幽々の空、灰暮れに   作:ルイベ

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20.波のように快闊で、繽紛たる

(これはちょっとまずいかもな…)

 

偶然、偶然だ。

ここまで綺麗に背後を取られた事はない。何せ運任せの攻撃だ、初見では見切れまい。

と言っても、頭が硬い俺の落ち度でもある。

 

 

『燃やし尽くしてやる!環境破壊・城壁焼却・世界抹消オールオーケーじゃぁぁぁぁぁ!!!』

 

『完封されたからってキレないでスルトさん!』

 

『不甲斐ない…ん?──ばぎゃ!?』

 

『『コーリスが瞬殺されたぁぁぁ!!デジャブ!』』

 

 

新人だった頃の彼等の闘争心は変わっていないらしい。

その無鉄砲さも。何処かすこしズレている、はっきりと言ってしまえばアホな子達だった。

あの時もまぁまぁ強かったかな。真面目に相手してあげていたし。

とはいえ完封した。ここで敗北心を植え付けて向上心へと昇華させる。その為の俺だ。

 

今この二人を見て、狙い通り成長したと言える確信がある。最後の曲芸を抜きしても見事な連携だった。

 

 

『君と君。えーと、コーリスとロイスだっけ?』

 

『は、はい!』

 

『君等は相性がいいね。良いコンビになれるよ』

 

『遠慮しておきます。私…この男嫌いなので!!』

 

『俺は自分より弱い奴…興味無いんで(キリッ)』

 

『あ?』

 

『ん?』

 

『殺すぞ?』

 

『上等。目の玉腫らしてやるからな』

 

 

わざとやってるのかと思うくらいすぐ喧嘩をする。

実力者に限って一癖あるという風潮は間違ってはいないかもしれない。

現に彼等の中で頭一つ抜けているのはコーリス、スルト、ロイスだ。

 

コーリスはずば抜けた防御力と魔力量を持っている。

スルトは攻撃力が異常だ。

ロイスは攻撃防御の劣りを誤魔化せる速さ。

とはいえ、これは僕の分析の範疇。どんどん色々な戦術を身に着けるだろう。

 

現に遊撃隊に所属したコーリスは、防御よりの戦い方に相手の裏をかく戦い方を混ぜ込み進化させた。

ロイスも速さに高い正確性が合わさった事によって連携のレベルが上がっている。

 

もう彼等は新人じゃない。

聖騎士だね、立派な。

 

 

 

 

なら、真面目に相手をしなければ。

俺は───団長だからな。

 

 

 

 

 

───────────────────

 

 

 

「終わりです!!」

「終わりだ!!」

 

 

前からはロイス、後ろからはコーリス。

勝ちを確信した両者は邪悪な──下衆な笑みを浮かべて聖騎士長を屈服させようと襲い掛かる。

 

(散々ボコられてきたんだ……泣かしてやる!)

 

(二人で勝つのも癪ですが…勝ちは勝ちですねぇ!)

 

 

最早外道の所業としか思えない戦い方。

それも運で成された結果だと考えると、第三者視点で見ればムカつく事この上ない。

先程巻かれた新人達は、反面教師という言葉を胸に刻んだ。

魔法も魔力による身体強化も使えない。

これが詰み。

 

しかし何故か戦局は……変わる

 

 

「──────!!!」

 

 

斬りかかろうとしていたロイスの手には、何も握られていなかった。

 

(剣を……取った、の?)

 

刹那の思考、合理性を求めるのならそう結論付けるしか無かったのだ。

 

 

(やって…くれる)

 

 

 

優越感、自尊心、全力、誇り。

それらを全て乗せた剣を防ぐのでは無く奪った。そしてその剣を利用して自分の勝利に焚べようとしている。

少し……気に障る。

 

相方のコーリスの方をちらりと見る。

同時攻撃の為、ロイスの剣で防ごうとしても間に合わない。ならば奪う過程で防ぐしかない。

その無茶を、()()()()()()。ルクスはそういう強さを使いこなせる男なのだ。

 

どういう動きで自分の剣を奪ったのかは知る由もないが、コーリスの剣は弾かれた。

ならば、次に来るのは彼への迎撃。

コーリスの剣を盗まずに弾いたのは、その方がやりやすいから。ロイスの方が簡単だと感じられたからだ。

経験を積んだ彼女はそれを理解できた。

簡単に言えば、舐められたのだ。

怒りが炸裂する。

 

 

 

()()()()!!!」

 

「ッ!!」

 

 

