬使いが三年間の間に溜め込んだ私財を切り崩すことで建物を買うか建てるかしようと考えている。。

 しかし、問題は3つ目である。ゴブリン討伐の補助金のために自分の給料を減らしてもいいなんて人がそう何人もいるとは思えなかったからだ。

 

「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

先程と同様に皆、沈黙してしまう。

 

この解決策の実行するのは不可能。ここにいる誰もがそう思った時、それは現れた。

 

      <コンコン>

 

 突然、扉をノックする音がその場に響き渡ったのだ。ここは冒険者ギルド内の奥にある防音性の高い部屋(受付嬢が用意してくれた) そんな場所をわざわざ訪ねる人物はそうはいないはずなのだ。

 

      <コンコン>

 

「受付嬢さん。お願いします」

「わかりました。皆さんはお話を続けてください」

 

 再度扉がノックにされたことで受付嬢が動き出す。薬使いが動かなかったのは、この場所がギルドの中である以上、ここの職員である受付嬢が出るのが一番良いと判断したからだ。

 

意外なことに受付嬢はすぐに戻ってきた。

 

「あの、薬使いさん。お客様が来られていますよ」

「俺ですか?」

「はい。女性の方が来られています」

 

訪ねてきた人物に心当たりがない薬使いは思わず首を傾げる。

 

「わかりました。ちょっと話しをしてきます」

「それが中でお話をされたいそうです。問題解決の力になれると仰っています」

「……………取り敢えず、入ってもらってください」

 

 何の問題なのか、何の力になってくれるのか、訳がわからない薬使いだったが、その人物を部屋に招き入れることにした。

 

「久しぶりね、薬使い。女神官は昨日ぶりかしら?」

「アンタは…」「女治療師さん?」

 

入ってきたのは薬使いと神官見習いの知っている人物だった。彼女は神官見習いと同じ神殿に所属する人物でもある。

 

「お知り合いですか?かなり親しいそうですが」

「ええ、神殿に所属している治療師です。それなり付き合いも長いですね」

「そうね。あたしがゴブリンに襲われたトラウマで暴れていたのを、あんたが止めてくれてからの付き合いよね」

「ちょっとまて!話していいのか!?」

「ここにいる人達なら話しても大丈夫よ。寧ろ聞いてもらわないと私の要件が話しづらいのよ」

 

 彼女は普通なら決して他人に話さない暗い過去をあっさり語った。女治療師は薬使いが初めて神殿を訪れた日に暴れていた冒険者の女性である(2話参照)

 

 彼女はあの事件の後、元々の明るい性格もあってか瞬く間に立ち直り、そのまま神殿で働き始めたのだ。そして適性を認められて治療師となったのだ(神殿で会うたびに薬使いに絡んでいた)

 

「それで自分の過去を話してまで、語る要件ってなんだ?」

「担当直入に言うわ。あたしを雇ってほしいのよ」

「はい?」

「だから、アンタがこれから作る<ゴブリン討伐の依頼料を援助するために作る会社>であたしを雇いなさいって言ったのよ」

「何で知ってい「神殿で話してるのを盗み聞きしたわ」お前、マジで神殿の治療師か!?」

 

 堂々と盗み聞き宣言した女治療師に、シリアスな空気など忘れたかの様なツッコミを入れてしまう薬使い。

 

「そんな。些細なことはどうでもいいわ。それで雇ってくれるの?くれないの?」

「いや、入ってくれるのは嬉しいけど、お前1人じゃ「私と同じ気持ち子を14人見つけて置いたわ」

「準備いいなおい!?」

「時間をかけて探せばもっと見つかるはずよ」

 

 どんどん話を進める女治療師に、薬使いは押され気味になりながらツッコミをいれていくが彼女は止まらない

 

「彼女達もあたしと同じで、大なり小なりゴブリン共の被害に遭った子達よ。大切な人の命を奪われたり、自分自身が傷つけられたりしてね」

「…………」

「正直、治療師となった今でもこの手で復讐してやりたいって気持ちは残っているわ。でも、あたし達にそれはできない」

 

