鋭角パンツァー 〜エキセントリック・ファイヴ〜 作:jeux
「In trutina mentis dubia
fluctuant contraria
lascivus amor et pudicitia.」
放課後、戦車道の練習場の小高い丘の上。五十鈴は歌っていた。
「綺麗な歌ね」
「でしょう?」
ふとやってきた武部の言葉に答える五十鈴。
「そんな綺麗な歌も知っているのね・・・私、華ちゃんのこと今まで勘違いしてたかも」
「あらそう?まあ、ずっと変な曲戦車内でかけてましたからね・・・」
以外にも武部の言葉にあまり反発の様子を見せない五十鈴。
「そうよ、どぎつい曲ばっかりかけるんだから。それで、どう言うこと歌ってるの?」
「ああ、これはですね・・・」
そういって五十鈴は日本語訳を朗読し始めた。
「揺れ動く心の天秤の上に
互いに向かい合って置かれているのは
気楽な恋と、慎ましさ」
「きゃー・・・なんてお耽美な」
「そんな『耽美』なんて単語も知っているのね・・・私、沙織さんのこと今まで勘違いしていたかもしれません」
「・・・これは、一本取られたのかしら?」
「そう言う認識で大丈夫ですよ」
こう言うところが、五十鈴の『いい性格』であった。
「いやー、でもそうかー、華ちゃんがそういう歌を歌うってことは、流石に
「・・・さすがですね」
しかしながら、武部の方が一枚上手であり。
「それで、どうなのよ、どっちを選ぶの?」
「ええ、この歌には続きがあってですね・・・」
そう言って、五十鈴は続きを歌い出す。
「Sed eligo quod video,
collum iugo prebeo;
ad iugum tamen suave transeo.
(でも私は目に見える方を選び
首をくびきに捧げて
甘いくびきに向かって進むのです)」
「というわけです」
五十鈴の目に迷いはなかった。
「攻めるのね」
「攻めます。ただし、『気楽』には行きませんよ」
「つまり攻め攻めの攻めってことね」
「そういうことです」
「ということは、もう何か実行に移しててもおかしくないわよね?」
「ええ、そうですよ」
「おおっ、なになに〜?どんなことしちゃったの〜?」
するとさも自信ありげな表情で五十鈴は言った。
「この歌をあの方がいる前で口ずさむように歌いました」
「・・・へ?」
「この歌を、歌いました。あの方の前で」
「・・・確認いいですか?」
「はい?」
「何語で?」
「もちろん原語で。ラテン語。じゃないと美しくないので」
「まーわーりーくーどーっ!!!それどんだけ外堀なの?あなた今江戸城攻めるのに東京湾から埋め立ててるよ!?」
「まずは彼の無意識に働きかける感じで」
「フロイトかっ!」
よく知りもしない心理学者の名前を出してみる。
「だめ!とにかくだめ。何が攻め攻めの攻めよ!」
「それ沙織さんしか言ってないです」
「うるさーい!華さんのやり方じゃ攻略に30万
スケールの大きいことを言おうとしすぎて単位が長さになっている。
「今度の日曜日、私の家に来なさい。私が恋愛の仕方を教えてあげるわ」
カール・オルフ作曲『カルミナ・ブラーナ』より『In trutina』
例によって神曲なので(ry