幽々の空、灰暮れに   作:魔愛暴導富

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10.霞のように朧気で、暖かく

 リュミエール聖士官学校は三年間の登校が求められる。

 集められる人間のその年に11になる者である。

 

 ファータ・グランデ空域には【城砦都市アルビオン】という名門の士官学校を有する島があるのだが、そこの生徒達はやがて領主になるべく武術大会で競い合い、勝った者は一生その島から出る事は出来ないという情報がある。

 領主では無いものの士官学校を卒業した生徒達は各国で活躍すると約束される程の名門。

 内容としては充分だが、領主としての扱いが呪いのようで、近付く人間は数少ない。

 そして、リュミエールの士官学校の生徒達は年齢が低い。

 ファータ・グランデ空域では、最低13歳から軍への起用が認められており、大体国毎に年齢が決められているが、リュミエール聖王国は13歳からでも聖騎士団に入る事が出来る。

 と言っても、雑用とまでは行かないが危険な仕事は一切させられない。

 

 そんな安全第一を謳うリュミエール国の士官学校。

 

 一年目には戦術、陣形、騎士としての精神が叩き込まれ、半年以上もの時を経て自らの武器を持つことを許可される。

 

 二年目には実践経験を重視され、一対一による決闘演習を行い、犯罪者に対抗する為の対人技術を育む。

 聖騎士は騎士とは違う。

 魔物の討伐よりも人間の平穏を望む。民に害を与える要素を打ち払うのが聖騎士なのだ。

 

 そして三年目。

 ここで彼らは真の意味で聖騎士となる為にある催し物に注年しなくてはならない。

 

 ───エル・グロリアス。

 

 卒業試験という訳では無い。

 士官学校で培った力を発揮する場として設けられた大会。

 実剣と魔法を使う事を許可される正真正銘の決闘。

 トーナメント戦で行われるそれに優勝したならば、若年にして多量の名声を得るだろう。

 

 何故か? 

 理由は明白。このリュミエールを統治する聖王が閲覧する事になるからだ。

 

 リュミエール聖騎士団に所属するのにも苦労は掛からない。そのくらいの評価を受ける事になる。

 それがエル・グロリアス。

 さらに、その出場権を得るのは8人のみ。士官学校の教師を担当した者が審判を務める為、危険とみなした場合の判断が早くなる事もあって安全性がある。

 

 聖騎士の一歩は騎士団で踏みしめられる物ではなく、この島に来てから既に始まっていたのだ。

 無論、士官学校を卒業しなくても聖騎士団には入れるので、最終的には聖騎士団の入団試験に委ねられる訳だ。

 

 開催時期は三年目の3月。

 リュミエールと密接な関係にあるヒュードラッへの騎士団長、リュミエール聖騎士団長、アルビオンの貴族階級の人間達までもが見に来るこの大会。

 開会式はたった今行われていた。

 

 

「──諸君らは未だ卵。しかし何者にも勝る純金」

 

 

 聖王の声が高らかに響く。

 目前には祈るように姿勢を正す生徒達の姿がある。これから正義の道を進まんとする勇者達への細やかな激励。

 

 

「──さればこそ、その身を更に磨き……この世界の宝となれる様精進せよ」

 

「「「はっ!!」」」

 

 打ち合わせの必要も無く、小さな戦士達は声を揃えて応える。

 

 数年の苦楽を共にした仲間達は今を以って最大の弊害と化す。

 ここに開会式は終了し、トーナメント表が配布される事になる。誰が相手かなど祈る者はいない。全力を出すまでの戦いで相性での憂いなど不要。

 

 ある者は多大なる自信と誇りを持って。

 ある者は自身の誇りを守り抜くと誓って。

 

 

 英雄譚──末章の幕開けだ

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 ──誉れ高い。

 

 

 不思議と心に定着した感情はそれだった。素直に嬉しかったのだ。自分の成果を存分に吐き出す事が出来る事。

 実力だけで無く、騎士の振る舞いを求められる上での選出。

 規律を破り鉄剣で戦った時もあったが、死ぬ気で評価を取り戻した為、実力点多めで選んでくれたのだろう。

 

 今までの修行。

 トラモントでは褒められた物であったが、結果的に村の役に立っていたか。ただの自己満足では無いか? 

