もし風太郎たちが原作とはほんの少しだけ違う感じだったら 作:べるぬい
「三玖。お前が来るのを待っていたぞ」
「何か用?フータロー」
「あぁ。俺と勝負だ。お前の得意な戦国クイズ。今度こそ全て答えてやる」
あの日から俺は日本史、戦国武将について本気で勉強した。答えられない問題は無い。
「やだよ。懲りないんだね」
「くくく。この前の俺と一緒にしてもらっては困る。それとも唯一の特技で負けるのが怖いか?」
三玖は膨れっ面で俺を見据えてきた。よし、いける
「武田信玄の風林火山。その『風』の意味することは?」
「そんなの簡単な…」
「正解は『疾きこと風の如く』」
「!!」
あいつ…また逃げやがった!そうだ。あいつらは逃げ続けている。俺からも勉強も。もう逃がさねぇ!
ポフッ
あん?何だこの柔らかいの…って!
「四葉!」
「わお!上杉さん!ちゃんと前向いてないとダメですよー」
「す、すまん。ここ三玖が通らなかったか?」
「三玖?さっきすれ違いましたよ。あっちに走っていきました」
「サンキュー。くそっどこ行った?」
校舎内とかに行かれたらほぼ見つけれない…こいつはまずいな。えっ?
「わお!上杉さん!」
校舎の窓から荷物を運んでいる四葉に話しかけられた。は?え?さっきも四葉が…。
「ちゃんと前向かなきゃダメですよー?」
バッ!と後ろを振り向くと先程の四葉がいる。…?心無しか髪が長い気がする…。
「すまん四葉。落ち着いて聞いてくれ。お前のドッペルゲンガーがそこにいる。お前死ぬぞ?」
「ええぇえぇえ死にたくないですぅ〜!本当だあそこにいる…最期に食べるご飯は何にしよう…」
「あれ?やっぱりあの四葉少し髪長くね?リボン取っちゃったし…ヘッドホン付けて…と……お前三玖じゃねぇか!」
「ほっ」
トリッキーな技使いやがって…!
「三玖!この前は悪かった!俺はこの2日間で図書室にある戦国関連の本、全てに目を通した!今ならお前とも対等に会話出来る自信がある!」
「嘘ばっかり…」
くそっ!逃げられる!と思ったがあいつ…足遅いな。運動が苦手なタイプか?体力がキレて倒れるまで追いかけてやる!
「ハァ…ハァ…武将しりとり……龍造寺隆信」
「『ぶ』…『ふ』もありだな。福島正則!『賤ヶ岳の七本槍』の『一番槍』として名高い武将だ!」
「…!龍造寺正家」
「江戸重道!」
「ハァ…長曾我部元親」
「金森長近」
「ハァハァ…かっ、河尻秀隆っハァ…」
「また『か』か…片倉小十郎!!」
「上杉…ハッ…上杉…景勝ハァ…」
「くそっ!津田信澄!」
「三好ハッ…長慶…もうダメっ…!」
「し…しま…島津豊久!」
「……真田幸村」
「ら!?ら…ら…」
「ねぇ…なんでそんなに必死なの…?」
三玖はもう体力の限界だったのだろう。仰向きに倒れ始めた。おい!ちょっと!
「あっ…」
「危ねぇ!」
間一髪三玖が地面に思いっきり倒れ込むのを防ぐ。何とか背中を支えてやることが出来た。
「………ありがとう」
「どういたしまして。大丈夫か?よっ…と」
「な、何するの!」
「何って…そこのベンチまで運ぶんだよ。大人しくしろ」
俺は三玖を近くにあったベンチへ、所謂お姫様抱っこで運ぶ。ちょうど背中を支えてたしこれが運びやすかったんだ。すまないな。
「ふぅ。座れるか?」
「う、うん…暑い」
こいつ暑いとか言って俺の前で履いていた黒タイツ脱ぎ始めたぞ。こいつの羞恥心はどうなってんだ…。
「しかし本当に暑いな。喉乾いた。飲み物買うか…おっ?」
この飲み物は…買ってってやろう。俺は1本の缶ジュースを買い、三玖のいるベンチへと戻った。三玖に冷たい缶を頬に押し付けて。
「ひゃっ!」
「わっ!すまん!」
「……」
また膨れっ面だ。この表情。よく見るな。
「これ、好きなんだろ?110円はかなり手痛い出費だが。
あぁ。もちろん鼻水は入ってない」
『鼻水なんて入ってないよ…なんちゃって』
あの台詞だ。言い返してやったぜ。
「石田三成が大谷吉継の鼻水の入った茶を飲んだエピソードから取ったんだろ?」
「ふーん?ちゃんと調べてたんだね」
「この逸話にたどり着くのに何冊読んだことか…。ま、最後は偶然居合わせた四葉に携帯で調べてもらったんだがな。いやぁ、いんたーねっとって奴は凄いな」
「四葉?私が武将好きって四葉に話したの?」
三玖が少し怒ったような表情になる。本当にこいつは表情が豊かだ。
「言っていないが。姉妹にも秘密なのか?むしろ誇るべき特技であり、お前の趣味だろう?」
「姉妹だから言えないんだよ」
「あ?何でだ?」
「五人の中で私が一番落ちこぼれだから」
俺は思い違いをしていたようだ。三玖ののことを分かってきた?なんて傲慢なんだ。俺は三玖のほんの少しだけ分かっていた『気』になってただけだ。しかしそれもほんの上澄みにすぎない。
こいつは自分の好きな物に自信がないんじゃない。
自分に自信がないんだ。
「あいつらの中じゃお前は優秀だ。ほら、この前のテスト。お前が一番だったぞ?」
「…フフッ。フータローは優しいね」
「ど、どんぐりの背比べには変わらないがな!」
優しい、なんてあまり言われたことがなかった。から照れ隠しで少し酷いことを言ってしまった気がする。
「…でも何となく分かるんだ。私程度にできること。他の四人にもできるに決まってる。五つ子だもん」
………!!待てよ…?三玖の言うことが正しいのならば。正しいのすれば…あの結果はもしかして…!
