「ゴブリン?恐いから会いたくないけど会ったら処理するよ」   作:ブランク蟻

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第7話

<彼女は恐らく助からない>

 

「どういう………こと……だ?」

 

薬使いの告げた内容を男戦士は理解できなかった。理解したくなかった。

 

「野伏はロックイーターに撥ね飛ばされてかなりの勢いで壁に叩きつけられた。身体は何か所も骨折しているし、そのときに頭もぶつけている。それだけでも人間が死ぬには十分な怪我だ。それに加えて、彼女が怪我を負ってから応急処置を施すまでに10分以上の時間が経過している。この怪我ならそれは致命的な差になりかねない」

 

 たかが10分、されど10分。1分1秒で生死を分ける医療の中で10分の差はあまりにも大きかった。

 

「だったらあの場で処置していれば!「それをやってたら確実に全滅だ。彼女も他のメンバーも全員まとめてロックイーターの腹の中だ」………………………」

 

薬使いの語る現実は男戦士にはあまりにも重かった。

 

「あの状態で他に取れる選択肢なんてなかった。例え、あの場で処置ができたとしても、俺の薬や僧侶の奇跡でどうにかなったかは怪しい所だ。それだけ野伏の怪我は酷い」

 

 薬使いの薬品で処置できるのはあくまでも外部の怪我まで。僧侶の回復の奇跡も重度の怪我人を治療できる程の力はない。

 

「現状、野伏の身体は奇跡的に生きているが、今後どうなるか分からない。助かる可能性もゼロではない………………ただ」

「ただ………何じゃ?」

 

薬使いは言いづらそうに告げた

 

「俺が知っている事例で、野伏と同レベルの怪我を負って助かり、意識を取り戻した者は…………殆どいない」

 

 薬使いの医療知識は、彼の経験から得た知識に加え、薬師の母の知識、彼が訪れた村や町の医者の知識、その医者達の持っていた本の知識から構成されているが、その知識の中でも野伏の状態はかなり悪い。

 

 おまけにこの世界の医術では意識不明の人間を長期的に生かす術も存在しない。希望に縋るにしても、それはあまりも細く頼りなかった。

 

「くそぉ…………何でだよ……」

「もう、どうにもならんのか」

 

 男戦士は膝をついて悔し涙を流しながら地面に腕を叩きつけ、鉱人の戦士は呆然としてしまう。

 

「とにかく、彼女を運びましょう。今後、どうなるにしても、この様な場所で寝かせて置きたくはありません」

 

 僧侶の言葉で、彼らは細心の注意を払いながら野伏を運んだ。その表情は一様に暗かった。

 

 

 

 

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ロックイーターの事件から数日後、気持ちを持ち直した薬使いはギルドを訪れていた。

 

 ギルドは相変わらず賑わっていたが、その一角で男戦士が大量の酒に溺れていた。当然だが彼のパーティは活動していない。僧侶は彼女の故郷に現状を伝えに行き、鉱人の戦士は野伏についている。

 

 あの日、野伏を連れ帰った彼らは彼女を神殿に預けることにした。神殿ならしっかりと体のケアをしてくれるので一先ず安心できるからだ。

 

 今後、野伏をどうするかは彼女の故郷に報告に行った僧侶が帰ってきてから決めるらしい。男戦士も何度も野伏の様子を見に行っていたが、目覚めない彼女を見ていられなくなったのか、飲んだくれるようになる。

 

 薬使いは男戦士の横を無言で通り過ぎた。今の彼に何を言っても意味のないことはわかっているからだ。

 

受付に行くと、いつもの様に新人受付嬢が応対してくれる。

 

「おはようございます薬使いさん。昨日のゴブリン討伐、お疲れ様でした!」

 

野伏の件は触れないところを見ると気を使ってくれている様だ。

 

「本日はどうしますか?」

「何か依頼をこなそうと思います。おすすめはありますか?」

 

薬使いは少し意地悪な顔で聞いてみた。

 

「おっおすすめですか!?え〜と!これなんてどうでしょう?」

「ではそれで」

「はっはい、って依頼内容を見てないのに受けないでください!仕事を斡旋してあげませんよ」

 

