余裕が出てきたのでちょくちょく書きます。
ノアが必要以上に警戒する時は、オレ達も気を引き締める事にしている。勘がいいからじゃない。寧ろ他人の直感に従うなんて行為は堅実とかけ離れていて嫌いだ。
前線で戦う奴の勘に限っては、反射と言える程の信頼性はあると評価してもいい。霧で感知しながら生活していたコーリスのソレは戦士としてもピカイチだろう。
その上でノアを頼っているのは、アイツが星晶獣だからだ。
星晶獣には星晶獣にしか分からない事がある。
星の世界に由来する力を感じ取る事が出来るし、ノア自身も被造物だからか、同族がイレギュラーな動作をしてもある程度の推測が出来る。ある意味知識を頼っているのかもな。
祈望の騎空団では、星晶獣を相手にする時は全員で挑む様にしている。どんな弱さでもだ。
コーリスの魔力量があり、ゾーイの力があり、オレの知能があっても、未知の能力によって壊滅させられる可能性がある。だからノアの知識を頼りつつ、問答無用で敵を叩けるような動きを取るんだ。
仮にノアが知らない星晶獣だとしても、ノアが相手を感じ取れば、距離を取って観察の時間を作ることが出来るな。
ゾーイにはコスモスの蓄積した記憶があっても、覇空戦争時の星晶獣を知る機会は少なかったようで、本人が規格外なのもあって、フラットな視点で見る事は出来ねぇらしい。コスモス本人はバランスを概念的に見るタイプではないと見えるな。代行者を派遣するシステムは概念的に把握し、本体やゾーイは物理的にしかバランスというものを捉えられないようだ。
そういう意味ではノアが非戦闘員なのも良かったかもな。雑魚との戦いを遠目で見る奴も必要だ。
「今までずっと一人でやって来たんですか?」
「ずっとって程じゃないよ。力が分かれたのなんて2年前の話だし」
「そんな僅かな年月でここまで噂が広がっているとは…余程の被害か」
「……そだね。で?反省してほしいんですかァ?あのねぇ、りっちょだって事情があったんですよォ。災害扱いされるのは納得いかないんだよねぇ!それとも何か?七曜の騎士さんは個人の意志を無視して取り締まれる権利でも持ってるんですかァ!?」
「…無くは無いです」
まぁ、無くは無いな。ファータ・グランデの平穏を保つ為なら許される可能性もある。
何なら、紫以外の七曜達なら問答無用でコイツを叩きに来るだろう。ぶっちゃけ何らかの暴走で被害撒き散らす奴なら、少なくとも本体をコアだけになるまで削ぎ落とす方が効率が良い。
未だ星晶獣と共存出来てるとは言えない環境だからな。
「役人気取りがッ!ケッ!」
それで、この陰気なんだか興奮してんだか分からねぇ黒い生き物は、危険な依頼をいけしゃあしゃあと持ってきたわけだ。
不確定要素は限りなく少ないと言っているが、そんなもんこっちからすれば確証も無い。星晶獣からの依頼でもう一体星晶獣がいて、そいつに纏めて殺されそうになった事だってあるんだ。瞼を歪ませるくらいの反応はして当然だろう。
ゾーイがいるから良いってもんじゃねぇ。
聞けばヘカテーとかいう女に眠らされた事もあるそうだ。裏技を使って起きたとか言っていたが、その一瞬で簡単に人は死ぬんだ。
「キミの危機感は足りているのか?」
と、ここでゾーイがやっと口を開いた。
煽りでも指摘でもない、ただの疑問だ。依頼者の毒気を抜かれる口調と、実際の内容に乖離を感じたんだろう。
正直に言うと、オレは喋りたくもない。リッチに嫌悪感がある訳では無い。純粋に会話が成立しないだろうという確信があるからだ。オレが疲れて終わるという結果だけが見えた。
聞こえたのはリッチの歪んだ返事。
「えぁ?」
「敵はキミ自身の力、勿論細かく把握も出来ているだろう。ただ、実際に討伐間際まで追い込むのは私達の仕事だ。最良の準備を以って挑む心持ちではあるが…そこまで気を緩めていても、キミが思う通りの展開に事を運べない可能性だってある。私達を過信しているのではないか?」
「そりゃあ、信頼だよ。強いのは分かってるからねェ」
「……すまないな。物事を軽んじるのが、良くはないと思ったんだ」
「…なに。銀髪の人も説教?」
ゾーイはリッチの返答に反論したいという気持ちを抑えて、言葉を止めた。それが見えて後者は気を悪くした様だが、オレはゾーイが正しいと思う。
言い方の問題も、相手も同じようなもんだから気にしなくていい。
伝えたい事は一つだ。
「生かすも殺すも一任するならまだしも、お前は自分の分身を吸収する為にオレ様達を動かすんだ。互いに知らぬ身で連携する覚悟は出来てるんだろうな」
「いやだからそんなに強くないって…」
「相性が悪くても何とか勝てる星晶獣相手に、オレ様達は殺されたかけた事がある。なぁコーリス」
「ああ…俺とカリオストロなら勝てた。だが、状況がそうさせてくれなかった」
「そういう事だリッチ。オレ様なんてな、身体の4分の1は消し飛ばされた。コーリスだって最後は一歩間違えれば串刺しの肉だった。戦場は実力と相性、そこに状況が絡んで混沌とする。最後には運って名前のクソッタレがどっちかの背中を押す事だってあるだろうな」
「そ、それはその星晶獣さんが思ったより強かったって事でしょ。ソロ専なんだから変な邪魔しないし気にしないでよ…」
確かに一人ぼっちなら邪魔はしないかもしれない。逆に言えば協力する事に慣れていない──それも極度なら?
