幽々の空、灰暮れに   作:魔愛暴導富

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19.座

 猛りがあった。

 何人をも寄せ付けぬ熱があった。

 

 だが──

 

 

 

「次」

 

 

 

 空気を支配する"凛"が座しているからには、熱も冷めるだろう。

 

 

 

 

 

 ──────────────────

 

 

 

 

 

 リュミエール聖騎士団の朝は早い。

 そして、青いのだ。

 入団したばかりでは何処を向けばいいのか分からない新人達は、風情を理解する為に二年間の研修へと移る。

 

 そして、研修には必ず目付け役が必要だ。

 聖騎士団長と二人の引率の合計三人が新人の育成に携わるのだ。

 その二人の引率とは一年間の周期で入れ替わる。

 

 今回の引率は……

 

 

「コーリス・オーロリア、到着しました」

「ロイス・モラクレル、到着いたしました!」

 

 因縁多きエルーンコンビである。

 

 そして、新人達を引き連れた二人に返答するのは聖騎士団長。

 中央に佇み凛とした金色の髪を靡かせる優男。

 

「む……今回の引率はお前達なのか」

 

 

 ルクス・ベルバレク。

 若くしてリュミエール聖騎士団を統治する──最強の男である。

 

 

 

 ───────────────────

 

 

 

「コーリスにロイスか……スルトは来年か?」

 

「恐らくは任務に駆り出されるので引率に有り付く暇は貰えないでしょう」  

 

「そうか……いや、スルトがいると俺が楽しんでしまうからな。珍しく骨のある奴だ。俺と5分間戦い続けられたのはアイツが初めてだよ。で、さっきから黙っててどうした? コーリス」

 

「まさか暇じゃないのに駆り出されて不貞腐れてる訳じゃないですよね〜?」

 

「……俺の事はいいでしょう。彼らが置いてけぼりを食らってます」

 

「ハイッ! いじけ確定〜!」

 

「………………」

 

「そこまで、だな。確かに彼らを無下には出来ない。お前の言う通りだ。では、改めて自己紹介をしようか。俺はルクス・ベルバレク。リュミエール聖騎士団団長をやっている」

 

「本隊所属、第一部隊のロイス・モラクレルです! よろしくお願いしますね! 皆さん」

 

「コーリス・オーロリア。遊撃隊所属、作戦実行部隊に今は属している。よろしく頼む」

 

 一泊置いて

 

 

「「「宜しくお願いします!!」」」

 

 

 自分達もそうだったと懐かしい顔を向けるコーリスとロイス。

 3人とも帯剣しているが、鎧などを着用せずに篭手や脚絆で済ませている。その為何時もは兜で隠されている顔が明らかになっている。

 

 

 二人とも決闘から5年経っているためか、もしくはエルーンの為か凛とした顔付きになっている。

 大人び、端正な顔付きはエルーンの特権とは良く言ったものだ。ヒューマン基準で言えば美顔が並んでいると形容していいだろう。

 しかしエルーン基準で言えば普通の顔付きなのだ。

 

 

「この二人は君達の引率として騎士団のノウハウを叩き込んいくが、俺は違う。聖騎士団団長は忙しい……だから一定の周期・時間にしか関われないだろう。悲しい事に新人の進化を目の前で見ることは叶わない」

 

 これも言われたなぁ、とウンウン頷く二人。

 団長が説明している隙にこれからの事を確認する。

 

「確かこの後は団長は解散して、俺達が施設の紹介をするんだよな?」

 

「はい、そうです。手筈だと訓練風景を多少見せる時間がありましたけど、まぁ私達がされて来た様にやっていけば良いと思いますよ〜。問題児もいなさそうですし」

 

「いや、本性は武器を持てば解るものだ」

 

「遊撃隊で得た経験ですか?」

 

「ああ、対人が増えたからな。多少の才能がない限り武器種は本人の性質に依存する」

 

「私は?」

 

「お前は自分のスペースを作るのが上手いだろ? 細剣は脆いから自身の緩急と高い集中性が必要になるな。だから余裕を持って自我を保てるお前に向いていたと言う事じゃないか?」

 

「へー。じゃ、何でコーリスさんは長剣を握ったんです?」

 

「体幹が強かったから」

 

「まぁ丈夫ですしね。堅実な戦い方をすれば長剣も中々に強力です」

 

「カウンターもそこそこ狙えるぞ」

 

「でもそういう戦い方する人って絶体性格悪いですよね」

 

「……」

 