 迷う事は多々あった。

 

 士官学校で友を得、互いに高め合って初めて実感する意義。唯の素振りでは得られない誇り。

 誇りとは自己満足の極地では無いかと言われる事も少なく無い。

 それでも自己の顕現として人に必要な物なのだろう。

 

 自分にとって有利な条件を作り出す霧。

 この魔法が助けたのは自分だけだ。他を助けた事は一度たりとも無かった。

 その為に座標の指定、魔力の調整に力を入れ、独自の防御魔法を作り出す事が出来た。

 或いはスルトとの対比になりたかったのかもしれないし、皆と比べ唯一無二の人間になりたいというエコなのかもしれない。

 

 悪を打ち払い民を助ける騎士がいるのならば。

 

 民を守ってから悪を受け止める騎士がいたって問題ないだろう。

 

 

「……」

 

 

 自分は一回戦目……か。

 相手は水属性使いのエルーンの女性。素早い動きが特徴のスピードファイターだ。

 

 試合開始まで30分程時間があるので、瞑想でも行おうか。

 

 と、思っていたのだが。

 

 

「最初からか、精が出るな」

 

「む。そういうお前は最後尾か、スルト」

 

「お前の相手は?」

 

「ロイス」

 

「ん……疾いのが来たな。風属性じゃないのが珍しいくらいの」

 

「そっちの相手は」

 

「……デルジ」

 

「……ドラフだな」

 

「ドラフだ」

 

 

 スルトは少し青い顔をして苦笑する。

 半年前の訓練の罰が余程トラウマになっているらしい。火を掻い潜られて腹パンを食らった経験は苦味しか無く、巨体を相手取る事を嫌っていた。

 

 そう言う此方もエルーンの刺突を全身に受けて悶絶した経験があるのだが……。

 

 兎にも角にも、戦闘技能を備えたエルーンは疾い。

 イメージトレーニングをしておくに限る。

 

 ロイスは細剣による刺突に水を纏わせて威力を向上させる戦い方をする。

 剣に満遍なく魔力を行き届かせる為、流麗にして俊敏。弱点は存在せず、つけ込む隙を与えない。

 ならば、剣技に重点を置く。

 

 ──刺突……いなし、斬り込む。

 

 ──大振り……避けて打撃。

 

 ──魔法……避けるか壁。

 

 

『決めた』

 

 脳内で今回の戦いの重点。その三要素を詰め込み、自分の剣の鞘を撫でる。

 剣の打ち合いなれば、剣の損傷も念頭に置いておくべきだが、鞘も打撃に使えなくは無い。

 しかし、騎士という振る舞いを求められる中で鞘での掠め手は卑怯卑劣。

 

 リュミエール聖騎士団のモットーは『清く、正しく、高潔に』。

 うむ。自分で選んだ道ながら小難しい物だ。

 傭兵の方がよっぽど楽かもしれない。

 

 加えて戦いそのものを視認しづらくする霧も使いづらい。

 これが魔物相手ならば無双出来たかも知れないが、対人は苦手だ。

 

 どうしたものか……。

 

 む。時間だ。遅刻したら相手の不戦勝となってしまうので行かねば。

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 一回戦開始の時間が来た。

 

 決闘場には何も特別な物は置いておらず、規則正しい球形の広場で二人が対面しているのみである。

 真ん中には審判役の教師。

 

 彼はコーリス達の教師である。生徒達の情報を知り尽くしているからこそ、()()()を回避する事が出来る。

 

 彼は普段の気怠けな表情を完全に飛ばしながら、声を張り上げる。

 

 

「──両者!」

 

 対面している二名は声に反応し得物を胸に構え、天に切っ先を向けるように持ち変える。

 この大会には外部の武器の持ち込みは禁止されており、当然個人的に防具はつけられない。

 

 リュミエール聖士官学校のブレザーのみである。

 軽装ではあるが、彼等には鎧よりも重い誇りがあった。

 

 剣を構える姿は天に祈りを捧げるかのよう。

 または自らの精神を統一しているのか。

 彼等自身にしか心情は分からないが、国王達の目には昔騎士を目指すだけの彼等は映っていない。騎士となった彼等を見ているのだ。

 

 

「──コーリス・オーロリア」

 

「──ロイス・モクラレル。世を清める聖水の如く華麗に戦います!」

 

 

 名乗り。

 礼儀として名前を言うだけでも良いし、自らの心を奮い立たせる為に信念を口にしても良い。

 