彼を呼んだ声はロイスの物。

どんなに怒りが募ろうが人を呼び捨てにした事は無かった。喧嘩はしたとしても、彼等は仲間なのだ。

共に研鑽し、高め合った。尊敬すべき人。

それを忘れなかったロイスが、初めて強引な手に出た。

 

 

(──負けてたまるか)

 

 

アイコンタクト。

コーリスは弾かれた剣の柄頭を全力で蹴り、ロイスの方角へ無理やり飛ばした。乱雑、地面に激突した剣を全走力で回収し、ルクスへ斬りかかる。

 

当然、コーリスはルクスの峰打ちによって外に飛ばされ、壁に激突する。武器も失った為戦線離脱は避けられないだろう。

だが彼にとってはそれでも良かった。

 

 

──()においてはロイスの方が強い、と。

 

 

「ハァァァァァァァ!!!」

 

「なっ!?」

 

 

ルクスは急激に加速したロイスの剣に反応出来なかった。それはまたもや虚を突かれた弊害と言っても間違いでは無いが、もう一つ理由があった。

ロイスの全力の突きが、加速し続けているのだ。

身体強化無しの限界突破。通常の人体の速度を遥かに凌駕している。

 

その速さ──形容するなら。

一秒に五突。

一息(いっそく)にして十突。

 

ルクスにとって謎にしかならない。

彼女の全力を見切ったからこそ、その成長の異常性にだ。

 

 

「避けさせてぇ……たまるかァァァァ!!」

 

「さっきまで運任せだった癖に…くっ!?」

 

「鈍いッ!!」

 

 

後手に回った聖騎士長の足を払い、体勢を崩す。

速度は上がり続け、正確性は失わない。

アドレナリンの分泌という理論も通じない強さがあった。

だが、その理由は存在する。

 

士官学校生にしか分からないロイスの特徴があるのだ。

彼女は、火事場の馬鹿力──その爆発力が異常に高い。

 

本来火事場の馬鹿力とは、怒りやストレス…ピンチな状況下での精神の爆発というべき物によって起こる。

無意識下での力のリミッターが外されて、一時的に強い力を生み出せるという物。しかしそれは、常識的な力の範疇だ。

 

しかし彼女は力の向上の上限が異常に高い。現に両手用の長剣を片手に持ち、突きを繰り出している。

加えてスルトの様に特異体質でも、コーリスの様に前例のない魔法を所持している訳でもない。

 

 

 

 

要するに。彼女は……

たまにいるキレると異常に強くなる奴なのである!!

 

 

 

 

「ぐ、ぬぅぁぅぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「…………」

 

 

 

辛うじて鍔迫り合いにまで持っていったルクス。

しかし自分の純粋な腕力にまで追いついてくる爆発力。彼自身、負ける気はしないが勝ち手にも思い付く物はない。

体力切れを狙うつもりも無い。そのような行為は実戦で事足りる。真剣勝負には似つかわしくない。

 

と、思った時点で彼は自覚する。

見世物のつもりが真剣勝負と思い込む程に白熱していたと。

 

 

(ならば……倒す)

 

どうせ彼女も止まらないだろう。

大きく開かれた目、低い走行姿勢。スルトを追い詰めていた時のコーリスと似ている。

獣らしくなって来たと言う事だ。

お互いに3歩引き、次の一撃に捧げる。

 

 

「本気を出す……行くぞ、ロイス」

 

「倒しますッッ!!」

 

 

ルクスは直上に構え、ロイスは姿勢を更に低く保ち地を蹴る。

両者ともに一秒後の激突に全力を掛ける。

 

(ま、まずい。団長の負けん気が発動してしまった。ロイスも止まらん……怪我人が出るぞ!!)

 

コーリスは予想外の展開に焦燥とし、即座にこの戦いを止めようとする。

激突の余波で新人達が怪我をしてしまったらどうしょうもない。自信の言葉すらも聞かないだろうと踏んだ彼は、勇気を絞り出した。

 

そんな彼に構う者は無く。

 

 

 

「ハァァァァァァァ!!!!」

 

「───」

 

 

ロイスが駆け出し、ルクスが構える。

決着が着く、その刹那。しかし飛び出す影。

 

 

 

「そこまでだぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

コーリスである。

駆け出した俊足のロイスを見事絡め取り、衝撃で吹っ飛びながらも羽交い締めにして止める。

 

 

「なっ!コーリス!?どういうつもりだ!」

 

「大人になって下さい!貴方が本気を出せば人も施設も粉々です!!うわっ!?」

 

