「ゴブリン?恐いから会いたくないけど会ったら処理するよ」 作:ブランク蟻
鉱山近くの村で薬使いは大量のゴブリンとの激しい闘いを繰り広げている。
「GYO!」「GYANGYAR!」「GYOOOOO!」「GOGYAR!」
薬使いが来た時点で村は半壊していたが亡骸は少なかった。疑問に思った薬使いが村を探索すると、この規模の村では珍しい2階建ての、どこか品のある建物を数十匹のゴブリン達が囲っていた。
遠目から見ても他の家より頑丈そうで、村人は中に立て籠もっているようだ。しかし、建物がいくら頑丈でも窓や扉を壊されれば、ゴブリン達に侵入され中から崩壊してしまう。
今は立て籠もった村人が窓や扉の隙間から、先の尖った棒でゴブリンを牽制しているが破られるのも時間の問題だった。
ゴブリン達に気づかれないように風下から近づき、煙玉の射程範囲まできた時点で薬使いはあることに気づく。
「こいつら………遊んでやがるのか………本当に胸糞悪いな」
ゴブリン達は遊んでいる。村人達がいつから立て籠もっているか不明だが、これだけのゴブリンに囲まれているにしては建物の損害が少ない様に見える。
それはゴブリン達が立て籠もっている村人で遊んでいるからだ。ワザと少ない数で建物を襲わせて必死で抵抗する村人達を見て楽しんでいるのだ。ゴブリン達が本気で動けば薬使いが来る前に建物が崩壊していた可能性もある。
「これは魔物討伐じゃないな。これは害獣駆除だ」
ゴブリンは出会ったら必ず駆除しなければならない生物だと再認識した薬使いは動きだす。まずは基本戦法での数減らしを始める。方法は単純明快で、
ゴブリンを見つける→毒煙玉を投げつける(毒の種類によるが大抵はここで死亡)→(生きていても動きが鈍るので)近づいて頭を潰し確実仕留める→終了。
不意打ちで毒煙玉を受けたゴブリン達はその場で倒れるが、これだけ数が多いと毒の範囲から逃れるものや、倒れた仲間を見て毒が来る前に息を止めて生き残るゴブリンが出る。
未来のスレイが語る<ゴブリンは馬鹿だが間抜けじゃない>はその通りで、仲間か倒れた→毒だ→息を止めろ→息を止めていれば効かない。それくらい判断はできる知能は持っているのだ。そして生き残ったゴブリンは煙玉を投げた薬使いに襲い掛かる。
それに対し薬使いは、牽制用の毒煙玉を投げた後、ショルダーバッグから小瓶を取り出して吸い込み始める。
その間に煙から抜け出した5匹は薬使いの近距離まで迫る。「仕留めた!」とゴブリン達は思ったことだろう。しかし、その一瞬後にゴブリン達は火達磨になる。
ゴブリン達は何が起こったのか分からなかった。完全に仕留められる距離まで近づいた。後は頭を殴って滅多刺しするだけだったはず、それなのに何故か自分達は火達磨になっている。
ゴブリン達も何も見えていなかったわけではない。しかし、理解できないのだ。人間(薬使い)が炎を吐いて自分達を焼いたという現実が。
炎に焼かれたゴブリン達は何も理解できないまま、その生涯を終える。
使われた香水の名は火炎香。この香水を吸い込むと生物の体内にある物質と反応して炎を発生させ、体内から生物を焼くことができる。また、適量吸い込むことで口から炎を吐くことも可能。
「黒焦げになって終わってろ。次」
毒煙玉から生き残り、まだ薬使いに接近していなかったゴブリン達は恐怖し硬直してしまう。見ていたゴブリン達ですら人が炎を吐くなどいう、非現実的な現象は知らないし理解できないからだ。
こうなってしまえば、後はただ薬使いに狩られるだけの存在に成り下がる。しかしここで硬直していないゴブリンが一匹だけいた。ゴブリン達のボスであるゴブリンシャーマンだ。