「堅実に見えてちまちま攻めてるだけで、こっちが疲れるまでずっと逃げられるんですよ? こちらの体力が無くなったらトビウオみたいに意気揚々と剣振ってきて、斬り込んだら急に受け身になってカウンター。霧で死角なし。防御魔法で跳ね返し。コーリスさん、マジウザいです」

 

「ではお前の強さを述べてやろう。水の魔力は攻撃防御共に優れ、目くらましも可能。お前自体が速いおかげで対応が難しい。攻められ続けるとこっちが辛いな。だかしかし俺が勝っちゃうんだよなぁ」

 

 

 お互い笑っていたが、ロイスの目付きが少し変わる。

 まぁ『殺してやろうか』という一時の軽い殺意なのでいつもの事だろう。

 

「……水って結構便利ですよ、人を苛つかせる霧と違って。生命の源とまで言われる根源的な属性ですから。人を活かす魔力と言っても良いくらいです。戦いだけの為に存在するとでも?」

 

「論点をすり替えるな。生まれで決まる魔力で背比べだと? 馬鹿馬鹿しい。それはお前が最も嫌う貴族の在り方では無いのか? 論破」

 

「何口喧嘩程度で上に立った気でいるんですか? 騎士なら行動で示してくださいよ。ハリボテメンタルさん? 論破」

 

「論破の仕方が雑。目先の事象の否定しか出来ず本来の討論を忘れている。ロンパ」

 

「そもそも私が仕掛けたのに対し煽るように対応した時点で底辺の精神。討論とかっこよく言っているも只の口喧嘩。騎士として情けなく悲しく哀れ。ロンパ」

 

「国語が苦手なせいで論破をはき違える悲しい女。彼女の名はロイス。ろんぱ」

 

「コンプレックスを抱えているものに限って成績マウント。ダサいだけで無くウザくて不要。ろんぱ」

 

「ただの悪口。ろんぱ」

 

「真実だけを伝えています。ろんぱ」

 

「ろんぱ」

 

「ろんぱ」

 

「「………………」」

 

 

 

 

 

 

 

 

「───であるからにして、君達にはこの国を守る騎士にn」ガキン! キン!! バギャ! ゴジャ!! 

 

「ちょ、何か後ろで斬り合ってるんですけど聖騎士長!?」

 

「きゃぁぁ!! 今、膝が顔にっ!! 鼻が!」

 

「か、髪を掴みながら斬り合ってる!」

 

 

「手を引け○()がぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ばっ……!!! もう一回言ってみろや糞○○カス野郎がぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 唐突に始まった殺し合い(傍目から見たら)を繰り広げる両者。

 きっとこの音声を録音して公共に流すならば、規制の限りを尽くされる事だろう。片や騎士の振る舞いを極めたとされる男。片や由緒正しき貴族──モラクレル家のご息女である。

 

 何故このような事になってしまったのか。

 研修を受けに来た者達は思う。

 聖騎士長の言葉に気を使い、一言一句逃さず心に刻みつけていたというのに、気が付けば後ろの人達が何か喧嘩……剣で戦ってる。

 

 混沌此処に極まれり。

 

 

 

 一時離れた二人が息も絶え絶えに口を紡ぐ。

 

 

「クソエルーンが……トラモントでどんな教育受けてきた!」 

 

「毎日遊んで過ごし! 霧が出たら家で遊べ!」

 

「遊んでばっかで勉強しねぇからメンタル育たねぇんだよ! あー貴族で良かった! 勉学豊富ですわ!」

 

「勉強ばっかしてっから煽ってばっかで本当の友情知らないんだろうな! 悲しい女だ。生き遅れんぞ!」

 

 

 

「聖騎士長! 会話が下劣すぎます……聞くに耐えません!! あの二人を止めてください!」

 

「あれ? 聖騎士長さんいない」

 

 

 

「──少しうるさい」

 

「ごは」

 

「がっ」

 

 

 痺れを切らした聖騎士長、ルクスは打撃による意識の消失を促した。

 自分の長話に熱中する余り、聞き手や他の環境音を気にしなくなる癖はあるが、今回は基準を超えたらしい。

 やたらスッキリした顔で話を続けようとする。

 

 

「さて、続けようか」

 

「あの……お二人はそのままで大丈夫でしょうか?」

 

「ああ、そうだね。君達を任せる以上俺の話には参加しておいて貰わないとな。起きろ」

 

「ぶがぁぁっ!!」

 

「ばがっ!」

 

「「うわぁ……」」

 

 

 気絶している二人にさらにもう一発。

 アウギュステの浜辺に上がった魚の様に身体が跳ね上がり、混乱した表情で団長を見る。

 

 

「さて、説明は終わりそうだよ二人とも。何か彼らに言うことは? あ、謝罪じゃないよ。自分達が安心できる存在だと証明してくれ」

 