 そんな彼等だが、最後に言う言葉は必ず一つ。

 

 

「「いざ、尋常に……」」

 

 

 1秒後の衝突。

 それに備え、誰かが息を飲んだ。そして、

 

 

「「勝負!!」」

 

 

 戦いが幕を開けた。

 

 

 

 ───────────────────

 

 

 

 響くは金属音。

 地面を駆ける流水と霧。

 

 一速も乱れぬ剣技の応酬。

 この場の誰かが、美しいと言った。

 

 

 

「せいっ!」

 

「…………!」

 

 

 細剣による刺突の5連撃。彼女が繰り出した剣技は常人には視認できてもその場で避ける事は不可能と悟った。

 コーリスは一撃目をなんとか見切り避け、二撃目を剣に当て逸し、三撃目以降を後ろに飛ぶ事で回避。

 

 飛んだ後に追い打ちが彼に迫るが剣を地面に突き刺し相殺。

 そして剣の柄を持ったまま身体を捻りながら飛び、相手の脇腹に回し蹴りを当てた。

 

 エルーンとは獣の性による生活か身体機能の側面なのか定かでは無いが、俊敏でしなやかだ。

 走れば疾く、攻めれば鋭利な矛となる。

 毎日柔軟を熟さなければ硬くなる男の身体でも、エルーンの習性は適用される。

 

 無論、男女の筋力差は考えるまでも無い。

 

 

「がはっ」

 

「っ……」

 

 渾身の一撃だったのだが、水を纏った剣の腹で受け止められた事により足に鈍痛が走る。

 だが、相手も金属を伝わってダメージが届いたようで、体制を崩すまでの攻撃は出来たようだ。

 

 そして彼女は笑う。

 

「今日は、随分、と。豪胆ですね……」

 

「……」

 

 

 未だ痛みが抜け切っていない腹部を抑えながら一言一句迷わず言葉は紡がれる。

 

 コーリスは何か心に引っ掛かる事がある様で、その言葉の続きを聞いている。

 

 

「今までの貴方なら……魔法を使って受けの姿勢を保っていた筈ですが」

 

「姿形が見えない決闘など見世物にもならんだろう」

 

「なら、これは手加減なのですか……?」

 

「いや、それはあり得ないな」

 

 手加減では無い。

 霧で感知する戦法を使っていたとしても軸となる剣技が必要。数々のクラスメイトを屠っていた剣技と互角の彼女はコーリスと渡り合えていると言っても過言では無い。

 

 それを悟ってか、ロイスは花が咲いたような笑顔を見せた。

 

 

「──良かった」

 

「む?」

 

「散々打ちのめされた相手と渡り合えていると実感すると……努力が報われた感じがしますね」

 

「そうか」

 

「それに、貴方はやりづらそうですし」

 

「何故そう思う?」

 

「表情に出てなくても分かりますよ。エルーン同士のシンパシーとでも言うのでしょうか? 心なしか耳が垂れているように見えます」

 

「……逆にお前は真っ直ぐに立っているな」

 

「ええ。本調子なのでッ!!」

 

 

 ここからが本番と言わんばかりにロイスは剣に水を纏わせて地を這うように薙ぎ払った。

 

 

 ──速すぎる! 下、右、ひだ……違う! 

 

 

 フェイント混じりの刺突斬撃はコーリスを焦燥に駆らせ、彼の動きのキレを奪っていく。

 剣自体から逃れようとするならば高密度の水を発射しわざと回避させ体力を奪う。

 

 対してコーリス。

 逃げるだけでは拉致が開かないと判断したのか接近戦に持ち込む。

 だが、彼女にとって近接の高速戦闘は望み通りの展開。

 

 先程と何一つ変わらない展開が始まり、コーリスの体力低下による敗北の一矢が刻まれるかと観客の誰もが思ったが……。

 

 

「……?」

 

 彼女が感じ取った異変。

 それはコーリスの剣に霧が纏わりついているという事。

 

『コーリスさんは何を考えている……?』

 

 霧を広範囲に撒き散らして戦いを掌握するのは彼の得意分野だが、剣に纏わせる程度の範囲では懐に入っても感知されないではないか。

 

『いや……何か一つ盛り込んでくる。霧に何か違う魔法を混ぜて攻撃に転用……? 防壁に使う目くらましか。それとも見栄えを気にしての極小範囲使用?』

 

