そりゃさ、りっちょだって何も迷惑をかけたいから根暗やってる訳じゃないんすよ。そういうのは性格が悪いか異常者って事でしょ?不幸な人間を見て笑える要素なんて実際感じないんだよね。
だから、自分も健全になれるって思っちゃったわけ。
『あ、あの…』
『はい?あなたは……いつも来てくれる』
『そうです…リッチです!あの…もし、いや勘違いでは無いと思うんですけど……』
『はい』
『私達、気が合うと思うんです…!あなたが私の為に本を見つけてくれた時からずっと考えてたんです……その、付き合ってくだ──いや、付き合ってみません、か?』
『……ええと、その』
覇空戦争終結後、数百年の暇を癒やす手段は娯楽だ。少なくともりっちょは娯楽に踏み切るタイプの性格で作られた。他の星晶獣なら強い人を狩りに行ったり、島の文化に染まったり、島の守り神として崇められる様な生き方をするんだろうけど、他人に依存しない趣味を見つける方が性に合っていたのさ。
で、読書。本を楽しむのに必要なのは目と脳味噌だけだからね。
昔は手書きでコピーを増やす──写本っていうのが主流だったけど、印刷技術が発展したから本も手に入りやすくなったんだよね。それでもお金の無いりっちょにとっては手の届きにくいものだったから、貸し出しが出来る大きめの本屋に行ったんだ。
そこで出会ったのはインテリ店員のジェームズ。
一目惚れ──いや一目惚れだったかな?顔そんなに良かったかな?性格は間違いなく良いと思うんだけど……いや今思い出してもそんなに未練ないわ。
そう、私が味わったのは失恋の苦味なんかじゃない。
『リッチ…さん』
『はい!ジェームズさん…!ひひ…っ!』
『申し訳ありません。私は貴女はそういう目で見てはいませんでした。ただ、この店を贔屓にしてくれる常連だと…』
『ほあ?』
『貴女の告白に応えることは出来ません…』
思春期特有の恋に恋する見切り発車!
頭を締め付ける過去の記憶!黒歴史!!
『あ、あが』
未熟な感性故の全能感!生き恥!
──羞恥心だ!!!
『それに…私には将来を誓い合った相手がいるのです』
『あがががががが!!!???』
色々な絶望を味わったこの日。
ジェームズの結婚式があったのは違う日。
蓄積した絶望が遂に爆発し、私の身体から力が放たれ──ボンビーが生まれたのだった。
おお、目を焼くほどに眩しい世界よ。
ああ、キャッキャウフフと慣れ合う健全民達よ。
──全員おなか殴らせろ。
──────────────
「ちょっとやめなよ死ぬよ!」
「珍しく良い声出したじゃねぇかリッチ。安心しろ。お前の依頼が無くてもこの規模なら排除に向かった。別に責任を感じる必要はねぇ」
「カリオストロの言う通りです。もし、今回で確実に力を取り戻したいのならリッチさんにも頑張ってもらいますが、別の機会でいいならこいつ等を消し飛ばすだけでも良いんです」
「そういうことじゃないんだよ…!人間のお二人…いや幽霊は人間と言っていいのか分からんないけどさぁ!少年とボンボンガールは腐るんだよ!星晶獣と違って腐る余地があるってこと!!」
分かってる。少年の力は腐敗の呪いに対抗できる事は分かるし、この健全グループがちゃんと対策を立ててボンビーを倒そうとしてる事も、ソロ選のりっちょですら感じ取れる。
でも死ぬんだよ。死ぬのがたった一人でも駄目なんだよ。それはもう、健全じゃないんだよ。
呪いは死を齎すものだけど、死もまた呪いを齎すんだって、りっちょを作った根暗が言ってたんだ。
『空の民は寿命故に、個体の記憶を歴史の様に継承し、託された個体は使命という感情によって技術を過度に高める事もある。感情という無駄な構成要素が進化を乱数的に齎すのだ。だが、マイナスの側面が我々の有利を未だに保ち続けている』
つまり、死は士気を落とすってこと。
自信に満ちた人や、何かを背負った人の希望を潰すんだ。他の人に託させないよう、唐突に、或いは瞬く間に──最後には守りたかったものを壊す。抗う事は許されないよね。