「…………無理です」

 

「じゃあ後で無茶振りするからそのつもりで。で、何だかんだ士官学校を卒業している者や腕に多少の自信がある者に言いたいんだが、人を救う以上実力が無いと困るんだ。底意地ってのは最低限必要な物で、別に尊くとも何ともない。だからさ──かかっておいでよ」

 

「自然な流れで新人に喧嘩売るの止めてください。それに乗ったスルトさんが秒殺されたの忘れてませんからね」

 

「いやはや、自分の目で見ないと力なんて分からないだろ? 俺から攻撃はしないし、ここは広い。大丈夫さ」

 

「治癒魔法使えるのロイスだけですよ。新人達も使える可能性がありますが、疲れさせるのはどうかと……」

 

「疲れるのはロイスだけさ。頃合いは弁える」

 

「はぁ……」

 

 

 この男はいつもそうだ、とコーリス溜息を吐く。

 一度気になった物に追求を止めないし、自分の意見を曲げない。屁理屈も言わない。ただのゴリ押し。

 

 自分達も目をつけられ、酷い目にあった事がある。

 それはコーリス達が子供で、生意気という言葉が似合う年頃だったからだ。嬉々として勝負に乗った。

 30分もかからず血気盛んで恐れ知らずの集団がこの男によって浄化さ(ボコら)れたのだ。

 

 

「何はともあれ木製だが剣、槍はある。斧は無いな……薙刀で我慢してくれ」

 

 

 結局、新人たちに逃げ場は無かった。

 

 

 

 

 ───────────────────

 

 

 

「てやぁ!」

 

「ふっ!」

 

「やっぱり士官学校は教え方が良いね。連携は初歩中の初歩としても、バランスがいい」

 

 

 一人がルクスの足元を斬り払い、回避を促す。そして、回避先のルクスの背後には挟み込むように詰め寄る二人。

 しかし、手応えは無い。始めからそこにいなかったかの様に二人の背後にいた。振り向くと同時に剣を破壊される。

 

 腕だめしに当たってルクスが提示した条件がある。

 ・彼が一度でも攻撃を食らったら負け。

 ・彼からは攻撃を仕掛けない。

 ・武器を破壊された者は戦線を離脱する。

 という物だ。

 

 これなら怪我人は少ないだろうと考案したルクス。

 嬉々としてカウンターを決めてゆく。

 

 

「虚を突くのはいいが、万人に通用すると思わない事だ」

 

「くそ……」

 

「後は一人。一対一で俺に意地を見せてみるかな?」

 

「……いきます!!」

 

「いいね」

 

 

 褒めておきながらすらすらと攻撃を避け、破壊。

 木剣同士の激突なのに、破壊される側の剣は両断される。

 異常な破壊方法。

 

 

「いやー、楽しかった」

 

「お疲れ様です。気は済みましたか?」

 

「コーリスか。寧ろ火が着きそうで怖いね」

 

「程々にして下さいよ。新人だって暇じゃ無いんですからね」

 

「じゃあ……お前等は暇という事か?」

 

「ええ……まぁ。新人達は色々仕度を降ろす必要がありますが、俺達は任務を減らされてますので」

 

「よし」

 

 

 あ、何かまた企んでるな。と諦めるコーリス。

 大方破壊された木製武具の注文をしておけだとか、説明の引き継ぎだとかを任されるのだろう。

 不安を懐きながら、団長を見る。

 息を切らしている新人約20名に話しているようだ。

 

「君達は大分強いよ。実戦で成長できる素質は皆持ってるね。だからさ、成長例を見てみたくない?」

 

「成長例……ですか」

 

「例というか……指針みたいな物かな。それを見本にして頑張ってもらいたい。丁度いいのが二人いるからさ」

 

「「げっ」」

 

「新人の前で俺と戦ってくれるな? コーリス、ロイス」

 

「…………はい」

 

「勝手に返事しないでください! 私は嫌ですからね!!」

 

「ダッテコトワッテモニゲレナイジャン」

 

「キリツカエ!! 、キリ!」

 

「むり」

 

「早く構えて。魔法は禁止」

 

 

 いつものアドリブ無茶振りに辟易としながらも、二人は死んだ目で腰に差した金属製の剣を抜く。

 その目は憎悪と絶望に染まっている。矛先はルクス。

 二人は構えて、前を見据える。

 

 

「──合わせて下さい」

 

「分かった」

 

 

 空気が変わる。

 剣気がビリビリと部屋を刺し、それを受けたルクスは満面の笑みで告げる。

 

 