吸収にどれくらいの時間がかかるのか、その分身がどれくらいのピンチで逃亡するのか、仲間を呼ぶ習性があるのか。こういう細かい事をこっちから聞き出さなきゃ安心できねぇ。
なんてったって、コイツ油断してるし。
「はぁ……平穏にこそ、努力がいるんだなァ…」
切実に、そして無意識に出た言葉があまりにも美少女に似合わなくて、オレは耄碌した魂に檄を飛ばした。
─────────────────
「きったねぇ島だなオイ。呼吸してもいいのか?」
「凄い暴言吐かれたんだけど」
「汚染区域って字面がピッタリだなこりゃ……お前もうちょっと責任感じた方がいいんじゃねぇの?」
「うるさいなぁ……今から責任取るんだよ!」
リッチの分身がいる島を遠くから眺めてみれば、黒い
元々寂れた島だったとはいえ、呪いは生命を機能不全にしちまう恐ろしいものだって事だ。
「普段はこんなんじゃないんだけどな……」
「ゾーイとリッチさんの力を感じ取ったんだと思います。星晶獣は別個体でも互いに反応する事がありますし、此方が2体となれば──あれ?」
双眼鏡を覗き込んだコーリスが素頓狂な声を上げた。
それだけでイレギュラーが発生した事が分かる。もうこの
「どうしたコーリス」
「あっちにも2体いる。ゾーイも見てみるか?」
「借りるよ。これは……面倒だな。道理で島の腐敗が今も加速しているわけだ」
「幸いに攻撃は島の範囲で留まっている。此方を認識しているのは視線で分かったからな。やれるなら既に戦闘は始まっている筈だ」
「つまり臨戦態勢抜群のバケモン2体か。リッチよ…条件が変わってるじゃねぇか」
ブルブル震えて背を向けるもやし。
下調べはしたと豪語した割に、敵の数が違うという初歩的なミスを犯しやがった。いや、最近2体になったならどうしようもないのは分かるんだが、調子に乗ったら痛い目に遭うタイプなのはもう察せた。
「あれいつ見落としたかな…?いやいや結局間の悪さにしてやられた訳だからりっちょ悪くないけど、けども、だけどもこれはちょっと一時撤退とかアリですかねりっちょは悪くないんですよほんと」
「ブツブツ言ってないで、行くぞ」
「えあ?行くの……?」
俺の言葉に心底疑問を浮かべながら、リッチは口を歪ませた。
『何言ってんのこのボンボンガールは』とでも言いたそうな顔だ。コイツさっきから舐めてんだろオレのこと。
「リッチさん。貴女にはあいつ等を挑発してもらいます」
「ごめん少年の言ってる事わからないや。これ不健全とか関係ないよね多分」
「このままだと安全な着陸は出来ません。俺とゾーイがカリオストロとリッチさんを抱えて飛び降りても、出待ちで攻撃されれば汚染の影響を受けます。そこでリッチさんにはあいつ等に干渉して、数分安全な状況を作ってもらいたいという事です」
「圧縮言語だぁ……勿論出来るよ、りっちょは本体だからね。ボンビーに働きかければ身代わりになれるし、そこから呪いの相殺くらいは持ってけるよ」
「それは良かった。リッチさんが少し抑え込んでくれれば、俺とカリオストロで1体、ゾーイでもう片方を無力化できます」
ふぅん。どうやら無茶な作戦が必要な訳では無いらしい。
ノアはいつも通り留守番として、オレとコーリスなら問題なく倒せるな。ゾーイに関しては論ずる必要もない。
「…もう1体の能力は分かりますか?」
「りっちょが出来る事の一部で…島があの有様なら……"腐敗"かな。あでも"劣化"かもしれない。半端に木とかが残ってる以上、というか島が残ってる時点でそれっぽいわ。劣化ね劣化」
「腐るよりは安全ですか?」
「そだね。生命体には長い時間をかけないと影響がないレベル。ただ注意して欲しいのは傷ね。綻びは劣化ですんごく加速するから。もう片方の持つ魔力阻害能力と合わせればコンボで気持ちよく死んじゃうからね?」