シャーマンは薬使いがゴブリン達と戦っているうちに村人の立て籠もる建物の扉を壊し、1人の女性を引きずり出す。シャーマンはそのまま、女性を自分の盾にするかの様に薬使いに向かって突き出す。
その顔は勝ち誇っている。このシャーマンは知っているのだ。人間、特に冒険者の多くが人質を取られると攻撃できなくなることを、
「人質の命が惜しければ動くなと………本当に下衆だよな。ゴブリンって」
ゴブリンに人質を取られて、動けなくなったところを殺される冒険者は少なくない。問題なのはそれが白磁以上の冒険者であっても起こりうる点だ。
実力があり油断もしなかった彼らがゴブリンに人質を取られただけでやられてしまった理由。その大きな要因の一つにギルドの行う昇級審査がある。
冒険者が昇級するには報酬金額、貢献度、人格が一定の基準を満たしていなければならない。特に人格は重要で昇級審査の度に厳しくチェックされる。少しでもおかしい点があれば<看破>の奇跡を使って嘘を見抜く徹底振りだ。
そうしていくと、等級の高い冒険者程、人格的に優れていることになり、高い信頼を得ることができる様になる。しかし、この優れた人格がゴブリンに人質を取られたこの場面だとマイナスに働く。酷いことを言ってしまえば人質を見捨てればこの状況を簡単に突破できる。
人質を優先した結果、冒険者が殺されてしまえば冒険者だけでなくその冒険者の手によって助けられるはずだった人達の未来まで奪うことになる。
数の上では完全にマイナスになってしまう。しかし、ここで簡単に人質を見捨てられる冒険者にこれ以上の昇格は難しいだろう。人格面で問題があると見なされる可能性はあるからだ。
そういう意味でもゴブリンは冒険者に取ってたちの悪い魔物なのだ。
シャーマンが人質を取ったことで怯えていたゴブリン達も戦意を取り戻し、薬使いににじり寄ってくる。抵抗できない薬使いを嬲り殺しにするつもりなのだ。
薬使いは大きくため息を吐き、目を閉じる。諦めたと考えたゴブリン達は下衆な笑い声を上げる。
しかし、ここでやられる薬使いなら今までのゴブリン討伐でとっくに死んでいる。目を開けた薬使いの纏う感情は、何時もの恐怖込みの嫌悪感ではなく、氷の様に冷たい殺意を感じさせるものだった。
薬使いは小瓶を取り出して中身を吸い込む。ゴブリン達は無駄な抵抗でもするのかと少しだけ身構える。しかし、ゴブリン達の行動は無駄に終わる。何故なら身構えたところで何の意味も無いからだ。
ゴブリン達の視界から薬使いが突然消える。それはシャーマンとて例外ではなく、完全に薬使いを見失って周囲を探してしまう。
そんなシャーマンの後ろに迫る影があった。影にシャーマンが気づいた時にはもう遅く、シャーマンの顔面に薬使いの蹴りが叩き込まれる。
蹴り飛ばされたシャーマンは何度もバウンドした後の地面に叩きつけられ完全に動かなくなる。蹴られたシャーマンの顔面は大きくひしゃげていて蹴りの威力を物語っていた。
「消えろ下衆どもが」
人質の安全を確保した薬使いはその後も高速で動き続けた。頭を砕き、首をへし折り、その場にいたゴブリン達の命を一匹残さず刈り取ってようやく動くのを止めた。そしてその場に座り込みながら解毒香を吸う。
「数分でこの負担………やっぱりきついぃ」
薬使いが使ったのは、彼の切り札の一つに数えられながら、身体への負荷から滅多に使うことのない強力な香水。
名を加速香、吸い込む度に使用者のスピードを倍に跳ね上げる強いドーピング剤である。しかし、身体への負荷が大きく。一吸いなら20分、二吸いなら10分と使用時間に制限がある。
それ以上に続けて使用すると身体に様々な症状が現れて最終的に使用者は死に至らしめる。効果を解除するには解毒香を吸うしか方法がないなどかなり危険な香水でもある。