私、怒ってますと腰に手を当てて、アピールする新人受付嬢。

 

「あはは、冗談ですよ…………うん。この依頼でお願いします」

「………2度目はありませんよ」

「申し訳ありません。この様な冗談はもう致しません、受付嬢様」

「ふふ、よろしい」

 

この程度の軽口を話せる程度には打ち解けた2人だった。

 

 依頼の受理を待っている間、薬使いはギルドの中を見回していると、見覚えのある赤い髪の少女を見つける。

 

「あの子は確か………」

「どうかしたんですか?」

 

依頼の受理を終えた新人受付嬢が戻ってくる。

 

「いえ、見覚えのある少女が入ってきまして」

「お知り合いですか?」

「知り合いの幼馴染ですね。一度だけ顔を合わせたことがありますが、恐らくあの子は俺の事を…………………うん、きっと覚えてないですね!」

 

 あの時の事を思い返した結果、少女の目線は完全にスレイに向いていたので薬使いは少女が自分を覚えていないだろう結論づけた。

 

「そっそうですか、それにしても彼女………ガチガチですね」

「確かに、もの凄くガチガチですね」

 

 少女は緊張しているのか、動きの一つ一つがとにかく硬い。動きの悪い人形を見ているようだ。

 

「…………私、行ってきますね」

 

 見かねた新人受付嬢が少女に近づいていく。薬使いは距離を開けてその後ろについていく。

 

「どうかなさいましたか」

「うひゃ!」

 

 タイミング悪く、受付嬢は後ろを向いた時に声をかけてしまい、驚いた少女は飛び上がる。

 その後も少女はガチガチに緊張して上手く喋れないでいた。

 

 そんな少女の後ろに薬使いは回り込み、距離を開けて立つ(もはやお馴染みの)そして精安香を少し撒く。

 

「あっあの私これからも、叔父のてっ手伝いで来るんで、よっよろしくお願いします!」

「はい、よろしくお願いします」

 

 精安香の効果が有ったかどうかは不明だが、少女はどもりながらも挨拶をすることができた。それに対して受付嬢は笑顔でそれに応じた。

 

 それを見届けた薬使いは、ギルドの扉を出で依頼の場所に向かって歩き出した。だが、途中で薬使いを呼び止める声があった。

 

「あの!」

「はい?」

 

 最近できた妹といい、この声の主といい、後ろから話しかけられることが増えたなと思いつつ薬使いが振り返るとそこには先程の赤い髪の少女がいた。

 

「くっ薬使いさんですよね?」

「はい、そうですが」

 

少女に薬使いが名乗ったことはない。受付嬢にでも聞いたのかと思っていると。

 

「わっ私牛飼い娘と言います。貴方の名前は彼からきっ聞きました。あっあのありがとうございました!」

 

 彼とはスレイのことで、スレイは薬使いの特徴を少女に話していた様だ。そして何故かお礼を言われた薬使い。

 

「はっ初めての依頼で彼を助けてもらって、それに少し前に無理しようとした彼を止めてくれて、本当にありがとうございました!」

 

 薬使いはようやく納得する。牛飼い娘のお礼はスレイに手助けと助言をしたことについてだった。

 

 本人の中では、応急処置をしただけなのと、見てられないので止めただけという認識だったのでお礼を言われると思っていなかった。しかし、少女は純粋に感謝してくれているので薬使いは素直に応じた。

 

「どういたしまして、少しでも助けになれたのなら良かったです」

「こっこれからも彼の事をよろしくお願いします」

「分かりました。あいつは見ていて危なかっしいので、これからもどんどん口出しすることにします。なんせ、幼馴染様の許可がでましたから」

「はっはい、どんどんお願いします!」

「それでは俺は依頼に行きます。何かありましたら遠慮なく声をかけてください、手伝えることなら手伝いますから」

 

そう言い残し、その場を後にした。

 

 

 

 

スレイと牛飼い娘の事を考えてながら歩いていた薬使いはある結論を出した。

 

「2人揃って危なかっしい」

 

薬使いは、なんとなく自分と彼らは長い付き合いになりそうだと思った。

 

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