「回復魔法の効きが遅れて、傷の加速……そういえば、そもそも俺達回復使えなかったよな」
「そーだな。元より自然治癒のゴリ押しだ。いつも通り冷静に吹き飛ばそうぜ」
「島を壊さない程度なら問題ない。ガンマレイで消し炭だ」
「この人達こわ」
というわけで、オレ達の作戦が始まった。
リッチは外に出て、杖を抱えながら深く唸り始めた。念力を信じる一般人の様な力の込め方だな。
そしてそれが届いたのか、島を覆っていた黒い靄が収束し、一つの点に変化した。
島の汚染は止まったが、同時にもう猶予はないということだ。これからリッチへの集中砲火が始まる。
「リッチは私が連れて行こう。私なら相殺している間の影響も気にすることは無いからね」
「任せた。一足先にカリオストロと降りておく」
「え」
ゾーイの言葉に頷いたコーリスはオレの身体を抱え、膝を曲げて一気に飛び込んだ。
リッチの困惑する声が聞こえたが、後の惨状を想像して考えない様にする。
この高速降下も初めは空気の圧に心身が揺さぶられたが、慣れてみればそこそこ良いものだ。身体を預けてしまえば、オレの肉体にとっては心地よいアトラクションに過ぎない。
そこにはコーリスの盾による空気抵抗の軽減もあるがな。
「これからリッチも落ちる間、分身と競り合う訳だが…こりゃ分かりやすいな。あの靄の集まる場所に2体が固まってるのが丸見えだ」
「ゾーイならその余波の心配もない。とはいえ…2人を待ってから叩くとするか。降下の心地は?」
「快適で実に涼しいな。日に日に揺れが軽減されてる。盾の角度調整が上手くなったな」
「カリオストロが慣れたとしても俺が無茶をしてる事に変わりはないからな…上手くならなきゃ困る。次はそっちに飛んでもらうとするか」
「美少女に抱えろってか?ほざけよ」
軽口を叩きあっている間、敵の攻撃が放たれ、それは同じく降下しているゾーイの方へ綺麗に吸い寄せられていった。
当然汚い悲鳴が聞こえてくる。
「吐く吐く吐く吐く吐くよぉ!?内蔵きもちわるいよぉぉぉぉぉ!!??普通に艇で降りればよかったじゃん!!!!」
「時間がかかる!後の事を考えて君の負担を減らす方向にした!」
「これが負担だろうがァ!!」
小器用にも落ちながら、しかも相殺どころか敵の攻撃を押し返しているのは、本体としてのプライドなのか、火事場の馬鹿力というやつなのか。
星晶獣の強さも見かけには分からないもんだな。こいつがこっそり暗殺なんて考えれば一国が簡単に落ちると思うとゾッとする。
「星晶獣に内臓ってあるのか」
「確かに……飯も食えるしな。兵器に必要な理由が分からんが」
「…星の技術は恐ろしい」
「技術というより世界の在り方が違うんだよ。生命としちゃこっちが健全さ」
「そうなのか?」
「そうだとも。星には美少女はいても"カワイイ"美少女はいないからな」
「それは確かにつまらないな」
「だろ?」
冗談も──いやカワイイのは本気だが、それも程々に。
そろそろ着陸で、即座に戦闘開始だ。コーリスは姿勢を整え、魔力を放出する事で軟着陸出来る。元々浮けるゾーイならば、着陸寸前にふわりと身を翻すだけで済むのだが、人間のコイツには無茶な話だ。
「着陸完了。戦闘開始」
「オーケー。"劣化"の分身を真っ先に叩くぞ」
無事に着陸し、目の前のハゲ骸骨2体に突撃する。
オレとコーリスが担当するのは劣化の能力を持った分身だ。もう片方の魔力阻害持ちはゾーイの超火力で押し切る方が効率的だと判断し、攻撃手段に邪魔が入らない劣化はオレ達で相手取る事にした。
ゾーイも同時に着陸した事で、戦況は二分される。
有り難い事にリッチを狙った攻撃は渾身の一撃だったらしく、本体共々疲労が見える。ゼハゼハした呼吸の音が後ろから聞こえるし、前のバケモノはオレ達の速攻に怯えている。
「
「コラプス!」
牽制にコーリスは光線、オレは岩石を叩きつけ、敵の反応を伺う。予想通り光線の速度には反応出来ずに苦しんだが、岩石の方は劣化の能力で粉々にした様だ。