 ゴブリンの被害にあった人の多くは心に大きな傷を負っている。ゴブリンそのものにトラウマを持ってしまった人も少なくない。彼女らはゴブリンを見るだけで気分悪くなり、重度の人だとその場で錯乱状態になってしまうのだ。そんな彼女らがゴブリンに復讐できる筈もなく、彼女達はゴブリンに対する憎悪をどこにもぶつけられずに抱え続けているのだ。

 

「悔しいけど、あたし達に直接復讐する力はない。一生この気持ちを抱えて生きて行くかと思っていたわ。そんな時に聞いたのが、あんたの会社設立の話よ。直接がダメなら間接的にするしかない。私達の稼いだお金の一部があの害獣共を駆除するための助けになるなら、喜んで安い給料で働いてやるわ」

「いや、でも安い給料だと生活が苦しくなるだろう。他の子は知らないがお前は治療師としてある程度お金が入っているだろう。その生活を捨てていいのか?」

「アンタのことだから、安いって言っても最低限生活する額は意地でも用意するでしょう。自腹を切ってでもね」

「うっ!?」

「それにお金への興味が薄いあんたなら、売り上げから援助金と建物の維持費なんかを引いた分の残りほとんどをあたし達の給料にするでしょう?売り上げが上がれば上がるほどもらえる給料が増えるってことじゃない。それだけでもやりがいのある仕事よ」

「………」

「それに今後もあたし達みたいな子が出た時、神殿の以外の受け皿が必要でしょう?」

 

 ゴブリンの被害者の中には元の生活に戻れない人達がいる。故郷の村を滅ぼされて行き場を失ったり、ゴブリンに性的な暴行を受けたことで村の人に腫れも扱いされて居場所を失ったりと状況は様々だ。

 

 その多くが神殿に入るが、それを受け入れている神殿側のキャパシティにもいつか限界がくるかもしれない。そうなる前に他の受け皿を用意しておく必要があるのは確かなのだ。

 

「どう、これでもあたし達を雇えない?」

 

 完全に性格を見抜かれた上で論破され、ぐうの音も出ない薬使いだった。このままでは覚悟を決める間も無く、人の人生の一端(仕事)を背負う立場になってしまう。最終的にそうなるにしてもせめて考える時間が欲しかったのだ。

 

薬使いが苦し紛れに、空気となっていた仲間達を見ると…

 

「……問題解決だな」←スレイ

「良かった。これでみんなの頑張りが報われるね!」←牛飼い娘

「ここまでお膳立てされたんだから男なら覚悟を決めないとな、薬使い!」←槍使い

「頑張って…ね」←魔女

「おっしゃあ!問題解決を祝って飲むか!」←重戦士

「ふっ、飲み過ぎるなよ」←女騎士

「会社の代表か、薬使いも出世?したなあ」←男戦士

「頑張ればお給料が上がる仕事か…私も雇って貰おうかな?」←野伏

「頑張ってください。書類はお手伝いしますから!」←受付嬢

 

全員が決まったことを前提に話をしていた。薬使いに味方はいない。

 

「大丈夫です。兄さんは1人じゃありません。私も全力で支えますから挑戦してみましょう」

 

最愛の義妹にまで応援された薬使いは、長い沈黙の後に覚悟を決めたのだった(抵抗を諦めたともいえる)

 

「はぁ、わかった。事業を立ち上げてお前らを雇う。それでいいんだな?」

「わかればいいのよ。うふふ、それではお願いしますね。代表」

 

ここに我らが主人公=薬使いが、薬師兼冒険者兼会社のの代表となったのだった。

 

突如あらわれた大きな壁は乗り越えた、もう薬使い達の道を阻む物は殆どない。

 

後は実際に変えるだけ。変化の波はすぐそこまで来ている。

 

おまけ

 

「よっしゃー!野郎ども宴だ!」

「「「おおおおおおおお!」」」

「……学院に行く準備、忘れない様にしないとな」

 

背後で騒ぐ男どもを尻目に薬使いは軽い現実逃避をするのだった。

 




あまりにも長いので、結末は次話に持ち越します。すみません。
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