鋭角パンツァー 〜エキセントリック・ファイヴ〜   作:jeux

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プロトタイプ8

「In trutina mentis dubia

fluctuant contraria

lascivus amor et pudicitia.」

 

 放課後、戦車道の練習場の小高い丘の上。五十鈴は歌っていた。

「綺麗な歌ね」

「でしょう?」

 ふとやってきた武部の言葉に答える五十鈴。

「そんな綺麗な歌も知っているのね・・・私、華ちゃんのこと今まで勘違いしてたかも」

「あらそう?まあ、ずっと変な曲戦車内でかけてましたからね・・・」

 以外にも武部の言葉にあまり反発の様子を見せない五十鈴。

「そうよ、どぎつい曲ばっかりかけるんだから。それで、どう言うこと歌ってるの?」

「ああ、これはですね・・・」

 そういって五十鈴は日本語訳を朗読し始めた。

 

「揺れ動く心の天秤の上に

互いに向かい合って置かれているのは

気楽な恋と、慎ましさ」

 

「きゃー・・・なんてお耽美な」

「そんな『耽美』なんて単語も知っているのね・・・私、沙織さんのこと今まで勘違いしていたかもしれません」

「・・・これは、一本取られたのかしら?」

「そう言う認識で大丈夫ですよ」

 こう言うところが、五十鈴の『いい性格』であった。

「いやー、でもそうかー、華ちゃんがそういう歌を歌うってことは、流石に()()()()ってことだよね?大方、麻子に被曝したってところでしょ?」

「・・・さすがですね」

 しかしながら、武部の方が一枚上手であり。

「それで、どうなのよ、どっちを選ぶの?」

「ええ、この歌には続きがあってですね・・・」

 そう言って、五十鈴は続きを歌い出す。

 

「Sed eligo quod video,

collum iugo prebeo;

ad iugum tamen suave transeo.

(でも私は目に見える方を選び

首をくびきに捧げて

甘いくびきに向かって進むのです)」

 

「というわけです」

 五十鈴の目に迷いはなかった。

「攻めるのね」

「攻めます。ただし、『気楽』には行きませんよ」

「つまり攻め攻めの攻めってことね」

「そういうことです」

「ということは、もう何か実行に移しててもおかしくないわよね?」

「ええ、そうですよ」

「おおっ、なになに〜?どんなことしちゃったの〜?」

 するとさも自信ありげな表情で五十鈴は言った。

「この歌をあの方がいる前で口ずさむように歌いました」

「・・・へ?」

「この歌を、歌いました。あの方の前で」

「・・・確認いいですか?」

「はい?」

「何語で?」

「もちろん原語で。ラテン語。じゃないと美しくないので」

「まーわーりーくーどーっ!!!それどんだけ外堀なの?あなた今江戸城攻めるのに東京湾から埋め立ててるよ!?」

「まずは彼の無意識に働きかける感じで」

「フロイトかっ!」

 よく知りもしない心理学者の名前を出してみる。

「だめ!とにかくだめ。何が攻め攻めの攻めよ!」

「それ沙織さんしか言ってないです」

「うるさーい!華さんのやり方じゃ攻略に30万()()かかるわよ!」

 スケールの大きいことを言おうとしすぎて単位が長さになっている。

「今度の日曜日、私の家に来なさい。私が恋愛の仕方を教えてあげるわ」




カール・オルフ作曲『カルミナ・ブラーナ』より『In trutina』
例によって神曲なので(ry
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