そしてそれは、呪い。どんな技か分からない内に死んじゃって、絶望だけを与えるシステムは、根暗にとって理想の兵器だったんだろうね。
だからさ、逃げなきゃ駄目だと思うんだ。
覚悟とか義務とか、りっちょには分からないからさ。
「ゾーイ、手早く!」
「了解した!」
そして忠告も聞かずに突っ込んでいく少年。
さっき対策を思い付いたって言ってたから、気づいているんだ。腐敗の能力は腐る事が出来る物にしか通じない。
だから、少年の盾は上手く作用するだろう。魔力は腐らないからね。
ただ、靄だからね。勿論背中から襲うことだって出来る。
だからその前に人外魔境銀髪少女が消しちゃおうってわけか。
「……どういう事だ!」
少女の光線は出なかった。
なるほどボンビーも考えたね……いや、りっちょの使い方が染み付いてるから、それに倣っただけか。
少女の剣を劣化させて脆くしてから、光線の放出する時の勢いで自壊させたんだ。辛うじて出た光線を魔力阻害で止めれば確かにあの馬鹿げた攻撃も攻略出来るか。
他のボンビーが連携で腐敗をカバーしているって事だ。ボンボンガールと艇のお兄さんじゃ両方を一気に削りきれないし。
……じゃあ、どうするのさ。
「………ああもう!くそう!なんでりっちょまで!」
自分の呪いは自分が一番知っている。
見殺しにしたいわけじゃない。でも助けたいと思うほど健全じゃない。こんなの、無理矢理良心を刺激されただけだ。
「重い腰に感謝してよ!」
致命打になり得る腐敗を押し返す。ボンビーも勿論腐らないから効果はないけど、負け筋を消すっていうジワジワプレイは不健全民のりっちょに合っている。
星晶獣のお兄さんはびっくりした顔でこっちを見たけど、少年と金髪ガールは即座に魔力阻害ボンビーを狙いに行った。火力押しが正解なら唯一の障壁がソイツだからね。
人外銀髪少女は剣を再生成して劣化を狙いに行き、腐敗にこれ以上の力を出させない様に星晶獣のお兄さんが光で苛めてる。
「粉微塵にしろ!呪いの密度的にリッチが吸収する余裕はある!」
「了解!」
金髪ガールは右手から岩石を作り出して、左手から編まれた暴風でそれを砕きながら飛ばした。まるで散弾銃だ。りっちょは呪いにしか詳しくないから自信持って言えないけど、別々の属性を即興で出して尚かつ出力調整までして組合わせるってどんな才能なんだろうね。裏技でも使ってるのかな。
そして彼女の言う通り、今の島は呪いに満ちすぎてボンビーが消し炭になっても力自体は留まる事が出来るから、りっちょが力を戻す余地もある。
…なんでそれも理解してるんだろ。
「ケーニヒ・シュタンゲ」
少年も少年で変な事をやっている。少女の牽制に気を取られたボンビーは、彼の準備を阻害できなかったようだ。
剣に盾を纏わせて巨大な棒状にした。それを保持する筋力は魔力の身体強化によってゴリ押ししてるっぽい。
持ち方は…何故か剣の柄の先端──つまり持つと一番重くなっちゃう場所だ。少年の剣はあまり大きくないけど、今の棒状態はとてつもなくデカく見える。
まさか──
「ギッ!?ガ、バ!!!?」
ボンビーが奇声を上げたが、そんな声もすぐに骨が砕ける音に変わった。
恐ろしいことをする少年だよ…。
──まさか剣を巨大な棒にして高速でぶん回すなんて。しかも、少年の筋力が恐ろしいのか、イカれた魔力量で動きを人外レベルに押し上げてるのかは分からんけど、速すぎる。物理攻撃でしかないのに、周囲は更地になりかけてる。あの盾は凄く硬いだろうから、それを纏った剣も同じくらいの硬さになる筈だよね。凶器じゃん。
「リッチさん!吸収を!」
「あ、あ、うん!」
少年とすれ違う形で動く。目の前には残った骨が微かに散らばったボンビー。文字通りの粉微塵だ。
だが、吸収を避けようと妨害してきたのは腐敗のボンビー。りっちょが吸収の為に隙を見せた瞬間にこれだよ。もしかして私より頭いいのかな?