 

 余分な考えが過り──捨て去った。

 どちらにしろ剣による戦闘は避けられない為に、全力で五連……否、八連撃を繰り出した。

 

 予想通りコーリスは剣で刺突を受け……彼女は過ちに気が付いた。

 その時には既に遅く、剣筋が綺麗に明後日の方向を向いていた。

 

『しまったしまったしまったしまった!!!』

 

『剣より先に霧に触れたら剣の軌跡を晒すのと同じじゃない! コーリスさんの反応を見るに彼は剣しか感知していない!!』

 

 剣に霧を纏わせると言っても、剣の周りに霧が発生する訳だから、剣の打ち合いには先に霧に当たる事になる。

 霧を突破するまでの僅かな感覚をコーリスは読み取り、打ち合いになる筈の剣を逸らすことで高速刺突の連続を消す事が可能。

 

 彼女は逸らされた剣を持つ腕の痺れを感じとり、がら空きの左手で水の塊を作る。水の塊は空間に固定されたかのように配置された。

 隙を突いたコーリスが振り下ろした剣に水の塊が直撃し、剣の威力が半減する。

 

「はぁぁ!!」

 

 剣の方向を立て直し、渾身の力でコーリスの身体を狙うが、ブレーキは掛けられるようにする。

 細剣の刺突は簡単に人の身体を貫通してしまうので、寸止めして相手に負けを認めさせる事が重要だ。

 

 だがしかし、コーリスの剣に触れなくても霧に触れた時点で彼には既に剣速が()()()()()

 

 

「しィッ!!」

 

 

 コーリスは驚異的な反射速度で身体を捻り、寸止めされる筈の刃が目と鼻の先に来る直前に避け、逆に彼女の首筋に長剣の刃を充てがった。

 

 

「はぁ……はぁ……!」

 

 

 この間正に二分も無い。

 超人的な速度で戦った二名は、今しがた戦いを終えた。

 

 

「此方の……負けです」

 

 

 諦めが付いたような表情をしながらも彼女は気が晴れた様だった。

 前日から続いた緊張が解れ、お互い全身の力が抜けている。

 

「……最後の一撃。見事だった」

 

「普通に()()()()じゃないですかー」

 

 

 ロイスは文句を言いたげに『ぶー』と呟く。

 最後の一撃。

 それはコーリスが避けた全力の一振りではない。

 

 

 

 

 避けた後のコーリスの腹部に向けられた、水の斬撃だった。片方の一撃に全力を掛けながらも背面から左手による奇襲もかけていた。

 だが、それは彼の防御魔法による防壁で防がれている。

 

 間一髪の防御。

 故に手の平サイズにしか拡大されておらず、防壁は掌から発せられる為、反射的に手でガードしたという訳だ。

 恐らく相打ちに持ち込み引き分けを狙ったのだが、完全なる受けを持つ彼には一手及ばなかった。

 

 

「勝者、コーリス・オーロリア!!」

 

 

 迎えるは両者への労いを表す歓声と拍手。

 剣を向け合った二人は鞘へ納め、コーリスが手を差出しロイスを立たせる。

 観客は皆一瞬の攻防に興奮を隠しきれていない。

 

「いてて……」

 

「大丈夫か?」

 

「脇腹が痛いのと……最後のコーリスさんの顔が殺気立ってて腰が抜けてしまいました……肩貸してくださいよー」

 

「まあ、構わんが……」

 

 

 肩を組み歩き出す彼等に教師であるリエスが近づき講評を述べる。

 

 

「お二人共。お疲れ様です……」

 

「なんか疲れてますね……」

 

「普段上げない大声を出すと疲労感が出るんですよ……あー怠。ま、取り敢えず講評行きますかー」

 

「あ、はい」

 

「まず、コーリスさんですね。瞑想してた割には本番にバタついてましたね」

 

「……」

 

「まぁあれだけ速い刺突なら臆しても仕方のない事です。剣に霧を纏わせる機転、そして油断をせずに奇襲を防御。エルーンだからと一括に出来ない反射神経をお持ちのようですね。いや、貴方の場合は鍛えたというべきですか。取り敢えず60点くらいです」

 

「ありがとうございます」

 