「だからフータローは私なんか諦めて他の姉妹を…」
「それはできない。俺は五人の家庭教師だ。あいつらも…そして、お前も。俺は勉強させる。それが俺の仕事だからだ。だからお前たちには五人揃って笑顔で卒業してもらう」
「クスっ…勝手だね。でも無理だよ。この前のテストで分かったでしょ?五人合わせて100点だよ?」
「そうだな。あの時はビビりにビビったぜ。まさか五人とも問題児とは思わなかった。こんな奴らに教えなきゃいけないのかっ、てな。絶対にできっこない。そう思ってた。今日まで」
「…え?」
「三玖の言葉を聞いて自信がついたぜ。五つ子だから三玖にできることは、他の四人にもできるだっけ?つまり言い換えれば『他の四人にできることは三玖にもできる』ということだ」
「そ、それは…そんな考え方、したこともなかったけど…」
俺はポケットに入れていたあいつらのテストの結果を纏めておいた紙を取り出す。
「見てくれ。この前のお前らのテストの結果だ。何か気が付かないか?」
三玖にそう言うとジーッと紙を見つめていた。
「あっ。正解した問題が一問も被ってない」
「そう。確かにお前らは平均20点の問題児。だが俺はここに可能性を見た」
「一人ができることは全員できる」
「一花も」
「二乃も」
「四葉も」
「五月も」
「そして、三玖。お前も。全員が100点の潜在能力を持っていると俺は信じている」
「何それ屁理屈。本当に…『五つ子』を過信しすぎ」
◇◆◇◆◇◆
後日、放課後。俺は学校の図書室で四葉と五月に宿題を教えていた。
「だから何回言ったら分かるんだ…ライスはLじゃなくてR!お前はシラミを食うのか!」
「あわわわ」
ん?四葉は俺に怒られているのに笑顔なんだ…?まさかあっちの方向…?
「四葉…なんで怒られてるのにニコニコしてんだ?」
俺は恐る恐る聞いてみた。
「えへへ!家庭教師の日でもないのに、上杉さんと一緒に勉強できるのが嬉しくって!」
「…っ!」
「嬉しいかどうから置いといて、上杉くんの教え方は分かりやすいですしね」
「……残りの三人もお前らくらい物分りがいいと助かるんだが」
「声はかけたんですけどね〜」
「三人?何言っているんですか?上杉くんは。残り…二人でしょう?」
「え?」
「あー!!三玖!」
四葉が指さした方向には三玖が立っていた。来てくれたのか!
「三玖。来てくれたのか」
こっちに近付いてきた、と思ったら俺の横を通り過ぎて、歴史の本があるコーナーへと向かっていってしまった。まさか…本、借りに来ただけ…?
「三玖ー?何で本の貸し出しカードなんか見てニヤニヤしてるんですかー?ってうわーっ!全部に上杉さんの名前書いてある!!って前そう言えばとんでもない量読んでましたね…」
「あ、あぁ。事情があってな」
三玖が立ち上がった。
「フータローのせいで考えちゃった。ほんのちょっとだけ…ね。私にもできるんじゃないかって…。だから…」
「責任、取ってよね」
「任せろ」
「えっえっ?上杉くんと三玖ってもうそういう関係なんですか…?」
五月が何か狼狽えてブツブツ言っていたが放っておこう。
「み、三玖…もしかして…この前隠してた好きな人って上杉さんじゃ…?」
「…!どーだろうね」
こいつらは何の話をしているんだ?
三玖いいよですよねぇ。ま、私は二乃を愛した四葉推しです。なんちゃって