「第2ラウンド開始って奴だな」

 

 

 ルクスも剣を抜き、二人への迎撃を試みる。

 

 

 ────────────────────

 

 

 

「せいっ!!」

 

 

 初手はロイスの突きによる率先に始まる。

 正面からの彼女が剣を振るった瞬間に出来る影に紛れ、横からコーリスが斬りつける。

 

「甘い」

 

 が、聖騎士長。

 コーリスの剣を受け、刺突よりも速い蹴りでロイスを巻く。一瞬で有利性が覆った。

 空いた手でコーリスの手首を掴み、剣を止める。

 

 

「堅実な立ち回りは飽きたか? 掠め手が顕著になってきて少し寂しい気分だ」

 

「両方出来ますよ!!」

 

 

 膝でルクスの手を外し、剣での応酬再び。

 そこでロイスは斬り合いの最中、彼の身体の合間を縫って刺突を繰り返す。

 一歩間違えれば味方の身体に穴を開ける恐れがある連携。

 更に二人は入れ代わり、主体になっていたコーリスのフェイントに釣られた団長はロイスの剣を躱す必要が出来た。

 

 

「ははっ! 怖いね」

 

「軽口が過ぎますよ団長! 楽しいのは貴方だけだと思いますっ、がぁ!!!」

 

「はっ!!」

 

 

 遠心力を付けた渾身の横薙ぎは鈍器の激突に匹敵する。

 如何に女で非力なロイスでも、しなやかさを味方に付ければ怯ませるに造作もない。

 ルクスは初めて笑みを崩し、正面から剣を受ける。

 互いに一歩引き、均衡が訪れる。

 

「いやはや、隊は別なのに連携のレベルは上がってるとは。謎だね。遠距離恋愛かい?」

 

『殺しますよコーリスさん』

 

『なんで俺!?』

 

『挑発に乗らないでくださいね』

 

『情緒不安定かお前は! しかしどうする……意外に躱してくる。あれより柔い連携は悪手だぞ』

 

『ならば、奥義。行きましょう』

 

『アレ……をか?』

 

『アレです。対極に挟んでいる今ならやれます』

 

『……やるか』

 

「会議は終わったかな? プライバシー気にしない君達にしか出来ないよそれ?」

 

「そんなもん必要無いんですよ。億劫な心持ちが不要なんです」

 

「耳が痛いね」

 

 

 今度はルクスが詰め寄る。

 狙いはロイス。崩しやすい方から崩すのは常道だろう。

 

 

『来ました!』

 

『行くぞ!』

 

 

 激突する寸前、コーリスは剣を()()()に向かって投げた。

 しかし速度はルクス以上。剣はロイスに向かう。

 躱した後の隙を狙ってくるのかと、ルクスは剣を素早く振り、彼女を崩しに掛かる。

 

 そこでロイスは驚きの行動に出た。

 先に届いたコーリスの剣とその後のルクスの剣。2回剣を振り、後の剣を受け止める。

 

 

「珍妙だね。面白いが残念すぎる」

 

 

 剣を放したコーリスには時間の重荷が背負わされる。

 その摂理を当たり前に理解しているルクスは遅れて気付く。

 

 その時には既に背後を取られていた。

 更にロイスが剣圧をかける。

 

「ほんとにさぁっ! いつ練習したんだ!?」

 

 

 先にロイスに届くであろう投げられた剣をコーリスに向けて弾く事で、ルクスへの2連撃目へと同時に彼に剣を持たせ挟み撃ちにする。

 しかし剣の先を弾いてコーリスの方向へ飛ばすのは至難の業。高等技術以前にその技術を磨く理由が無いし必要ない。

 

 よってその連携の真髄。それは……

 

 

 

 

「「運に決まってるだろうがぁぁぁぁ!!!」」

 

 

 

 憐れな新人たち。

 色々な感情を混じらせ今日に至る彼等は、初めて同じ心を通わせた。

 

『馬鹿だこの人達』と。




分かりづらそうなので、最後の技の解説します。

①条件
・2対1で相手を挟む形で離れている。
・相手が片方に狙いを定める。

②攻撃法
・片方が敵に剣を投げる。
※ここで敵に当たったら勝ち。
※ここで剣を弾かれたら技失敗。

・相方が先に来た剣を投げた方に弾き、敵の剣を受け止める。
※ここで投げた方がキャッチ出来なかったら技失敗。

・敵の剣を受け止めると同時に、剣をキャッチした方が後ろから挟み撃ち。


ぶっちゃけ無理です。
と言う事で良いお年を過ごせるようお祈りします。
善行を積めば十二神将が…グヘヘ。
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