「ゴブリン?恐いから会いたくないけど会ったら処理するよ」 作:ブランク蟻
薬使いは野伏の様子を見るために神殿を訪れていた。
彼女の眠る部屋に(ノックして)入ると、ベッドの横に義妹である少女がおり、野伏の看病をしてくれていた。
「おはようございます。兄さん」
「おはよう。元気そうでなによりだ」
「はい!」
少女と挨拶をした薬使い、
「ありがとな、野伏の身体のケアをやってくれて、中々大変だろう」
「へっちゃらです。少しでも誰かの役に立てているのが嬉しいです!」
「偉い偉い、俺もそういう所は見習わないといけないな」
「えへへ」
思わず義妹である少女の頭を撫でる薬使い。撫でられた少女は嬉しそうに微笑んでいる。
少女が満足するまで頭を撫でた薬使いは、ベッドに近づき野伏の様子を見る
「やっぱり、目覚めそうにないか」
「はい。ここ数日、お身体ケアを他の方と交代でしていますが、お目覚めになる様子はないと聞いています」
野伏が昏睡状態になってから1週間、彼女が目覚める気配はない。いかに長命で生命力が強いエルフの血が半分入っているとしても、いつまでこの状態で生き続けられるかは不明。目に見えないタイムリミットは確実に近づいてきているのは確かだった。
「野伏が目覚めるとしたら、それこそ奇跡………か」
「奇跡ですか?」
「ああ。神が人間に授けた奇跡の力ではなく、神自身が起こす奇跡の方な。起きて欲しいと思ったからって起きるものじゃないけどね」
この世界には<奇跡>と呼ばれる力が存在する(魔法とも呼ばれる)この力は神や精霊が人間に授けたもので、信仰する神や精霊に願うことで通常ではありえない現象を引き起こすことができる。
しかし、問題点も当然存在する。まず、一日に使用できる<奇跡>の回数は決まっている点である。使用者が成長することで使用回数が増えることはあるが、その定義はよくわかっていない。
次にどんな力を授かるかは神様が決めるので本人に選択権がない上に、力を授かれない人もいる点である。
それに加えて、同じ名前の力でも、授かった人により範囲や効果にも若干の違いがあることも確認されるなど、曖昧な面を持つ力でもある。授かったと言っても使うのが人間なので起こせる現象にも当然限界がある。
それとは別に神様自身が起こす<奇跡>も存在する。これは完全に神様次第の現象で、大きな奇跡から小さな奇跡まで何が起こるかは予測が不可能で、どんな形で起こるかもわからない。
決まったことをやっているのか、神様の気まぐれなのか、それともダイスでも振って決めているのか誰にもわからない。その代わりに起こせる現象に限界はなく、何が起きても不思議ではない。
「まぁ、神様自身が起こす予測不能の奇跡を待つより、授かった力で人が起こす奇跡の方がまだ、可能性はあるけどね」
「私は地母神様から奇跡を授かっていないのでよくわかりませんが、この神殿の神官様が使える奇跡では野伏さんを治療することできませんでした」
「そんなに都合よく彼女を治療できる奇跡を使える人がいたら、それこそ神様自身が起こす奇跡だな」
何度も述べているがそれだけ野伏の怪我は酷く、目覚めない原因も不明なのだ。
「正直、俺はおまえが野伏の身体のケアを担当すると聞いたときは嬉しい反面、止めるべきかとも思ったよ。頑張って何日も世話をした人が苦労の甲斐なく、亡くなってしまうのは辛いからな」
義妹は、まだ10歳の少女である。助けようとした人が亡くなるという現実は少女の心に重くのしかかることだろう。
「兄さん。心配してくれてありがとうございます。それでも私は野伏さんの回復を地母神様にお祈りしながら最後までお世話を続けます。もし、ダメでもやりきってから落ち込みます!」
「…………そうか………俺は義妹のことを甘く見ていたようだ!最後まで野伏のことをよろしく頼むよ」
穏やかな顔で薬使いは義妹をもう一度撫でる
「はい。全力で頑張ります。ですから………もし、私が落ち込んだら、慰めてくれます……か?」
「っう!」
頰を少し赤く染め、上目遣いで聞いてくる義妹に、薬使いは新たな扉を開きそうになるが、ギリギリの所で踏み止まって自分を持ち直す。
「どんな結果になったとしても、俺は全力で褒める。ご褒美として願いごとを一つ叶える権利を約束しよう」
ドン!と薬使いは胸を叩く薬使い
「はい。楽しみにしてます兄さん」
義妹の笑顔を眺めながら薬使いは生まれて初めて、地母神に本気で願った。
「(地母神様、どうか義妹が泣かなくても良い未来に我らをお導きください)」
この世界の何処かでダイスが転がる音がした。
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「それで故郷の村に行きたいと?」