「そしてロイスさん。思考の隙を与えない刺突の練度、魔力と剣技の併合による逃げ場消滅スタイル。慈悲も容赦も無くて結構。しかし終盤で焦りましたね。彼を先に追い詰めようとする点は評価しますが、彼に戦闘スタイルを見せすぎたようです。最終的に読まれ打ちのめされましたね。奇襲はバッチリでしたよ。えーと……75点くらいですかね」

 

「ありがとうございます!!」

 

「ロイスさんは休む事。コーリスさんは次へ向けて反省しておきなさい」

 

「「はい!」」

 

「では」

 

 

 そう言ってリエスは二回戦の用意をしに持ち場へ戻っていった。

 ど真ん中の決闘場から出る為の通路を二人は歩く。

 

 その途中でロイスは言いたい事があったらしくコーリスと話している。

 

 

「いやぁしかし」

 

「ん?」

 

「貴方の雰囲気は変わりましたねぇ」

 

「何だ藪から棒に」

 

「いえ、入学当初から変わったと。あの時の貴方の言葉は目の前を真っ暗にさせる夜空のように冷たかったです。あいも変わらず今も(かすみ)のように朧気で伝わりにくい言葉遣いをしますが……なんて言うのでしょうか……相手への気遣いというか身体を包み込む暖かみがありますね」

 

「……実は詩人志望?」

 

「そんな訳ありませんよ! こんだけ努力して来たんですし……負けましたけど。ま、夏に馬鹿やってラーメン食べ過ぎたのがいけないんですかねー」

 

「ラーメンのせいにするなたわけっ!」

 

「イタ、イタタタタタ!!! ちょ、私女ですよ!? 髪を引っ張る必要がありますか! 折角腰まで伸ばして……飴色と評判で人気だったんですからねぇ!!」

 

 

 髪を離したコーリスにギャーギャーと抗議する彼女。

 スルトと喧嘩する何時もの彼とは違い、今は楽しそうな状況だ。

 同種族の関係か、彼女とは馬が合ったらしい。

 

 

「俺だって滅多にない銀……いや今思えば灰に近いな……。取り敢えず、注目を浴びていたぞ」

 

「へん! 男の華奢さに何の価値がありますか! エルーンは比較的スラリとしていますから見た目が良いのは当り前なんですよ」

 

「それ男ドラフの前で言うなよ。俺が殺される」

 

「でも女子ドラフはムキムキが好きじゃないですか。やっぱり同種族が惹かれ合うように世が形成されてるんですね」

 

「なんか冷めてるな……お前」

 

「生まれてこの方恋愛感情抱いたことないのですよ。貴方も同じでしょう?」

 

「うーん確かに」

 

「将来騎士職が恋人なんて言う残念な人間に育ちますよ私達は」

 

「それは嫌だな……」

 

 

 言いたい事を言い合い彼女と他愛もない会話をした。

 待機室と観客席への道が見えたら肩を貸すのを止めて、一旦配置されているベンチに座らせる。

 

「客席まで送るか?」

 

「いえ、少し休んだらゆっくり上がりますよ。スルトさんの戦いも気になりますから」

 

「なら、俺は行くぞ」

 

「はいはい。あ、スルトさんとの試合、頑張ってくださいね」

 

「……? 次は違う相手だが。それに奴と当たるとしても決勝戦だ」

 

 

 予選でのコーリスは最初の試合。

 スルトは最後の試合に当たっている。

 当たるとしても決勝戦、彼等が三度目の戦いに足を踏み入れる瞬間だ。

 

 違和感のある激励に首を傾げるコーリス。

 それに対しロイスは緩やかに笑う。

 

 

「どうせ貴方達はぶつかり合う運命にあるんですよ。それに」

 

「それに?」

 

「私はクラスで三番目に強いんですよ? それに勝ったコーリスさんはスルトさんに当たって当然です」

 

「……それは自己評価か? それとも大衆が認める評価か?」

 

「どちらもです。自信が無ければ騎士なんてやっていけませんよ」

 

「ああ、違いない」

 

 

 結局、彼女の腰が回復するまで話し込んだ二人だが、観客席から迎えに来た友人に話している姿を目撃され、関係性を疑われたのは別の話。

 

 

 当然、二人はサバサバとした友人関係であり、恋愛感情を微塵も沸かせていない。

 気が合う二人が好き勝手呟いているだけの下らない会話である。

 

 そして気が付いたら二回戦が終わり、両者の戦いを分析出来なかったコーリスは一つ落ち込むのだった。

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