「ゴブリン?恐いから会いたくないけど会ったら処理するよ」 作:ブランク蟻
薬使いが冒険者なってから1ヶ月。彼は相変わらずゴブリンと(望まぬ)戦いを繰り広げていた。
魔物討伐の依頼の帰りにゴブリンと戦い、貴重な薬草の採取依頼の最中にゴブリンと戦い、盗賊討伐の依頼に行く途中でゴブリンと戦い、ゴブリンの討伐依頼では当然ゴブリンと戦った。
「この報告書、虚偽ではないです………よね?」
薬使いの報告書を見た新人受付嬢は苦笑いする。報告書に書かれていた内容は依頼の下級魔物3匹の討伐報告と、帰る途中に襲ってきたゴブリン20匹の討伐報告書だった。
「虚偽ならどれだけ良かったか………誰がこの現実を虚偽にしてくれ」
「あはは………薬使いさんのゴブリンの討伐数。そろそろ300を超えますね。それも依頼外の討伐数で………いっそゴブリン討伐数のトップを目指しますか?」
「笑えない冗談はやめてください。何より笑えないのが、このまま行くと目指す目指さないに関わらずトップなれそうなのが笑えない」
「ごめんなさい。私もそう思います」
頭を抱える薬使いと苦笑いをする新人受付嬢だった。
「良し立ち直った!くよくよしててもしょうがない。次の依頼だ依頼!まずは目指せ黒曜!依頼ボードを見てきます!」
冒険者の階級は白金、金、銀、銅、紅玉、翠玉、青玉、鋼鉄、黒曜、白磁の十段階あり、薬使いはまだ最下級の白磁である。
「そっそうですね。薬使いさんならすぐに昇格できますよ。それに今度はゴブリンと会わないかもしれま、あっ!」
何かを思い出す新人受付嬢。
「どうかしましたが?」
「いっいえゴブリンと聞いて、先程ゴブリン討伐に行かれた新人の冒険者さんを思い出しまして」
「新人がゴブリン討伐ですか。言いたくないですけど珍しくもないですね………無事に帰ってこれるといいんですが」
ゴブリン討伐の報酬は安い。依頼者の殆どが小さな農村であるからだ。普通に暮らしていくのがやっとの農村に高い報酬を出す余裕など何処にもないのだ。それ故にゴブリン討伐には駆け出しの白磁のパーティーが挑むことが多い。
「それで何か印象に残るパーティーだったんですか?」
薬使いのぶっ飛んだ報告書を見た後でも思い出せるくらいなのだから、印象に残る何かがあると薬使いは推察する(ぶっ飛んでいる自覚は有るんです)
「その………パーティーじゃないです。お一人で行かれたんです」
「………………そっ装備は!?俺みたいに変わった装備をしてるとか」
「登録された時は何も持っていませんでした」
「そうなると依頼を受けてから買いに行ったのか………やばいですね」
ゴブリンが弱い魔物であることは多くの人が知っている。体は小さく、力は子供並。知能も低い。武器を持った成人男性ならまず負けることないだろう。
しかし、それは単体での話。ゴブリンは基本的に群れで行動し、敵を見つけると四方八方から襲い掛かる。普通に生活して四方八方から襲われた経験のある人は少ない。それ故に多くの新人冒険者はこのゴブリンの攻撃に対応出来ずに命を落とす。うまく切り抜けたとしても無傷とはいかないだろう。
ここで問題なのは、ゴブリンが武器に毒を塗っていることだ。この毒がかなり厄介で掠っただけでも重症化することもある危険な毒なのだ。更にゴブリン討伐は基本的に奴らの巣で戦うことになる。
ただでさえ厄介なのに戦う場所は相手のテリトリー。ゴブリン討伐は安い報酬で経験のない者が、数の暴力に晒されながら圧倒的な不利な場所で戦わなければならないという、ある意味最悪の依頼なのだ。
「あの………よろしかったら、ええっとぉ……何でもないです」
冒険者の基本は自己責任、死のうが生きようがそれに他人が介入することは望ましくない。例え助けにいっても危険な目に合うだけで一文の得にもならないのたがら、進んで助けに行く人は余程のお人良しか正義感に溢れるものだけになる。
それ故に新人受付嬢は口から出かけた言葉を飲み込んだ。しかし、彼女のこの行動は無駄ではなかった。
「依頼の場所はどこですが?」
「いっ行っていただけるのですか!?」
この男、薬使いは基本的に善人である。それにこれは運の良い悪いのレベルを超えていた。このままでは討伐に向かった冒険者は高確率で死ぬことになる。彼は助けられる命なら助けたかったのだ。
「パーティならともかく、1人は流石にやばそうなので行ってきます」
「ありがとうございます!」
薬使いは新人冒険者が受けたという依頼の場所に向かった。
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薬使いが洞窟の前に着いた時、そこには傷だらけの男が立っていた。ゴブリンの死体の山と共に。
「あの、生きてますか」
「誰だ?」
薬使いが話しかけると男は反応する。どうやら生きてはいるようだ。
「あなたと同じ冒険者です。ゴブリンの巣に1人で向かった冒険者がいると聞いて、様子を見にきました」
「なるほど、問題ないが感謝する」