数分後、加速香の効果の消えた薬使いは立ち上がり、立て籠もっていた村人たちにゴブリン討伐の報告をする。
薬使いは大いに感謝された。しかし、問題はこれで完全に終わったわけではなかった。薬使いが念のため村中を見て回り、ゴブリンがいないか調べたところ、ゴブリンが逃げたと思われる痕跡を発見された。
「数は一匹か、追ってみるか」
逃げ延びて上位個体に進化されても困るので村の人に事情を話し、薬使いは逃げたゴブリンの追跡を始める。
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追跡を続けた結果、薬使いは鉱山の洞窟に辿り着く。追跡途中に気づいたことだが、逃げたゴブリンは薬使いの毒を少量ながら吸い込んでいたらしく、足を引きずって歩いている様だ。おかげで引きずった跡が残るので追跡しやすかった。
「洞窟か、いい予感がしない………」
本人は気づいていないが、彼の勘は嫌な時程良く当たっている。この勘からくる強い警戒心が彼をこれまで生き残らせた理由の一つでもある。
薬使いが警戒しながら洞窟を進んで行くと、ある地点でゴブリンの足跡が消える。何の前触れもなく突然にだ。周囲に隠れられる場所も存在しない。周りを注意深く観察していると布の切れ端を発見する。
「ゴブリンの着ていた服の破片?……!!」
布の切れ端の正体を推察した瞬間、薬使いは全身の毛が総毛立つ様な感覚に襲われる。そして頭には撤退二文字が浮かび上がる。それを実行しようとした時、洞窟の奥から複数の声が聞こえてくる。
「ったく、もう少しで最深部まで行けたのによぉ」
「休憩も大事なことですよ。疲れた状態では対応できないこともあります」
「私は疲れたよぉ」
「うむ、休憩も大事なことじゃ。洞窟の中では安心して休めんからの」
洞窟の奥から現れたのは男戦士、半森人の少女野伏、鉱人の戦士、知識神の僧侶の四人パーティーだった。彼らは最近発足したパーティで薬使いも見覚えがあった。
「お、あんた確か薬使い!こんな所でなにやってんだ?」←男戦士
「貴方も依頼ですか」←僧侶
男戦士は薬使いを覚えていたらしく、フレンドリーに話かけてくる。普段の薬使いなら明るく対応する所だか、今の彼にはそんな余裕はカケラもない。全神経を周囲の警戒に回している
「あの、どうかしたんですか?顔が強張ってますよ」←野伏
「何かいる………ヤバイのが」
「何かってブログが?それなら俺たちがかなり倒してぜ」←男戦士
ブログ
スライムの様な姿でその身体は腐食液でできている。攻撃方法は単純で、その身体を利用して体当たりをかまして敵を溶かす小型の魔物である。腐食液でできた身体こそ危険だが適切に対処すれば簡単に倒せる新人向けの魔物でもある。
「違う………そんな小さな魔物じゃない」
形跡を殆ど残さずゴブリンは消えた。それを可能するにはある程度の大きさが必要であり、ブログではそれは不可能。別の魔物が潜んでいることになる。
「気の所為ではないか?ワシらは洞窟の半分程まで進んだか、そんな魔物はおらんかったぞ」
鉱人の戦士の言葉を聞いても、薬使いはまったく警戒を緩めない。それどころか加速香を取り出して一吸いし、いつでも動ける体勢を取っていた………………そしてそれは起こった。
半森人の少女野伏、彼女の真上の天井に僅かヒビが入ったのだ。
「野伏!その場から離れろ!」
「え?」
薬使いが声を上げるが気を抜いている野伏は反応できない。それを理解した薬使いは加速香によって得たスピードを全開で使い、野伏に接近する。その数瞬後、野伏の真上の天井が割れ、巨大な何かが降ってくる。
野伏がその何かに呑まれる寸前で、薬使いが彼女を抱えてその場を退避する。野伏を飲み込み損ねた巨大な魔物はすぐにその場を離れ、岩を砕きながら地面に潜って行く。