だからちょっと無茶しよう。
「ハイそこ止まって!」
目線を合わせて金縛り。
この呪いは凄く捻くれてて、抵抗しなければすぐに解ける拘束技なんだ。寝てる時になる金縛りって、無理矢理起きようとすると疲れるでしょ?そんな感じ。
だから暴れるボンビーには効くよ。
「…多才だね」
そう呟いた星晶獣のお兄さんが腐敗ボンビーに光で風穴を開けて、ボロボロの骨に少年が棒で粉々に。
とはいえ一度も手傷を負っていなかった腐敗のボンビーにはそれなりの耐久力があったので、人外銀髪少女が劣化のボンビー諸共光で──というか波動砲で薙払って文字通り消滅した。
少年と比べて欠片すら残らなかったから、この団は銀髪少女が最もヤバいという事にしておこう。
「これで一件落着、かな」
「リッチさん。力の具合は?」
「問題ナシ。まぁ特別気分が良くなるものでもないけどさ。他のボンビーの気配もないし、依頼達成でいいんじゃね?」
「そうですね。カリオストロ、指の具合は?」
「今治す」
「え」
金髪ガールは突然魔導書を開き始め、最後のページに括り付けられていた謎の物体を指でちぎり、零れ落ちた小指の断面に押し付け始めた。
え、なにしてんの?グロくない?
「ほい」
術だろうか。手が小さく光ったと思えば、小指がまるっきり再生していた。回復魔法は使えないってさっき言ってた気がするんだけど。というか欠損は基本的に治せないです。
「持ち歩く様にしてたのか」
「
「あ、あの…何したのか教えてもらってもいいでしょうか」
「ん?ああ。オレ様の身体は傷付いても基本的には錬金術で再生…というより作り直しが出来てな。分解からの再構築って訳だ」
「錬金術…あれって物
「これは身体に代替出来る素材だな。錬金術で作り直すには素材が必要だから、普段なら身体が欠損した部位も回収しなきゃ戻せねぇんだ。だが、今回みたいに跡形もなく欠損したらどうしようも無くなっちまう。その対策だ」
「も、もしかして…君も人間辞めてたりする?」
「舐めんなよ。人間にだってこれくらい出来る」
今の空では社交的な星晶獣に違和感を覚える事は少ないから、幽霊の団長が一番の突っ込みどころの筈なのに、明らかに強すぎる星晶獣と、才能がカンストしてる少女に関心が持っていかれるのっておかしくない?
「あ、コーリス。腐敗から助けてくれた礼に、義手はタダで直してやる」
「助かる」
「危険な仕事だったね。英気を養う為に外食はどうだろう?」
「ねぇ、ゾーイが行きたいだけじゃないの?」
「ノア、断じてそんなつもりはない。たまにはどうかと言ってみただけだ。うん。正直に言えば食べたい」
「素直でよろしい。どうかなコーリス」
「久しぶりに行きましょうか。カリオストロは?」
「今日の飯当番は…オレ様か。じゃあ行くわ」
「ものぐさ」
「うるせぇ。美少女に飯作らせてんじゃねぇよ」
あ、あれ。りっちょ置いてかれる感じ?
「…………………」
ま、まぁ慣れてるし。
辛くない訳じゃないけど慣れてるし。慣れってそういうもんだし。心を殺して社会に適応する為の防衛機制だし。寧ろこっちの人間力を昇華させる為の手段だから褒められるべきだし。
あーそういう事か。
危険な依頼になっちゃったから少し怒ってるんだ。苛つきを見せないようにしてるってのが大人だよね。そういうの嫌味ったらしく感じちゃうけど、りっちょは甘んじて受け入れるよ。悪い事は悪いと認めるのも大人だからね。ボンボンで天才で金髪持ちの少女にはまだ早い心の機微だと思うケド。
でもさぁ、ここまで露骨なのはガキっぽいんじゃない?