なるほど、分身といえど本体に似るもんだ。
手に持った杖を振るう事で黒い靄を発生させる。それはどの分身も共通しているようで、却ってどの能力かが分からない危険性もあるな。
そして何より、靄という形で呪いを発生させているのが良い。属性魔法と違って敵に命中させる必要は無く、フィールド全域に展開するだけで無造作に対象を侵せる訳だ。
コーリスの義手とオレの身体が劣化の影響を直に受けると考えれば、頭脳を殺した短期決戦の方が有りかもな。光線で怯んだ隙を気持ちよく叩かせてもらおう。
「ガンマライト・エクスキューション」
「アルス・マグナ」
優れた技を速攻で使わない道理はない。
横薙ぎで逃げる隙を与えないコーリスの斬撃で縫い付け、アルス・マグナで身体の中心から綺麗に消し飛ばしてやろう。
「ギャ、アアアアアアアアアアアアアア!!!??」
なんだ。力が顕現しただけの分身の癖に叫べたのか。
会話が可能かを確かめても良かったか?面白い結果に終わったかもしれないしな。
それにしても笑える。骸骨という死後の姿が生を求めてもがくなんて。
「ははっ!見ろよ!内側からひび割れた骨が光って爆散してるぜ?現代の刹那的なアートには丁度いいかもなぁ!」
「悪趣味な…」
「奥義を綺麗にぶち込む程気持ちの良い決着は無いだろ?」
「それは分かるが………ん?」
オレ達は異変を感じ取った。炸裂するアルス・マグナが途中で止まった。
「…魔力阻害の呪いがここに届いてたか。奥義を中断させるくらいなら大したもんだ。ゾーイに任せたのは正解だったな」
とはいえ虫の息で、骨の軋む音だけが目の前の物体から響いた。
「問題ねぇ。今殺──したら駄目なんだった」
「丁度いい。リッチさんを呼んでこよう」
危ねえ。依頼はリッチが分身の力を回収する為のものだった。
忘れて瞬殺するところだった。調子に乗って敵を消し炭にしましたじゃ流石にダサ過ぎると、つい頭を抱える。
「……あん?」
手触りに違和感を感じ、指を見てみる。
勿論オレが誇るすべすべの美少女ハンドが視界に広がる。だがしかしその整えられた爪が一部欠けているでは無いか。
「どこで爪が欠け」
小指がぼとりと落ちた。
「コーリス!!!!!」
即座に叫んだ。
オレを抱えての離脱を促す為の叫びだ。勘と判断の良さならアイツに軍配が上がる。
迫りくる正体不明の靄から逃げ出すにはそれでも足りるか分からないが──何処からか飛んできた光が呪いを串刺しにして遮り、直後に身体が浮いた。視界が高速で駆け抜けていった事で、オレは無事に回収されたのだと安心した。
「視界が悪い!どうなってるか分かるか!?」
「……3匹目がいた様だ。ノアさんの光のお陰で何とか回収は間に合ったな」
「あの光はノアか……それで、3匹目は潜伏していたのか…?」
「いや、
「クソが…しかもこれ……さっき言ってた腐敗の能力じゃねぇか?オレ様の小指が落ちたぞ」
「その様だ。俺の義手も少し錆びれて軋んだ。いつも通り動かせば肘が割れるだろう」
靄の嵐を突っ切ったからか、此方から見える光景は複雑だ。
だが、倒れた2体の分身に寄り添うように佇む新たな分身がやっと見えてきた。本当に今来たらしいな。
悪運…では無いだろう。
分身が仲間を呼ぶだけの知性があるというより、元に戻ろうとする力がある種の反応を見せたと考えるのが妥当だろう。リッチという主に戻ろうとするのでは無く、元は一つであった力が集うという反応。高濃度の呪いに誘われた新たな呪い。
ふとリッチの方を見てみれば、吐きそうなくらいの蒼白さだ。
「やべぇぞリッチ。イレギュラーが加速する」
「………撤退を勧めるよ」
返ってきたのは冗談すら混じらない真面目な意見だった。
腐敗が恐ろしい能力だとしても、ゾーイの力を間近に見て出た感想か?