「い………今のは……」←男戦士
「ロックイーターです!!」←僧侶
ロックイーター
岩の様な甲殻を纏う百足に似た巨大な魔物。岩を主食とするが、それ以外の生物にも躊躇なく襲い掛かり、その大きな顎で捕食する極めて凶暴で危険な魔物である。
「どうするじゃ!リーダー!?」←鉱人の戦士
「俺にも分かんねぇよ!」←男戦士
「皆さん。落ち着いてください!」←僧侶
「…………………」←野伏
全員大混乱である。薬使いですら予想を上回る事態に反応出来ず、野伏を下ろした後、その場で動けなくなっている(警戒は続けている)
この場にいる全員がこうなるのも無理もなかった。本来ロックイーターは数十人単位の徒党を組んでやっと倒せる魔物。この場にいる全員がいくら足掻いても、勝つのは不可能。
「男戦士、とにかく撤退だ。ロックイーターが潜っているうちに洞窟を脱出しよう」
最初に混乱から回復したのは薬使い。精安香を一気に吸い、無理矢理冷静さを取り戻したのだ。
「そっそうだな!みんな出口まで走れ!」
その場にいる全員が出口に向かって走り出した………恐怖で硬直している野伏を除いて。彼女は見てしまったのだ。ロックイーターの口の中を。
ロックイーターの口の中には、薬使いの追っていたゴブリンが無残な亡骸となって入っていた。
それを見た瞬間、野伏は理解する。薬使いに助けられなかったら、自分もあの中にいた事を。その事実とあり得たかもしれない自分の最後に、彼女は完全に硬直してしまったのだ。
「何をやってる。急げ!」
男戦士が叫ぶが野伏は動けない。そんな中、ロックイーターは野伏を…………………無視して男戦士に襲い掛かる。男戦士は咄嗟に動けなかったが、薬使いが近くにいたおかげで彼に引っ張っぱられ回避できた。しかし、ここで悲劇が起こる。
「かはっ!!」
捕食を回避されたロックイーターは再び地面に潜ろうとする。この時、ロックイーターは方向転換のため身体を大きく回転させる。問題なのはロックイーターの回転範囲に野伏がいたことだった。彼女は跳ね飛ばされ洞窟の壁に叩きつけられる。
岩を砕いて進む様な馬鹿げた力を持つロックイーターに、偶然とはいえ体当りされれば無事ではすまない。おまけに壁に勢いよく叩きつけられたのだ。野伏は遠目から見ても分かるほど重症だった。
「急いで治療を!」←僧侶
「この状態でか!?無理じゃ!」←鉱人の戦士
野伏がどんなに重症だろうとロックイーターを止まらない。あの巨体が相手では治療のための時間稼ぎもできない。状況は最悪だった。
「とにかく、脱出だ。彼女は俺が抱えてる!」
薬使いは野伏に素早く近づき、出来るだけ揺らさない様に抱えて走り出す。
この後、何度かロックイーターの攻撃に晒されたが何とか洞窟を脱出できた。
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洞窟から少し離れた所で薬使いと僧侶は野伏少女の容態を確認して治療していた。しかし、2人の表情は険しかった。
男戦士と鉱人の戦士は、それを離れた距離から見ている。治療は10分ほど行われ、立ち上がった二人に男戦士が寄ってくる。
「あの子の容態は!?」
「今、出来る治療は施しました………ですが」
「何だよ。早く言えよ!」
「………………………………」
僧侶は沈痛な面持ちで沈黙してしまう。
「俺が言います。彼女は」
僧侶の様子を見兼ねた薬使いが代わりに口を開く。
男戦士は薬使いの口の動きがとてもゆっくりに感じた。それと同時に男戦士の中で、その先を聞いてはいけないと叫び声が上がった。しかし、その言葉は紡がれた。
<彼女は恐らく助からない>