戦闘開始前にネチネチ言われて、実際その通りになっちゃったのもまぁ恥ずかしい話だしこっちが悪いのは変わらないけどさ、健全な人間関係を築けないよね。いくら義手が壊れて、小指が落ちても………あれ、りっちょの責任重くない?
待って待っていや、義手はまだ何とかなるにしても子供の小指は流石にヤバくない?本人の余裕的に治す手段あるのは察せたから流してたけど普通欠損は大怪我中の大怪我だよね。子供を戦闘に駆り出すのは少年の責任としてokだけど、依頼内容の変更プラスイレギュラーな外傷はこっちの責任だから誤魔化せない!
あ、謝らなきゃ!!!
土下座?土下寝?倒立?三点倒立?台上前転?側転?取り敢えず恥を晒せば罰になる!?
でも嫌だよぉいつまでもへりくだって恥晒しのまま生きるなんてでもこっちから話しかけなきゃ今回は流石に責任が重くしかしイレギュラーなんていつも当事者のせいじゃなくて外的要因だから許される事も多くてでもそのケアは本人の努力次第だからいくらでもやり直しが効くしその逆でいくらでも状況を悪化させる事が出来るから諸刃の剣で今回に関してはりっちょは頑張ったから恩赦を──
「リッチさん」
「ハイィ!」
「…よければ一緒に食事でもどうですか?報酬の話し合いもしたいですし」
「……食事?君達と?」
「はい」
……おふ。ふひひ。
「行きまァす!」
見てたかお前ら!
これが健全デビューじゃぁぁぁぁぁ!!!!
──────────────────────
「で、何でああなったのぉ?」
食事は圧迫面接の場じゃないのよ。
目の前に金髪ガールと少年、横に星晶獣のお兄さんと銀髪少女。レイアウトおかしいだろ。何でりっちょが主役ポジなんだよ大して嬉しくねぇよ。
ステーキにシチューにムニエル、山みたいに積まれたご飯達。慣れた様な店員の仕草から行きつけの店らしい。大仕事の後に定期的に来てるのかな。
あと、金髪ガールの視線は厳しいのに口調がバグってる。
「りっちょにはあまり語りたくない過去があるんだよね」
「いらないよ★理屈だけ話してねっ!」
「良く分からない原理だから過去に起因すると推測するしかないのでありましてねカリオストロさん」
「じゃあ話さないとね?ここは酒場だから、恥ずかしくても他のうるさい声で誤魔化せるよ!」
譲らねぇなこのガキ。
すると、パンとシチューを行儀よく食べてた少年が口を拭いてから喋りだした。
「これは毎回ですが、カリオストロの言葉に意味はあります。リッチさんを追い詰めたい訳じゃないんです」
「そうなのかなぁ…もう食べるタイミングを失ってるんだけど」
「あれれ?頼んだ料理はまだ来てないよね?まだお話出来るよねっ?」
「これ圧だろ」
「カリオストロ」
「いやんっ!怒られちゃったぁ……」
今分かったわコイツ子供じゃない。
星晶獣や星の研究者よりもっと恐ろしい悪魔みたいな女が中に入ってるんだ。どうして気づかなかったんだろう。さっきの錬金術見れば人の身体作る事なんて簡単だろうって分かる筈なのに。
何よりこんなわざとらしいガキが存在して欲しくない。
少年、離れろ。コイツはヤバい奴だ。りっちょなら全力で逃げるね。危機察知を潜り抜けて来るタイプの悪魔だよコイツ。
「申し訳ありません。今回の様な規模の呪いが各地に潜む可能性を考えると、原因から聞いた方が良いのではないかと思いまして。空域の治安維持に尽力するのが黒騎士としての役割ですから」
「……分かったよ話すよ。話さなきゃ監視対象でしょ?」
「勿論、原因の解明が出来なければ意味がないよね。最低限これ以上分身を増やさないっていう証明が欲しいかな」
逃げ場が無いっていう話ですか。怖いねこの人達。
星晶獣のお兄さんは唯一心配そうに見てくれるけど、銀髪少女は気にせず食いまくってる。ご飯の山が8割抉られてるよ。