「離せぇ…!!離してください……!!!」

 

「落ち着け!」

 

 

男に奥せず強きかな。

羽交い締めにして完全に拘束されても尚止まらず抗い続けるロイス。

その力は完全にドラフ並みだ。

 

 

「落ち着け、飲み物でも飲んで休もうな。な?」

 

「いりぃません……!」

 

「面倒くさい任務も請け負ってやる!!休みが増え円満に過ごせるんだぞ良いよな!」

 

「───ァァ…!ぐ、がギギぃ!!」

 

「欲しい服でも何でも頼め!!お洒落してみたい年頃なんじゃないのか!?知らんが!」

 

 

どんな懐柔策も耳を貸さず。

彼女が今欲しいものは勝利なのだ。何を言っても無駄な様子で暴れようと試みる。

 

そこで、冷静さを取り戻したルクスが声をかける。

 

 

「ロイス、勝負は預けよう。今度また強くなって、正式な場でな」

 

「────」

 

「強かったよ。コーリスも、良いアシストだった」

 

「それは…まぁ…ありがとうございます」

 

「じゃ、俺はこの辺で失礼するかな。案内は出来るな?」

 

「おそらくは」

 

「迷惑かけて悪かった。ではな」

 

「………団長」

 

「どうした?ロイス」

 

「勝負……お忘れなく」

 

「……ははっ。分かった」

 

 

 

 

勝負は一段落。

ロイスの怒りも冷め、コーリスは拘束を解いた。途中から萎縮してしまった新人達にコーリスは声をかけ、各施設への移動を促した。

 

 

(長時間戦っていた気分だ…十分も掛かってないが)

 

 

余り戦闘に参加していないとはいえ、疲れた気分になったコーリスなのであった。

さしてある事に気づく。ロイスがいない。

 

ふと背後を見てみると……雑巾みたいにヘタっているロイスがいた。

頭から地面に倒れ込んでいる。

 

 

「すまない。少し待っててくれるか。ロイスの様子を見に行ってくる」

 

「了解です!お疲れ様です!!」

 

「頑張って下さい!コーリス先輩!」

 

「……?」

 

 

ブチギレロイスを見たせいで完全に触れてはいけない人認定をしてしまった新人達。

アホと思っていたコーリスは苦労人として見ている。問題を起こした回数は彼の方が圧倒的に多いのだが。

 

 

伸びている彼女にコーリスは話しかける。

 

 

 

「…ロイス?」

 

「……必要以上の力を出してしまいましたぁ。うごけませぇぇん…」

 

「つまり?」

 

「運んでください」

 

「デジャブ!!!」

 

 

何か前にもあった気がする光景。

今回は肩を貸すだけでは済ます、背負う羽目になった。

 

 

 

「すみませんコーリスさん…。あ、そうだ」

 

「?」

 

 

「服、買ってくれるんでしたよね?庶民的な服が気になります」

 

「マジでクソだなお前ほんと!!」

 

 

 

言われた事は忘れない。

団長との再戦も。彼が好きな物を買ってくれる事も。

だから怒りも誇りも信念も、何もかもが溜まりやすい。

 

ロイス・モラクレルはそういう人間だったのだ。

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

「お会計700ルピになります」

 

「……710ルピからで」

 

「またのお越しをお待ちしております〜」

 

 

 

くそ、くそ。

コケにしやがって。誰があの場を止めてやったと思ってるんだ。確かにキレたロイスは止まらない、そこに関してはアイツに乗っかって剣を貸した俺も悪いだろう。

でもだ、聖騎士長はそれに乗ってはいけないだろう。興が乗ったとかそういう問題ではない!!

 

しかも庶民的な服が欲しいとか言ってそこそこの値使わせやがって……!1000ルピ以上は高値と判断される世の中で、未成年にとって700ルピの散財はかなりの痛手。

それをあの(アマ)ぁ…!

 

 

まぁいい。

店の雰囲気は物静かで気に入った。自分の物を買うのも良いかもしれない。入った時に見かけたが、滅多に見かけないエルーン用の穴開き帽子もあった事だ…一品しかなかったから早めの購入を検討しておこう。

今は大人しく店を出よう。ロイスはこれが欲しいと指してから何処かへ行ってしまった事から、恐らく外で待っている。

ああ、ちゃんといた。

 

 

「お、買えました?」

 

「中々に高かった。殺す。特に理由は無い」

 

「何だかんだそう言って買ってきてくれる奴隷根性だいすきです!」

 

「だまれ」

 

「で、私も二品三品買わせるのは流石に無いと思ったので、自腹で購入致しました!」

 

「ほう…」

 

 

気が利くじゃないか。

一品で済ませるだけ摂政な心がけだ。して、何を買ったんだろうか?