「………うん」
ここは辺境の町の食事処。薬使いは牛飼い娘と向かい合って食事をしていた。
こうなったのは40分前、ギルドの建物の前で出くわした牛飼い娘に相談を持ちかけられたところから始まる。
始めは緊張して言葉が出なかった牛飼い娘も、薬使いが根気よく話すのを待ったことで徐々に落ち着いて話せる様になっていた(ついでに敬語も辞めることになった)
話しの内容を要約すると、再会した大切な幼馴染であるスレイの事をもっと理解したい。
しかし、今の自分ではそれは難しい。そう考えた彼女は、今まで目を背けていた過去と向き合う覚悟を決めた。ゴブリンに滅ぼされた故郷の村に行き、心の整理をした上で今後、スレイとどう接して行くのか考えていきたいとのことだった。
「話はわかった。それで俺が護衛に着けばいいのか?」
「そうしてもらうつもりだったんだけど、あなたと話していたら、私はもっと色んな人と話せる様にならないといけない思ったの」
「なるほど」
薬使いは良い傾向だと思った。時間はかかったが薬使いとある程度話せる様になったおかげで自信が付き、もっと色んな人と接してみたいと思う様になっているようだ。
「それなら、俺の知り合いの冒険者を紹介しようと思うんだけど、どう?」
「うん。お願いできるかな」
ここで選ぶ人選は重要である。前を向こうと頑張っている牛飼い娘に変な護衛をつけようものなら彼女の意気込みを挫いてしまう可能性があるからだ。
そのため、ギルドに依頼して見知らぬ冒険者に護衛をしてもらうわけにはいかない。そこで薬使いは自分が知っていて信用できそうな人物に頼むことにした。
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牛飼い娘を連れてギルドに来た薬使いは、早速目当ての人物に声を掛け、事情を説明した。
その人物は10代とは思えない色気を放っており、肩や胸元を大きく露出したローブを纏っている。
「それで…私に…依頼に…来たの?」
「ええ、可能ならあなたにお願いしたい、魔女」
彼女は魔女、スレイと同期の冒険者でその名の通り、白磁ながら複数の魔法を使いこなす人物である。
「事情…は、わかった…わ。。私で…良ければ…受ける…わ」
「助かる。ありがとう」
「あっありがとうございます!」
薬使いはお礼をいい、牛飼い娘も頭を下げる。
薬使いが魔女に頼んだのは、女性であることもあるが、一番の理由は彼女の人柄にある。おっとりとした雰囲気を纏い、優しい性格である彼女なら牛飼い娘もあまり緊張せずにに接することができるのではないかと考えたからだ。
更に彼女は気配りもしっかりできるので、牛飼い娘への負荷も最小限になるとも考えたからだった。
薬使いと魔女の付き合いは、彼女がギルド登録した次の日からあり、薬使いが持つ香水に魔女が興味を持ったことから始まった。今ではお得意となっている(主にリラックス効果のある香水を好んでいる)
「いいの…よ。それ…と…いつもの…が…切れそう…なの…用意して…貰え…る?」
「了解。頼みごとを聞いてもらっているんだ。今回は無料で提供しよう」
「ふふ…ありが…とう」
魔女が護衛の依頼を受けてくれたので一安心する薬使い。
「バランスを考えると、前衛が1人必要か」
護衛依頼の場合、依頼主の危険を排除する役と、依頼主の近くで危険から守る役が必要となるので護衛は2人以上つけるのが通例である。
「なら、俺が受けてやるよ」
誰に頼むか考えている薬使いに話しかける人物がいた。青い鎧を纏い、長い槍を持った男性だった。彼は槍使い。
魔女同様。スレイと同期の冒険者で早い内から頭角を現している冒険者である。少々目立ちたがりや面はあるが、気さくな性格で好感の持てる人物である。
「悪りぃけど話は聞かせて貰ったぜ。俺なら手も空いてるし、腕は充分だぜ」
「いいのか?あんたの望む、派手な戦闘は恐らくないぞ」
槍使いが好むのは英雄的な戦闘である。今回の護衛任務では戦闘は起こらない可能性が高いので彼の好むものではなかった。
「話は聞かせてもらったって言ったろ。前を向こうとしている女の子に協力するのは男の務めだろ?」
ニヤリと笑う槍使い。その笑みには嫌味な感情は含まれておらず純粋にそう思っているようだった。
「そうだな………なら頼む」
「おう、任せな」
魔女と牛飼い娘が頷いたのを確認した薬使いは、彼に頼むことした。ギルドには魔女と槍使いを指定する形で依頼を出す。
新人受付嬢は牛飼い娘のことを知っていたので、事情を聞かずにすぐに依頼を通してくれる。そして詳細を煮詰めた結果、村に行くのは明日と決まったのだった。
話をしていて少し遅くなったので薬使いは牛飼い娘を牧場近くまで送って行き。その日は帰宅したのだった。