まぁ、恥ずかしい黒歴史だけど。慣れておかなきゃ一生ボンビー狩りの日々になりそうだし、この人達は積極的に解決してくれそうだから話してもいいね。
「……言いたくない話だから、派手に笑い飛ばすかスルーしてね。真摯に受け止められるのが一番効くから」
そうして私は酒場の喧騒サポートを受けながら、渋々黒歴史を語り始めたのだった。
──かくかくしかじか。
──5分後。
「ボンビーが生まれた時は、その、力が抜けたというより、自分で放出しちゃったって感覚だったかな。勿論無意識」
「……………わぁ」
5分で終わるよこんな話。
男に振られてボンビーが生まれました、という話に当時の感覚を付け足しただけなんだから。あっさい話ですよ。
案の定金髪ガールはドン引きしてる。
多分ね、この子は合理的なタイプだから分かったんだけど、この困惑はりっちょに対してじゃない。兵器として作られた『リッチ』の挙動もしくは創造主に対してだ。
確かに星の研究者達を知ってる私からしてもおかしな話だよね。星晶獣なら暴走する事はあるんだけど、自分の知らない力までぶちまける程人間らしくない。りっちょはこう見えてちゃんと機械として扱われました。
唯一の親友にも嘘だと疑われたくらいだ。
「星晶獣の暴走はね、元々持ってる力をコントロール出来なくなっただけだから、空の人みたいに覚醒なんて言葉では表せないのよ。だからこそりっちょの予期しなかった結果に終わったのは違和感だよね」
「僕も恥ずかしながら暴走した事はあるけど…そうだね。元々そういう事は出来ると分かる筈だから、リッチのケースは不可解だね」
「どう思います健全でカワイイカリオストロさん?」
珍しく考え込んだ少女に結論を聞いてみた。
星晶獣にも人間にも分からないなら、悪魔に聞くしかないでしょ。もう人間扱いしないからねクソガキ。
「残酷な事を話す。いいか?」
「え、うん」
シリアスになってる。でも解決するなら聞くよ。迷惑モンスター扱いされると生きにくいからね。
「星晶獣は能力を滞り無く行使する為のパーソナリティを保有している事が多い。それはお前等の創造主がそうなるべくしてシステムを組んだのか、後天的に形成されたただの人格なのかは分からないが、少なくともイレギュラーになり得る設定にはしない筈だ」
「そだね。急に弾丸が曲がりだす銃なんていらないもんね」
「そうだ。だからその分身能力自体はわざと備えられた物だと思った方がしっくりくる。当人も知らないなら敵が察する事も無理な呪い──覇空戦争でお前への対策が進んだ場合の初見殺しだな」
「…じゃありっちょが不健全民なのも?」
「不健全…?まぁ、根暗で被害妄想癖があるのは…他人を呪いやすい様にだろ。だが星の民も感情というものを正しく理解してなかったのか、お前はちょっと面白くなっちゃったな。自己肯定感を低くしすぎたのか他人への害はあまりない」
「褒め言葉…じゃないよね。鬱憤が溜まるような性格で作られたとして、最後の最後で呪いが爆発するように仕組まれた事も含めてこの能力ってこと」
合点はいく。りっちょ達はあくまで兵器として作られたし。そのジレンマで発狂するか暴れて封印された同胞がいるって話も聞いたことあるし。
その不完全さは星の人達が感情豊かじゃない事が原因なんだと思う。
「じゃあ、次はその…何故振られたタイミングで分身が生まれたのかについてですね」
「少年に経験はおありで?」
「小さな時には告白する勇気も無かったもので、一生の後悔はあります。だからリッチさんの事を笑うつもりはありませんよ」
「助かるぜ少年。振られた話をした時に爆笑したガールが目の前にいたもんでさ。分身出した瞬間困惑に変わったけど」
「誰だって引くだろ」
そのとおり。くたばれ。