 

 

 

 

「それがこれです!じゃじゃーん……穴開き帽子!!」

 

………

……………そうか。

最後の望みを、お前は奪ったのか。

 

 

 

 

 

 

死晒(しさら)せや小娘がァァァァァァ!!!」

 

「ちょっ、マジありえねぇ!服投げんな!?」

 

「くたびれ果てた俺のぉ…最後の癒やしがぁ…」

 

「ほい!っと…。ったく、欲しかったんですか、これ?」

 

 

華麗に買ってもらった服をキャッチするロイス。

いつの間にか戦利品(帽子)も被っている。割と本気で哀れに思われているのか、心配するような声色で問い掛けてくる。

くそぅ…くそぅ…。

 

せめて、俺が買えないくらい高い帽子だったら。

諦める事が出来る。

質感が良さそうだったからな。耳が痛まないよう穴の内側にはふわふわの何かが付いている。

庶民にはあのふわふわの名前が何かも分からんな。うん、質素な革素材ばっかりだったからな!

さぞかしあのふわふわは高いだろう。

 

 

「ロイスロイス」

 

「はい?なんでしょう」

 

「その穴にふわふわが付いてる帽子、何ルピだったんだ?」

 

「ふわふわ?ああ、ここに少しファーがありますね。で、値段ですか」

 

「ああ」

 

 

「300ルピ」

 

「」

 

 

 

 

 

くたばっちまえこんちくしょう。

 

 

 

 

 

 

───────────────────

 

 

 

 

 

 

「落ち着きました?」

 

「くたばっちまえ」

 

「コーリスさんも身だしなみとか気にするんですね」

 

「きもちよさそうだったんだ、このぼうし」

 

「気持ちいいですよ、耳の付け根とか。マッサージされてる気分です」

 

「よかったな、ほこるがいい」

 

「だめだこりゃ」

 

 

 

鎧は重い。兜も落ち着くがずっと被ってると息苦しい。

一応剣も持ち歩かなきゃいけないから背負ってるが、腰が痛くなりそうだ。

何せ休日で偵察任務も無いから私服で歩けるが、もしもの場合聖騎士として動く為に帯剣しておく必要がある。

その殺伐とした印象が少し気に入らないので、軽く動きやすい服が欲しかったり。帽子を被ってみたかったり。

 

…お洒落もしてみたいのだ。18歳だからな。

何も気にせず過ごせた少年時代程単純じゃない。

 

 

 

「あ、伝令鳥ですよ」

 

「む」

 

 

伝令鳥。

それは人に飼い慣らされる鳥類の事であり、手紙を送ったりする場合に使われる。

トラモントでも村長(義父)が活用していた。

 

その鳥は此方に向かっており、ロイスの肩に着地した。

(くちばし)には紙切れが挟まっており、それを取ると伝令鳥はこちらを見つめる。

 

 

「読め、という事だな」

 

「えーと、何何?【どろぼうがみせに入ってきた。お父さんとお母さんがつかまっちゃったの。だれかたすけて】って………行きますよ!!」

 

 

ロイスは血相を変えて焦る。

伝令鳥は俺達を案内するつもりで先導し、それを追いかける形で駆ける。

距離はそんなに遠くない筈だ。

 

 

「いい判断だ。推測するにその子供は今隠れながら文章を書いていたな。伝令鳥も剣を見て俺達が聖騎士だと察したか、褒めてやる。お前は出来るトリだ」

 

「クェェェーー!!」

 

「ええ!今のうちに行きましょう」

 

「勝算は?集団だとして完勝できると思うか?」

 

「出来ますよ!!」

 

「どうやる?」

 

「霧と水、これだけ!」

 

「適当だな!」

 

 

「良いんですよ!()()に勝てる悪党なんて存在しません!!」

 

「ははは……」

 

 

全く持ってこいつは強引だ。

しかし俺もまぁ…

 

 

 

 

「同感だ!!!!」

 

 

 

 

 

サーチアンドキャプチャー(見敵捕縛)開始!

 

このあとめちゃくちゃ捕まえた。

 










ルピに関しては、ルピと交換できる共闘アイテムの説明欄を参照しました。
その記述は以下の通り。

50→安値
300→そこそこの値
1000以上→高値

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