「あれさぁ……リッチが現役の時に使わされたデスコンボなんですよ。"腐敗"で綻びを作って"劣化"を加速させ、魔力阻害で逃げ場を無くす……強すぎて自分でも引くわ」
「分身に感情のストッパーは無いようですね」
「しかもボンビーは力の集合体。傷は力が散っていく感覚で…りっちょが吸収しない限りまた形を取る。あの様子だと劣化のボンビーの復活は早いよ」
「どうするよ団長」
オレは答えを知っていながら聞く。
小指と義手のツケはリッチに請求すればいい話だ。この危険な分身共を見過ごす事が最も恐ろしい。
世間体的にも、平和を考えての事でも──だ。
「対策は思い付いた。無茶な戦いでも無い。必要なのは迅速にリッチさんが動く事だけ…かな」
「やだよ。帰るね」
「悪いな。もう依頼で完結する規模の話じゃない。ここで消さなきゃならねぇな」
「その通りだ。私が思ったよりも良くない状況になっている」
「さっきのは大丈夫だったかな。カリオストロ」
ここでゾーイに加えてノアも合流し、敵の視線は此方に定まった。
「ノア、正直助かった。小指だけじゃ済まなかったかもしれん」
「艇から見る限りじゃ3匹目は粒子で漂って、この島で形になったんだ。僕の射程だと届かなくて…何とかはなって良かった」
「すまない。私もリッチを呼ぼうとしたんだが、足場を腐らされてね……無論落とされはしなかったが、その隙に逃げられた。深追いしても良かったんだが、君達が心配で………」
「あー…その時にやっとけば一番楽に勝てたかもなぁ」
「魔力阻害も復活する可能性が来ると…」
「……………すまない」
「いや、心配してくれてありがとう。被害が出なかった訳じゃないし、運が悪かったらゾーイに頼らざるを得なかった場面だ」
「そ、そうか?」
「そうそう。そーゆうこと」
「そういうことだよ」
「良かった…」
皆でゾーイを慰めて、陣形を整える。
「じゃあ、俺とゾーイが前衛で腐敗と正面切って戦う。ノアさんは腐らないと思いますけど魔力阻害を相手にお願いします。カリオストロは腐敗の射程外で劣化が此方に干渉してこないように抑え込んでくれれば良い」
「りょーかい」
各々が頷いたところで、覚悟が完了しないリッチがドン引きして此方を見つめる。
残業を言い渡された部下を思い出させる、理不尽に相対した哀れな表情だ。いや残業させたの昔のオレなんだけどさ。
コーリスはそんなリッチに一言。
「倒した奴から即座に吸収して下さい。邪魔はさせないように頑張ります」
「だからやだって」
「では……」
「おい、聞け少年」
「戦闘開始!」
「あああああああなんでこんな奴に依頼しちゃったのりっちょぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
再び始まった戦闘の合図は、リッチの悲鳴からだった。
リッチ
・自分のせいで生まれた犠牲への責任は取りたくない。至極当然の感情。だから必死に帰ろうって促したのに……。
ボンビー
・リッチの持つ呪いの能力をそれぞれ宿した分身。
・"魔力阻害"は魔力の流れを遅滞させ、効果や速度を弱める。"劣化"は対象を脆くさせる効果があるが、そのままでは効き目が薄く、傷などの綻びを起点に発動するのが醍醐味。"腐敗"は純粋に対象を腐らせる能力で、非生物に対しては特に効果がある。腐敗という概念がない星晶獣には全く効かない。
・ボンビーは靄という形で呪いを溢れさせているが、リッチは様々な方法で呪いを付与できる。魔法の様に弾として撃ったり、印を付けて遠隔で発動したり。
コーリス
・白騎士に勝って自信が湧いたのか、段々とメンタルがゾーイに近づいてきている。最早理不尽に苦手意識が無くなってきている。
カリオストロ
・身体は人工物で腐敗の影響をモロに受けるが、良い素材を使っているので何とかなる。
ゾーイとノア
・腐敗が効かないし、前者に至っては純粋に火力で上回っている。