「俺が個人的に思ったのは、精神的なショックとか能力の行使が不安定になったとか、そういう物ではないんじゃないかって事です」
「故意にやったって事?」
「発動条件がある上で、無意識なんじゃないかって意味です」
「……確かに条件が無いと、さっき言ってたみたいに切り札の呪いとして使えないかもしれないな。リッチが知らない条件を設け、かつ重要な時に発動できるもの、か」
なんか二人で話してるけど、りっちょ分かんない。
本当にあの時はショックだったんだ。恥と自信の喪失がごちゃまぜになって、過去を消し去りたくなって、それが出来ないから自分を知ってる他人全員の記憶を消したくなって、何もかも叶わないから健全さを憎んだ。
「ねぇ、リッチ」
「なに、星晶獣のお兄さん」
「その時、どんな事を思ったの?」
「……誰かに何かを思ったわけじゃないよ。矢印は自分かな。今すぐ消えたいっていう願望……あ、でも…こんな恥ずかしい自分がいる世界なんて嫌だって思ったのは、事実。それについては周りに向けた感情かもね」
「なるほど」
合点がいったと手を叩いたのはおかわりすら食べ尽くした銀髪少女だった。
「君は世界を呪ったんだ」
………。
「あ、それ正解かも」
唐突な正解と同時に、私が頼んだ特製巨大ステーキが運ばれてきた。
食べる空気じゃないよ…と思いきや案外気分はすっきりしてて、問題なくフォークとナイフを手に取れた。
「ごめん、お腹減った」
「どうぞ」
「ども」
苦笑いの少年がエプロンを取ってくれたので、甘んじて受け取る。
落とし物を発見した時みたいな気分だ。
確かに、私が健全に歩めない世界を憎んだのは事実で、戦争中のケースでもしっくりくる結論だ。負けそうになったら100%他責して恨み節を吐くし、理不尽だと八つ当たりするだろう。そうなればボンビーも生まれそうだしね。
「でも結構ひどい話だよね。うまうま」
「発動条件がか?」
「全ての兼ね合いだよ。人を恨みやすいように陰湿な性格にして、ここぞと言う時に世界に八つ当たりして呪いを撒き散らす設計にしてたって事だよ?」
「案外、呪いは理不尽であるべきという創造主の"プライド"もあったのかもな」
「それ確かに。星の人達って感情の起伏が無いだけで空を見下しはしてたしね」
それ初耳だぞと、少年は目を見開いた。
会った事無いだろうしね。覇空戦争を知ってると中々面白いもんでさ、そこそこ自由なタイプの星晶獣は創造主に忠誠を誓う事はあまり無かったんだよね。勿論星側に残った奴もいたけど、それは責任感とか作られた理由でモヤモヤを引きずってるだけだから、なんというか…星の民って身内から嫌われてるんだ。
りっちょからしてもどうでもいいし。
「君の精神は強いな」
「は?」
銀髪少女がしとしと話しかけてきた。
りっちょのメンタルが強いと。それ煽りか?
「今なら喧嘩も買うよ」
「本心だ。カリオストロが先程示した残酷な事とは、君の人格と能力はプログラムされた物かもしれないという考察で、今日まで悩んだ分身も最初から仕組まれた──君が兵器そのものと扱われた証の様なシステムという結論になってしまったんだ」
「事実だし、星晶獣は兵器だよ」
「君の今の思考も、元は能力を起源とする副作用の様なものだと言われて、大丈夫なのか?」
「もう自由だしね。人生観を変える余地は残ってるでしょ…知らんけど。命令も無いし、世界に八つ当たりしなければボンビーも出ないんでしょ?なら好き勝手やれるしさ」
自己の在り処を考える程悩みがある訳じゃない。
健全民のキラキラした感じは今でもイラッとするけど、ブッ殺したいなんて思わないよ。戦士系の星晶獣の方々には本当に申し訳ないけど、りっちょにそんな本能無いです。
あ、自己肯定感は低いんだっけ?
…自分を嫌いな訳じゃないんでしょ?よくね?
