鋭角パンツァー 〜エキセントリック・ファイヴ〜 作:jeux
パン、という乾いた音とともに飛び散る赤黒い液体。青い大地を、染めていく。
おい。待てよ。おい。え?人が。え?待てって。おい。
あまりにも凄惨な光景に、根室の思考は停止してしまった。
しかし無慈悲に鳴り響く試合開始の合図と、西住の絶叫。
「Al kopf, ka!!」
その声に意識が呼び戻され。ほぼ反射的に根室も叫ぶ。
「全車、打てェーッ!」
両軍、これだけの近距離で相対しているのである。試合開始と同時に乱戦状態になるのは間違いない。そこで初撃で落とせるように、あらかじめ前衛車両に照準を合わさせていた。しかし、当然発射から球が届くまではタイムラグがあるが、そこを忘れるほど無能な根室ではない。タイムラグ中に動かれることを想定して、照準は少し前か後ろにずらしていた。半分も当たれば僥倖である。しかも、フラッグ車には前にも後ろにも真ん中にも狙いを定めておいた。横に逃げるのは時間がかかるから、ほぼ一発で仕留められる。
しかし、しかしである。一人の少女によって、状況は変わってしまった。彼女の凄まじい行動を見ることによって生じたほんの一瞬の指示の遅れが、大洗に隙を与えた。
しかも、しかもである。大洗の戦車は、釧路がヤマを張っていた方向とはことごとく逆の方向に動いたのである。フラッグ車に至っては、超信地旋回をして横に逃げたではないか。
さらに、さらにである。逃げたかと思いきや、急停車し、間髪入れず発砲したではないか!
「おい、嘘だろ」
「先輩!」
はっ。
「総員退避ィーッ!」
時は、すでに遅く。
「・・・前衛5両、全滅です」
静かに響く、厚岸の声。
釧路全体を、恐怖が、襲った。
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その時、フラッグ車内には、「ロックに行きましょう」と五十鈴がかけたバルトーク作曲『弦楽四重奏曲第4番 第5楽章』が鳴り響いていた。
「"敵さん、あらかじめ照準合わせてくれて、助かりましたね"」
と五十鈴。
「"はい、おかげで逃げる方向が明確になりました"」
西住が答える。
「"一瞬だったね"」
と武部が続ける。
そう、彼女たちは敵の砲の指向から落下位置を計算し、それとは逆の方向に動いた上で、その位置からの照準までもあらかじめ計算していたのである。
「"いやしかし・・・実際やってみると・・・ちょっと、申し訳ないなって・・・"」
そう言ったのは秋山である。
秋山である。
「"どうでもいいが、めちゃくちゃトマトくさいな"」
「"それいう権利私にしかないんですよ"」
冷泉の発言に噛み付いた秋山は、顔中トマトジュースまみれであった。
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大 洗 市 民 新 聞 7月24日号
大洗女子、自殺のパフォーマンス
今日の午前10時より開催された大洗女子と釧路学園の戦車道の練習試合において、戦車道史上例を見ない、一種の欺瞞作戦が遂行され、成功した。欺瞞作戦を行ったのは大洗女子側。その内容は、「戦車道の本質は戦争である」として、我々は戦争をするのだ、という旨のスピーチを試合開始前に行い、最後に自殺に見せかけたパフォーマンスを行う、というものであった。その過激な内容によって釧路学園側は動転。一瞬の隙をついて一気に攻め込み、大洗損害なし、釧路全車中大破の圧勝となった。
今回の試合については人の感情をうまく利用した作戦であるとする声もあるが、全体主義を助長する危険なものであったという声もあり、市民の間では意見が分かれている。
実際にパフォーマンスを行った大洗女子の生徒Aさんは、記者の「試合前の発言はどこまで本気か」という質問に対し、こう答えた。
「戦車道と戦争との関係はどれだけ足掻いても消えないと思っています。安全なスポーツであると割り切ってしまうのはかなり危険であるとも思っています。戦車道を行くものは一般の方々以上に、戦争の事実を忘れてはいけない。日本全体が狂気の渦に巻きこまれていったことを忘れてはいけない。今回のパフォーマンスはそう言った思いの裏返しです」
おい、初っ端からこんなチート(&狂気)でええんか。おい。