「いやいや、どう見ても重症ですよ。応急処置しますからそこに座ってください」
男は鎧や兜の上からでも分かるほど出血していた。
「だが、まだ中にゴブリンがいる」
「見たところ、群れのボスはあなたの倒したシャーマンです。ボスがいなくなったんですから、すぐには動けませんよ。ホブも死んでますしね」
先程は記述しなかったがゴブリンの群れの中には上位種と呼ばれる進化したゴブリンがいる事がある。
<魔法使いでそこそこ頭が回るシャーマン>こいつが群れのボスである事が多い。
<ゴブリンが先祖返りなどをして大型になったホブゴブリン>こいつはその体の大きさから分かる様に強い腕力を持っており、当たり所次第では一撃で人の命を奪うこともできる。
こいつらがいるだけで討伐の難易度を大きく上げる厄介な存在である。
「それに治療中でも決して油断しませよ」
薬使いはゴブリンの巣である洞窟の入り口に小さな袋を置いた。
「それは何だ?」
「匂い袋です。人間には少し臭いくらいですが、鼻が利く生物には不快な匂いとなります。本能に忠実なゴブリンなら匂い元にはまず近づいてこないでしょう。さあ座った座った」
薬使いは男を座らせて症状を見ていく。
「よくこの体でシャーマンとホブを倒しましたね。普通なら痛みで動くのすら辛いでしょう………毒も受けてますし」
解毒香を吸わせ、鎧と兜を外した体に止血軟膏を塗っていく。5分ほど掛けて全身の傷の応急処置を済ませた薬使いはその場で立ち上がり男を見る。
「応急処置が終了しましたけど、どうですか?」
「問題ない」
「何故でしょう。あなたの<問題ない>はイマイチ信用できない」
先程の状態でも問題ないと行っている時点で信用度が低いのは仕方なかった。
「治療は感謝する。俺は残りのゴブリンを皆殺しにしてくる。おまえはどうする?」
「せっかく来たので最後まで見ていきますよ。ないと思いますが、この後に死なれたりしたら流石に気分が悪いですしね」
「そうか」
洞窟に入ると男が倒したゴブリン達の骸が転がっていた。その骸に男は無言で刃物を突き刺して確実に息の根を止めていく。この行動はゴブリンの得意技である<死んだふりからの奇襲>を防ぐ効果がある。
そして2人は洞窟の最深部に辿り着く。そこには三匹の子供ゴブリンが身を寄せ合って震えていた。
「……………」
薬使いは無言で男の背中を見ていた。殺すか見逃すか。この後の行動次第でこの男が今後、ゴブリンと戦っていけるかどうかが判断できるからだ。
男は少し止まって何かを考えていたがゆっくりと動き出す。手に待っていた剣を三回振り下ろし、許しをこう様に手を組んでいた子供ゴブリン達の命を絶つ。
一見何の罪もない子供ゴブリンを殺す残酷な行為だが、ここで殺さない方が本人に取っても、他の人に取っても酷いことになることが多い。
これは知らない者が多い事実で、ゴブリン討伐をするなら知っておかなければならない事でもある。
見逃されたゴブリンの多くが最初にすること、それは見逃した人間を後ろから奇襲することだ。これにより多くの心優しい冒険者が命を落とすことになる。ゴブリンは見逃して貰った恩など一ミリも感じない。感じるのは人間への怨みだけ、それがゴブリンである。
そして奇襲に成功し、その後も生き残ったゴブリンはその多くが知恵や力を持つ上位種へと進化する。そして一般人を襲い、討伐に来た冒険者を返り討ちにして被害が拡大させていくのだ。
ゴブリンは子供だろうと皆殺しにしなければならない。見逃した本人とその他の人達を守るために。そういう点では男はゴブリン討伐に向いているのかもしれない。
「終わった」
「お疲れ様です。では帰りましょう」
「ああ」
2人はゴブリンの巣だった洞窟を後にした。
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ゴブリン討伐の帰り道。彼らは牧場の近くを歩いていた。
「すまない」
「いえいえ、街まで一緒ですから」
薬使いは、傷の影響で動きの鈍い男を送って行くことにした。そんな二人が牧場の近くを通りがかった時、牧場側から1人の人物が飛び出して来た。長い髪で片目を隠している内気そうな女の子だった。
「あっあの!」
薬使いはすぐに少女が見ているのは自分でなく、連れの男のことであるのこと理解し、後ろに下がって男と女の子が話すのを見守る態勢に入った。
どうやら男は行方不明になっていたその子の幼馴染らしく、男の生存に涙を流して喜んでいる。その後も男と話していた彼女は、突然牧場の建物の中に入って行った。その隙に薬使いは男に近寄る。
「お邪魔な様なので先に帰ります。ギルドに討伐成功の報告はしておきますから、彼女としっかり話してあげてください」
「すまない。それと俺に敬語は話さなくていい」
「了解。またギルドで」
薬使いは男と別れ、帰路についた。
おまけ
ギルドに報告していた薬使いはあることに気づく。
「そういえば、あの人の名前聞いてないな」
名前がわからないので報告書を書くのにすこし苦労した薬使いだった。