変わりたくて、それでも自分の星晶獣としての性質から逃げられない奴は気の毒だけど…。
「戦争終結後の兵器なんて捨てられて終わりでしょ。ならこっちはこっちで勝手にやるし、使命なんてもう無いよ。少なくともりっちょにはね」
「………君、凄いな」
「照れるね人気者は」
しっかし、やけに美味しいステーキだ。
─────────────
「ほい、お金」
「はい。確かに受け取りました」
「良いの?迷惑の詫びとして上乗せしても良いくらいには気分良いんだけど」
「そこで申し訳なさを出せないから不健全なんだよリッチさん★」
「一族単位で呪ってあげるね」
「きゃー!カリオストロの大切なヘルメス錬金術学会には手を出さないでー!」
「邪魔な組織を呪わせるな!」
少年が金髪ガールを止めた所で、改めた此方に向き直った。
「元々危険への対処を無償で…というか義務として行うのが黒騎士なので、その礼は必要ありません」
「甘えるけど、後悔しない?」
「しません」
無欲さって健全かな。時と場によっては不健全だよね。
「りっちょはまたボンビー探すけど、一人でどうにもならなかったらまた頼るかも」
「此方から発見した場合はリッチさんに伝えた方が良いですよね?」
「お願いするね。りっちょいないと無限湧きするし」
言いたい事は言ったかな。
元々ボンビー退治だけの予定だったのに追加の収穫があって、なんか気分良くステーキまで食べちゃったしさ、久し振りに良い事あったって感じかな。
あとは…あ、これだけ言っとこ。
「少年ちょっと耳貸して」
「はい?」
お節介かな?
「あの銀髪少女さ、ずっとりっちょの事羨ましそうに見てたよ」
「………嘘ですよね」
「オイそれ失礼だろ」
「すいません…」
「はぁ…それでさ、明らかに悩んでるっぽいよ」
「それは…最近の問題でもありまして」
「あ、そなの?でも星晶獣にしては初歩的な悩みだよね。戦争終結から400年経ってるのに、まだ悩むかな?」
「どういう事です?」
「ん?役割と矛盾した感情持ってるって事でしょ?創造主に抗っていいのか、個として生きていいのか、あとは空への贖罪とか?」
「……………」
「何にせよ、銀髪少女はちゃんと生き物してるから心配しなくていーよ」
「──ありがとうございます」
「何急にかしこまって」
一段と深い礼をされて驚いた。星晶獣なら誰でも通過する精神状態だから普通のアドバイスなんだけど…。
そうして依頼達成後の手続きを終えた私は、あの騎空団の艇とは別に宿に向かって歩き始めた。
「満足したのっていつぶりだっけな」
一人だけ友達はいるし、楽しいという感情を封印してた訳じゃないんからね。
それでも日々のしこりは残ってた。ボンビーがどれだけ暴れて、最終的にりっちょの力だってバレたらどんなに賠償金が必要か……そのせいで5分くらい睡眠時間が削られてきたよ。
「ま、会えるでしょ」
あんな人外の集まりだ。不健全だからジメジメ何百年も居座りそうだし…次の再会はいつですかね〜。
「お、一人部屋空いてんじゃーん」
足取り軽し、幸先良し。
パーソナルスペースの侵害無し。
不健全サイコーだね。
リッチ
・星晶獣にしてはメンタル強い方にしか思えない。
・ゲーム中の性能もそうだけど、多数の分身それぞれが星晶獣に間違われるレベルの強さはヤバい。
コーリス
・世界を憎んだリッチへの苦笑は、それを自分と照らし合わせたから。
ケーニヒ・シュタンゲ
・壊れない武器を前に考案された暴力。剣に盾を纏わせる事で巨大な棒を作る技。全身を魔力で強化する事で、コーリスの剛力と相まって高速で振り回す事が可能。相手が防御に長けた星晶獣でなければ大半は正面から砕く事が出来る。
・考案者はコーリス、ゾーイ、カリオストロ。カリオストロが打撃用の棒を作ればいいと促し、ゾーイがデカくすれば良いと促し、コーリスが身体を強化してぶん回せば勝てると確信したのが流れ。ノアは冷や汗を流した。
ゾーイ
・何かが刺さった。